(4 / 8) 原作3巻 (4)

――その日の夜。
エマはヴェデッドと共に今日のホームパーティーの用意に大忙しだった。
それもスティーブンが着替えるよう言わないと普段着のままだったくらいに。


「ど、どうかな…お父さん、ヴェデッド」


父に着替えるよう言われて支度を終えたエマが部屋から出てきた。
部屋から出て二人の前に現れたのはパーティードレスを身に包む愛らしい少女だった。
ドレスは勿論スティーブン監修である。
もう17歳のエマは少し大人っぽい服を着たいのに父であるスティーブンがそれを許してくれず、結局大人過ぎず子供過ぎずないワンピースドレスを選んだ。
髪もすでに美容院で整えているのだが、これまたスティーブン介入済みである。
来る友人達の中には男の子なんていないはずなんだが…エマはもう反論するのも諦め、もはやここまでくれば父の好きにさせていた。
目の前に現れた娘の姿にスティーブンは目を丸くし両腕を広げ大げさに驚いてみせた。


「可愛いよエマ!目の前に妖精が現れたのかと思ったくらいだ!」

「お父さん、それは言い過ぎ…」

「そんな事ないさ…なあ、ヴェデッド、いつものエマも可愛らしいが、今日のエマは更に妖精と見間違うほど可愛いと思わないか?」

「はい、とても似合っておりますよお嬢様」


因みに、スティーブンは本気である。
褒めちぎる父にエマは顔を赤く染め、むっとした顔で父を睨む。
しかし上目遣い+頬を赤らめてる+決して本気で怒っていない照れ隠しと分かるため、怖いというよりは可愛らしさが増していった。
信用しない娘にヴェデッドに同意を求めれば、ヴェデッドもエマを可愛いと思っていたため同意のために頷いた。
父だけではなくヴェデッドまで褒められエマは『もう…』と照れて両手で頬を覆う。
そんな娘にスティーブンは目尻を下げ、周囲の『出来る男』『モテる男』『切れ者』というイメージが崩れるほどデレデレだった。
最近、ライブラに一つの変化が訪れた。
それはK・Kとスティーブンの関係性である。
それが親馬鹿VS親馬鹿という関係である。
今まではK・Kが一方的にスティーブンを毛嫌いし(本気ではないが)、それをスティーブンが苦笑いで流してはいたが…今では写真を見せ合いお互いの家族を自慢し合い二人とも一歩も引かない争いを繰り広げられている。
エマと再会し和解してからスティーブンは丸くなった。
そうみんなが気づくほどスティーブンは娘と住むようになってから劇的に変わった。
厳しい所は相変わらずだが、雰囲気が柔らかくなっというか…まあザップの対応は変わらないのだが。
情報のために女性と夜を共にすることはなくなったし(でも食事はしている)、徹夜をする回数も減ったし、昼食を奢ってくれる日も増えた…まあザップ(ry
何よりレオナルドやツェッド達とはあまり話す機会がなかったが、最近になってよく話すようになったのだ。
スティーブンは罪悪感も拭われ、少しずつ変わろうとしていた。
褒め慣れておらず照れるエマを微笑ましく見つめていると訪問者を知らせるチャイムが鳴り響いた。
チラリとスティーブンが時計を見るとすでに時間はパーティーの時刻になっていた。


「もうこんな時間か…出なきゃな…あー…でもこんな可愛い妖精さんを皆に見せるのは嫌だな……閉じ込めてもいいかい?」


二人きり(正確に言えば三人)の大切な時間を邪魔され気分が削がれたような声を零しつつ危ない事も呟く父の腕に閉じ込められながらエマは苦笑いを浮かべ首を振る。


「駄目…またK・Kさんに怒られちゃうよ?」

「K・Kなら追い返せばいいさ…それより僕はエマとの時間を大切にしたいんだ…エマももう17歳…成人して社会に出て結婚して子供を産んで…すぐに僕に構ってくれなくなるだろう?父さんは寂しいよ…」

「もう…またその話?社会人になってもお父さんの傍にいるって約束したじゃない」

「でも結婚したら離れてしまうだろう?最近の子は結婚も出産も早い子は早いからね…あ゙ー…やっぱり外に出すのは失敗だったかな〜」


『K・Kさんならどこかで狙い撃ちそうだけどなぁ』と思いながら相変わらず娘には甘えたな父にエマは困ったような笑みを浮かべる。
しかし内心嬉しかった。
再会し和解して嬉しいと思ったのは何もスティーブンだけではない。
エマだって父と和解し嬉しいと心の底から感じている。
だからエマも当分は父の傍を離れることはしたくなかった。
社会人になって会社に勤めても父と一緒に暮らすつもりだったし、結婚なんてそれこそ縁である。
自分が望まなければその縁は結ばれない。
父に孫を見せてやりたいと思いながらも、当分は結婚するつもりはなかった。
とは言え、父が整った容姿、高身長、高学歴、高収入、大人の余裕と包容力があるという高スペック…"スーパーダーリン"、スパダリすぎて理想の男性像が高くなっている事も自分が結婚するというイメージが遠のいている要因の一つかもしれない。


(でもお父さんって付き合うのはいいけど旦那さんにはしたくないタイプだよね…完璧すぎて嫉妬で自滅しそう)


父は好きだ。
勿論父親として、家族として。
恋人にするには父は優良物件であるが、旦那にするには優良物件どころか見栄を取ってしまい自分の給料ではマイナスになり暮らしていけなくなる物件だろう。
父として駄目だとは言わない。
10年も向き合わなかったのはお互いがお互い触れる勇気がなかったために起こってしまった事だから、父だけが失格だなんて思わない。
父親として与えすぎな愛を娘に与えてくれるからいい父親である。
ただスパダリすぎる旦那を持つ妻としては…外で浮気しないか、自分も彼に似合う女でいなくてはというプレッシャーで胃がやられそうである。


「ほら、お客さんを待たせたら駄目でしょ?」

「……そうだな…可愛いエマを皆にお披露目するとしよう…」


娘に言われスティーブンは渋々抱きしめて閉じ込めていたエマを解放してやり、背中を押されながら玄関へと向かった。


「はあい!スティーブン!元気?」


最初に来たのはエレン一家だった。
エレンは母子家庭で、そばかすがチャーミングなアメリアの母である。
アメリアは父親似なのか母にはあまり似ていない。
しかし目元や髪の色などは母親に似ていた。
エレンはプレゼントの花束を持ちながら挨拶にスティーブンを抱きしめ、続けて娘のエマも抱きしめた。


「おじさま、今日はお誘いありがとうございます」

「やあ、アメリア…今日は一段と綺麗だ」


アメリアも母に続きスティーブンとエマに挨拶をする。
アメリアも着飾っており、綺麗だった少女が大人の雰囲気を醸し出していた。
スティーブンの言葉は勿論かざりっけなしの本音である。
だがやはり親馬鹿としては『うちの子が一番!』が本音である。
まあそこはどの親も同じだろう。
エレンとアメリアの挨拶が済むと、自然と後ろに立っている初対面の男性に目がいく。
その男性は眼鏡をかけて髭を蓄えた紳士風の優し気な男性だった。


「エレン、そちらが例の…」

「そう!今度再婚する相手よ!クリストファーっていうの!クリストファー、こちらは話していたスティーブンとその娘さんのエマちゃんよ!」

「ハイ、まだ夫婦になっていないのに招待してくれてありがとう」

「いえいえ、エレンとはもうすぐ結婚するんだ…ならもう家族同然だからね」


エレンは数か月後にこのクリストファーと再婚する予定である。
勿論よくある娘の反対などはなく、アメリアは喜んでいた。
今日が初対面のクリストファーと挨拶もそこそこに新たな訪問者が現れた。


「なんだみんな早いな!」

「ヘイ!ラリー!」

「冷蔵庫空いてるかい?」

「例の肉かい?凄い量だな…あ、そうか…コンロ用の炭を出さなきゃ…―――っと!」

「おっと…!」


相手はラリーやクロエ他数名。
どちらもエレン達とは面識はない。
今日はスティーブンもエマも初対面の人も多く、友人が友人を呼ぶというあまり決まりのないラフなパーティーだった。
勿論出会い系のパーティーではないので、当然全員子供連れである。
いつもの広く静まり返っている玄関があっと言う間に賑やかになっていく。
だがエマもスティーブンもそんな賑やかさが楽しいと感じていた。
エレン達は今日が初めて顔を合わす事もあって玄関先でそれぞれ挨拶をしていた。
その中で、ラリーが大きなクーラーボックを見て電話でラリーが『良い肉が手に入った』と言っていたのを思い出しスティーブンは用意していたコンロに入れる炭を用意し忘れていたのを思い出し部屋に戻ろうとした。
その時、足がもつれ倒れかけてしまう。
倒れかけたものの、傍にいたクリストファーとエマが支えてくれたおかげで硬い地面に倒れる事は免れた。


「大丈夫?」

「ああ、もう大丈夫」

「働きすぎだよ君〜!でも今夜は遠慮なくお邪魔しちゃうけどね!」

「アハハ、じゃあ僕はちょっと点滴打ってくるから…皆、適当に楽しんでくれ」


エマだけだったらきっと父の身体は支えられなかっただろう。
クリストファーにお礼を言って父と共にエマは寝室の奥へと消えた。


「本当に大丈夫?」

「ああ、ちょっと立ち眩みをしただけさ…仕事でよく血を流すからね…」


父の言葉にエマはまだ心配な所はあるが、大事なさそうで安心した。
父の仕事は文字通り血を流す事が多い。
と、いうよりは毎日大量の血を流している。
そしてそれを血凍道として氷に変えているのだ。
それは父だけではなく、父の同僚たちも同じと言える。
クラウスも、K・Kも、ツェッドも、ザップも血をそれぞれの技に変え武器として変換し世界を救っている。
だから本部からは高級な栄養素満点のレバーを送られそれを食べているのだ。
血の点滴も勿論送られている。
多くはライブラの医務室で点滴などを行っているが、残業が多い父は家でも出来るよう点滴を家でも用意している。
手慣れたように点滴をする父を心配そうに見つめるエマにスティーブンはふと笑み浮かべ、点滴をしていない方の手でエマの頬に触れた。


「エマ…もしもパーティー中にチャイムが鳴ったら出なさい」

「え…?」

「いいね?」

「……うん…」


ベッドに横になりながらのため、父の手に自ら触れに屈むエマの頬をスティーブンは愛おしそうに撫でた。
しかし父の言葉にエマはキョトンとし父を見つめるも、父の感情は読めなかった。
それにエマは嫌な予感が過った。
何かが起きる気がして不安が積もるが、しかしそれはただの自分の気のせいかもしれない。
寝室から聞こえるのは楽し気な声だけ。
エマの不安など気にも留めない楽しい笑い声だけだった。


(…きっと気のせいだ…だって…今日はホームパーティーだもの…そんな日に何が起きるっていうの…)


エマはそう自分に言い聞かせ、父に不安を見せないよう隠して笑った。
とは言え勿論父には気づかれているが、あえて何も言わず頷いたエマに『良い子だ』と頭を撫で、点滴を速めてすぐに終わらせる。


「さ、皆が待っているから…行こうか」

「うん…そうだね」


エマはまだ消えない不安を抱えながら楽しみにしていたパーティーに出るため父と共に寝室から出て行った。

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