(5 / 8) 原作3巻 (5)

点滴を終えて元気を見せるスティーブンにみんな笑顔で迎え入れてくれた。
大事がない様子から心配はしていたが復活したスティーブンに保護者達は良かったと笑顔を向け、それぞれ話しかけていく。
気付けば自然と大人は大人、子供は子供とグループに別れていた。


「エマのママってアジア人?」

「え?」


友好をもっと広めようというコンセプトで提案したパーティーなため、知り合いだけではなくお互い初対面でろう友人も誘ってもよく、エマもアメリアもクロエも初対面の子が多くいた。
それでも人見知りな訳ではないエマは今日初めて会った子でもパーティーという雰囲気もあって楽しそうに会話を広げ、新しい交流関係を築いていた。
この日初めて会う女の子達にそう問われエマは目を瞬かせる。


「だって顔立ちがアジア人だもの」

「うん、そうだよ」

「やっぱり!」


エマは彼女達の問いに頷いた。
周囲には養子であることは隠していない。
ただあえて捨て子だというのは言う必要はないため、ライブラメンバー以外はエマが捨て子だった事は知らないだろう。
聞かれれば答える程度で、別段隠してはいない。
とは言えエマとスティーブンでは顔立ちやパーツで似ていないどころか人種も違う事はバレてしまうのでエマはハーフだと間違えられる事も多い。
深く聞かれない限りは自分が養子だとは話すつもりはないため、多くは離婚したと思われがちである。
そのため今日会った子もエマをハーフだと思っていた。


「中国人?韓国人?日本人?あ、もしかして台湾人?」

「日本かな」

「日本か〜いいなー、日本人って若く見られるからさぁ…」

「やだ…ミリーったら私達まだ10代だよ?今からその心配?」

「だってあっと言う間でしょう?10代って言ったってあと3年で20歳だし…」


はあ、と溜息を吐く今日友人になったミリーの言葉にエマは曖昧に笑って流した。
スティーブンとエマは本当の両親を知らない。
だから一度検査をした。
本当の両親を突き止めるのではなく、エマ自身が両親が何人なのかだけでも知りたがったからだ。
それは両親を知りたいというよりは、先ほどのような質問に答えられなかった事があったからだ。
アジア人と言っても広い。
西洋にも様々な国があるように、東洋にも多くの国が存在する。
中国、韓国、日本、台湾、香港、マレーシア、インド、インドネシア…顔つきは違う者のどの国も東洋である。
だからすぐに答えられるようエマは調べた。
結果、日本人だという事が分かった。
両親共に純日本人。
恐らく出稼ぎかなにかでアメリカに入国するも子育ても出来ないほど貧乏だったため泣く泣くエマを捨てた…という事だろう。
否、そうエマは思いたかった。
いくらエマの親はスティーブンだけだと思っていても、心のどこかでは不要だから捨てられたとは思いたくはなかった。
エマは気が早い彼女達の会話を聞きながらチラリと父を見た。
父はローストビーフを出していたヴェデッドに声をかけていた。
どうやらヴェデッドの今日の仕事はここまでのようで、スティーブンは一礼して出ていくヴェデッドを見送っていた。
ヴェデッドもギルベルトのような専属ではなくただの家政婦として雇われているからずっと拘束している事もできないだろう。
彼女には夫も子供もいる普通の家庭持ちの主婦なのだ。
だからヴェデッドを解放することは特別変でもない。
ただ…


(何か…追いやったような気が…)


先ほどのやり取りは遠くのソファに座っているエマには会話は聞こえなかった。
ただ、雰囲気などでエマは父がヴェデッドを追い払った気がした。
追い払ったと言えば父が悪役になってしまうだろう。
何というか…これから起こる事から彼女を守るため、そして遠ざけるためのように見えた。
その考えがよぎり、エマは隠していた不安がまた大きくなっていく。


「どうしたの、エマ…気分でも悪いの?」


アメリアが声をかけてきてハッとエマは思考の波から帰ってきた。
考え込んでいたため気づかなかったが、不安に耐えるようにエマは胸元の服を握りしめていた。
俯いてもいたため気分でも悪くなったのかとアメリアが心配して声をかけたのだろう。
エマは父に気付かれれば大げさにすると思い慌てて首を振って否定した。


「さあみんな!始めようか!」


笑顔を見せるエマの言葉にアメリアは信じたのか、『なら良いけど…無理はしないでね』と言って背中を撫でてくれた。
その優しさが嬉しくてエマは笑みを浮かべ頷く。
その時、父は冷やしていたワインを開けるため皆に声をかけた。
勿論ワインを子供達に与える悪い大人はここにはいないため、子供達はシャンメリーが振る舞われた。


「あーあ、私も早くお酒飲めるようになりたいなぁ」

「そう?私は別にお酒飲めなくてもいいけどなぁ…お酒の他にも色々美味しい飲み物あるし」

「ミリーって大人になりたいって思ってる割には口はお子ちゃまだもんねー」

「なによ、いいじゃない!お酒飲めない大人だって沢山いるわ!」


シャンパンの代わりに子供のシャンパンであるシャンメリーを渡され乾杯をする子供達からはやはり少し不満の声が上がった。
とは言えもうすぐ20歳というのもあって背伸びしたがる子供達から出る不満は可愛らしいもので、親からは『まだ早いわよ』と笑われてしまったが。
大人になりたがっていたミリーはお酒を飲みたがっているわけではなく、茶々を入れていたアメリアは肩をすくめて同意した。


「まあね…私の新しいパパも実はお酒飲めないんだよね」

「えっと…クリストファーさんだっけ……そうなんだ…」

「そうそう、飲めない訳じゃないんだよ?でもお酒に弱くってすぐに顔真っ赤になっちゃって…まあ、そのお陰でママと出会えたわけだけどね」


アメリアが母親とその恋人を見たため、エマも釣られて二人に目をやった。
今度結婚するという事で色々な人からお祝いの言葉をかけられ二人は幸せそうにしているのが見えた。
アメリアの母親とその婚約者の結婚式はエマとスティーブンも呼ばれており、エマは初めて参加する結婚式に楽しみにしていた。


「二人ともとても幸せそうね…」

「幸せじゃなきゃ新しいパパをぶっ飛ばしてるわよ…私のパパを交通事故で亡くしてからのママったら見てられなかったんだもの…」

「そんなにひどかったの?」

「ええ…毎日酒浸りで…自棄酒ってやつ?…それで、バーで今のパパと出会ったんですって…新しいパパったらお酒弱いくせに好きだからよくバーとかで飲むんだけどすぐ潰れちゃって…ママは強い方だけどパパを亡くしてから酔い方が酷くて酷くて…でも今のパパの酔い方が酷くてママが酔う暇がなかったんですって…それで介抱している内に親しくなっちゃって…」

「ほほう…バーで生まれた恋ですか…いいよねー、恋!私もしてみたいなぁ」

「あらレイチェル、あなた彼氏いたんじゃなかった?」

「あらママったら忘れたの?ダーニーとはもうとっくに終わってるじゃない」

「そうだったからしら…あなたコロコロ彼氏が変わるからママ分からなくなっちゃうのよね…はあ、全く誰に似たんだか…」

「ママじゃないの?」

「まあ、生意気言う口はこの口かしら?」


『きゃーごめんなさい!』、とお約束のような母と娘の会話を聞きながらエマは愉快そうに笑っていた。
楽しいのだ。
こうして友人達と話して笑って過ごすのが。
前までは考えられなかったから。
前まではすぐ隣に死が迫っていたから。
こうして何気ない事をして、何気ない話をして、ちょっとした事で友人と笑い合う事がとても楽しかった。
ふとキッチンの方へ目をやれば父が少し離れた場所でパーティーを見ているのが見えた。
スティーブンはエマを見つめていたのか、エマが父の方を向けばすぐに目と目が合った。
エマと目が合うと父は小さく手を振って笑顔を浮かべ、エマもそれに答えて気恥ずかしそうに笑みを浮かべて父に小さく手を振った。


「エマちゃんはどんな子がタイプなの?」

「え?」


レイチェルの母の問いにエマはキョトンとする。
どうやら娘の気の多さから子供達の好みを聞いていたようで父とのやり取りで聞いていなかったエマは首を傾げた。
そんなエマにもう一度問えばエマは『そうだなぁ』と考え込む。


「恋人なら、お父さんみたいな人かな…でも旦那さんなら優しい人がいいかも」

「あらやだ…恋人にスティーブンって…エマちゃんってば案外面食いなのねえ…この調子じゃ独身貴族にならないか心配だわぁ」

「アハハ…自分もそう思います…」

「でもしょうがないわよママ…エマのパパったら素敵すぎだもの」

「そうね、素敵すぎね………素敵、すぎだから理想にしちゃ駄目なのよね…」


高収入、高学歴…ではなく、エマは父の優しい所が好きだから恋人の理想として選んだ。
だが、確かにレイチェルの母親のように恋人の理想がスティーブンでは…エマは一生結婚どころか恋人も出来ないだろう。
とは言えスティーブンのような男性がいないわけではない。
同僚のクラウスは貴族で高収入どころかこの世界で必要な人材である。
ただ彼は既に好いている女性がいるようで、28歳になってもその女性を想い続けて今もこれからも結婚はしないらしい。
高学歴ではないが、ツェッドも恋人として申し分ないだろう。
高学歴どころか学校すら行っていないが、人間ではないものの世界で唯一の存在だし、(兄弟子と違って)何より優しく、(兄弟子と違って)包容力があり、(兄弟子と違って)読書が好きというインテリな部分に魅力を感じる人は多いだろう。
ただ彼もまた好いた女性がいる。
ただツェッドはその女性を振ったと言っていたので現在はフリーである。
ただし、好きだからこそ別れたと彼はまだ心はその女性に向けられているのである意味フリーであるが、フリーではない。
レオナルドも恋人として…は少々収入面で不安はあるものの、妹のために危険な世界に足を踏み入れる度胸も勇気もある。
恋人には不向きではあるが、旦那にはしたいタイプかもしれない。
ただ彼もまた今付き合っている女性がいるため、彼もフリーなわけではない。


(あれ…なんで私周囲の分析しているんだろう…それも年上ばっかり…)


レオナルドもあれでいて19歳でエマとは2歳年上である。
年下と言えば生まれたばかりのツェッドくらいだろうか。
とは言え、ツェッドはすでに成人しているようなものなのだが。
ここでザップは?と問う者は恐らくいない。
彼は彼でいい人ではあると思うが、如何せんクズなのだ。
そう、KUZUなのだ。
しかしそんな彼にも付き合っている女性はいるらしい。
それも遊びや愛人ではなく真面目に。
それを聞いた時エマは思わず『やばいよお父さん!今日で地球は滅んじゃうよ!』と言ってしまったのは懐かしい思い出である。
それでも愛人関係は多く築いていると聞き『ああ、よかった、地球はまだ滅ばないね』と安心したのも良い思い出である。
そして同時に愛人を作る恋人を許すその女性の包容力と懐の深さには感服した。
浮気を許す女にはなりたいと思わないが、短気を起こさず余裕を持つその大きな心をエマも同性の後輩として持ちたいと思っていた。


「おい、チャーリー」

「ん?」

「おっと…もうビールないかい?取ってくるよ」

「おう!サンキュー!」


周囲の男性が父の同僚しかいない事と、『やっぱりいい人は早く捕まってるんだよねぇ』と言い物件ほど売れるのが早いと思っていた。
その時、ビールがなくなったのかラリーが一緒に話していたチャーリーに声をかけた。
その声かけに気付いたスティーブンが代わりに取りに行こうとキッチンへと向かう。
その時―――玄関からチャイムがなった。
エマはその音に体を強張らせた。
それは父の言葉を思い出したからだ。

― もしもパーティー中にチャイムが鳴ったら出なさい ―

その言葉を思い出しエマは思わず父を見た。
父はチャイムが鳴り玄関の方へ目線を送っていた。
決してエマを見ていない。
エマに合図も出していない。
だがエマはどうしてもこのチャイムの鳴らした相手に会わなければいけない気がした。


「ちょっと見て来るね」

「いいよいいよ俺が見てこよう!エマちゃんはレイチェル達と楽しんでいなさい」


父の言葉通りエマは玄関に向かおうとした。
しかしそれをレイチェルの父、ラリーが止めた。
ラリーがエマの代わりに玄関へ向かおうとしたのだ。
エマは困惑の表情を浮かべる。
父からは自分が行くよう言われており、エマも自分の家の来客だからと対応しなければと思っていた。
ラリーからしたらきっと娘と楽しんでいるエマを行かせるのは申し訳ないと思ったのだろう。
それでもエマは父の言う通りに動かなければいけない気がしたのだ。
エマはつい父を見た。
父はラリーが席に立とうとしたのを見つめながら…


「お客さんにそんな事させられないよ、ラリー…エマ、行きなさい」

「う、うん…」


いつものように、しかし有無を言わせない口調でスティーブンはエマに玄関に行くよう指示を出した。
にっこりと笑う父だがその目は笑っていないように見え、エマは不安を隠しながらいつものように装い席を立って玄関へと向かった。
玄関へと続く廊下の扉を閉めると父や友人達の目線から逃れたという安心感がありどっと疲れが出たような気がした。


「出なきゃ…」


しかしいつまでも来客を待たせるわけにもいかず、エマは玄関に向かう。

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