(6 / 24) 薔薇十字館殺人事件 (6)

生理に必要な物を購入した明智は急いで自宅へと戻った。


「彩羽、ただいま」


鍵を開けて自宅に帰れば静けさが返ってくる。
彩羽の声がない事に首を傾げながらショックもあっただろうし体が辛いのかもしれないと彩羽の部屋に向かう。
しかし彩羽の姿はなく、気が焦りながらリビングへ向かった。


「彩羽!!どこにいるんだ!?」

「ここだよ、兄さん」


リビングにも彩羽の姿はなく、購入した荷物を置いたテーブルには冷えてぬるくなったカフェラテが置いてあるだけだった。
精神的に滅入っていた様子もあったため、追いつめられて外に出てしまったのかと思い焦りをつもらせる。
その時、彩羽の声がし、明智はそちらを見た。


「こんなところにいたのか…外に出てしまったのかと思って焦ったよ…」

「ごめん…気持ちを落ち着きたくて…」


彩羽がいた場所、そこはベランダだった。
風でカーテンが閉まってしまったらしく、明智からは彩羽の姿がカーテンで隠れていたらしい。
カーテンを纏めベランダに出れば彩羽の姿があり、焦っていた明智はホッと安堵の息を吐いた。
あからさまに安堵の表情を浮かべる従兄に彩羽は心配させてしまったと申し訳なさそうに返す。


「それはまだ咲いていないんだろ?他の花を見た方が落ち着くと思うが」


彩羽はベランダに置いてある小さなプランターの前にしゃがんでいた。
どうやらプランターの花を見て気持ちを落ち着かせていたらしいが、彩羽の見ているプランターの花はまだ咲いていない。
明智は冬ではないにせよ夜は太陽が沈んでいる分冷え、体に障ると着ていた上着を脱いで彩羽の肩に掛けた。
それにお礼を言いながら小さく笑みを浮かべまだ咲かない花を見つめた。


「他の植物も好きだよ…でもこれを見ていると落ち着くから」


その言葉に明智は内心顔を顰めた。
彩羽は恐らくまだ生理が来た事に動揺しているのだろう。
彩羽が生理が来た事に動揺していたのは、巴川修蔵のせいだ。
あの男は年甲斐もなくまだ幼かった彩羽に手を出し、それが最近まで続けられていた。
あの男はさぞ多くの種を彩羽の中に吐きだしのだろう。
彩羽が生理が来ていないをあの男は知っていたから妊娠する事はないと遠慮なく彩羽の中に吐き出したに違いない。
しかし生理が来ていなくても妊娠はする可能性は低いがありえない話ではなく、明智は彩羽が妊娠しなくてよかったと心から安堵した。
彩羽に生理が来なかったのも個人差ではなく、性的虐待のストレスからだろう。


(そういえばこの花は初めてこの家に来て彩羽が育てるって買って来た花だったな…)


明智は落ち着くと言う彩羽の目線の先にある花を見る。
その花は明智も詳しくは知らない。
気に入ったと言って買って育てているその花の名を彩羽は『秘密』だと言って教えてくれなかった。
ただ葉っぱの部分だけを見ればそれは薔薇系だという事だけは分かった。
明智は彩羽はこの花を気に入っていると聞いていたが、ただ気に入っているだけではないと気づいている。
その花に何かあるかは分からないが、彩羽の心に救いがあるものが一つでも多くあるのは良い事だと何かモヤモヤとするのを誤魔化しながらそう思うしかない。


「これ以上外にいると風邪を引いてしまうな…痛み止めも買って来たからそれを飲んでもう寝なさい」


彩羽の頬に触れると外にいたため肌が冷たくなっていた。
頬に当たる髪へ触れるのを移せば、ドライヤーで乾かしていたため濡れているわけではかったが、それでもやはり風に当たり冷たかった。
彩羽が頷けば、明智は笑みを深め頬に掛かっている髪をそのまま彩羽の耳に掛け、手を放す際明智の手は彩羽の耳に軽く触れた。


「………」


彩羽は『早く上がりなさい』と言いながら部屋に戻っていく明智を内心唖然としながら見送る。
しゃがんだまま明智を見送った彩羽は従兄が触れた耳に手を伸ばし、指で撫でる。
夜風に当たり冷えているはずの耳は熱く感じた。


(……兄さんって…意外と天然タラシ?)


そうぼやくき彩羽は何とも言えないくすぐったさを感じた。
明智の様子からして恐らく耳に触れたのは無意識だったのだろう。
しかしあの触れ方はまるで恋人に触れるように甘いものだった。
巴川家で彩羽の裸を見ても、そして抱きしめられても、触れる事がないほど明智の心は鋼だ。
だからこそ彩羽は明智の家に世話になる事を決めたのだが、たまにこうして男を見せてくるので正直心臓が持たなくなりそうだった。


「彩羽?どうした?」

「う、ううん…なんでもない…」


必死に別のものを考えて赤くなった顔を戻そうとしていると戻ってこない事に気付いた明智に声をかけられ彩羽は慌てて部屋へ戻る。


「これ…一応店員に聞いて必要な物揃えたけど…あとは一人でできるか?」

「え…兄さん店員さんに聞いて買ったの?大丈夫だった?怪しまれなかった?通報とかされなかった?」

「いや、大丈夫じゃなかったら今ここにいないだろ?」

「あ、そっか…」

「まあ、でも怪しまれてたみたいだけどね…事情を話したら親切に教えてくれたんだ」


彩羽は『親切な女性だったよ』とにこやかに笑う従兄に『あっ(察し)』となった。
世の中顔ではないと言うが、やはりこういう時容姿は強い武器になるのだと彩羽は学んだ。
とりあえずあえて何も言わないでおいて、彩羽は明智に男なのに生理用品を買わなきゃいけなかったという申し訳なさと本心からのお礼を言って袋ごと部屋に持っていく。


「えっと…あ、これがナプキンっていうんだ…」


袋をあさり出てきたのはナプキンとショーツとカイロと痛み止めだった。
ショーツとナプキンを手に取って彩羽は早速トイレに向かう。
使い方はネットで調べて画像付きの分かりやすい物を見てなんとかつける事ができ、やはり専用商品ということで付け心地は悪くはない。


「どうだ?変な感じはないか?」


明智はリビングで待っており、彩羽が姿を現すと心配そうに声をかけた。
男として気遣ってやれるが、生理の煩わしさは体験しようにもできないため不安だったらしい。
相変わらず過保護な従兄に彩羽は首を振って安心させるように笑みを浮かべた。


「大丈夫…って言ってもまだ付けて間もないから分からないだけかもしれないけど…でも変な感じはしないよ」


初めて付けたので違和感はあったが、思ったほど嫌な感じはしない。
彩羽の言葉に明智は『そうか』とホッと安堵の息を吐き、机に置いていたコップを彩羽に渡した。
つい受け取ってしまった彩羽はそれを見下ろすと、コップにはホットミルクが入っていた。
彩羽は目を瞬かせた後明智を見上げる。


「これ兄さんが飲むんじゃないの?私カフェオレ飲もうかなって思ってたんだけど…」

「カフェオレは冷めていたしさっき調べたらカフェインは血管を収縮させる作用があるらしい…本当はハーブティーがいいらしいんだが今はないからね…体が冷えているんだから暖かい飲み物を飲まなきゃ駄目だ」


わざわざ調べてカフェインが入っているカフェオレは生理中には向かないと記事に書いてあったらしい。
明智も彩羽もハーブティーを飲む趣味はそれほどないため、この家にハーブティーはない。
だからせめて体を温めるためにとホットミルクを作ってくれたようだ。
カフェオレは明智が飲んでくれるらしく、彩羽は手に握られているホットミルクの白い水面を見た後明智を見た。


「兄さんってさ…」

「ん?」

「…絶対モテたでしょ」


突然の言葉に明智は目を瞬かせ首を傾げた。
普段クールでカッコいいと言われている従兄の幼げな仕草につい彩羽はキュンと胸がときめいてしまう。
『兄さん、可愛い』と思いながら咳払いして誤魔化し、『じゃあいただきます』と一口ホットミルクを飲む。
意外と体が冷えていたのか暖かい飲み物が喉を通って胃に入っていくのが分かった。
暖かい飲み物にホッと息を吐きながら彩羽は明智の向かえに座る。


「そういえばカイロ入ってたけど…あれ何に使うの?」

「ああ、あれは体を温める事で生理痛を和らぐことが出来るらしいと聞いた」


彩羽は一日目はそれほど痛みは感じないのか、内心『生理痛ってそんなにひどいの?』と少し怖くなった。
『そういえば美雪ちゃん達も酷いって言ってたしなぁ』とこれから毎月そんな痛みに襲われるのかと思うと重い溜息を吐きたくなった。

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