(14 / 24) 薔薇十字館殺人事件 (14)

チクタクチクタク、と音をさせながら時計は針を進める。
すると時計は大きな鐘の音を鳴らし、静まり返っていた部屋に大きく響く。


「な、なに?」


彩羽は眠っていたがその大きな音に思わず飛び起き、高遠もその音にゆっくりと体を起こす。
彩羽が当たりを見渡しても当然眠っていたからそこは自分の部屋だった。
時計を見れば夜中どころか朝方を示す数字を針は指しているのが見えた。


「5時30分…」

「日和…これを」


時間帯にして起きている人は起きている時間ではあるが、彩羽はまだ寝ている時間である。
音で起こされ驚かされた彩羽はただ時計の音がなっただけで何も起きない事に安堵の息を吐く。
そんな彩羽に高遠が何かに気付きベッドから降りそれを手に戻ってきた。
それは封筒だった。
部屋の扉の僅かな下の隙間に差し入れられるように置かれていたソレを彩羽は首を傾げて見る。


「それは…手紙?」

「ローゼンクロイツからと書かれている…」

「ローゼンクロイツ!?」


勝手に開き勝手に中を見る兄を咎めることもせず彩羽はベッドに座る兄の隣に四つん這いで移動して座り、手元にある覗き込む。
そこには…

『お待たせいたしました。 青薔薇のお披露目をこれよいたしますので、北の端の円形応接室までおいでください。』

と書かれていた。
それに彩羽は首を傾げる。


「青薔薇のお披露目って…こんな朝方に?」

「さあ…恐らくこれは全員に配られているものだと思うが…行くしかないだろうね」


2人も殺した殺人犯の指示に従うのは癪ではあるが、兄の言う通り行くしか選択はない。
行かなかったらどうなるかは恐らく誰もが同じことを思っているのだろう。
『日和、何か羽織っていきなさい』と高遠に言われて彩羽は上着を羽織る。
冬でも夏でもないが、朝方は冷え込むので風邪を引かないようにという心配からだろう。


「彩羽さん!今の…」


千里も手紙を見て何かを羽織ってから部屋を出たのか、部屋から出てきた彩羽に慌てたように駆け寄ってきた。
しかし一緒に出てきた高遠を見てぎょっとさせる。


「なんであなたが彩羽さんと一緒に…」

「そう騒がないでください…皆さまに迷惑ですよ」


皆、あの音で飛び起きて手紙を見てはいるだろうが、まだ時間は朝方。
高遠の忠告に千里は口を閉ざした。
犯罪者に注意されるなんて、と千里は悔しそうに顔を顰め、声を上げれないのをいい事に高遠はにっこりと笑みを浮かべ彩羽の肩に手をやり『では行きましょうか』と歩き出した。
彩羽も兄に抵抗するでもなく、高遠についていく。


(ちょっと…なんで彩羽さんは抵抗しないの)


千里はその後ろをついていく。
彩羽を高遠から奪い返そうとした時、出てきた白樹や冬野達と鉢合い一緒に行くことになり自然と彩羽と高遠、白樹と千里達とグループが別れてしまった。


「あの…ちょっといいですか?」

「はい、なんですか?白樹さん」


千里は年が近い白樹と仲が良くなり、教師と教え子の義理の姉という関係から、出来たばかりの友人の間柄に変化した。
その友人になったばかりの白樹が千里に小声で声をかけ、千里は苛立ちを隠した笑みで返す。
そんな千里に気付かず白樹は高遠を見ながら内緒話のように口元を手で隠す。


「あの遠山さんって方…巴川さんと親しいんですか?」

「え?」

「巴川さんは優等生ですし人当たりもいいですが…大人しい子ほど怪しい男性に惚れこんでしまうじゃないですか…遠山さんは優しい方みたいですがどこか影がありますし……肩組んでますし…担任ではないんですけどやっぱり教師として心配で…」


『肩組んでますし』、との言葉に千里は何て言えばいいか考えていた。
しかし何も知らない白樹に『影どころか犯罪者ですけどね』とは言えず曖昧に笑うしかなかった。


「だ、大丈夫じゃないでしょうか…彩羽さんには従兄のお兄さんがいまして…その方と今は一緒に暮らしてるのでお兄さんが恋しくてつい年上の男性に頼ってしまっているのかもしれませんね…2人も亡くなった事件に巻き込まれてますし」


とりあえずそう言うしかなかった。
むしろ『あの人犯罪者です!』と言わないだけ褒めてほしいと思った。
白樹は保護者である千里の言葉に『そうなんですね』とホッとした表情を浮かべる。
担任ではないが、やはり教え子は心配だったらしい。


「…………」


内心引きつり笑いを浮かべている千里は、別の人物が高遠と彩羽の後姿を見つめている事に気付かない。
そうしている間にも応接間の前には招待客達が集まり、少し遅れて金田一と美雪も駆け付けた。


「毛利さん!どういう事だ!?」

「こんな時間にお披露目って!」

「それが…私にもさっぱり…」


時刻は5時を回っており、いつもなら眠っている時間である。
世話係として毛利は起きていたのか普段着を着ているのは毛利と高遠だけだった。
何故朝方にお披露目なのか、ローゼンクロイツと繋がっている毛利につい問い質してしまう。
しかし毛利は世話役に雇われ指示通りに動いているだけにすぎず、問い質されても答えられない。
困ったように眉を下げる毛利は応接間に続く扉のドアノブに手を伸ばすが、引いても押しても扉は開かなかった。
応接間に入る扉は内側から鍵が掛かっており、入れない状態だった。
金田一はその隣にあるテラスに出れる扉のドアノブに手を伸ばすと、そこは鍵はかかっておらず出られた。
開けた金田一を先頭にテラスへ出る。
早朝ということで朝日が出始めて夜に比べると明るいがまだ薄暗い。
空気も場所が街はずれの山道の途中にあるというと早朝というのもあり澄んでいた。
二人も殺している犯人からの呼び出しでなければ深呼吸してもいいくらいの気持ちよさだった。


「中見えるか?」

「あ、いや…ちょっと暗くて…―――っ!」


金田一が近くの窓から応接間の中を見ようとした。
それに佐久羅が中が見えるか声をかけるが、カーテンが閉められてはいないがまだ薄暗く中を覗き込んでも暗くてよく見えなかった。
しかし目も慣れたのか、中を見ていた金田一の表情は強張った。


「ま、祭沢さん…」


冬野達も中を覗き、金田一同様息を呑み顔を強張らせる
彩羽も中を見て呆気に取られた。
応接間の中には―――祭沢の死体が横たわているのが見えた。
祭沢の胸元には杭のようなものが打ち付けられており、その杭をまるで自ら刺したように両手で握りしめ、白い薔薇と青薔薇が敷詰められていた。
胸元から出る血で赤く染まりピクリとも動かないのを見て祭沢は既に息絶えているのが分かる。


「これは…『ゴルゴダの丘』ですね…」

「『ゴルゴダの丘』?」

「イエスキリストが二人の罪人と共に十字架に磔にされたと言われている丘です…しかも青薔薇のゴルゴダの丘がこの部屋を密室にしてしまっています」

「そうか…あの扉は内開き…」

「にも拘わらず扉の前にびっしりと敷詰められた青薔薇は踏まれたり乱れたりした形跡が全くありません…しかもこの部屋の窓は全て内側から鍵が掛かっています…」

「密室か…」


高遠の言葉に彩羽は高遠からもう一度祭沢の死体が置かれている応接間の中を覗き見る。
薄暗いが、朝日が先ほどより昇っているのもあり少し見やすくなりつつあった。
その中を見れば、祭沢の死体は白い薔薇を敷詰めて作られている十字架の上に横たわっており、足元には丘とキリストと共に磔にされたという二人の罪人の十字架が青薔薇で再現されており、応接間を出入りしたのであれば青薔薇を踏まなければ中には入れないし、外には出れない。
それも窓には全て鍵が掛かっており、誰がどう見ても密室の状態だった。


「青薔薇の花言葉は『不可能』…そして祭沢さんの骸を十字架のように囲んでいる白薔薇の花言葉は『潔白を失い死を望む』」

「死を望む…?」


部屋を覗き込んでいると歌人である月読がまた意味ありげな事を呟く。
花言葉に詳しい月読のその言葉に金田一は怪訝とした顔を浮かべていた。
その時、


「ひょっとして…祭沢さんが皇さんと小金井さんを殺したってことなんじゃ…」


その言葉に誰もがその声のした方へと振り返る。
そこには冬野が立っていた。
冬野は青い顔をしており、唖然としていた。
金田一は冬野の言葉に聞き返す。


「なんでそうなるの?」

「あら有名な話じゃない?ゴルゴダの丘で張り付けられたのはイエスと二人の罪人なのよ?この二人の罪人が殺された皇さんと小金井さんだったとしたら潔白を失い死を望んだ祭沢さんが二人を道連れにしたって事でしょ?」

「仮にそうだとしても…祭沢さんが犯人だという証拠はありません…それに皇さんと小金井さんが罪人とはどういう事ですか?」

「そ、それは…」

「ねえ!この部屋密室でしょ!?だったら自殺したって考えれば一番自然でしょ!?」


冬野の言葉に金田一は納得はせず引っかかりを覚えた。
それは推理できるほどの頭を持っていない彩羽も、そして美雪も同じだった。
冬野の言う『罪人』がなぜ小金井と皇に当てはまるのか、そしてなぜ『潔白を失い死を望む』のが祭沢となるのか…説明も証拠もない。
逆に金田一に問われ冬野は言葉を濁らせる。
その反応に高遠と金田一は気づくも、まるで庇うような禅田の言葉に高遠は頷いて見せる。


「確かに禅田さんの言う通りです…今のところは、ね」


頷きはした。
しかしそれは禅田の言葉が自然だと思ったからである。
ただし、今のところは。
とりあえず今は現場を保存することを優先する事にし、金田一は毛利に警察が来るまでそのままにしておいてもらうよう頼む。
それに続けて高遠はこの場で唯一のカメラマンである佐久羅に現場写真を頼む。
一先ず事件は警察が来てからという事で片付いたのか冬野達は館に戻っていく。


「さ!彩羽さん!私達も行くわよ!」

「え?あっ、ちょ、ちょっと千里さん!?待ってください…!」


高遠が館の中に入っていく冬野達を見送っていたからその隣にいる彩羽も同じく見送った。
しかしその彩羽の手を千里が取って引っ張り、館へと戻ろうとする。
手を引っ張られた彩羽は驚き抵抗しながら戸惑った表情を浮かべ兄である高遠へ振り返る。
高遠は彩羽の耳元に口元を寄せた。


(僕達が兄妹だと知られるのは色々とマズイ…日和は千里さんの傍に…)


高遠は彩羽を引き留めることはせず、千里の傍にいるよう伝える。
自分の傍にいた方が安全であり高遠自身安心できるが、一般の女子高生がこの館で知り合った男性と常に一緒にいるのもおかしな話だと思い引き留めることはなかった。
高遠の言葉に彩羽は頷いて返事を返し、千里に引っ張られるままに館に入っていった。

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