朝食の時間となり、彩羽は千里と共にダイニングへ向かった。
そこにはすでに人が何人か集まっており、その中には高遠もおりすでに席についていた。
彩羽は兄の傍に行きたかったが、高遠の姿を見た千里が彩羽の手を引っ張り高遠から離れた席についてしまった。
千里は彩羽と高遠が兄妹だと知らないから仕方ないが、だがしかし、兄妹と知っても恐らく千里は彩羽と高遠を引き離そうとしただろう。
暫くするとまだ来ていなかった人達もダイニングに集まり、毛利が用意していた朝食を運んできた。
「皆さま、朝食にございます」
「これ…毒とか入ってたりしないか?」
自殺にしろ他殺にしろ、新たに人が死んでまだ数時間しか経っていない。
犯人が祭沢だったという証拠もなく、誰が犯人か分からずターゲットにされている人物が誰なのかも不明な以上、佐久羅が警戒するのも分かる。
不安そうに朝食のサンドイッチを見つめる佐久羅と、佐久羅と同じ考えなのか手を出そうとしない冬野達をよそに高遠が自分の分のサンドイッチを手に取った。
「心配ありませんよ…皿はこうして適当に選ぶのですから…毒なんて入れようがない」
「でも!無差別殺人の可能性だって…」
「それもないでしょうね…無差別殺人で我々を全滅させるつもりならば…夜にでもこの館に火を放てばいいだけの話ですから」
何も殺人はターゲットが絞られて行われるだけではない。
今の段階で犯人の動機、そして被害者たちの共通点がない以上、佐久羅の言う通り無差別の可能性もある。
しかしそれも高遠が否定した。
高遠を殺人犯だと分かっているせいか、高遠の言葉に彩羽は納得してしまう。
しかし高遠が『火を放てばいい』という言葉に金田一、美雪、彩羽以外が反応を示した。
「ちょっと!変な事言わないでよ遠山さん!」
冬野が怒りを向けるように声を荒げて高遠を睨む。
その睨みを高遠は無視をしサンドイッチを口に運ぶ。
高遠が平然と食べているのを見て毒入りではないというのは納得してくれたのかそれぞれ席について食べ始めた。
(火と聞いて皆顔色が変わったな…)
金田一もサンドイッチを取り席につくが、先ほどの反応に改めて周りを見渡した。
『火』と聞いて顔色を変えたのは、自分と美雪、高遠、彩羽以外の人達で、千里も『火』と聞いて顔を顰めたのも見逃さなかった。
(火と言えば白樹先生や月読さんには十字架形の火傷の跡があったんだっけ…ここいいる俺達以外の共通点は『薔薇』と『火』って事か…)
火に反応をしていた人物の顔を覚えながら彼らの共通点を探す。
とはいえ千里と白樹は薔薇とはあまり関わりがなさそうだが、青薔薇を見に来たという点では薔薇には興味があるようではある。
千里は初恋の人を探しに来たと言っていたが、他にも青薔薇も楽しみにきていたとも後に語っていたので、薔薇に興味がないということもないのだろう。
「金田一君」
「?、なんだよ」
「どうも気持ちが悪いと思いまして…」
金田一はサンドイッチを食べながら考えていると食べ終わった高遠が近づいてきて声をかけてきた。
しかもその内容に金田一は思わず吹き出してしまう。
「気持ち悪いって…!やっぱり毒が入ってたとか!?」
気持ちが悪いと言われて思うのは毒を盛られたいうもの。
特に事前まで毒が入っているいないと話していたのもあった。
しかし高遠は齧ったサンドイッチを恐ろし気に見下ろす金田一に首を振る。
「そうではありません…ローゼンクロイツの書いたシナリオ通りに進むのがどうにも気持ち悪いんですよ…今朝がたの祭沢さんの死は自殺とは思えません…」
「い゙!?」
「自殺に見せかけたのは次のターゲットを油断させるための偽装工作かもしれませんね…」
高遠は声を抑えることなく話しているため、この会話は勿論冬野達にも聞こえていた。
高遠の事だから恐らく聞かせるために声を抑えず皆がいるこの場で金田一に言ったのだろうが、一方的に話した後高遠は『朝食ご馳走様』と言ってダイニングから離れていった。
「待てよ!遠山さん!!」
「はじめちゃん!」
言いたい事だけ言ってさっさとリビングから離れた高遠を金田一が追いかけ、それを美雪が追う。
彩羽も追いかけようと立ち上がったが、それを千里に手を取られ阻まれてしまった。
千里を見れば千里は彩羽を見上げていた。
「あなたが行く必要はないでしょう?」
「千里さん…でも…」
「あなたとあの人は赤の他人でしょう…なぜ気にする必要があるの?」
「………」
千里の言葉に彩羽は何も言えなかった。
千里の言う通り、彩羽と高遠は書類上ではもう血縁者ではない。
体の中に流れる血だけがそれを証明する事ができる。
元々彩羽と高遠は兄妹だけではなく従兄妹として普通の兄妹以上に濃い血を持っていてもお互い似ていないため兄妹と疑う者もそうはいないだろう。
だから千里の疑問も最もだった。
千里はこう言いたいのだろう。
― あの男はあなたを欺き隼人をも殺した加害者なのに、被害者のあなたがなぜあの男を気にかける必要があるの ―
と。
それに対する言葉はまだ彩羽はすぐに出なかった。
本当は彩羽も高遠が兄だと声を大にして言いたい。
隼人を殺した事は許せない、しかしそれでも彩羽にとっては兄なのだ。
兄だと言いたいジレンマを感じながら彩羽は渋々と椅子に座り直しもそもそとサンドイッチを口に運ぶが、やはり考える事は兄の事ばかりだった。
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