男性の呼びかけで金田一達は時計の塔にある応接間に集まっていた。
テレビの前にあるソファを金田一、美雪、彩羽、佐木以外が座る。
金田一達が座れなかったのは場所がなかったからだ。
「ではこれから山之内先生のメッセージを公開させていただきます」
その男性は山之内の顧問弁護士の代理人として派遣されたらしく、名を有頭大介(ありとう だいすけ)と名乗った。
「私は先生の指示を守る監視係りとして参りました…公平を規するため皆さんが探し当てなければならない遺言状の中身、またその隠し場所などは一切知らされておりません」
「君!前置きはいいからさっさと始めたまえ!」
彩羽は先ほどからチラチラと奇術師と名乗った男…スカーレット・ローゼスを見ていた。
もしかしたら彩羽の…否、彩羽だけではなく金田一どころか美雪と佐木も知っている人物かもしれないのだ。
もし当たっていたとしたら…彩羽は内心ハラハラしていた。
しかし目線に気付かないローゼスに『違うかもしれない』と思い始めた頃、神明の急かす声で我に返る。
前を向き直せば、丁度急かされた有頭がビデオテープをデッキに入れているところだった。
黒く染まっている画面に映ったのは、宝田が見せてくれた雑誌とは別人のようにやせ細り弱弱しい姿の山之内の姿だった。
≪やあ、私の大切な友人であり愛すべきクインテットのメンバーでもある皆さん…このビデオをご覧になるとき私はもうこの世にはいない…私の最期のミステリーに付き合っていただき心から感謝する≫
山之内が生前に残していたビデオでは、まるで全員この場にいると分かっているようだった。
それは彼らへの信頼か、それとも別にあるのかまでは分からないが、みんな固唾を飲んでビデオを見つめていた。
≪早速だが、予めお伝えしてある暗号文についてお話しよう…実はあの暗号文は意味を成さない…もうひとつそれと対になったメッセージを用意してあるのだ…後ろを見たまえ≫
暗号文の言葉に、全員が持っていた暗号文を取り出し開いて見る。
しかし、暗号文はその一枚の紙だけでは意味がないという。
暗号文と対となる物が存在し、その対となる物は彼らの後ろにあるのだという。
その言葉と同時に、指示された通りに有頭が部屋の照明スイッチを押した。
後ろを向け、と言われ全員が後ろを向けば暖炉があった。
その上には5体の小さな人形が並んで置かれており、その左右の脇にはテーブルランプが一つずつ並んでいた。
≪第一バイオリンのコンスタンチン、第二のバイオリンのターニャ、ビオラのオリガ、 チェロのエミール、コントラバスのイワン…この君たちと同じクインテットを構成する5体のロシア人形こそがすべての謎を解き明かす第2の暗号なのだ…この暗号を合わせ解いた者に私の遺書は渡る≫
対となる物は人形だった。
背丈が揃っていない5体のロシア人形が暗号を解くのに必要な物らしく、その暗号を解いた者こそ、遺書を入手し、更には多額の遺産も手にすることが出来るという。
それを聞いてみんなにやりと笑った。
≪尚この推理合戦の参加者は期日5日間強制的にこの輩に留まってもらう事になる…――さあ、参加する意思があるなら受け取ってほしい…用意された君たちの楽器を…≫
そう言い残し、山之内の映っていた画面は砂嵐となって終了した。
彩羽はてっきり人形が配られるのかと思ったが、暖炉の傍にあるソファに置かれている本物の楽器が配られるらしい。
『あの楽器ってそういう役割なんだ』と、入った時から存在感を彩羽達にアピールしていた楽器達の意味がようやく分かった。
「では参加者の方はご自分のパートの楽器をお取りください」
「言われるまでもないな…やる気がなければこんな北海道の山奥くんだりまで来るものか」
神明はそう言って自分のパートの楽器へ向かう。
神明が手に取ったのは楽器の中で一番大きいコントラバスだった。
人形の名は『イワン』。
次に楽器を取ったのは犬飼。
犬飼は第一バイオリンで、人形の名は『コンスタンチン』。
梅園も犬飼と同じく第二バイオリンを手に取る。
人形は『ターニャ』。
幽月はビオラを持ち、人形は『オリガ』。
最後に宝田はチェロを手に取った。
人形は『エミール』。
「さて、全員参加が決まったところでさっそくだがこの推理問題の答えを考えようじゃないか」
「そうね…ぱっと見たところ気になるのはこの一行目よね…」
「流石現役の推理作家ですね、梅園先生…実は僕もあの人形の大きさの違いと暗号文の一行目、『楽団は朝礼で前から順に首を刈られた』…というくだりがポイントだと思うんです」
「フン!素人探偵気取りががっつきおって…そんなことくらい誰でも気付く事だ!」
「…そういうあなたは酒を飲んで管を巻くのがお似合いですよ」
「ハッ!金が欲しいんだろ!親父さんの会社が倒産して飼ってる命より大事な猟犬達を手放すって話じゃないか!」
梅園に話しかけたのだが、帰ってきたのは神明の罵倒。
その場は一瞬で静まり返り嫌な空気が流れた。
ポツリと呟かれた犬飼の嫌味に神明は逆上するのではなく鼻で笑い、どこで知ったのか犬飼の家の事情をみんなに聞こえるような大声で話し出す。
(す、すごい空気が悪くなってく…)
彩羽は彼らがどんな理由や事情で推理合戦に参加したかは分からないが、とりあえず分かるのは空気の悪さである。
巴川家で味わった空気の悪さに相当する最悪で緊迫した空気である。
彩羽や美雪達が困ったような表情で参加者達を見ていると…
「おやおや、皆さん…仲がよろしいのは結構ですがそんな風にお互いの知恵を出し合って他の参加者に出し抜かれていいんですか?」
ローゼスが忠告のような言葉を彼らに投げかけ、つい推理し合っていたことに気付く。
そのお陰でその場の空気は緩和され、彩羽や美雪達はほっと胸を撫で下ろす。
「ふと口にしたヒントで競争相手が得をすることもありますからね…気をつけなくては」
更にローゼスはそう言葉を零し、助っ人を依頼してきた幽月と顔を見合わせ笑い合った。
その笑みに彩羽は実の兄と重なって見えた。
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