(8 / 24) 露西亜人形殺人事件 (8)

彩羽は目の前に鍵を摘まんでぶら下げる。
この二つの鍵は兄も金田一達も知らない家の鍵だと思うと、なんだか秘密基地のようだとつい子供に戻ったように胸を高まらせる。


「玄関の鍵は分からないでもないけど…門の鍵って…どんな家なんだろう…」


門、と言えば巴川家を思い出す。
あの家はこの露西亜館と同じように豪邸で、門に鍵が掛かってはいたが彩羽達主人などは言えば開けておいてくれるし通ればすぐに使用人達が鍵をかけてくれる。
玄関もそうだ。
元々家の出入りも使用人や明智の送り迎え、明智家にいた時は鍵を持たされる前に養父が見殺しにされ、巴川家へ養母が嫁いでしまい、従兄と暮らすまで彩羽は家の鍵なんて持った事がなかった。
だから従兄にも内緒だというのは少し心苦しいが、秘密基地のような家の鍵を持っているのは子供に戻ったようで嬉しくなってしまう。


「そうだ…今の内に書類とか見ておこうかな…」


殺人鬼がこの館にいると分かってはいるが、家に帰って見る暇は恐らくはない。
明智の仕事中の時は見れるが、いつ帰宅するか気が気ではなくなるだろう。
ファイルを取り出し、ベッドに上がって中を広げて見る。
――1人目は至って普通の主婦のようだった。
写真だけ見れば犯罪を犯した人には到底思えない。
経歴も夫と結婚するまでは会社に勤め、子供が出来て退社。
手が離せる時期になればパートなどで家計を支え、子供を育てながら夫と家計を支える良妻だった。
しかし彼女は人を殺したのだ。
人生分からないものである。
――2人目ははっきりいえば柄がいいとは言えない女性である。
元不良、元ギャル、と言われても納得いくような金髪で目つきの悪い女性だった。
経歴は見た目通りの万引きやら暴走族やら援助交際やら人通りの悪をやらかしていた。
とはいえもう高校卒業した後にそれら全て卒業したらしいが、彼女も人を殺し更に人生落ちに落ちた人物である。
だが、高遠が選んだのなら悪い人ではなさそうではある。
――3人目もどこにでもいるおじさんである。
元大工と書かれているため、恐らく家の修理や管理は彼がしてくれているのだろう。
大工の資格もきちんと取っているのに、高遠に雇われてるという事はそういうことなのだろう。


「3人とも癖がありそう…でもきっと悪い人じゃないんだろうな…」


そう思えるのは、兄が自分に対して好意を持っているからだ。
あの兄の事だから、愛していると言っておきながら雇う人間を適当に選ぶわけがない。
彩羽に危害を加えるような人間を傍に置くことは決してしないだろうという彩羽の兄への信頼だった。
ベッドの上で見ていた彩羽は膝を立て、膝小僧に顎を乗せベッドの上に三枚の紙を並べて彼らの経歴や名前や写真を見ていた。


「住所は…隣の市かぁ…流石に週一は難しいけど…いけない事もないかな…」


家の住所を見れば、隣の市にあるようだった。
利用するしないは別として一度だけでも顔合わせでもした方がいいだろうか、と考えながら彩羽は従兄の予定を思い出す。
しかし頭がぼんやりとしだし、急な眠気に襲われた。


「…なんだろう…なんか…すごく眠たい…」


その眠気に彩羽は既視感を覚えた。
嫌な予感がした彩羽は完全に眠気に襲われる前にファイルに書類を仕舞い封筒をカバンの中に入れて金田一達に気付かれないようにした。


「もう寝よう…鍵も掛けたし…」


どんなに眠りたくても眠気は晴れることはなく、鍵の戸締りを確認した後彩羽は電気を消しベッドに入り込み目を閉じた。
考え事するよりも早く、彩羽は眠りの世界へ誘われていく。

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