金田一は確認のため、ローゼスの部屋に来ていた。
ローゼスの言う抜け道があるバスルームに案内してもらう。
抜け道は湯船の栓を引っ張ると、壁に固定されている栓の鎖が引っ張られ仕掛けが作動するものだった。
その仕掛けが作動するとタイル張りの壁が独りでに前に押し出され、人一人は入れるほどの穴が露わになった。
「なるほど…これなら外から入られる心配はないようですね、ローゼスさん」
中を覗き込み外から侵入できないような仕掛けがされている事を確認する金田一にローゼスは先ほどのお礼を伝えた。
「君にはお礼を言っておかなくてはいけないな…私の容疑を晴らしてくれたんですからね」
「あんたが犯人でないことは最初から分かっていたよ…あんたほどの天才が抜け穴なんて後で調べれば簡単に発覚するものを使って必要のない密室殺人なんかやらかすはずがない…そうだろ、ローゼスさん…いや―――地獄の傀儡師、高遠遙一!」
金田一は振り返り、ローゼス…否、高遠を見つめた。
強い眼差しは疑いもなく自分が高遠だと見抜いている彼の目。
いつも対峙する際見られるその強気の目に高遠は愉快そうに目を細め笑みを浮かべ、仮面を取った。
「ま、とっくに見破られているとは思っていましたけどね、金田一君」
金田一が時折自分を射抜くような目で見つめて来るのにも高遠は気づいていた。
だから金田一が自分が高遠遙一だと気づいているのだというのも驚きはない。
「まったく…こんなおあつらえ向きの場所で君たちと鉢合わせするとは…神様もなかなか洒落たことをなさる…」
「確かに…どうやら神様はどうしても俺にあんたを捕まえさせたいらしいぜ」
「さあ、それはどうだか…」
神がいるなら金田一からしたらどうしても高遠を捕まえさせたがっているように思える。
金田一と高遠はお互い睨み合いが続いた。
――金田一と高遠が睨み合っているとき、彩羽は部屋の扉に耳を宛て聞く耳を立てていた。
(は、はじめちゃんがお兄ちゃんの部屋に入ったの見てつい来ちゃったけど…や、やっぱり正体ばれちゃったのかな…)
周りに人がいないからいいものの、今の彩羽は完全に怪しい人間である。
どう見ても中を盗み聞きしている姿にしか見えないが、実際盗み聞きしていた。
中の声はくぐもっててあまり聞こえない。
流石貿易商が建てた建物である。
現代のホテルとは違い、作りはしっかりしていた。
扉の傍で兄が何か話している声は聞こえるが、それが何を話ているのか分からない。
(もっと押し付けないとだめなのかな……全然聞こえない…)
自分が他人から見てどう見えるのか、全く気付かない彩羽は更にグッと耳を押し付ける。
聞く耳を立てていた彩羽だったがドアノブが捻られた事に気付き慌てて扉から離れ曲がり角に隠れる。
(き、気づかれてないよね!?…って気づかれても別にいいんだけど…なんで私隠れたんだろう…)
つい壁の影に隠れてしまったが、隠れる必要性はなかったな、と気づく。
いや、盗み聞きしていたから隠れても可笑しくはないが、高遠だと彩羽も気づいていたし、高遠と自分が兄妹だと金田一も知っているし、きっとバレても怒られる事はなかっただろうが、盗み聞きしていたという罪悪感があった。
しかしいけない事をしているという悪戯心のようなものも確かにあり、ドキドキと緊張し高まらせる心臓を抑えていると…
「彩羽、何してんだ?」
「うひゃあ!?―――ってはじめちゃん!?」
金田一がひょこりと顔を覗かせ声をかけてきた。
考え事をしていたため金田一が近づいてきていた事に気づかなかった彩羽は思わず驚いた声を上げた。
その声に金田一は『うひゃってお前…』と呆れたように半目で見つめてきたが、彩羽は目を逸らす事でなかったことにした。
「ハ、ハジメチャン!キグウダネ!ドウシテココニイルノ?」
「うん、棒読みでバレバレだし、高遠もお前が盗み聞きしてたお気づいてたから」
「…………ごめんなさい…」
驚き過ぎて思わず偶然を装うとしたが、棒読みになってしまい失敗に終わった。
ひょこりと金田一の後ろから現れた兄を見て彩羽は全てを諦めた。
そもそも彩羽が盗み聞きしていたのは最初から気づかれていたようで、隠れているときも服がチラチラ見えていたらしい。
それを指摘され彩羽は『私スパイの素質ないわぁ…』とガクリと肩を落とした。
更に言えば大女優の母の血が流れているのに女優の素質も全くないことになる。
兄はマジシャンの血を受け継ぎ、姉は薔薇をこよなく愛する血を受け継いだというのに…自分だけ母の大女優のせっかくの血が無駄に流れていると思うと悲しくなる。
「金田一君、金田一君」
「…なんだよ」
項垂れる彩羽を見つめていると、トントン、と肩を叩かれた。
金田一は相手が誰かなんて確認しなくてもこの場にいるのは三人しかいないため分かっていたが、正直嫌な予感しかしない。
しかし無視すればまた叩かれたので、返事をしない限りそれは永遠に続くと察した金田一は渋々返事を返す。
金田一の肩を叩いた相手…高遠は項垂れる彩羽の頭を撫でながら…
「可愛いでしょう?この子、私の妹なんですよ」
とドヤ顔で言った。
先ほどの緊迫したやり取りは何だったのかそう真顔で問い質したいほど空気を読まない高遠の言葉に金田一は―――
「うん、知ってる」
無表情で頷いた。
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