(14 / 24) 露西亜人形殺人事件 (14)

金田一は高遠との推理対決を受けた。
犯人を見つけ次第殺すと言われれば否応なしにもその対決を受けて立たなければならなかった。
例えどんな理由があろうと人を殺したのならその罪を償わなければならない。
生きて償ってほしいと金田一はそう思っていた。
勿論、高遠もだ。
その高遠と別れ、彩羽と金田一は応接間にいた。
すでに三人も殺され、人形は5体中3体が並んでいる。


「それにしても…なぜ犯人は一度この人形をここから持ち去りそして被害者に添えるようにして一体ずつ出現させているんだ?」

「お兄ちゃんが言ってたみたいに見立てって事は?人形の数や参加者達の数とか山之内先生の『露西亜人形殺人事件』っていう小説にそっくりって犬飼さん達も言ってたし…」

「んー…そればっかりじゃないと思うんだよなぁ…そもそも俺その小説読んだことないし…彩羽はないのか?お前も読むよな、ミステリー小説」

「うーん…読むには読むけど…山之内先生の小説は聞いた事あるけど読んだことないなぁ…正直私山之内先生みたいな小説より日常系とか恋愛系が入ってるソフトな小説が好きだから…それにそもそも山之内先生みたいな本格的なミステリー小説読む理由って復讐のためだったし…」


彩羽も小説は読む方だが、美雪のようになんでもいける口ではない。
推理小説やミステリー小説も読むには読むが、山之内のような本格的なミステリー小説はあまり読まない。
読むとしたらほのぼのとしながらもちょっと怪しげなミステリー小説だったり、推理小説でありながらも恋愛要素も含んでいるというものばかり。
それに彩羽が本格的なミステリー小説や推理小説を見る理由は、読みたいから読んでいるわけではなかった。


「復讐?なんだそりゃ」

「ほら、私ってはじめちゃんに会うまで本気で復讐考えてたでしょ?どうやったら完全犯罪が出来るか、どんなトリックを使えば証拠を残さず殺せるかって小説を読み漁って考えてたんだ…巴川家って意外とアナログでさ、ネット使える環境じゃなかったし…図書室とか図書館行くほどの時間、許されてなかったし…兄さんに聞いたら一発でばれちゃうし…」

「……ソ、ソウナンダ…」

「ま、でも所詮はフィクションだし実際やってみたら無理があったから諦めたんだけどね…それでも参考程度にはなったよ」


『一番いいなって思ったのは毒かな〜』と笑う彩羽に金田一は引きつった笑みを浮かべた。
彩羽が養母と義父に復讐を決意し、冗談ではなく本気で二人を殺す気だったのは巴川家で知った。
しかしまさか小説でその知識を得ようとしていたとは思わなくて、金田一は本当になりふり構ってられなかったんだな、と同情しつつ、若干引いていた。


(い、いや…笑って話せるくらい彩羽が立ち直れたって事だろ?いいことじゃないか……うん…いい事だと…思いたい…)


一瞬高遠との血の繋がり感じ、初めて幼馴染に引いてしまった金田一だったが、それを友人に笑って言えるほど彩羽が立ち直れた事だと思いなおすことにした。
しかし…


「あ、でもせっかくお兄ちゃんが傍にいてくれてたんだし…お兄ちゃんに手伝ってもらえばよかったからな」

「それだけはやめてくださいおねがいします」


金田一は初めて人に頭を下げた。
正直彩羽と高遠がタッグを組んだらやばい…そんな気がした。
高遠は言わずもながらだが、彩羽は明智にも復讐や性的虐待の事を隠し通せた演技派で、実際人を殺そうと思った度胸もある。
変装までされれば恐らく彩羽だと金田一も気づかないだろう。
2人が手を組んだらきっと完全犯罪が可能になるだろう。
いや、その完全犯罪も自分が解いてみせるという意気込みはあるが…高遠という知恵もあってそのトリックはすっごく面倒臭そうである。
彩羽は頭を下げて引き留める金田一に目を瞬かせた後、『やだー!冗談だよ!冗談!大体あの時お兄ちゃんと再会すらしてなかったんだし!無理に決まってるよ〜!』と笑ったが、金田一はやっぱり顔を引きつらせた。
冗談なのは分かったが、それが冗談に聞こえないから質が悪い。
もしもその当時に高遠がいたら喜んで愛する妹の復讐を手助けし、なんだったら舞台トリック殺害方法全て考えてくれそうである。


「あ、こんなところにいたの、二人とも…もうお昼よ?私達以外みんな集まってるんだから」

「えっ!?もうそんな時間?」

「どうりでお腹空いていると思った…」


幼馴染の笑えない冗談に引きつり笑いをうかべていると、二人を探していた美雪と佐木が声をかけてきた。
どうやら時間はお昼を回っているらしく、自分達以外全員集まっているらしい。
時計を見ればあと数秒で昼の時間になろうとしていた。


(あ、そういえば俺の時計5分遅れてるんだっけ…)


腕時計を見るが、初日の夕食の際時計が5分遅れている事に金田一は思い出し見るのを止めようとした。
しかし針が12時を指したその瞬間、塔の鐘が鳴り響き、金田一は怪訝とさせる。


「あれ?俺の時計合ってるじゃんか…」

「何言ってるんですか?先輩」

「初日の夕食前も時計見たんだけどさ、俺の時計5分遅れてたんだよ」

「5分遅れてた?でも合ってるんですよね?」

「ああ…でもどういう事だ?俺は時計を合わせた覚えなんかはない…となるとあの時はこの館の大時計が5分進んでいてそれから誰かが時間を合わせたって事か?」

「でもなんで?誰がそんな面倒臭い事したの?」


時計を見ても塔の時計と金田一の時計は合っていた。
しかし金田一はあれから時計を直した覚えはない。
では誰が、という彩羽の問いに金田一はまだ答えは出なかった。
結局うんうんと考え込む金田一を引っ張り、4人はみんなが待つダイニングへと向かった。

―――食事は穏やかに過ごせた。
金田一としては高遠が気になるが、今回は高遠が犯人ではないと信用しているため何かしでかさないかという心配だけですんでいる。
食後のココアも出されたが、彩羽は相変わらず砂糖を入れずにココアを飲んでいた。
甘党というわけではないため砂糖を入れないと飲めないわけではない。
若干苦いが、この苦さも嫌いではなかった。
食事を終えると金田一は田代と有頭を呼び出し、時計の事を聞いた。


「確かにこの暗号解読レースの前に私が田代さんに頼んで正しい時刻に合わせてもらったんです」


金田一に時計の事を聞かれると有頭は怪訝とさせながらも答えた。
塔の時計は田代が時刻を合わせたのだという。
その理由は山之内の誕生日までの決め事を守るために正確な時間を参加者達が知っておく事が必要だったからだ。


「でも…どうやって時間を合わせたんですか?」


それを聞いて時計の合わせ方を田代に聞いた。
田代は暖炉の上にある窓に歩み寄り、窓を開けた。


「ほら、よく見てください…簡易梯子が下に伸びてるでしょ?それを伝って時計の下側に降りていくと時計の針を調節する歯車があるんです」


雨は降っていないが天気は悪く、高い場所にいるという事もあって部屋の中にいても風の音が聞こえるほど今日は風が強かった。
金田一は下を見下ろし…


「ちょっと降りてみてもいいっすか?」


その言葉に田代は呆気に取られた表情を浮かべた。
もう一度問われ田代はつい頷いてしまったが、彩羽達は慌てて止めようとする。
しかし、風も強いし危険だと言っても金田一は暖炉を上がり塔の時計まで降りられる梯子を下りて行った。


「だ、大丈夫!?はじめちゃん!」

「気を付けてよ!はじめちゃん!」

「へ、へーきへーき!これぐらい――――」


心配そうに見つめる幼馴染二人に金田一は若干強張った笑みを返すが、雨が強く振っていたのもあって梯子は滑りやすくなっていた。
案の定滑って下に落ちそうになった金田一だったが、咄嗟に梯子を掴んで何とか落下死は免れた。
だが見ているこちらは気が気ではない。


「だから言ったのにぃーーっ!!」

「先輩これが最後の映像になったらどうするんです!はじめのおわりじゃん!」

「あらやだ、佐木くん上手い」

「そう言いながらビデオを回すな!彩羽も褒めるなぁーーっ!」


美雪は半泣き、佐木は心配しているか分からない言葉をかけつつ相変わらずビデオを回し、佐木の言葉を彩羽は褒め、褒められた佐木は素直に喜び照れていた。
唯一心配してくれている美雪以外に金田一は『覚えてろよお前ら!』と心の中で叫んだ。


「分かりますか?そこにある扉を開ければ調節用の歯車があります!」


田代も落ちなかった事にホッとしながら金田一が下まで到着したのを見て、調節用の歯車がある場所を教えた。
その指示に従って金田一は扉を開けて調節用の歯車を確認する。


「大丈夫かなぁ、はじめちゃん…」

「風も強いし、はじめちゃん運動神経鈍いしね…心配だなぁ」

「でもはじめちゃん、卓球だけは上手いのよねぇ」

「あ、やっぱり今もなんだ…そういえばはじめちゃんのお母さんも上手かったよね…私小さい頃教えてもらった事ある…すぐお母さんがお義父さんと再婚して引っ越しちゃったから一回だけだけど」

「あ、私も…マイラケット・マイウェア・イニシャル入りマイボール所持してるもんね、あの一家…」

「なんで卓球部に入らないんだろう…はじめちゃんくらいの腕前なら卓球部の部長喜びそうなのに…」

「なんでだろう」


『『ねー』』、と金田一の心配から横へずれていく女子達の会話を聞きながら佐木は『もはや七瀬先輩にも心配されなくなった先輩ェ』と心の底から金田一に同情していた。(そして同情しつつビデオを回していた)
女子達がきゃっきゃとしているとポツポツと雨が降り出した。


「はじめちゃん!早く早く!濡れちゃう!」


金田一も雨に気付き慌てて梯子を上がっていく。
飛び込むように部屋に逃げ込めば田代が窓を閉めてくれた。


「もう!吹き込んで私達まで濡れちゃったじゃない!」

「大げさなぁ!それぐらいで濡れるなんて…」


ぱっぱと服に掛かった雨を払う美雪と彩羽に金田一は大げさだと突っ込んだが、ふと何かに気付いた。


「そうだ…雨だ…!」

「え?」

「―――あの時も…」


何かに気付き金田一は暖炉の上にある人形に振り向いた。
吹き込んでしまったため、人形だけではなくスタンドライトや暖炉も少し濡れてしまった。
それを見つめながら金田一はブツブツと何かを呟いていた。


「なんか分かったみたいね、はじめちゃん」

「うん…このまま犯人が分かって解決してくれるといいんだけど…」


集中し考え込んでいる間、金田一は周りの声はあまり聞こえない。
声をかけても生返事しか返ってこないが、ヒントになる言葉は聞こえているのだから不思議である。
金田一が何か掴んだら後はトントン拍子に謎が解けていくだけ。
経験上分かっている彩羽は心の中で『頑張れはじめちゃん』と応援していた。

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