――その日の晩。
「きゃああああ!!!」
桐江の悲鳴が館中に響き渡った。
その声を聞き、全員それぞれいた場所から慌てて悲鳴が上がった場所へ駆け付ける。
「想子さん!」
最初に駆け付けたのは金田一と美雪、彩羽だった。
桐江が唖然と見つめるその目線の先を伝って見て見ればそこには――無残な姿に変わり果てた梅園の姿がった。
椅子には首のない女性の身体が座らされ、その傍にあるテーブルの上には梅園の首だけが置かれていた。
どう見ても椅子に座っている首のない体は梅園の体だった。
惨い殺され方をしている梅園に美雪も悲鳴を上げ、彩羽と身を寄り合わせていた。
彩羽も悲鳴は上げなかったが、見ていられず死体から視線を逸らす。
「今度は何事ですか!?」
「みんな下がって!それ以上近づかないで!」
金田一達の後から犬飼や高遠達全員が集まり、梅園の遺体を見て全員息を呑んだ。
近づこうとする田代達を高遠がその場に立ち止まらせながら高遠は死体に近づく。
「…とうとう
独奏になってしまいましてね、犬飼君…」
「…っ!」
死体が梅園だと確認した高遠は犬飼に振り返りそう呟いた。
犬飼の顔色は悪く、高遠の言葉にビクリと肩を揺らし動揺めいた表情を浮かべる。
「分かりました!犯人――
指揮者の正体が!」
「なんだって!?」
金田一は動揺した。
自分よりも高遠が犯人を突き止めた事に。
それはすなわち、高遠の勝利となり…犯人は高遠に殺害されるという事。
険しい表情を浮かべる金田一をよそに、高遠は梅園の袖にくっついている毛を取って周りに見せる。
「この梅園さんの服についているものが何だか分かりますか?犬の毛ですよ…猟犬として飼われているポインターの毛だ…―――そうですよね、犬飼君」
「…ッ」
「家で沢山の猟犬を飼っている君なら…よく知っているんじゃないですか?犬の毛というものは飼い主も気づかないうちに体のあちこちにこびり付いているものです…君は彼女と揉み合っている内にワンピースに飼い犬の毛を残してしまった…迂闊でしたね」
高遠が摘まんでみんなに見せているのは間違いなく犬の毛。
犬を飼っているのは参加者の中でただ一人しかいない。
猟犬を何頭も飼っている犬飼である。
神明からも猟犬の話を聞いていたため、誰もが犬飼を疑心を持った目で見つめていた。
「ち、違う!!そんな…!犬の毛なんかで僕が犯人だなんて決めつけないでくれ!!」
「そうだ!たったそれだけの証拠で決めつけるなんて…!」
「何よりの証拠は犬飼君、君が生きていることです」
「…!」
高遠は金田一の言葉を遮り、犬飼が犯人だという証拠を語り出す。
参加者が次々に殺害されていくなか、唯一生き残ったのが犬飼である。
それこそ犯人だという証拠でもある。
それに犬飼自身、山之内の作品である『露西亜人形殺人事件』を語った時犯人の指揮者は最後に残ったキャラクターだと言っていた。
「梅園さんがいなくなり遺産相続の候補者は君一人になってしまった…君がここで暗号を解き遺書の在処に辿りつけば巨額の遺産がすべて君の物となる…これ以上の状況的証拠は他にありませんよ」
言い逃れができないその言葉に犬飼は黙り込んでしまった。
俯く黙り込む犬飼が何も言い訳をしないところから、高遠の推理は外れていないという事になる。
俯く犬飼を横目に高遠は金田一へ目をやり笑みを浮かべた。
「どうやらこの賭けは私の勝ちのようだなぁ…―――金田一君?」
「…っ」
この勝負は高遠が勝ってしまった。
盗み聞きしていた彩羽は会話が聞こえなかったが、どちらが早く犯人に辿りつくか勝負していた。
その勝負は二人だけで交わされていたため有頭が思わず『か、賭け?』と首を傾げ呟く。
「ええ…実はそこの金田一君と私は因縁深い付き合いでしてね…――そう…追う者と追われる者として…」
そう呟きながら高遠は仮面を外し、ここで初めて全員にその顔をさらけ出す。
その顔を見て正体を知っている金田一達以外の全員が驚いた。
「あ、あんたは指名手配中の殺人犯!!」
有頭達の反応はもう見慣れた高遠にとってはどうでも良かった。
驚きを隠せない有頭達をよそに高遠はなおも続ける。
「実は金田一君とどちらが先に犯人を突き止めるか賭けをしたんです…もし彼が勝てば犯人コンダクターは司法の裁きを受け…私が勝てば―――私自身が裁きを下す…とね」
そう続けながら高遠はナイフを取り出す。
ナイフの刃が僅かな光りを反射し薄暗い中でも一際光を放つ。
ナイフを手にしながら高遠は犬飼に向かって歩み寄り、あの殺人鬼が目の前に現れ更には自分の命を狙っていると知り犬飼は悲鳴を上げ後ずさる。
「ま、待ってくれ!!た、確かに梅園先生を死なせたのは僕だ!!でも殺したわけじゃないだ!!逆に梅園先生が僕を殺そうとしたんだよ!!僕を犯人だと決めつけて襲い掛かってきて!!それで仕方なく避けようとして揉み合っているうちに勝手に頭をぶつけて!」
「じゃあ何故こんなちゃちなトリックで私を陥れようとしたんだ?」
「お、陥れるだなんて…!」
「だってそうだろう?こんな奇術紛いな細工が出来る奴がいるとすればこの私くらいだからね…犯人は私だと疑われても仕方がない」
「ぼ、僕はただこれまでの殺人と紛れさせればと思ってやっただけだ!!」
犬飼が梅園を殺したのは確かだ。
彼本人も認めてはいるが、殺したのは梅園だけで、それも事故だと主張していた。
しかしならばなぜこんな面倒な仕掛けで死体を発見させたのかと高遠に問われ犬飼は言葉を詰まらせながらも答えた。
奇術紛いな殺され方をすれば、真っ先に疑われるのは奇術師だと名乗ったローゼスである高遠である。
ローゼスがあの逃亡犯の高遠遙一だった事は気づいていなかったようだが、高遠としてはやっていない殺人で犯人にされて腹も立ったのだろう。
言い訳を言いながらジリジリと近づいてくる高遠から逃れる犬飼に高遠は―――
「愚かなる
指揮者―に死を…」
―――犬飼を刺殺してしまった。
犬飼は腹部を刺され地面に倒れてしまう。
ピクリとも動かない彼はもう命はないのだろう。
金田一は人一人平然と殺せる高遠をギッと睨みつけ、高遠を殴り掛かろうとするもそんな金田一に高遠は犬飼を指したナイフを金田一に向け、金田一は立ち止まった。
「私はこう見えても犯罪のプロ…いくつもの修羅場を潜り抜けてきた殺人者だよ?今度は君がこの刃の餌食になりますか?金田一君?」
「…っ」
その気になれば高遠はこの場にいる全員を殺害することは可能である。
ただそれをしないのは芸術家としてのプライドが許せないから。
それでも自分の身が危ぶまれれば全員を殺すことだって厭わない。
何だったらこの場の全員を殺し、否応なしに彩羽を攫っても構わなかった。
金田一も自分の運動神経が良くない事も、高遠とやり合って負けることだって知っている。
だからこそ悔し気に顔を歪める事しかできなかった。
「逃げて!!はじめちゃん!!」
美雪のその言葉と同時に、その場にいた全員が部屋を逃げ出すように出て行く。
美雪の声で金田一もハッと我に返り美雪達と共に部屋を出て行った。
「誰か!!ロープか何かを!!バリケードを作るんだ!!」
部屋を出てそのまま階段を駆け下り金田一は高遠がこちらに来ないようにバリケードを作ろうとしていた。
彩羽は兄が初めて人を殺すところを目の当たりにし唖然としていた。
「この塔のエリアはこの廊下以外行き来することはできません!この扉を封鎖してしまえば外に逃げ出す事は不可能なはずです!」
「どうですかね…あの男は奇術師だ…今頃煙のように消え失せているかもしれませんよ…」
金田一の言葉に不安がよぎる。
金田一達が警戒するのも分かるため彩羽は何も言えなかった。
もしここでフォローをすれば自分も疑われる。
きっと兄は助けてくれるかもしれないが、もしかしたら今脱出している最中かもしれない。
そんな兄の足を引っ張るのは嫌だった。
「それにしてもまさかこんな結末になってしまうとは…」
ポツリと呟いたその言葉に彩羽達は田代へ目をやった。
田代は複雑そうな表情を浮かべ固く閉ざされた扉を見やる。
「結局候補者は員死んでしまった…先生の遺産はこのままだと寄付ということになってしまいそうですね…」
遺言通りなら、寄付になる。
数十億が寄付された、というのなら新聞にも載るだろうし、いい事ではあるが、参加者が殺されたために寄付されたというと何だか不気味である。
「でも…本当に犬飼さんがコンダクターだったのかしら…なんだか私信じられなくて…」
「違いますよ!私はあの高遠とかいう殺人鬼の仕業だと思いますね…それ以前にも何人もの人間を殺めているんでしょう?」
梅園を殺した犯人は分かった。
だが犬飼がコンダクターではないのは彼もそう証言しており、それを信じるならコンダクターは別にいる。
と、なると。
犬飼を殺害した高遠が必然的にもそうなってしまう。
高遠はニュースでもよく見る犯罪者であり、世間からしたら数多くの殺人に手を貸し被害者はもとより犯人さえ彼にとったら操り人形である愉快犯にしか見えない。
普通の人ならば高遠が犯人だと思うだろう。
「ともかく期日は明後日の深夜0時…あと50数時間です…それが過ぎれば翌朝には迎えの船が来る手筈になっています」
有頭の言葉でやっと緊迫した空気が少し和らいだ気がした。
迎えに来るまでの50数時間…固まっていた方がいいという事で寝る時も一人ではなく少なくとも二人で一緒に眠るようにした。
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