翌朝、起きて応接間に集まっていた金田一達に田代が青い顔であるものを見せた。
「まったく驚きました…犬飼様の部屋を一応調べてみようと思いドアを開けましたらあの隠しクローゼットが開いていて中にあの人形が…」
「じゃあやっぱり犬飼さんが犯人だったんですね…」
見せたのはあの見立てに使われた人形だった。
残りの2体が犬飼の部屋で見つかったという。
その人形は暖炉の上に戻され、やっと全員揃って並ぶことが出来た。
「あ、あの…有頭さん…」
「何です?桐江さん」
「ぁ…い、いいえ…やっぱりいいんです…どうせなんの意味もない事ですし…」
人形が人を殺したわけではないが、なんだか不気味に見えてしまう。
人形には罪はなく、ただ利用されただけなのに不気味に思ってしまったのが何だか可哀想になり、彩羽は謝罪を込めて人形の一体の頭を優しく撫でた。
すると有頭に桐江がこっそりと小声で声をかけてきた。
何か気づいた様子の彼女だが、話そうとはしなかった。
しかしそれだと逆に気になり、有頭が『話てください』と言ってようやく重い腰を上げたように話し出す。
「あの、私…ひょっとしたら山之内先生の出された暗号の答えが解けてしまったかもしれないんです」
「な、なんですって!?」
桐江の言葉に有頭だけではなく、その場にいる全員が驚きが隠せなかった。
まさか参加者がいなくなってから回答者が出てきてしまったのだ。
「実はさっき皆さんが集まる前、私ある事が気になって人形の大きさを測ってみたんです」
「あること…と言いますと?」
「ええ、よく見るとこのロシア人形の持っている楽器、種類は違うのに全部同じ大きさなんです…それで私ピンときたんですよ…もしかしたらこの人形の背の大きさって楽器の大きさに合わせて考えた時にもう一つの意味が出て来るんじゃないかって…」
「どういうことですか?」
「ほら、例の暗号文…『楽団の朝礼で前から順に首を刈られた』ってあったでしょう?あの首っていうのは人形の名前の頭文字のことで、それを人形の大きさ順に並べるのかなって…」
「ああ、それなら僕も一番最初に考えましたけど…」
ミステリーが好きで半分弟子みたいに山之内の傍にいたという事だけあって、彼女も彼女なりに考え暗号文を解こうとしていた。
そして色々調べて分かったのだという。
しかし桐江の言う人形の大きさ順に並べるというのは佐木もやっており、それを伝えるも桐江には首を振られた。
「違うんです…単純に人形を大きい順に並べるんじゃなくて元の人間の大きさに戻して並べる直すんですよ」
「元の人間の大きさ?」
美雪の問いに桐江は更に説明する。
バイオリンの実物は幽月から教えてもらった通り60センチ。
しかし5体の人形では20センチに縮小されており、同じくビオラ、チェロ、コントラバスも統一の20センチに縮小されて作られている。
等身大ではない人形なのだから当たり前だが、桐江曰く、楽器の大きさが全て20センチに統一されているのが重要だという。
しかしまだ気づかない田代達は首を傾げた。
「それは一体…」
「分かりませんか?皆さん!楽器の大きさをそれぞれ実物のサイズに戻してそれと同じ比率で人形も拡大してみるんです!そうすると見かけの人形の大きさが全く違ってしまうんです!」
そこまで聞き、有頭達は気づいたように声を上げた。
そんな有頭達をよそに桐江はポケットから紙を取り出す。
「私、さっき測ってメモしてみたんです…コントラバスのイワンは背丈は20センチで楽器も同じ20センチ…だからコントラバスを実寸の2メートルに戻すとイワンも身長が2メートルになる!」
その紙は暗号を解いていた時に書いた人形と楽器のサイズや名前などが書かれていた。
それを見ながら桐江は既に解いた謎を語る。
「同じやり方でチェロのエミールは180センチに、ビオラのオリガは130センチ、第二バイオリンのターニャは120センチ、第一バイオリンのコンスタンチンは150センチになります!そしてこの5人を背の低い順から並べて頭文字を拾っていくと…」
桐江はそう推理し、二枚目の答えが書かれている紙を皆に見せた。
その紙には上からTANYA・OLIGA・KONSTANTIN・EMIR・IVANと縦に並べられ、全て大文字で書かれてはいるが、頭文字だけは大きなサイズで書かれていた。
それを縦読みすると…
「時計だ!!」
TOKEI、となる。
その答えを見て有頭がハッと何かに気付く。
「この館には時計は塔の時計ひとつしかない!!」
「じゃあまさか先生の遺書は時計の塔に何らかの方法で!?」
「その『何らかの方法』も先生の暗号の中に隠されてました」
ただ時計と書かれていても、時計のどこに隠されているのかまでは分からない。
だが、それさえも桐江は解いたという。
「それが『さあ次は数会わせ 2番の子の首を5番目の子の右に並べてみてごらん 楽しいリズムの始まり始まり』というくだりです」
そう言われて佐木が2番目の子に当たる『OLIGA』の首、すなわち頭文字を、5番目の子に当たる『IVAN』の右に並べる。
すると出てきたのは―――IO…つまりは、数字の10となる。
「10だ!数字の10ですよ!これ!」
「ええ!そうなるんです!そして『楽しいリズム』が時計の鐘の音を意味するとしたら!!」
遺書の場所が分かり、そしてどこにあるのかも解いた。
全て桐江の推理のものであり、謎解きが解かれ有頭達の顔も笑み零れる。
(…はじめちゃん…?)
彩羽もこのまま謎が解かれずに終わるのかと思っていた。
とはいえまだ兄の問題もあり、金田一も何一つ解いていないので素直には喜べないが。
しかし金田一が暗号を解けないのは珍しい、と思い彩羽は何かあるのかと金田一を見た。
チラリと幼馴染を見ると金田一の表情は周囲の明るい表情とは異なり少し曇り険しい表情を浮かべていた。
いつも明るい金田一の暗い顔に彩羽は何か引っ掛かりを覚えた。
「もうすぐ10時ですし…下に降りて確認しましょう」
有頭の言葉で全員窓から時計へと降りていく。
「ねえはじめちゃん」
「ん?」
「何かあったの?」
「え?」
彩羽は降りるのを遠慮した。
怖いのもあったが、自分が言っても仕方ないと思ったのだ。
金田一、美雪、有頭、桐江は降りるようなので、1人ずつ降りていくのを待っている金田一に彩羽は声をかけた。
美雪達に聞こえないように小声で話しかける彩羽に金田一もつられて小声で返す。
しかし彩羽の思ってもみなかった問いかけに金田一はキョトンとなる。
「いや…だって、ずっと暗い顔してたし…」
「……そう見えた?」
「うん」
「……高遠の事でちょっとな」
「…そっか…」
彩羽が気づいたことに金田一は驚いた顔をしていた。
しかしチラリと封鎖された扉に続く方向を見る金田一の言葉に彩羽は何も言わなかった。
兄である高遠と金田一は宿敵関係にある。
彩羽は妹であり幼馴染だからこそ彼ら二人の事は何も言えなかった。
ただ彩羽は気づいていた。
―――金田一の嘘を。
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