朝になり、彩羽は目を覚ました。
目を覚ますと見慣れない天井が視界に映り、一瞬どこだろうかと考えた。
しかしすぐに父が残した家だったのを思い出す。
「顔、洗ってこよ…」
欠伸を一つし、のそりと起き上がり彩羽は顔を洗おうとベッドから降りる。
まだ家具も揃っていないためベッドと折り畳み式テーブルしかないため、普段気にもしないある物が余計に目立っていた。
それは携帯電話だった。
普段使わない実の兄と連絡を取るための携帯。
そのため夜まで携帯の充電器が切れていた事に気付かなかった。
寝ている間に充電したためすでに充電は完了され開けば充電の量は100%と表示されていた。
この携帯はスマホ型ではなくガラパゴス携帯と呼ばれる折り畳み式携帯だった。
その理由はスマホ型より折り畳み式の方が追跡される事も変なアプリを入れられ監視される事も比較的低いためそちらにしたのだとか。
しかし高遠とはメールや電話でしか連絡を取り合わないのでそれで充分だった。
「…………」
携帯を見ると家に置いてきた携帯を思い出す。
あの携帯は普通のスマホ型携帯で、家に置いてきたのは従兄からの連絡を恐れたからだ。
それにあの中には金田一達の番号も入っており、彼らからの連絡も彩羽は恐れて置いてきてしまった。
それに搭載されているGPSで場所がバレるのも恐れた。
「兄さん…怒ってるかなぁ…」
従兄に黙って家を出てしまった事は正直に言えば後悔している。
しかし、だからといって戻る気は今はなかった。
頭の中で従兄と女性の姿がちらついて離れなくて、その度に戻りたいという気持ちが萎んでいくのだ。
しかしこれだけは分かる。
従兄は絶対に心配している、と。
もしかしたら怒っているのかもしれない。
あんなにも可愛がってくれていたのに、黙って家を出たのだ…誰だって怒るだろう。
書き置きは一応したが、内容が『迷惑かけてごめんなさい 少しの間一人になりたいので探さないでください 当てはあるので心配しないでください 彩羽』とだけだから余計に心配を掛けさせてしまったかもしれない。
しかし詳しい事は話せず、彩羽は頭を抱えながら携帯を開けば着信の知らせが待ち受け画面に出ていた。
「あれ…電話きてる…」
その知らせを見れば兄の名前がズラリと並んでいた。
とは言え、この携帯には兄の番号とこの家の番号しか入っていないし、こちらに電話するのは兄しかいないため着信は兄の名前しか並んでいないのだが。
しかし日付を見れば昨日電話が着ていたのは分かり、彩羽はすぐに掛け直した。
≪おはよう、日和≫
着信の登録名から妹と分かったのか名前を呼ばれ、一瞬言葉を詰まらせたがすぐに挨拶を返す。
「ごめんね、昨日寝てて出れなかったみたい」
≪いや、いいんだ…昨日は大変だったみたいだしね≫
兄の声に彩羽は安堵した。
彩羽は自分が思っていた以上に寂しがり屋だったみたいで、自分から家を出て行ったのに、春恵達もいたのに、独りぼっちのような感覚に襲われていた。
それをずっと気のせいにしていたが、兄の声にやっと安心できた。
安堵の息を吐く妹に兄――高遠は優しい声で話す。
≪彼らから聞いた…怪盗キッドを匿ったんだって?≫
「う、うん…ごめんね、勝手に…」
≪謝る必要はないさ…何度も言うがあの家は土地含めて日和の所有物なんだ…怪盗キッドを匿うのも日和がそう望んで決めたのなら好きにするといい≫
兄は友成からキッドを匿った事を聞き心配になって電話してきたのだという。
彩羽は兄の声に安心して気が弱くなったのかじわりと目に涙が溜まっていく。
瞬きをすると瞳から雫が零れた。
≪日和…すぐにそちらに向かうから…それまで我慢できるかい?≫
妹の震える吐息に気付き、高遠は彩羽が泣いていると気づく。
優しい兄の声とその言葉に彩羽は言葉を詰まらせながら何度も頷いた。
声にして返したいけど言葉が詰まって出てこない。
しかし高遠にはちゃんと伝わっていた。
≪日和…怪盗キッドは人を殺すことはない…しかし、だからといって気を許してはいけないよ≫
そう言って兄は電話を切った。
後ろから声がしたので依頼人かパトロンだろう。
兄が帰ってきてくれると思い安心したからか、彩羽は冷静になりつつあった。
「ごめんなさい、依頼人またはパトロンの人…」
兄の仕事の邪魔をしてしまったというのも申し訳なく思い、兄を頼って依頼したはずの人にも申し訳なく思い、畳んだ携帯を挟むように手を当てて謝った。
―――涙が止まった彩羽は着替えをしてリビングに向かった。
逃げ出した彩羽は学校を休んでいるため遅くても呼びに来ることはなくゆっくりと気持ちを落ち着かせることが出来た。
リビングに行く前に顔を洗ったため泣いていたのに気づかれる事はなく、リビングに顔を出した彩羽に春恵と加奈が『おはようございます、お嬢様』と笑顔で挨拶してくれた。
彩羽が来て朝食を運ぶ二人に挨拶を返しながら彩羽はキッドの事を聞く。
「キッド、どうですか?」
「昨日の夜から交代しながらついていたんですが一度も目を覚ましませんでした」
昨日は三人がローテーションで見張りを兼ねてキッドの傍にいた。
今は友成がついており、彩羽はここの家主だし昨日は色々あったから疲れただろうと免除された。
彩羽は気にするなと言っていたが、体と精神は疲れていたのかベッドに潜り込むとコテンとすぐに眠ってしまったようだった。
一応彩羽が来る前に春恵がキッドと友成の様子を見に行ったら友成は起きていたがキッドはぐっすり眠っていた。
「きっと薬が効いてるんじゃない?三橋先生睡眠薬も投与したみたいだし」
キッドほどの大泥棒となれば例え怪我をしていても警戒心が高いためすぐに目を覚まし逃げ出すと思っていた。
しかしぐっすりと寝ていると聞き少し彩羽は心配になる。
それを気づいているのかいないのか(加奈のため多分気づいていない)、加奈はフォローのような言葉を零す。
その言葉を聞いて、彩羽は『確かに点滴みたいなのやってたっけ』と思い出す。
恐らく加奈から状況を聞いて鎮痛剤と逃げ出さないようにするためも含め、睡眠薬の入った点滴を用意したのだろう。
なら、まだ眠っているのも納得である。
(睡眠薬って結構効くからなぁ)
注いでもらった水を飲みながら用意される美味しそうな朝食を見つめながら彩羽はそう内心零す。
彩羽は人生で二度睡眠薬を盛られた経験からして睡眠薬はあまり好きではなかった。
だから少しキッドに同情した。
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