(11 / 24) 緊急事態252 (11)

キッドは不貞腐れていた。


「まあまあそう膨れてないで…食べて寝ればすぐに完治するわよ…あなた若いんだし」

「膨れてねえし」


ぶすっとさせるキッドは更に不機嫌顔を浮かべ、手に持っているサンドイッチを口に運ぶ。
肩を怪我しているから片手で食べれるような食べ物を作ってもらった。
そのサンドイッチは美味しいが、それでは中々不貞腐れた気持ちは萎まなかった。


「そんな拗ねてもしょうがないじゃない、あんたの協力者今旅行に行ってて連絡つかないんでしょう?」

「まあ…」

「親は呼べないとか言ってたし…他に呼べる人いないみたいだし」

「………」


加奈の言葉にぶすりと更に不貞腐れたが、暫く諦めたような溜息をついた。
家政婦にぐうの音も出なくなったキッドに彩羽は苦笑いを浮かべ、春恵に淹れてくれたお茶を飲んだ。
――あの後、春恵の携帯を借りて携帯で協力者である寺井に連絡したが、留守電に繋がり、キッドは旅行に行くと言っていたなと思い出す。


「……聞かねえんだな」

「何がです?」

「なんで銃で撃たれたかだよ」


手に持っているサンドイッチの最後の一口を口に放り込んで飲み込んだ後お茶菓子を食べている彩羽に問うと彩羽はキョトンとさせた。
顔が整っているためそのキョトンとした顔も可愛いとは思うが、今はその疑問点が強く惚れるどころではない。
彩羽はジト目で見てくるキッドに目を瞬かせた後小首をかしげて見せた。


「警察に撃たれたのではないんですか?」


小首をかしげている姿は本当にそう思っている様子だった。
キッドも疑わなかった。
しかし本当は何者かがキッドを撃ったのだと彩羽は気づいていた。
キッドは錯乱していた気づいていなかったし覚えていないようだが、気が付いた時『あいつらの仲間』と言っていたから気づいたのだ。
全く覚えていない様子で彩羽の惚けた言葉を信じたのかそれ以上追及はしなかった。


「でもいいんですか?両親に教えなくて…キッドさん学生みたいですし連絡しないと心配されるのでは…」

「母親は今海外で暮らしているし、父親は死んでいない…ま、学校に通ってるから連絡入れるとしたら通ってる学校か、幼馴染くらいかな」

「え…じゃあ今どうしてるんですか?」

「一人暮らししてるけど…」


母は海外暮らし、父は亡くなっており、他に兄弟はいないと聞き、やはり思うのは『今は誰と暮らしているのだろうか』である。
しかし聞いてみれば独り暮らしだと言うではないか。
彩羽は考える素振りを見せる。


「じゃあ、治るまでいます?」

「でもあんたの両親がなんていうか」

「ああ、それなら心配いらないですよ…私、両親いないんで」

「じゃあお兄さんは」

「え?」

「あんたマジシャンの兄がいるとか言ってただろ?いくら海外にいるって言ったって帰ってくるときに知らない男がいたら俺通報されるじゃねえか」


彩羽は嘘は言っていない。
この家には父と母という存在はいないし、彩羽自身の両親もいない。
それをただ伝えていないだけ。
キッドの言葉に彩羽は『ああ』と声を零す。


「兄にならもう事情を説明しているのでキッドさんがいても通報はしないと思います」

「説明って…キッドを拾ったって言ったのか?」

「言いました…この家は兄の持ち家ですし、私も匿われている身ですから…兄には真実を知る権利はあります」

「それをあんたのお兄さんは信じたってわけか?家に怪盗キッドが落ちてきて匿ってるって…」

「はい」

「その時お兄さんはなんて?」

「気を付ける様にと」

「は?それだけ?」

「はい」

「………変わってるんだな、あんたのお兄さん…」


キッドの言葉に彩羽は『そうですか?』と首を傾げた。
そのキョトンとした顔にキッドは半目で見つめ、『こいつ天然キャラなのか?』と思う。
学校と幼馴染には適当な理由を付けて学校は暫く休むことにした。
肩ならまだ誤魔化しようはあるが、片足を撃たれているため肩だけより生活に支障があったし、正直キッドは安堵した。


(一先ず足だけは何とか治さねえと…明後日にはジイちゃんも帰ってくる予定だし…それまで匿ってもらおう…)


協力者である寺井が帰ってくるまであと2日ほどあり、その間だけでも匿ってもらおうとキッドは決めた。
何も知らない彩羽達を巻き込んでしまうかもしれないという申し訳なさはあるが、外は警察がうろついているというのも今のキッドには都合が良かった。
とにかくキッドは今、安静にできる場所が欲しかった。

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