学校の下校途中。
5人の小学生が楽しそうに下校していた。
「…………」
しかしその中の一人のメガネをかけた少年――江戸川コナンは彼らと一歩離れて歩いていた。
それは仲間はずれというわけではなく、彼は今、考え込んでいた。
「江戸川くん、さっきから何を考え込んでいるの?」
その傍にいた大人びた少女――灰原哀がポツリと前にいる三人に聞こえないように小声で声をかけてきてコナンは思考を一旦止めた。
「あなた、最近考え込んでいる事多いわよね…まさか何か組織の事で掴んだの?」
「あー…いや、違うんだ…ちょっと…母さんの言葉が引っかかってさ…」
灰原の険しい表情とは裏腹の不安そうな声にコナンは慌てて首を振って否定した。
コナンの『母親の言葉が引っかかって』という言葉に灰原も引っ掛かりを覚え怪訝とさせコナンを見る。
あのコナンが引っかかる言葉が気になっている灰原はジト目でコナンを見つめ、先を促す。
その目線に負けたコナンは少し言いにくそうに呟いた。
しかしその呟きは衝撃的な言葉であった。
「それが…もしかしたら俺に双子の妹か姉がいるかもしれないんだ」
ポツリと呟かれたその言葉に灰原は珍しくポカーンと顔を呆けてコナンを見つめ…
「ふ……双子の妹か姉!?あなたに!?」
声を上げて驚く。
その声は小声ではないし、驚いた声だから大きく、前を歩いていた三人にも聞こえた。
「えーっ!?コナンくんに姉妹いるの!?」
「しかも双子とか言ってましたよね!」
「コナン双子だったのか!?すっげー!」
声を上げる灰原にコナンは『お、おい!馬鹿!』と灰原の口を慌てて塞いだが、すでに時遅し。
バッチリ三人に聞かれてしまった。
コナンに姉か妹…それも双子がいるかもしれないと聞いた三人―――歩美、光彦、元太が振り返り更に驚きの声を上げる。
コナンは驚きが隠せない子供達の視線を一身に受けながら原因である灰原にジト目で見たが、灰原も一応やっちまった感は感じてくれているのか目線で謝った。
「ち、ちげーよ!昨日双子になる夢を見たんだって!」
「なんだぁ、夢かぁ」
「全く驚かせるなよなー」
「本当ですよ!」
灰原から手を放し慌てて誤魔化した。
相手がもし服部や灰原や勘のいい人間ならばれていたであろう誤魔化しでも子供の三人には効いた。
子供らしく素直な感想を述べる三人にコナンは乾いた笑いを、灰原は肩をすくめてみせる。
二人は三人に比べて大人じみていた。
しかし、まあ、それも当然である。
江戸川コナンも、灰原哀も…―――元は17歳と18歳の少年少女であるのだ。
コナン―――本名、工藤新一は高校生探偵として有名だった。
しかしある組織の取引を見てしまい、ジンと呼ばれた男に殴られある薬を飲まされ幼児化した。
灰原―――本名、宮野志保は僅か18歳ながらにしてある組織の研究者としてある薬を開発。
しかしその組織に嫌気をさし幼児化してその組織から現在逃亡中である。
その組織とは、通称『黒の組織』と呼んでおり、灰原が抜けた組織でもある。
そして薬とは―――『
APTX4869』。
この薬は黒の組織にいた際、灰原が開発した薬である。
それを飲めばコナンと灰原のように幼い子供に戻ってしまう薬である。
物語のようではある薬だが、実際存在するから工藤新一は江戸川コナン、宮野志保は灰原哀と名乗り小学生として暮らしている。
自分がコナンではなく新一で、黒の組織にまだ生きていることを気づかれると周囲の人間…特に幼馴染の毛利蘭に危害を加えられるのを恐れて新一は小学生の姿で暮らす事を強いられている。
唯一、自分が工藤新一だと知っているのは周囲では工藤新一の両親、阿笠博士という近所に住む博士、そして…ライバル的な存在の服部平次である。
「…それで?どうなのよ…本当に双子の片割れがいるの?」
「それが良く分からねえんだよ…母さんは娘だって言ってるんだけど…でもいくら事情があったとはいえ母さん達が自分の娘と引き離されて黙っていると思わねえし…俺に双子がいたなんて聞いてねえし…母さんならいざ知らず、父さんは俺に気付かれないような演技は無理だしな…」
「娘だって言ったって…あなた、会ったの?その人と」
「いや…写真を見て娘だって言ってただけだ…でもお前も知ってると思うぜ、その人の事」
「……どういう意味?やっぱり組織の事を言ってるんじゃ…」
怪訝とさせたが、自分も知っている人物と聞き灰原は表情を険しくさせた。
その表情にコナンは否定の意味で首を振る。
すると…
≪―――17年前近宮日向さんが亡くなった後、その娘、巴川彩羽さんの行方は分からなくなっていたわけです≫
近くの電気店のショーウィンドウに置かれてる売り物のテレビから男の声がした。
そちらに目をやれば最近連日特番を組まれている話題がやっていた。
それを見てコナンはそのテレビに映ったある写真を指さした。
「この人だよ…母さんはこの人を『娘』だって言ってたんだ」
「この人って…今話題の人よね…確か行方を暗ましてるとかで…」
テレビの前に立ち指さすコナンの指を伝ってみれば、そこには一人の少女がスーパーから出て行く写真が写っていた。
その少女のアップが次の瞬間移り、はっきりと顔が見える。
勿論灰原も今初めて見たわけではなく、何度も何度も見た顔であった。
正直見飽きた感が否めないが、テレビ局は中々熱が冷めないのか今日も朝から特集が組まれていた。
その少女の顔はモザイクどころか目元さえ隠されていなかった。
しかしその母親譲りの美しい容姿から男性陣や、母親のファン達がすでに彼女のファンクラブを作り着々と人数を増やしていると噂で聞いたことがある。
確かに灰原から見ても彼女は美しく、まさに世界が愛した大女優の母親の名に負けない美少女だと誰もが認めるだろう。
だが、正直一般人として生活していたのに突然母親が大女優だからとテレビで顔どころか過去も明らかにされ灰原は嫉妬するよりも同情した。
だから一緒に住んでいた従兄の家から逃げ出したと知った時は『当たり前でしょ』と探すマスコミを責めた。
従兄は警視らしく、その権限を使ってマンションを見張るマスコミたちを全て撤退させた。
一部それを職務乱用と騒ぐ者もいるが、多くが連日のテレビの騒ぎ様に従兄と彼女に同情した。
その今どの話題よりも話題になっている彼女がコナンの双子の兄妹かもしれないと言われ灰原は驚きが隠せなかった。
「あ!私このお姉さん知ってる!」
灰原はテレビに映る美少女を凝視していると歩美の声にハッと我に返った。
歩美の方へ目をやればコナンと灰原が付いてきていないのに気づき歩み寄ったが話題の人物を見て声を零したのだろう。
「僕も知ってますよ!毎日この話題ばっかりですからね」
「俺も知ってるぜ!母ちゃんがこの姉ちゃんの母ちゃんの大ファンだって言ってた!でもよ、この姉ちゃんの母ちゃんって誰なんだ?」
流石にアニメや特撮やゲームしか興味を持たない子供でもこれほど連日にニュースや特集をしていれば覚えるものらしい。
しかし顔と名前を憶えていても元太はやはりあまり分かっていなかった。
いつものボケにいつものようにコナン、歩美、光彦は転げて見せてから説明をしてあげた。
「もう!元太君ったら!このお姉さんのお母さんは女優さんだったってテレビでも言ってたじゃない!」
「そうですよ!確か世界的に有名の大女優だとか言ってましたね」
歩美と光彦の言葉に元太は笑って誤魔化した。
「確かこの人今行方不明なんだと昨日から騒がれてましたね」
「でも、しょうがないよ…歩美もあんなにいっぱい大人の人達に囲まれたら怖くなって逃げたくなるもん」
「俺の母ちゃんもマスコミに怒ってたぞ!家を出たのはマスコミのせいだって!」
彼らも彼女とその従兄に同情していた。
恐らくどの局にも苦情が殺到したのか暫くは大人しくしていたが、最近少しずつこの話題も復活し増えだしている。
それに気づいた毛利が『懲りねえなぁ、テレビって奴のは』と零し、そのこと零された言葉に蘭とコナンは頷いて返したのは新しい記憶である。
(もしかしたらこいつが俺の姉妹かもしれねえなんて…こいつらに言ったら絶対騒いだ挙句に探そうとか言い出すんだろうなぁ…)
きゃっきゃとはしゃぐ三人を見つめながらコナンはそう呟く。
正直まだ彼女が双子だとも血の繋がった兄妹だとも信じていない。
ただ、母が何の関係もなく『娘』だと言うはずもなく、まだ証拠も揃っていない以上、事を大きくするであろう子供達にはまだ言えなかった。
言ったら恐らく…否、絶対に『自分の姉が心配じゃないですか!?』とか『コナン君の姉妹かもしれないでしょ!?助けてあげないとお姉さんが可哀想よ!』とか『お前の姉ちゃんなんだろ!?なんで探さねえんだよ!』とか言った挙句に『コナンが探さねえなら俺らで探そうぜ!』『そうですね!僕達は少年探偵団なんですから!』『うん!少年探偵団は困っている人を見捨てたりしないもん!』とか言って勝手に探しに行くのは目に見えていた。
しかし、流石に従兄が警察だとしても、いつもの高木達とは管轄が違うため追い出されるのが関の山である。
だが、理由はそれだけではなく…コナンは彼女の従兄を知っている。
知っているといっても面識はなく、噂を知っているだけである。
彼女の従兄―――明智健悟。
現在28歳にして警視で、コナン達が住む場所と同様の事件率だが多くの事件を解決したエリートであり勝ち組である。
彼と話したことはないが、女性の警官達が噂しているのを聞く限りプライドの高そうな男性というのが今のコナンの印象である。
そもそも人の良い高木ではないのだから、明智でなくても面識のない子供が来ても高木と佐藤のように真面目に相手はしてくれないだろう。
それに子供だけで隣の市まで行くのは距離とお金的に心配もあった。
だからコナンは真相が明らかになるまで彼らには黙っているつもりでいた。
「―――でいいよな!コナン!」
「…へ?」
元太に声をかけられ我に返った。
しかし考え事をしていたせいか何を話していたのか聞いていなかった。
キョトンとさせるコナンに話を聞いていなかったと気づいた元太達はジト目でコナンを見る。
「なんだよ!聞いてなかったのかよ!」
「缶蹴りしましょうって言ったじゃないですか」
「元太君がいい場所知ってるって言ってたからそこで缶蹴りするって決まったのよ」
どうやら話していたのは遊びの事らしい。
先ほど行方不明の話題の彼女の話をしていたのだが、その話題は隅に追いやられてしまったらしい。
話題がコロコロと変わるのは子供らしいと言えば子供らしいが…コナンは聞いていなかった事を誤魔化すように笑った。
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