(16 / 24) 緊急事態252 (16)

元太の元へ向かうが、元太の言葉にコナンは怪訝とさせた。


「静かだった?俺達がここに来るまでの間何も音はしなかったんだな?」


その場で待機させていた間、元太は物音ひとつ聞こえなかったという。
しかし先ほどの音はちゃんと耳で聞いており、気のせいではないと元太は言う。


「これは一部屋ずつ調べなきゃいけないようですね…」

「その音どこから聞こえてきたの?」


音が聞こえなくなったという事は、全ての部屋を調べなきゃけないという事になり、面倒臭い事この上ない。
しかし黙って見過ごすのも少年探偵団としては出来ず、調べる事にした。
歩美のその問いかけに元太は音がした方…コナン達の後ろへと指さすと―――その元太が聞いたであろう音が再びビルの中に響いた。


「この音なの?」

「あ、ああ!」

「でも『252』じゃありませんけど…」


音は間違いはないようだが、元太の言う『252』とは少し違っているように聞こえた。
適当に聞こえ、少し『252』とはズレているようにも聞こえる。
コナンは確かめるほかないと思い、歩美達と共にその音の元へと向かった。
階段を上がり更に上の階に行くとその音は大きくなっていく。


「おめえらは下がってろよ…中がどんな事になっているか分からねえからな…」


音が鳴っている場所を見つけた。
しかし扉はしっかりと閉められており中がどうなっているのか分からない。
もしかしたら廃墟となり人が寄り付かなくなったという事で、浮浪者どころか犯罪に使われている可能性もある。
それを想定し、コナンは歩美達を下がらせ慎重にドアノブを捻り扉を開けた。
コナンの目の前には…


「なんだ?ぼうや達…」

「駄目駄目!ビルの中勝手に入っちゃ!」


作業着を着た男性二人が柱をトンカチで叩いている姿が見えた。


「何してるの?おじさん達…」

「このビルを取り壊すから壁を叩いて強度を調べてるんだ…こんな具合にリズムに乗せてな」

「こいつすぐ調子に乗って曲に合わせて叩いてしまってね…真面目にやってくれよなー、まだまだ調査しなきゃいけない部屋がいっぱい残ってるんだから」

「へいへい」


コナンが部屋に入れば、様子を見ていた歩美達もそれに続く。
会話や作業着から見て、どうやら男性二人組は解体する会社の人間らしく、強度をトンカチで調べているらしい。


「それじゃあ元太君が聞いた『252』って…」

「たまたまその曲のリズムが『252』だったんですね」

「なんだよ〜」


あれだけ騒いでいたのに結局業者の人だった…と知り元太を含めた子供達三人はがっかりとした。
怖いのもあったが冒険のようなドキドキ感もあった。


「ねえ、おじさん達って二人だけなの?」

「ああ、そうだけど…」


元太が歩美と光彦にジト目で見られ笑って誤魔化しているとコナンが扉の傍にあったコンビニの袋に目をやり、中身を見る。
自分の問いに頷いた二人にコナンはレシートを見る。


「これって今日のお昼に買ってきたコンビニ弁当の食べカスでしょう?弁当の容器が三人分あるよ?それも一つは全然食べてないし」

「ああ、こいつ大食いでさ、間食を挟まねえと仕事しねえんだよ」

「そうそう、一日4食食べないと持たなくってさ〜」


袋の中には完食している弁当が二箱、全く手を付けていない弁当が一箱入っていた。
聞けば二人の内、ふくよかな男性が間食のために購入した物らしい。


「それより坊主共、ここは立ち入り禁止だぞ?」

「そうそう、早く外に出るんだ」


廃墟となり取り壊しが決まっているこのビルは立ち入り禁止となっている。
こういう場所は子供の遊び場になってしまう事も珍しくはないが、危険な場所でもある。
すぐに帰るよう注意すれば子供達からは元気な声が返ってきた。


「あ、そうだ最後に一つ聞いていい?」


愚図らず帰ろうと去っていく子供達を見送っていた男達に、コナンはふと何か思い出したように声を零し、大人たちに振り返る。


「このビルを解体する時の爆薬ってどのくらい使うの?」


それは解体時に使われる爆薬の事だった。
解体には種類があり、その中でも一番派手で客寄せにもなるのが爆薬を使用した解体。


「さあな…まだ調査し終えてねえから分からねえけどよ」

「このビルそこそこ大きいしそれなりには使うと思うよ」

「そっか!じゃあ結構派手にドカーンだね!」


コナンの問いに男達は応えた。
その言葉にコナンは子供らしく演じながら男達と別れる。
待っていた歩美達と共にコナンは階段を降りていく。


「結局、何でもなかったですね」

「ああ、事件かと思ったのによー」

「まあ、このビルを爆破解体する時みんなで見に行きましょう!」

「だな!」

「なんかすごそうだしね!」


コナンと大人たちの会話を聞いていたのか、爆破解体されると聞いて歩美達は今から楽しみにしていた。
しかし…


「いえ、爆破解体なんてないんじゃないかしら」


それを灰原が否定した。
その言葉に歩美、元太、光彦が首を傾げて見せる。


「ビルの解体と言えば普通は重機をビルの上に乗せて上から解体するか、横から解体するかのどちらかよ…都心のビルなら尚更ね」

「でもテレビで見た事ありますよ!?」

「街ん中ででっけービルがよ!」

「ドーンって音がして綺麗にガラガラ崩れるんだよね!」

「それは多分外国の映像…日本じゃまだ数件しか爆破解体されていないわ」


日本はアメリカなどの大陸を所有する海外に比べて山が多く国の面積自体それほど大きくはなく、敷地自体限られてしまっている。
その為海外のような派手な爆破解体はしたくても出来ないのだ。
爆破解体で飛び散る破片などで周囲に被害がおよぶ可能性が大きいからだ。
とは言え日本でも数件は爆破解体をされてはいるらしいが。


「でも杯戸美術館って博士の爆弾で解体しましたよね?」

「そうそう!トロピカルレインボー!」

「あれはイベントも兼ねてたしあの美術館に隣接する建物は廃ビルだけだったから許可が下りたんだよ」


灰原の言葉を聞き、光彦が阿笠の爆薬で過去に美術館を爆破解体した記憶を思い出す。
しかしそれには周囲に住宅や人が使用しているビルがないという条件を満たし、その爆破解体自体イベントも兼ねており、更にはこのビルに比べて美術館の大きさでは爆破解体でないとコストが掛かりすぎたため爆破解体されただけである。
その為美術館が爆破解体されたからと言ってこのビルも爆破解体できるという訳ではない。
そもそもあの美術館の爆破解体で阿笠が参加したのは、爆薬ではなく爆発する際様々な色に光る仕掛けをしただけである。
それに日本ではまず火薬の取り扱いやそれに関する規制などが厳しく、このビルのように隣接する建物が使用されている場合はまず爆破解体は無理である。
それに爆破解体するにしても爆破解体する建物の図面と照らし合わせながら綿密に調査しどこに火薬の量や設置場所を決めなければならず、先ほどの二人組の男のように機材もなくトンカチ一本でできる作業ではないのだ。


「じゃあさっきの人達は?」

「解体作業者を装って誰かをここに監禁している悪い二人組ってところかな」


コナンが二人組にあの質問をしたのは、本物の業者かどうかを確かめるためだったらしい。
しかし返ってきた言葉にコナン…そして灰原は彼らは業者ではないと気づいた。


「か、監禁ですか!?」

「ああ、弁当が三人分あったからな…もう一人いる事を隠しているのは間違いねえよ」


真っ先に疑いを持ったのはあの弁当だった。
コナンはあの弁当を見て二人が業者ではない事に気付いた。


「で、でもよう…あれはあの太ったおっさんが食べるって…」


元太も大食いなため、男の言葉を疑う事はなかった。
元太も間食しているし、弁当二つなんてペロリである。
だから同じような体系の大人が間食に弁当を食べることに違和感はなかった。
コナンだってそういう人はいると知っているが、その間食する弁当に違和感を感じたのだ。


「確かに仕事中に間食する人もいるだろうけど…あの弁当が入っている袋…あれって温められた物を入れる袋だろ?」


コナンが怪しいと思ったのは、あの袋である。
あのコンビニの弁当が入っている袋は茶色の袋をしていた。
普通、コンビニはロゴが違うにしてもどのコンビニも白色のビニール袋を使う。
しかし、温められた物や暖かい商品を入れる袋は茶色と決められている。
暖かい物とそうでない物の区別がつくようにだろう。
だが、あの間食用として購入していた袋はその温められたと示す茶色の袋に入れられていた。
それをコナンは怪しんだと言うが子供たちは全く分からず首を傾げて見せた。
そんな三人にコナンは説明を続ける。


「冷めた弁当を食べて美味しいと思うか?」

「思わねえ!俺、弁当も食べもんも温かいものなら温かいまま食べたいぞ!」

「俺もそうだ…それに間食する時俺なら温める必要のないパン類や菓子類を選ぶ」

「そっか!買った時温まっても間食する時冷めちゃうもんね!」

「そう…冷めるのが分かってて普通温めるのが必要な弁当を選ぶか?」

「なるほど…あの場所には白い袋がなく、空の弁当と一緒に手を付けていない弁当も茶色の袋に入ってました!」

「という事は………どういう事だ?」

「もー!元太君ったら!」

「茶色の袋に入っていたという事は、その弁当は元々温めていたって事ですよ!」

「間食するために買って来たのなら温める必要はないわ…どうせ冷めてしまうんですもの」

「だったら普通なら袋は白と茶色と分けられてるはずだもの!」

「ってことは…分かったぞ!おっちゃん達の他にももう一人いるって事だな!?」


元太の言葉にコナンは頷いて返す。
あの場所には食べ終えた空の弁当箱があった。
と、いう事はあの場所で食べていた事になる。
別の場所で食べて子供達の存在に気付いてつい持って来てしまったとしても、空の弁当箱の他に手の付けていない弁当が一緒に入っているのは少し可笑しい。
コンビニで購入した弁当は温めたものとそうでないものと区別して渡されるため一緒の茶色の袋に入っていたという事はその間食用の弁当も一緒に温められていたという事。
冷めた弁当が好きというのであれば別に温める必要はなく、冬ではないのだからこれ以上冷たくなることもない。
ならば茶色の袋に入れる必要もない。
なぜ温めた事を示す茶色の袋に入っていたのか…―――それは監禁している人物の分、という事になる。


「もう一人いて何らかの仕事の都合などで食べれないのだったらいくら子供相手でもそれを言えばすむことだ…だがあの二人はわざわざ間食のためと言っていた…監禁ではないにしろ少なくとも一人いることを隠しているのは間違いねえよ」

「じゃあ、元太君が聞いたあの『252』の音は!?」

「多分私達が缶蹴りをしている声を聞いてSOS代わりに壁を叩いたのよ…その監禁されている誰かがね」

「つまり、このビルの中には『252』―――要救助者がいるってわけだ…助けなきゃならねえ人物がな…」


コナンの言葉に元太達はゴクリと喉を鳴らし、お互いを見合う。


「でもとても信じられません…あの二人がここに誰かを監禁しているなんて…」

「2人とも同じ服着てたしよう…あんなの急に用意できんのか?」


元太の言葉は確かに一利ある。
このビルで遊ぼうと言い出したのも今日だったし、決まったのも今日。
下見ついでに元太が見に来たとしても、その時にあの二人もいたとは限らない。


「元々同じつなぎを着てたんだよ…このビルに入られたところを誰かに見られても怪しまれないように…何かの業者の人に見えるからな…」

「でも捕まってる人が『252』の音で助けてーって言ってるならなんで声でそう言わなかったの?」

「多分両手両足を縛られて何かに口を塞がれていたからじゃないかしら…その状態だと何かを蹴って音を出すくらいしか出来ないでしょうから」


捕まっているなら声で助けを求めた方が早い。
しかしそれが不可能な場合もある。
それが両手両足、更には口も塞がれている状態である。
灰原の言葉に光彦はハッと気づく。


「!――じゃあまさかその音が聞こえなくなったって事は…っ!」

「大丈夫、まだ生きてるよ…人質を殺害したなら俺達に顔を見られる前に逃げてるだろうし…恐らくこれは誘拐だろうから取引前に人質を殺害するのはリスクが高い…気絶させてどこかに押し込んだってとこじゃねえか?」


そのSOSの音が消えた…ということは光彦の中で殺人現場が浮かんだ。
だがそれをコナンが否定する。
人を殺し子供達とは言え人の気配を感じればこんな人気のない場所にいれば真っ先に怪しまれ逮捕されるため普通は逃げる。
見つかったとしても子供相手だからその子供を殺せばいいし、さっさと追い出す事も必要ないはず。
あの二人組はコナン達を追い出したがっていたため、それから推理すれば彼らは『誘拐犯』だと分かる。
誘拐と聞いて驚く三人に対して灰原とコナンは至って冷静だった。


「ま、そんなに心配はするな…警察に通報すれば一件落着だよ」


誘拐、となればもう家族は通報しているはず。
となればこの事件はすぐに解決できたも当然である。
警察への連絡は、知り合いの警察…それも人の良い高木にした方が話もスムーズに進めそうだと携帯を開く。


「あれ?コナン君の携帯の待受け、探偵事務所のおじさんだ!」

「ああ、この前おっちゃんが酔って帰って来た時に弄られて待受けにされちまったんだよ」

「歩美のは線香花火している写真だよ!ランドセルに入っているから後で見せてあげるね!」


後ろから待受けが見えたのか、コナンの待受け画面を見て歩美が声をかけた。
コナンの待受けは酔っ払った毛利小五郎に絡まれている写真を設定している。
『している』、というより『された』と言った方が正しいだろう。
歩美は線香花火しているときに撮ってもらった写真で、可愛らしい黄色の浴衣を着て笑顔で写っている写真である。
今はランドセルの中に入っているため見せる事は出来ないが、後で見せる約束をした。
それから何故か待受け画面を見せ合う話になり、光彦は仮面ヤイバーの待受け画面、灰原は口を大きく開けて眠る阿笠の寝顔の写真、元太は近所の野良猫の写真である。
しかし元太は隠れている途中でその携帯を落としてしまいどこにあるか分からないのだという。


「静かにしてろよ?これから警察に連絡するんだから」


人が誘拐されているというのに呑気な歩美達にコナンは静かにと注意した。
これから警察に連絡し、誘拐犯を捕まえるはずだった。
しかし…


「―――どこに電話するって?」


背後からの声にコナン達はハッとさせ振り返る。
そこにはあの二人組が立っており、背の高い痩せた男はトンカチをトントンと肩で叩きながら子供達を見下ろしていた。


「大したガキだぜ…ちょっと会って話しただけで俺達が解体業者じゃねえと見破るとはな…」

「ああ、まんまと一杯食わされるところだったな」


ふくよかな男の言葉に痩せた男は『まったくよ』と頷いた。
ニヤケ顔で笑う男二人にコナンは焦ることなく冷静だった。


「会って話したのは確証を得るためにした事…実はもう警察を呼んであるんだよ!誰かがここに監禁されてるってね!―――ね!高木刑事!」


コナンの言葉に二人組の表情は一気に青ざめた。
後ろに向かって声をかけ手を振るコナンに二人は振り返るがそこには誰もいない。


「何だよ…」

「誰も居ねえじゃねぇ―――あ!!くそう!逃げやがった!!」


誰もおらず、コナンの言葉は嘘だと分かりホッと何度する。
しかし子供達へ視線を戻せば、その子供たちは全員二人組達から逃げ出し人影すら見えなかった。
逃げられたと気づいた二人組は一人ずつ子供を捕まえ警察に通報されるのを阻止しようと走り出す。


「こらああ!!ガキ共!!どこだーー!出て来やがれ!!」

「そんなんで出てくるわけねえだろうが!そこに居ねえんなら別の部屋だ!ぐずぐずしてるとやべえぞ!」

「ああ!」


トンカチを持っている痩せた男は傍の部屋の扉を開け、大声で叫び、トンカチで扉を叩く。
しかし、相方に叱られ音を立てるのを止めて別の場所に移った。
だが男達はこの部屋にコナンがいないと思い去っていったが、実はコナンたちはいたのだ。


(やっぱ困ったらドアの裏だな…)


コナン達は開けられたドアの裏におり、扉を開けた男が知らずにコナン達を隠してくれていた。
コナンは男達が去り、二人が別の部屋の中に入っていったのを確認してから部屋を出た。


「今の内だ!急げ!」


2人に気付かれないよう小声で合図をし、歩美達を部屋から出しこのビルから逃げ出そうと走る。
コナンが最後尾を走り、逃げながらコナンは携帯を取り出し通報しようとした。


(よし!この隙に警察に…―――っ!)


しかし気が逸れてしまったためか、タイルの掛けた部分に足先をひっかけてしまい、コナンは派手に転んでしまった。
転げた音もだが、携帯の転がる音も人気がなく静まり返っているビルの中では大きく響いた。


「おめえらは階段を降りて外に逃げろ!!俺もすぐに行く!」

「お、おう!!」


コナンの言葉に一瞬歩美達は戸惑った。
仲間を見捨てるなど少年探偵団の名が廃ると。
そして人として友達を見捨てたくはなかった。
しかし、『すぐに行く』という言葉を信じ、そして固まっては逃げ出した意味がないと分かっていたから後ろ髪を引かれる思いになりつつもコナンを信じて先に階段を下って行った。
それを見送り立ち上がったその時、近くで探していた男の一人…痩せた男が部屋か出てコナンを見つけた。


「ガキめ!見つけたぞ!」

(その前に―――)


コナンも逃げ出すその前にやるべきことをしようとしゃがむ。
そしてバッジと同じく阿笠の発明品である足のツボを刺激してキック力を生む『キック力増強シューズ』の外側に付いている円型部分を指で回し脚力を強くさせ、そして『どこでもボール射出ベルト』で収縮していたサッカーボールを特殊ガスで膨張させ元に戻し…


(まずは1人目を―――)


いつものようにそのボールと特殊のシューズで犯人を撃退しようとした。
強化された足で蹴られたそのボールはどんな大男や力自慢の男でも一発KOである。
しかし―――


「どこだ!ガキ共は!!!」

「え゙…!?」


タイミングがいいのか悪いのか…コナンが痩せた男へと向かってボールを蹴ったその瞬間、男とコナンの間にあった部屋から相方の太った男が現れ、コナンはギョッとさせる。
しかし気づいてもすでに足はボールを蹴っており、そのボールは太った男が開けた扉へと当たり……――――


コナンの顔面に思いっきり当たってしまった。

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