世界がオレンジ色に照らされる夕暮れ時。
ピリリ、と携帯音を聞き太った男はその音を頼りに走る。
誘拐した女高生の家にはすでに話が付いており、後は身代金を受け取り、持って来た家族も監禁し子供諸共燃やす算段だった。
だが、その子供があと三人足りず、太った男はその三人を探しに行っていた。
途中で逃げられ警察に駆けこまれてしまっては計画が無駄になってしまうし、身代金を持ってきた家族と合流し反撃されたら失敗になってしまうかもしれない。
子供を甘く見ている考えではあるが、出来れば拘束できるならしたい。
「おい!どうだ!?ガキ共は見つかったか!?」
≪それがよ、急に着信音が止まっちまって…携帯の電源切りやがったかも…≫
探している途中に携帯の着信音が聞こえ、それを子供達が連絡を取り合っていると太った男が勘違いしあちこち探し回っていた。
しかし、暫くするとその携帯の着信音は止まってしまい、そしてまた別の場所で着信音が鳴る。
太った男は何度も何度も階段を上り下りしていた。
痩せた男との会話を聞いてコナンは作戦が成功している事を確証を得る。
≪おい!また着信音だ!上の階から!≫
「その音なら4階の俺がいる場所からも微かに聞こえるぜ!ガキ共上の階に昇ってきてるんじゃねえか!?」
今度は上の階の方から着信音が鳴る。
息を上げながらの言葉に痩せた男はコナン達に背を向け、様子を見に行こうとした。
コナンは痩せた男の背を見て『よし』と内心ガッツポーズをする。
(ようし…!これで止めだ…!)
時間はあまりないと考えていい。
先ほどから彩羽は身動き一つしておらず、ぐったりとしている。
弁当を食べていなかった事から、彼らからの食料は拒んでいる様子だし、恐らく水も拒んでいるのだろう。
話を聞くに、昨日からここに監禁されているようで、身動き一つしないのは…気を失っているのか、それとも脱水症状を起こしているから、はたまた重体か…
目の前で殴られていたのを目の当たりにしていたため、コナンは一刻も早くこの事件を解決し救急車を呼びたい一心だった。
光彦たちに最後の指示をした。
しかし…
「「「博士の寝顔!」」」
上手くいき気が緩んでいたのか、歩美達はうれしさのあまり声を揃えた。
その声は一人一人小さいが、3人も揃えばコナン達にも届き、当然静まり返っているため部屋を離れた誘拐犯にもその声は届いていた。
「今ガキの声がしたような…まさかこのロッカーのどれかに…」
僅かではあるが子供の声が聞こえ、今まで気にも留めていなかったロッカーの存在を気にし始めた。
その読みは当たっており、どこかに子供達が入っているのだ。
それを気づいているコナンと灰原はお互い顔を見合わせ冷や汗を流す。
痩せた男は一つ一つ確かめようとロッカーを右端から開けようとした。
その時、どこからか携帯のバイブの音が聞こえた。
その音に痩せた男はロッカーから気を逸らせそのバイブの音に気を取られる。
「お、おい!携帯のバイブの音だ!すげー近くで聞こえてるぞ!」
その音は灰原の携帯のバイブ音だった。
コナンは『652』…『寝たきり老人』のコードを指示する。
つまり、灰原の携帯の待受けにある阿笠の寝顔を示していたのだ。
ピンチはあったものの、誘拐犯は着信音を元に再び監禁部屋を出る。
≪そろそろ身代金を持ってくる時間だ!お前は監禁部屋の入り口を塞いで4階から下へと子供達を探せ!≫
「お、おう!」
指定した時間に近づき、子供よりも金を優先させる。
仕方ないため閉めたシャッターを潜れるほどの隙間を空け、すぐ目の前の壁に場所を指定したメモを張り付ける。
子供達が逃げても気づくよう入り口近くの部屋を指定した。
太った男の指示に痩せた男は了解の意を告げ、携帯を切ってコナン達を監禁している部屋の扉を閉め、バリケードのようにイスや放置されていた物を置いて塞いだ。
「おい!ガキ共!!出てこい!!傍にいるのは分かってんだぞ!!」
声を上げ、脅し文句を叫ぶ。
こちらは大人だし、3人とは言え相手は子供。
脅せば怯えて抵抗などしないと思っていた。
携帯のバイブ音がしたし、上から探せという指示もあり、4階を再度調べようとした。
しかし、廊下へ続く扉を開けようとしたその時―――ガタリと物音がし、痩せた男はハッとさせ振り返る。
振り返っても先ほど自分が建てたバリケードが見えた。
物が崩れた音だったからバリケードが崩れたかと思ったが、バリケードはそのまま残っていただけ。
では、どこから音がしたのか…痩せた男はハッと何かに気付き慌ててくみ上げたばかりのバリケードを全てどかした。
「まさかガキ共はあのロッカーの中にいたんじゃないだろうな!!くそ!!ガキどもめ!なめた真似をしやがって…!!」
やはりあの子供の声は気のせいではなかった。
あのまま探していればと思っても後悔先に立たず。
窓は急いではめ殺しの窓でここは4階。
逃げるはずはないが、急いで障害物を退かし、捕まえようと意気揚々と扉を開けた。
その瞬間―――プツリと額に何か刺さった感覚がしたと思ったら急に眠気に襲われ、痩せた男はその場に倒れた。
「やったー!」
「一人やっつけましたね!!」
痩せた男を眠らせたのはコナンだった。
痩せた男がバリケードを作っていた最中に隠れてた3人がロッカーから出てコナンと灰原の拘束を解いた。
自由になったコナンが阿笠が作った時計型麻酔銃で強制的に男を眠らせ、意識を奪ったのだ。
倒れた男を見て歩美達は喜び、安全が確保されたのを確認しコナンと灰原は誘拐犯に、歩美・元太・光彦は女子高生に駆け寄った。
「おい!姉ちゃん!大丈夫かよ!」
「お姉さん大丈夫!?」
「大丈夫ですか!?」
歩美が口のテープを剥がし、元太と光彦は腕や足のテープを剥がす。
歩美達もロッカーから女子高生が暴力を振るわれているのを見ていたため心配していたが、子供達の呼びかけに女子高生は意識を浮上させ瞑っていた瞼を開いた。
「お姉さん!よかった目が覚めたんだね!」
「もう大丈夫だぞ!」
「ええ!悪い人はやっつけましたから!」
目を覚ました女子高生に歩美達は心から安堵した声や嬉しそうな笑みを浮かべる。
女子高生は意識がまだはっきりとしていないのか、ぼうっと呆けて見つめながら起き上がろうとしたが、ズキリと腹部に鈍い痛みを感じ小さく声を零し腹部を庇うように触れる。
「ぃッ…た…」
「大丈夫ですか?お姉さん、誘拐犯に強く蹴られていたのできっとそのせいで痛むんです…」
コナンは眠っている犯人の口と手を塞ぎ、灰原も足を塞いだ。
最後にテープを切りながら女子高生の様子を見ていると、女子高生と目が合い思わず見られた事に気付かれたかとドキリとさせた。
しかしすぐに女子高生は目線を灰原へと向け、ただ辺りを見渡していただけかとホッと安堵する。
「君たちは…」
「僕達ここで遊んでいたんですけど2人組の男の人が誘拐犯だって気づいて警察に連絡しようとしてたんですけど…」
「警察に連絡する前に気付かれちゃって」
「ここのロッカーに逃げ隠れてたんだけどよ、そしたら悪い奴らが姉ちゃんとコナンと灰原を連れてきて出るに出れなかったんだ!」
(いやお前らそれ説明になってねえし…)
彼らは彼らなりに説明をしてくれているんだが、子供の説明は大人には少し分かり難い。
案の定女子高生は『えっと…』と困ったように眉を下げていた。
しかし誘拐犯という言葉にハッと我に返り、起き上がろうと立ち上がる。
「いっ…!」
しかし体中が痛み、女子高生は立ち上がったものの痛みに跪いてしまったのだが、すぐまた立ち上がった。
「君たち、巻き込んでごめんね…最後の悪い人はお姉さんが囮になって止めるから、その隙に君たちは外に出て助けを呼んできてくれる?」
足に怪我はしていないが、痛みが強く歩くのが困難だった。
壁に手をやり歩かないと上手く歩けないほど女子高生の身体はボロボロだった。
「だ、駄目ですよ!」
「逃げるなら姉ちゃんも一緒だぜ!」
「そうだよ!そんな怪我で一人で逃げるなんて無茶だよ!」
女子高校生からしたら子供達に怪我をさせたくはないという気持ちで言っているようではあるが、その子供達からしたら自分達よりも女子高生の方が守るべき存在であった。
少年探偵団として怪我人を置いていくのはどうしても出来なかったのだ。
子供達の言葉に女子高生は笑みを浮かべ、壁に手をやりながら子供達に目線を合わすようにしゃがむ。
「心配してくれてありがとう…でも、大丈夫…お姉さんだって自分の身体のことくらい分かっているから…ちょっとずつだけど痛みが引いてきてるの…だから…」
「嘘ね」
元太達は『痛みが引いてきている』という言葉を信じようとしていた。
痛みなど感じないように笑みを浮かべていたし、言葉だってはっきりとしている。
子供だから蹴られた体にどれだけ負担が掛かるかなんて分からない。
傍から見れば女子高生の言葉は本当だと思っただろう。
だが、灰原はそれを嘘と見破った。
灰原の声に女子高生や歩美達は彼女へ振り向いた。
歩美達の目線を受けながら灰原は女子高生を見上げる。
「あなた、相当我慢しているんじゃない?」
「どうしてそう思うの?」
「男女の体格や力の差のうえ、あの犯人は太っていたから力は強かったはず…それを受け身が取れない体勢で暴力を受けてものの数秒で痛みが引くなんてありえないもの…それがまだ体が作りきれていない10代ならなおの事ね」
灰原の言葉に女子高生は驚いて見せた。
しかしすぐにふと笑みを浮かべ『賢いのね』と灰原の頭を撫でる。
灰原はその反応に目を見張る。
コナン同様灰原は体だけが18歳から小学1年生に戻ってしまったので精神年齢は18歳のまま。
だから女子高校生の嘘をすぐに見抜けた。
だけど大抵の大人はそんな大人顔負けの知識を持つ灰原や、頭脳明晰なコナンを『ませてる』やら『背伸びしている子供』と見ていた。
まあ、コナンの場合そう見せているのだから当たり前ではあるが…女子高生は他と少し違った反応を見せていた。
『賢いのね』という言葉は何度も聞いてきたが、多くは本心からではなく、言ってしまえば『子供である事を前提』として微笑ましく見たり小馬鹿にしていたりする。
しかし目の前の女子高生は微笑ましく見るでもなく、子供だからと小馬鹿にしているわけではない。
ただ、懐かしそうに…そして悲し気に灰原を見つめていた。
それが灰原は引っかかった。
同時に、脳裏に姉を思い浮かべる。
「ねえ、お姉さんは何に怯えているの?」
「え…?」
一瞬、すでに亡くなっている姉の顔がちらつき灰原は意識を逸らしていた。
しかしコナンの声にハッと我に返りコナンを見るも、コナンは灰原の様子に気付かず女子高生に小首を傾げて見せていた。
相変わらず子供らしい演技が得意なのね、と思いながら灰原はチラリと女子高生を見た。
女子高生はコナンの言っている意味が分からないと言わんばかりにキョトンと呆けていた。
「だって何かに怯えているように見えたんだもん」
「そりゃそうですよ!お姉さんは僕達の為に囮になるつもりなんですから!」
「でも、それにしては起こされた時全然怯えていなかったよね?逆にあのおじさん達を睨んでたじゃない?なのに囮になるからって怯えるのって可笑しくないかな?」
コナンの言葉に灰原は女子高校生を観察するために見つめた。
灰原もコナンと同じくこの女子高生には少し違和感を感じていたのだ。
殴られて泣くでもなく騒ぐでもない。
怯える姿だって見せた事はなく、しかしだからと言って派手に反抗するでもなく睨んで食べ物を拒むくらいの抵抗しかしない。
女子高生はやけに落ち着いていたのだ。
ただ痛みと恐怖でそんな余裕がなかっただけかもしれないが、それにしては犯人が捕まっても無反応だったのは可笑しいではないか。
しかし今はどこか怯えて見えた。
コナン達を逃がすというよりも、何かから遠ざけようとしているようにも見える。
コナンはそれが気になったのだろう。
灰原はコナンの言葉に女子高校生がどう反応を示すか見て見たが…女子高生は驚いた表情を浮かべていたがすぐにふと笑みを浮かべた。
その顔は灰原の時と同じく悲し気だがどこか懐かしく愛おしい者を見るような表情だった。
「あなた達はとても優しい子なのね」
何て返すのか気になっていた灰原だったが、女子高生の言葉に目を丸くする。
コナンの誘導尋問のような言葉を聞いて、どうしてその言葉が出るか分からなかった。
女子高生は自分の返した言葉に意外そうに目を丸くするコナンに手を伸ばし、コナンの怪我をしていない方の頬を撫でた。
その手はまるで自分の弟を愛おし気に触れており、コナンは一瞬母の言葉を思い出す。
「…ねえ、お姉さん―――」
母の『娘なの』という言葉と、ここ最近話題となっているあの少女を思い出したコナンは女子高生に問おうとした。
しかし、その言葉を遮るように――靴音がコナン達の耳に届き、少し和らいでいた空気が一気に緊迫した空気に代わる。
靴音はこちらに向かってきており、コナン達はその靴音にハッとさせ扉へ振り返る。
「扉の横に立って隠れて!」
「えっ!?」
「早く!」
女子高生の言葉に一瞬何を言っているのか分からなかった。
女子高生はコナン達に扉の隣に立つよう言い、反論を言う前に背中を押されたコナン達は女子高生の言う通り扉の隣の壁に張り付くように身を潜めた。
といっても扉を開けてすぐだし、身を隠せるような物はないのですぐに気づかれると思うが。
しかし女子高生は扉の前にあるロッカーに背を向けて立っており、コナンは最初こそ何をするのかと怪訝とさせたが、すぐに気づいた。
「待て!そんな体じゃ…――」
しかし気づいても遅く、コナンが止める前に扉が開かれる。
女子高生は体当たりをして倒れた隙にコナン達を逃がす算段だったのだろう。
人は予想外の事には対応できず、体格差があっても太った男は突然の事に倒れてしまうだろう。
しかしコナンはそれに気づいて止めようとした。
少なくとも無謀ではなく、無力な少女や少年たちならリスクは高いが良い手ではある。
だがそれ以上に、女子高生は体がボロボロなのだ。
恐らく服を捲れば腹部辺りは酷い痣が出来ているだろうし、顔だって見るからに腫れている。
そんな体で力が出るわけがなく、失敗に終わる可能性がある。
もしやるならまだ怪我をしていないコナン達が変わった方が成功する可能性がある。
それを女子高生に伝えせめて交代しようと思ったが、遅かった。
少しずつゆっくりと開かれる扉に女子高生はそのまま開けた人物に向かって走り、体当たりし犯人諸共女子高生は倒れた…――――と思った。
「おっと…大丈夫かい、日和」
扉を開けたのはあの太った男かと誰もが思っていた。
しかし扉を開けたのは太った男性どころか背が高く、細身で、眼鏡を掛けている優男だった。
服装だって伸びている痩せた男とは違う高そうなスーツを着ており、一致している所と言えば性別と黒髪という所だけだろうか。
男はその細い体のどこに力があるか分からないその腕で突進してきた女子高生を受け止め、抱きとめた。
「お…お兄ちゃん…!?」
女子高生――日和と呼ばれた少女…彩羽は、男の声に目を丸くし唖然としたままゆっくり顔を上げる。
顔を上げて見たその懐かしい顔に彩羽はこれでもかと驚いて見せる。
その反応に男…高遠はくすりと微笑んだ。
しかし、腫れている彩羽の顔を見てその表情を曇らせ、彩羽の腰に巻かれていた手を彩羽の頬へ伸ばす。
「可哀想に…こんなに腫れるほど強く殴られて…」
彩羽の腫れている頬を痛くないようにそっと触れたが、彩羽が痛がるのを恐れて頬から髪に手を伸ばし、手で梳くように撫で、そのまま腰に戻し…伸びている男へと視線を送った。
「―――ッ」
その目線は彩羽に向けていた視線とは真逆に凍えるように冷たく鋭い殺意を灰原は感じた。
自分に向けられた視線ではないが、その冷たい目にドクリと鼓動を激しくさせ、思わず傍にいるコナンの服を掴んだ。
(…灰原も感じたのか…あの男、組織の人間なのか?)
(……わ、わからない…私が組織にいた時はあんな人見た事ない…)
高遠の視線に気づいたのは灰原だけではなくコナンも同じだった。
縋る様に服を掴む灰原の反応にコナンは組織の人間かもしれないと疑う。
しかし、灰原もコードネームを貰っていたが組織の全員を知っているわけではなく知らないと首を振った。
「お、お兄ちゃん!ここにいるって事は…」
「そう…日和が誘拐されたって聞いてね、居ても立っても居られなくて来たんだ」
「じゃあ…もう一人の人…は…」
高遠が来たという事は、自分は誘拐されたと知られたという事になる。
そして乱暴にされていたということも兄なら気づいただろう。
その証拠に彩羽の腫れた顔を見て『それはどうしたんだ?』と聞かなかった。
分かっていた様子の兄に彩羽は顔を青ざめる。
兄は人を平気で殺せるのを彩羽は知っている。
そんな彩羽の反応は分かっていたのか、顔を青く縋る様に服を握りしめる彩羽に高遠はくすりと笑みを浮かべた。
「安心するといい…もう一人の犯人は私ではなく『彼』が罰してくれたから」
彩羽は兄の言葉にホッと安堵する。
子供達も『罰してくれた』という意味は深く考えはしなかったが、とりあえず捕まえてくれたと思ったのか犯人2人を捕まえる事が出来たと安心したように表情を明るくした。
彩羽は『彼』が誰か分かり、『彼』なら安心だと安堵する。
兄と『彼』が助けに来てくれた…それは気が緩むのに十分な素材で、子供達を守らなければと気を張っていたからか、兄の姿に安堵し彩羽は張り詰めていた気が一気に緩み、意識が遠のいていった。
「日和!?」
彩羽はふっと意識を失い、体の力が抜けていく。
倒れそうになる彩羽を高遠は腰に回している腕の力を入れて支える。
呼びかけ揺すっても彩羽は返事を返さず、顔を覗き込めば目をつぶっていた。
どうやら気を失っているだけだと分かった高遠は安堵の息をつき、横抱きに抱え直す。
「さて、警察にはもう連絡しているから下にいる『彼』のところに行こうか…君たちは怪我はないかい?」
「うん!大丈夫だよ!」
「はい!僕と元太君と歩美ちゃんと灰原さんはありません…でも…」
細身の身体で女子高生を一人…それも気を失って重いはずの身体を軽々と抱え上げながら高遠は子供達に声をかける。
子供達に怪我はないかと問えば、コナンが怪我をしていると教えた。
高遠はコナンという少年は知らないため子供達の視線を辿って辿りついた子供がコナンだと知る。
「おや…頬を殴られたんだね…可哀想に…」
誘拐犯、彩羽の頬の傷…ときたら当然コナンの頬も殴られたと思うだろう。
しかし実際は殴られて出来た傷ではなく…自滅である。
それを説明するのは面倒だったし、何より自滅しましたと言うのが恥ずかしくて笑って誤魔化した。
「もうすぐ警察の人と共に救急車も来ると思うから…それまで我慢できるかい?」
「は、はい…」
組織の人間かもしれないと疑っていたコナンだったが、どうも柔らかい物腰や敬語、優し気な笑みを見て疑っていた気持ちが萎んでいくのを感じる。
あの冷たい目線が気のせいかと思う程高遠の態度は優しい男性のそれだった。
少し戸惑いを見せながら頷くコナンに高遠は『良い子だね』とにっこりと笑みを浮かべた後『では行きましょう』と子供達と共に部屋を出て行った。
「ねえ…あの人…どっちなのかしら…」
コナンも複雑な思いを抱えながら続こうとした時、灰原に声をかけられ振り返る。
灰原も冷たい殺意に怯えていたが、何でもないように優しい大人の男性で接してくる高遠に先ほどの怯えは消えていた。
ただ、コナンのように気のせいかとも思えずどっちか分からず戸惑いを感じているようだった。
コナンは灰原の言葉の意味を察した。
しかし…
「さあな…」
コナンもどっちなのか分からず、ただそう返す事しか出来なかった。
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