(21 / 24) 緊急事態252 (21)

彩羽が目を覚ましたと知って三橋と共にキッドも病室に入ってきた。
彩羽を見た瞬間キッドは何かを察し、ジト目で高遠を見つめる。


「…………」

「…………」


高遠は勿論キッドの目線の意味に気付いているが、あえて無視をし彩羽のベッドに寄り添って座っていた。
キッドは高遠の隣に座って、向かい側では彩羽の診察と新たな傷の治療を三橋がてきぱきとしていた。
勿論高遠は恩人なので彩羽の首筋の傷の事は三橋は突っ込まない。


「…ちょっといいか」


消毒が痛むのか、首筋に消毒液を染みこませたガーゼを当てる度に彩羽が痛そうに顔を顰める。
それを見ながらキッドはジト目で高遠へと視線を移し、くいっと顎で外に出るよう合図を送る。
失礼な行動ではあるが、彩羽の傷に気付いて早々殴らなかっただけ紳士的だと思ってほしい。
呼び出された高遠は不満を言うでも感じるでもなくいつものポーカーフェイスを保ちながら松葉杖をつくキッドの後ろに続く。
キッドが明らかに怒っているような表情を浮かべていたので彩羽は心配そうに兄を見つめるが、その視線に気づいた高遠は小さく手を上げ安心させるように微笑みを向けた。
それでも安心はできないが、こんな目立つところでキッドも騒がないだろうし、兄も殺しはしないだろうと信じて見送った。


―――キッドは人気のない場所に高遠を連れ出した。
誰もいないのを確認するとジト目のまま高遠と向かい合う。


「なんでしょう、こんな場所に呼び出して…早く日和の傍にいてやりたいんですが」

「あんたがいた方が彩羽が危険な気がしてな」

「それは気のせいではないですか?私は日和を傷つける気はありませんが」

「いやお前どの口がそれを言うの??」


呆れたような顔をしながらキッドは自分の首筋をトントンと指で叩く。
その意味は勿論高遠にも通じており、高遠は笑みを見せた。


「あれは愛情故ですよ」

「どんな愛情があってあんな傷できるんだよ!大体あんたと彩羽は兄妹なんだろ?腹違いだとしても普通兄妹ではあんな傷付けません!」

「では、兄妹でなければいいんですね?」

「は…?」

「恋人なら、いいんですね?」

「………え……いや…え??」


にっこりと胡散臭い笑みを深める高遠にキッドは呆けた顔を浮かべる。


「えっと…え?今なんて…」

「恋人ならいいんですね、と言いました…あなたの耳大丈夫ですか?金田一君と一緒で耳故障してるんじゃないですか?いい医者紹介しますよ?」


『闇医者だから保険利きませんが』、とにこやかに続ける高遠にキッドは呆けた顔からジト目へと戻す。
『キンダイチクン』とやらは知らないし、なんだか馬鹿にされた感半端ないが、今はそれより聞き捨てならない言葉を聞いた気がしたのだ。


「………あんたと彩羽って…兄妹だよな…異母兄妹の…」

「ええ…ああ、それと従兄妹でもありますよ」

「…は?」

「母親同士が姉妹なんです」

「……………」


IQ400の天才でも高遠の言葉は難関すぎて解けなかった。
固まるキッドを無視し高遠は続けて説明する。


「日和の母親が近宮日向だというのはご存知ですよね?」

「…………」(無言で頷く)

「その近宮日向には姉がいる事はご存知ですか?」

「…………」(無言で首を振る)

「では、ここで問題です――――近宮玲子という女性をご存知ですか?」

「…………」(無言で首をひねる)


何故かクイズ形式となり、近宮玲子という名前をキッドは頭の中の引き出しを全て引っ張り出し探す。
点、点、点――と静けさが続いた時…


「近宮玲子って…―――あの近宮マジック団の団長か!!!」

「正解です」


やっと多くある引き出しから『近宮玲子』の情報を見つけ出した。
先ほどまでジト目だったキッドの目が驚き、そしてまるで少年のように輝くのを見ながら高遠は頷く。


「おい待てよ…彩羽の母親が近宮日向で、その姉が近宮玲子って事は…」

「そうです、日和は近宮玲子の姪です」

「マジかよ!!嘘だろ!?俺近宮玲子のマジック好きなんだよ!!わざわざ外国から近宮玲子のDVDを買うほどなんだぜ!!あんなすごいマジシャンそういないよ!」


キッドは近宮玲子のファンと言ってもよかった。
近宮玲子が亡くなった時、キッドは3歳ほどで流石にマジックショーを見に行けなかったが、今の時代ネットで色々アップされている時代である。
近宮玲子は今でもなおコアなファンがおり、そのファンが近宮玲子のマジックショーのDVDを動画共有サイトでアップしたり、ブログで紹介したりと輪を広げておりその一つをキッドは見て近宮玲子の事を知った。
マジシャンだった父の影響で、マジックを好きになって今やプロ顔負けなほど子供の頃よりも上手くなった。
もし近宮玲子が生きていたら、会いに行ってマジックを見てほしいマジシャンの一人だっただろう。
高遠は公園でマジックを見せた時のように大喜びする子供のようなキッドを見て嬉しそうに笑顔を浮かべた。
その笑みは彩羽以外に見せる表向きの作られた笑みではなく、心からの笑みだった。
二度しか会っていない母の復讐を戸惑いなく決めたほど高遠は家族に対して深い情を持っており、同じ近宮玲子のファンとして仲間の言葉を嬉しく受け止めた。


「その近宮玲子は私の母なんですよ」

「何言ってんだ、今日は4月1日じゃないぞ???」

「まあ、分かってましたけどねその反応…嘘だと思うなら日和に聞いてみるといいですよ…日和はそうだと答えますがね」

「………マジで?」

「はい、マジです」

「…………いや、だって…あんたの苗字高遠だし…」

「この姓は養父のものですし、本来日和の苗字も高遠なんですよ…あの子の名前も本来なら日和という名前なんです…私達は少々訳ありでしてね…私も日和も両親の顔を知らず育てられまして…2人とも母達の知り合いだった養父の元に預けられていたんです」

「………マジかよ…」

「マジですよ」

「…………」


しかしキッドは高遠が近宮玲子の息子だと知ると先ほどのテンションが萎んでいった。
萎んでいくというか…疑ってかかっていたというか。
しかし嘘をついているようには見えず、嘘のようなそれは真実だと知りショックを受ける。
自分は泥棒の息子であるからサラブレッドではあるが、近宮玲子の母は泥棒でもなければ殺人鬼ではない。
あんな素晴らしい人から一体どうして殺人鬼の息子が生まれたのか…そう疑問に思ったが、高遠の言葉からして高遠の生い立ちは少し複雑なのだろうと察する。
とにかく、キッドの聞く『地獄の傀儡子』の噂の中にマジックが上手いと聞いており、キッドはそれに納得する事で落ち着いた。
とは言えすぐに受け止める事は出来ず、『とりあえず今度マジック見せてもらおう』といち近宮玲子のファンとしてその息子のマジックを楽しみにしていると…


「あーっ!あの時のお兄さんたち!」


少女の声にキッドと高遠は振り返る。
そこには見た事がある顔が5つ並んでこちらを覗き込んでいた。


(げ…ッ!)


その内一人の少年を見てキッドは顔を引きつらせる。
そんなキッドをよそに少女達は高遠とキッドに駆け寄る。


「おや、君たちはあの時の…」

「はい!廃墟ビルでお会いしました!」


高遠も5つの顔の子供達には見覚えがあった。
それは彩羽の誘拐された時の事。
彩羽だけかと思ったが、そのビルにはこの子供達――コナン達が缶蹴りをして遊んで誘拐事件に巻き込まれ、ついでに高遠は救った子供達だった。
救ったと言ってもすでに一人の誘拐犯は子供達にやられていたが。
高遠は小さな体を持つ子供のためにしゃがんで目線を近づき、いつもの外面の笑みを浮かべる。


「こんにちは」

「「「こんにちは!」」」


挨拶をすれば元気な声が返ってきて高遠は笑みを深める。
高遠は子供が好きだ。
マジックをする際、大人より子供の方が素直な反応をしてくれるし、何より自分のマジックを大喜びしてくれるのが嬉しかった。
しかし5人中3人しか返ってこないので、後ろにいる2人の子供は恥ずかしがり屋かおしゃまさんかどちらかだろうと高遠は2人を見るが、コナンと灰原の様子から見て恥ずかしがり屋とおじゃまさんと言うよりは大人びて冷めているように見えた。
公園でマジックをして子供達を相手にしている高遠は二人を見て違和感を感じたが、興味がないからかあまり深く触れなかった。


「あっ!こんな所にいた!駄目じゃない、病院で走っちゃ」

「おい!ガキども!勝手にうろちょろするなって言ってんだろ!」


歩美達も廃墟ビルで彩羽を助けに来た高遠とキッドを覚えており、助けに来た人という認識だからか怪しむことなく笑顔で近づいてくる。
子供特有の質問攻めを嫌な顔一つせず受け答えしているとひょこりと少女と男性が顔を覗かせ子供達を見て歩み寄ってきた。
どう見ても子供達の保護者な二人に、子供達に合わせてしゃがんでいた高遠は静かに立ち、叱られた子供たちは素直に謝った。
それほど怒っていないのか、注意しただけの二人はそれ以上は責めることはなく、知らない男性と少年の姿に首を傾げる。


「えっと…歩美ちゃん達の知っている人?」

「うん!」

「この兄ちゃん達が姉ちゃんを助けに来た二人なんだ!」

「え!じゃあコナン君達を助けてくれた人!?」


歩美達と話していたのもあり、知り合いかと聞けば、元太から返ってきた言葉に驚き少女は高遠とキッドを見た。
少女と目が合い高遠はにこりと笑みを浮かべ、キッドも内心引きつり笑いをうかべながら軽く頭を下げ返す。
少女と男性は子供達の言葉を聞いて二人に向かい合い頭を下げてお礼を言った。


「コナン達を助けてくださったそうで…ありがとうざいます」

「いえ…私は妹を助けに行っただけですし、私達が助けるまでもなく彼らが犯人の一人を倒してくれたおかげであれ以上怪我人も出ず解決できたんです…それに彼らがいてくれたおかげで妹は助けられたんです…お礼を言うのはこちらの方ですよ…ありがとうございます」


助けられた、と言うなら高遠の方である。
子供達がいたからこうして彩羽を保護出来たわけだし、彼らが一人を伸してくれたお陰で無駄な人殺しをしなくてすみ、面倒な細工もしなくてすんだ。
きっと子供達があの時、あの時間、あのビルを選ばなかったら、今も彩羽は見つからなかったかもしれないのだ。
無計画も等しい計画だったから、きっと高遠でも見つけるには時間がかかっただろう。
男性と少女は逆にお礼を言われ慌てた。


「い、いえ!犯人は子供達を盾にしてお嬢さんを苦しめていたと聞きました!そんなお礼を言われる事なんて…!あの!頭を上げてください!」


人殺しが関わっていなければ高遠の外面はいい…キッドは男性の言葉に下げていた頭を上げながら爽やかな笑みを浮かべる高遠を見てそう思った。
キッドも一応頭は下げていたが、怪我をしているためそれが出来ず、高遠の一部始終を見てしまったというわけである。


「………」

「………」


気付かれない程度にジト目で高遠を見ていたら、逆に自分がジト目で見られているのに気づく。
その目線を伝ってジト目で見てくる人物へ視線をやると……キッドは速攻でその目線を逸らした。
そんなキッドをよそにその人物はまだキッドをジッと見つめていた。


「………」

「………」

「…ボク、何かな?」


痛いくらいの目線に我慢できず、キッドはその人物へ笑みを浮かべて声をかけた。
その笑みは爽やか少年を装っているが、内心引きつり笑いを浮かべ冷や汗をかきまくりだった。
キッドは他人の事(高遠)の事を言えなかった。
その声かけにその人物―――コナンはあどけない笑みを浮かべた。


「お兄さんって僕と会った事ある?」

「さ、さあ…なかったと思うけどなー」

「何言ってんだよコナン!会ったことあるだろ!」

(え゙!?おいちょっと待て!まさかこいつ俺の変装を見破って…)

「そうですよ!もう一人の犯人を倒してくれたお兄さんですよ!」

「コナン君ったらもう忘れちゃったの?」


明かる声で無邪気な笑みを浮かべるコナンは明らかに分かってて聞いているとキッドは分かった。
しかしそれなら惚けてやろうと思ったとき、元太の言葉にドキリとさせた。
元太達はコナンのオマケくらいしか思っていなかったが、まさかの伏兵か!?と思っていたが、どうやらそうではないようだった。
光彦と歩美の言葉にキッドはホッと安堵を浮かべ、コナンも歩美達の手前キッドを追いつめることを断念したのだろう。
『そっかーそうだったねー』と無邪気さを残しうっかりを装うコナンだったが、キッドは見た―――その背後で『ちっ』と舌打ちを打つライバルの悪い顔を。
『もーコナン君ったらうっかりさんなんだから〜』『本当ですよ〜』と子供達に囲まれコナンに監視され内心早く帰りたいと心底思っているキッドをよそに大人は大人のやり取りをしていた。


「毛利小五郎…毛利ってあの探偵の…」

「そうです!私があの名探偵毛利小五郎です!」


高遠は渡された金色の名刺に印刷されている名前を見て、名刺から男性へと顔を上げた。
男性――毛利は名刺を見て驚く高遠の反応に気分を良くしながら胸を張りドヤ顔を浮かべ、その傍にいる少女――娘の蘭は父の調子のいい言葉に恥ずかしいやら呆れたやらと溜息をついた。


「ところで…今日はどうして病院に…やはり子供達に何か…」

「あ、いえ…そうではなく…」

「子供達は妹さんをすごく心配していて…昨日はまだ眠っているからと言われたので今日来たんですが…」

「お邪魔の様でしたら帰りますんで、遠慮なく言ってください」


三橋から聞いたところ、コナンの頬は冷やして終わっただけで、通院するほどではない。
他の子供達も目立った怪我はなく、なぜ健康体のコナン達がいるのかさり気なく聞く。
とはいえ大体の予想はついており、その通り、子供達は彩羽を心配して来てくれたらしい。
約束もしておらず、何度も殴られ、誘拐された彩羽を気遣って毛利が断れば帰ると言うと子供達からはブーイングの嵐だった。


「えー!歩美、お姉さんに会いたい!」

「僕も会いたいです!」

「俺も!あんな怪我してるしやっぱ心配だしよー!」

「馬鹿かお前ら!妹さんは怖い目にあったばっかりなんだぞ!?精神的にも参ってるんだ!お前らみたいなガキが会いに行ったって邪魔でしかねーよ!」


子供だから分かれと言うのは無理があるが、毛利の言葉に子供ながらに理解したのか何も言わなくなった。
子供達も妹を心配してくれていると知り高遠はしょんぼりとさせる子供達にしゃがんで目線を合わせ、笑みを浮かべる。


「ごめんね、まだ妹は会える状態じゃないんだ…せっかく来てもらって悪いんだけどまた今度来てくれるかな?」

「お姉さん、まだ具合悪いの?」

「そうなんだ…まだ目も覚ましてなくてね…ごめんね」

「じゃあしょうがねえな…」

「心配でしたのでお見舞いにと思ったんですけど…まだ目を覚ましていないなら仕方ないですね…」


その言葉にキッドは表情を崩さず高遠を見た。
彩羽は先ほど目を覚まし、高遠がやりすぎるちょっかいを出したためここに連れ出したのだが…なぜ嘘を吐くのかキッドには分からなかった。
しかしあえてそれを言う理由もなく、そしてキッドもコナンとこれ以上いるといつかミスしそうでやめた。


「ねーねーお兄さん、ちょっと耳かしてー」

「え゙…」


そう思っていた矢先にコナンがキッドの服を引っ張り内緒話をしたがった。
それに嫌な予感をしつつも断る理由も浮かばず足を庇いながらしゃがむ。


(後でまた来るからその時色々聞かせてもらうからな、キッド)

(げ…やっぱバレてた…)

(あったりめーだろ…そんな甘い変装じゃ見破ってくださいと言っているようなもんだしな…とにかくまた来るから逃げんじゃねえぞ)

(……はい…)


コナンにはとっくにバレていたようで、キッドは内心顔を顰めた。
『逃げたら中森警部に連絡すっからな』と釘を刺されキッドはこれから恐怖のキッドキラーの尋問が始まるのかと思うとすでに逃げ出したかった。
別に中森警部なら余裕で逃げれるがそれを利用してコナンに追いつめられると分かっているので怪我をしていないのならまだしも今は足に怪我を負っているため面倒ごとも避けたいというのもあり頷くしかなかった。

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