(22 / 24) 緊急事態252 (22)

――その日の夕方。
コナンは約束通り子供達と別れ総合病院に戻りキッドと会っていた。
その場所はなんと霊安室である。
人も寄り付かず人の気配があればすぐに分かると言えば病院ではここしかない。
亡くなった方には騒がしいと思うが、こちらもこちらの事情があるためご容赦願いたい。


「はあ!?暗殺!?」


コナンは少年の言葉を聞き声を上げて驚く。
その声の大きさに少年は『しーっ!』と周りを見渡し人差し指を立てて口に当てる。


「馬鹿野郎!声がでけーよ!」


声を上げるコナンに少年、キッドもまた声を上げて注意する。
そんなキッドに『お前もでけえじゃねえか』と心の中で突っ込むが、火に油を注ぎそうなのでやめた。


「で?その暗殺される理由に心当たりあんのかよ」

「あるわけ――――」

「………」

「―――い、一杯ありすぎますですすみません」


キッドはコナンの疑いの目にカチンと来て言い返そうと思ったが、子供のジト目には勝てなかった。
しょぼーんとさせるキッドにコナンは呆れたように見つめる。


「まあ、そうだな…いろんなもん盗んでるわけだし、金持ち相手だったら恥をかかされた恨みかなんかで金を使って暗殺者を雇うのも造作もねえしな」

「……返してるお宝もあるけどな」

「でも盗ったには盗ったんだろ?」


コナンの言葉にキッドはグッと言葉を飲み込んだ。
『相手は小学生(見た目)、相手は小学生(見た目)、相手は小学生(見た目)…』と自分を言い聞かせる。


「しかし…あの怪盗キッドが暗殺されそうになってあの男性の家に落ちて女子高校生のお世話になってるとはねえ…」


キッドから事情を聴き、コナンは『園子が知ったら『私がキッド様のお世話と介護をするわ!!』とか言い出しそう』と思った。

――キッドはあの夜、撃たれ彩羽の家に墜落した。
その撃たれた理由はごく簡単なものだ。
暗殺者がキッドを狙ったのだ。
暗殺者など一般の人にとったらドラマや映画の中での存在しか知らないしだろうが、案外ゴロゴロとその辺にいる。
その暗殺者に撃たれキッドは偶然彩羽のいる家の庭に墜落したのだ。


「それで…その女子高生なんだけどよ…その人お前が怪盗キッドだって知ってて匿ってんのか?」

「ああ…最初からバレてたぜ」

「まあそうだろうな…新聞にも載ってるんだし知らない奴いないんじゃないか?」

「そっかーそうだよなー俺、有名人だもんな〜」

「そんな事くらいで喜ぶな」


始めからバレていた事を告げればコナンから当たり前だと断言された。
それが何か嬉しくてドヤ顔していると怪我をしている足を蹴られてしまう。
蹴られたと言っても軽くだが、誘拐犯を撃退した際に開いた傷を治療したばかりの傷には十分響き、キッドは蹲った。
『鬼かお前!鬼だったなお前!』と涙目で叫ぶキッドを無視しコナンは気になっていた事を聞く。


「なあ、あの女子高生とその兄の男ってどんな奴なんだ?」

「それは秘密かな…俺は匿ってもらってる身だし…何よりあの子は俺にとって恩人だしな…他人に個人情報は渡せねえよ」

「え〜!お兄ちゃんひど〜い!僕知りたいな〜!ねえ教えてよ!」

それやめろ


言えないのは理由はただ一つ――高遠遙一の存在である。
コナンは名探偵であり、キッドキラーというのもあり誰よりも厄介な存在である。
だがだからといって無関係なのに危険に首を突っ込ませる気はなかった。
ライバルだし邪魔をしてくる存在だが、コナンは嫌いではないのだ。
元太達の対応を見る限り高遠は子供には優しいみたいだが、それはあくまで子供であるからこその態度と対応。
高遠がもしコナンが本当は高校生だと知ればどんな事になるのかキッドも想像つかない。
まあ彩羽がいる限りは安全だとは思いたいが。
わざとぶりっこを見せて子供を武器にするコナンにキッドは手刀で頭を叩いた。
先ほどのやり返しという意味も込めて力を入れたせいで、案外痛かったのか頭を擦りながらコナンは涙を浮かべながらジト目でキッドを睨む。
不貞腐れるコナンを見つめながらキッドは天井を見上げコナンからそっぽを向く。


「これは俺の大きな独り言なんだが…――――女子高生の名前は『巴川彩羽』、男の名前は『川口遙』って言うらしいぞ」


隠すことなくあからさまに教えるキッドにコナンは感謝しつつ半目で見つめていた。
しかしふと引っ掛かりを覚え、それが何なのか気づくとコナンは目を丸くする。


「『巴川彩羽』って…あの巴川彩羽か!?近宮日向の娘の!?」

「あ、ああ…そうみたいだな…本人は全く親の顔とか知らないって言ってたが…それがどうかしたのか?」

「どうしたもこうしたも……俺の母さんが巴川彩羽を探してくれっておっちゃんに依頼してきたんだよ!『娘』だって言って!」

「娘かー…………娘ェェェ!?えっ…ちょっと待て!じゃあお前近宮玲子さんの甥っ子って事か!?」

「近宮玲子?誰だよそれ」

「はあ!?おま…お前近宮玲子さん知らねえの!?」


コナンはその引っ掛かり――母が探していた少女がキッドを匿い更には誘拐され今入院中の女子高生だと知り、驚きの声を上げる。
キッドも近宮玲子を知らないと言うコナンに驚きの声を上げた。
2人はここが霊安室だと忘れて叫び、その叫びは霊安室に木霊する。
幸いなのはここが防音であることだろう。


「でも本当にその女子高生が巴川彩羽なのか?確か巴川彩羽って住んでいた家を出て行方不明なんじゃ…」

「まあそこはご想像通りだな…川口さんの家に居候させてもらっているらしい」

「その川口遙っていう人って何者なんだ?名前からして赤の他人だろ?まさか近宮日向にもう一人息子がいたってわけじゃなさそうだし…」

「その辺は自分で調べる事だな…俺の独り言は名前だけだぜ」

「お兄ちゃんの意地悪〜!」

だからそれやめろ


母から毛利(正確には息子であるコナン)への依頼はまだ続いている。
毛利も渋々だが地道に捜査をしているものの中々彩羽の足取りは掴めない。
従兄の元にも足を運んだ事もあったが、『彩羽の居場所?そんなの私が知りたいですよ…仕事さえなければ…立場さえなければ有給どころか勤務なんて放り出して探している所です』と言われ『もし何か掴んだら即私に教えてください…いいですね?』と念押しされたらしい。(そして連絡先を握らされた)
毛利曰く、『イケメンが拗らせると恐いわ…』と遠い目で言っていた。
それだけで色々『あっ…察し』状態である。
母が探しているのなら見つけてやりたいと思うのが息子心であるが、何より母の言っていた『娘』というのが気になった。


「巴川彩羽に会わせてもらえねえか…母さんがおっちゃんに頼み込むほどその人に会いたがってるんだよ…それにもしかしたら姉か妹かもしれねえし…」

「って言ってもなぁ…シスコンを敵に回すとあの家追い出されちまうし…」

「シスコンって…川口遙っていうあの男か?」

「そう…あの人すっごいシスコンだから接触する際は気を付けろよ?彩羽に怪我一つでも追わせたら『コレ』だからな」


コレ、と言ってキッドは首を手で横に滑らせる素振りを見せる。
それは首を切られる、すなわち死ぬぞという意味を持っており、コナンは『はあ?』と呆れた目でキッドを見上げる。


「あー、はいはい、覚えておくよ」

「あ!その顔!信じてないな!?本当だからな!?気を付けろよ!?」

「はいはい」


高遠の存在を知らないコナンの反応は正しいが、キッドは全く信じていないコナンに真実を話したくて仕方なかった。
コナンの今の反応は少し前までの自分だと思うと、あの旦那様が高遠だった事を知らない頃に戻りたいと切実に思う。
コナンもキッドがしつこくいうのには訳があるといつもなら忠告を聞き入れるが、如何せんキッドは『シスコン』と言ってしまった故に、『シスコンだから気を付けろ』としか捉えていなかった。


「まあ、今日は多分無理だと思うぞ…それよりもうこの話は終いにしようぜ…体も冷え切ってるしそろそろ帰らねえと幼馴染の子が心配するしな」


腕時計を見て長時間離れているのも高遠に怪しまれると思いそろそろ切り上げようとコナンに伝えた。
あの幼馴染に似ている少女を心配させてしまうのは何だか気が引けたのもあった。
詳しい情報は得ることは出来なかったが、名前だけでも十分な収穫だとコナンはこれ以上引っ張るのは諦めてキッドと共に霊安室を出た。


「なあ、やっぱり駄目か?」


やはり納得はいかないコナンは最後にもう一度会わせてもらえないかと聞く。
キッドは『だから今日は無理だって』と言いかけたが、コナンの真剣な表情に口を閉ざした。


「あーもう!わーったよ!」


キッドも本当なら今日は諦めてほしいと思ったが、コナンに根負けした。
根負けしたキッドにコナンは嬉しそうな顔をするが、キッドは『ただし』と付け足す。


「ただし!まず俺が川口さんに話を付けるからおめえは一切口を挟むな!勿論事情は川口さんに全部話すからな!あと川口さんが駄目だと言ったら素直に引く事!いいな!?」

「ああ!サンキューな!」


もしもコナンの母の話が本当なら、コナンと彩羽どころか、高遠とコナンは異母兄弟になる。
しかしキッドは信じきれていなかった。
そもそも彩羽の母親は近宮日向。
コナンの母親は工藤有希子。
そして高遠の母親は近宮玲子。
もし本当に彩羽の母が工藤有希子なら、近宮日向が母だというのは誤報であり、高遠も勘違いしている事になる。
しかし世の中には愛人という存在がいる。
もしかしたら三人とも父親は同じだが、母親は違うのかもしれないとキッドは考えたが、しかし『そんな男いたら会ってみたいわ』と流石に三人の女性にそれぞれ子供を儲けるなど昼ドラも顔負けの男がいてたまるかとその考えは消した。
それにもしそうだとしたら工藤優作はコナン(新一)の義理の父親ということになる。
だが、だとしても工藤父子は外見中身諸々似過ぎているのも疑問点となる。
頭が若干考えるのを拒否しながらキッドはコナンを連れて彩羽の病室に向かった。

――病室は奥まったところにあり、病室に向かって歩いていると人影が段々と少なくなっていった。
名札や作りからして1人部屋であり、そうとう良い部屋を取っていた。
最初は誘拐犯に殴られたりと精神的に不安定なのもあって人の出入りが少ない部屋を取っているのかと思っていたが、それにしては大げさすぎではないだろうか。
キッドは一応関係者だからかノックなしでドアを開けて中に入る。
コナンもそれに続き入れば部屋の中に男性の姿はなかった。


「あれ、川口さんは?」

「お兄ちゃんなら売店に行ってるけど…」


どうやら彩羽の為に飲み物を買いに出ているようで、『タイミング外したかー』と内心思っていると、後ろから小さい影が通り過ぎたのに気づき慌ててその影へと手を伸ばす。
ガシリと首根っこ掴まれた影は言うまでもなくコナンである。


「こら!何してんだ!」

「だって!僕お姉さんにお話することがあるんだもん!」

「だから川口さんから聞いてからだって言ってるだろ!」

「でもその人いないじゃん!」

「だったら諦める!」


猫のように首根っこ掴まれたコナンはジタバタと手足を使い抵抗し子供をアピールするが、本性を知っているキッドには無効であった。
だが…


「ちょっと黒場君、可哀想だよ…その子私に話があるみたいだし…話くらいなら聞いてあげれるから放してあげて…」

「…………」


コナンの正体を知らない彩羽には有効だった。
彩羽が言うのであれば高遠も目立った事もしないだろうと渋々降ろす。
ニヤッと勝ち誇ったコナンの顔にキッドは軽くデコピンをプレゼントした。
痛くはないがそのプレゼントにムスッとさせながらもチャンスを逃がすかとすぐに気を持ち直し彩羽のベッドへ駆け寄る。
彩羽はテレビを見てたからかすでに上半身を起こしており、椅子に座ってこちらを見上げるコナンに笑みを浮かべた。


「君はあの時の子よね…あの時の傷は大丈夫?」

「うんっ!お姉さんは大丈夫なの?恐いおじさん達に一杯痛い事されてたよね?」


キッドは子供を装い彩羽と話すコナンを半目で見つめながら、窓側にあるソファに座る。
彩羽はコナンに心配を掛けさせないと笑みを浮かべながら『大丈夫だよ』と答えた。
それは子供を安心させたい一心で突いた優しい嘘だとコナンは気づいており、しかしそれをあえて言うのは無粋かと『そっか!よかった!』と子供のように笑顔を浮かべて見せた。
しかしふと見覚えのない傷が増えているのに気づく。


「あれ?でもお姉さんこんなところに傷あったっけ?」

「っ、こ、これは……その…」


気付いたのは首筋のガーゼだった。
その傷も誘拐犯が付けたのだろうかと思ったが、しかし助けられる時にはそんな傷見当たらなかった。
聞いてみたが、彩羽は患者服の襟を直すように持ち上げ、ガーゼを隠そうとする素振りを見せ、そして―――


「ごほん!」


咳ばらいをされた。
その咳払いはキッドから聞こえ、振り返ればキッドは顔当たりに腕をクロスさせバツを作りコナンに見せる。
その意味は『そのワードは禁句だ』である。
だが事情を知らないコナンからしたら『聞くな』と言っているように見えたのか、逆にそう言われると聞きたくなってしまうのは…まあ、探偵の性だろう。
しかし川口が売店から帰れば追い出される事も配慮すれば時間はなく、キッドの様子から虐待ではないだろうと問い詰めるのはやめた。


「ねえお姉さんって、巴川彩羽って言うんだよね?」

「!…どうしてそれを…」

「だってテレビで見た事ある顔だもん!」

「あ…」


コナンの問いに彩羽は目を丸くしたが、続けられた言葉に彩羽は自分の顔に触れる。
あの時周りにバレないように化粧をしていたが、今は治療のため落とされて素顔をさらけ出しているのにコナンに言われて気づいた。


「ね、巴川彩羽さんだよね?」


二度目の問いに彩羽は頷く。
その頷きを見てコナンは合っていた事に安堵したような外れていてほしかったような複雑な表情を浮かべる。


「じゃあお姉さんのお母さんって近宮日向さんっていう人なんだよね」

「うん、そうみたい」

「そうみたいって?お姉さんのお母さんじゃないの?」

「何て言ったらいいのかな…お姉さんね、お母さんとは会った事ないの」

「え…」


彩羽の言葉にコナンはキョトンとさせた。
しかしテレビのニュースを見ていれば近宮日向は彩羽を産んですぐに亡くなり、彩羽は別の人に預けられたと報道されていた。
だから顔を知らないのも無理はないのだろう。
彩羽もテレビと同じ説明をし、その説明にコナンは『そっか』と答えた。


「あのね…僕、探偵の助手をしているの」

「探偵の助手?」

「そうなんだ!今居候してるおじさんがね探偵しててね、そのお手伝いをしてるんだ!」

「こいつ、頭が切れるから多くの事件を解決してきたんだぜ…下手をすればあの毛利探偵より名探偵じゃないのか?(俺の邪魔ばっかするからキッドキラーって呼ばれてるしな)」


ソファから離れて話に割り込みコナンの頭を乱暴に撫でながらこそりとキッドが彩羽に何か耳打ちをしたが、彩羽が感心したような目でコナンを見ていたのでコナンにはバレバレである。


「その名探偵の坊やが日和にどんな用事なのかな?」


ジト目でキッドを見ていたコナンの耳に、男性の声が届きビクリと肩を揺らす。
扉の方へ目をやれば川口――高遠が立っていた。
どうやら売店から戻ってきたらしく、袋を持っていた。
コナンは悪戯がバレたように気まずい表情を浮かべ、高遠は相変わらずにっこりと笑みを浮かべて表情が読めなかった。
しかし気まずいのはコナンだけではなく、コナンを部屋に招き入れたキッドも『やっべ』と高遠から目線を外す。


「お姉さんにお話があって無理を言って連れてきてもらったの…ごめんなさい」


ここは笑って誤魔化すよりも素直に謝った方がいいかと、ついでにキッドを庇いながら謝る。
だが、コナンは『でも』と続け、先ほど気になった事を高遠に聞く。


「でもお兄さんはなんでお姉さんを『日和』って呼ぶの?お姉さんの名前って『彩羽』っていうんでしょ?」

「それには複雑な事情があってね」

「その事情って?」

「まだ子供には理解できない複雑すぎる事情だよ…さ、もう帰りなさい…家族の人が心配するからね」


『子供には理解できない事情』、と言われてしまい無理に聞くことは出来なかった。
子供の姿は高校生と違って油断してもらえるし子供らしさを見せれば大人や高校生だった時には聞き出せない情報も聞き出せるから便利と言えば便利だが、こういう時は不便である。
時計を見ればもう夕暮れとなっており、部屋もオレンジ色に染まっている。
そろそろ帰らなければ幼馴染が心配するとコナンも気づいたが、ここで引き下がるわけにはいかなかった。


「ま、待って!あのね、僕ね、毛利のおじさんに頼まれて来たんだ!」


コナンの脇に手をやり椅子から降ろそうとする高遠にコナンは慌てた。
子供ではどうにもならない時、毛利の名を出せば大抵子供でも相手にしてくれることがある。
高遠も毛利という名を聞き病院で会ったコナン達の保護者の男性で、名刺を思い出したのか探偵を生業としている事を思い出し手を止めた。


「なぜ君に?」


高遠はコナンを怪訝とした目で見下ろした。
毛利を良く知っている人やコナンを知っている人なら助手をしていることは知っているが、両者共に知らない高遠にしたらなぜ子供に探偵の仕事を手伝いをさせるのかという疑問が生まれた。
コナンからも手伝っているやら助手やらと言っていたのをドア越しに聞いていたが、それは子供の言葉として受け取っていたため怪訝とさせる。


「この子ね、とっても頭がいいみたいなの…だからその毛利さんって人も手伝わせてるんじゃないかな…頭がいい子って色々大変だし…」


その疑問を彩羽が答えてくれた。
正解とは言い難いし、恐らく間違いだらけではあるが、好都合なのでコナンは黙って置く。
しかしコナンを見る彩羽の目がどこか懐かしそうで、そして悲しそうに見えてコナンは首を傾げた。
その視線は高遠も気づいておりコナンを床に降ろした後彩羽の肩に触れ、慰める様に親指で肩を撫でた。
その空気にコナンは怪訝とさせる。


(なんだ…?確かあの時も俺や灰原をあんな目で見てたな…)


あの時、とは誘拐犯の1人を眠らせ彩羽を助け出した時。
子供とは思えない賢さを見せる2人を彩羽は同じく懐かしそうで悲し気に見つめていた。
あの時は聞く暇はなく、その後すぐに高遠がやってきてあっと言う間に警察と救急車が来て子供達と彩羽は病院に連れていかれて聞けずじまいだった。


「なるほど…では、その毛利さんに頼まれた事は何なのか聞いてもいいかな?」

「うん!あのね、おじさんにある一人の女性が依頼してきたんだ!」

「その女性の依頼と日和が関係があると?」

「うん!その人は『娘』を探しているんだって!それで、その『娘』っていうのがお姉さんなんだ!だからその人に会ってほしいんだ!」


息子として、母親の願いは叶えてあげたくて必死になっていた。
この体になって心配も不安にもさせているし、一緒に暮らそうという願いを蹴ってしまったのもあってコナンはコナンなりに罪悪感もあった。
親孝行らしい事がこの体ではできていないからせめて叶えられる事はしてやりたいと思いキッドに無理を言ってここまで連れてきてもらったのだ。
しかし、そんなコナンの願いは虚しく…


「ごめんね、それは無理かな…」


高遠には断られてしまった。
コナンは断られ『無理』だと断言され目を丸くする。


「どうして?」

「そうだね…はっきり言ってしまうけど…その女性の娘は日和ではないからかな…日和の母親はテレビでも言っているように『近宮日向』だからね」

「で、でもその人はお姉さんを『娘』だって言ってたよ?母親が娘を間違えるかな?」

「間違える母親もいるんじゃないかな?日和は母親とは生まれてすぐに亡くなったとテレビでも言っていたし、17年もの間顔を合わせていない母親が写真やテレビを見ただけで分かるとは限らないだろう?」


高遠の言葉にコナンは口ごもる。
正直コナンも母親が自分以外の子供を産んでいた事には疑問視していた。
自分の母親と彩羽が親子だという証拠だって母の発言以外一つもない。
それにいくら母親とはいえ、全ての母親が離れて暮らしていた娘を間違わず気づくかと言われれば答えに詰まってしまう。


「ねえお兄ちゃん…会うだけ会ってみたら駄目かな…」


高遠からしたらそのコナンが言う女性は怪しく見えた。
彩羽が話題性のある人物だから目立ちたくて探偵に依頼している可能性や、実はマスコミ関係者が母親を装っていたというかの可能性もある。
どちらにせよ、彩羽の実兄が自分で、母は近宮日向なのは間違いないことからその女性は何らかの事情で偽っているのは明らかだ。
そんな怪しい人物に彩羽を近づかせたくはなかった。
だが、彩羽の言葉に高遠はコナンから彩羽へと目をやる。


「日和…」

「だって…子供がこんなにも必死になるって事はその人は本当に私に会いたいんだと思うの…それに…」


チラリと彩羽がコナンを見れば、高遠もコナンを見た。
2人の目線にビクリと肩をすくめる。
高遠は彩羽の言葉の先が分かり、だからこそ自分が折れるしかなかった。


「分かった…会っても構わないけど…今日は無理だし、日和もこの怪我だから当分は会わせられない…日和の傷が回復したらこちらから毛利さんに連絡するからそれまで待ってもらえないかな」


高遠は妹の願いを無碍には出来ず、とりあえず会う事は許可した。
しかし、今日会うのは時間的に無理だし、彩羽はまだ怪我からくる痛みがあるため明日からというわけにはいかなかった。
彩羽の様子を見てから大丈夫なようだったら貰った名刺に書かれている番号に連絡すると高遠は妥協してくれた。


「うん!毛利のおじさんにそう伝えておくよ!お姉さん、お兄さん、無理言ってごめんなさい…それとありがとう!」


コナンも駄目元だった事から数日の間が空く事になるが、会ってもらえるならと頷いた。
母も流石に無理強いはしないだろうと思い、無理を言って困らせてしまった事への謝罪と、我が儘を聞いてくれたお礼を言って病室を出て行った。
手を振るコナンに彩羽も手を振り返すと高遠から心配そうな視線を送られた。


「日和…その毛利探偵に依頼した女性が何の為に日和を探しているのか分からない以上会うのは危険だと思うんだが…」

「ごめん…でもあの子は隼人に似てたから…」


高遠は彩羽の言葉に『やっぱりか』と思う。
彩羽の血の繋がらない弟と、あの少年は見た目は似ていないし、性格も隼人はあの子ほど子供らしさはなかった。
だが、頭のいいところが弟と同じで、彩羽はどうしてもコナンの悲しむ顔が見てられなかった。
しかしそれは高遠も同じで、可愛い妹のしょんぼりとした顔に負けてコナンのお願いを了承したのだ。
小さく溜息を吐きながら高遠はジト目でキッドを見る。
キッドはひっそりとソファに戻っており、他人事を装っていた。


「…詳しい話を聞かせてもらいますからね、黒場君」

「………はい…」


明らかに自分のいない隙にあの子供を連れてきたのはキッドであるのを高遠は察していた。
中で楽しそうな声に交じっていたのを聞いていたのもそうだが、キッドを保護した際調べた中で『キッドキラー』の存在も出てきたのだ。
話し方などで他の子供と違うのを感じていた高遠はキッドに事情を聴くため、首根っこ掴み病室を退室した。


「…最初は心配してたけど…何だかんだで仲いいのよね、あの2人…」


彩羽は退室していく兄とキッドを見送りながらそう呟き、兄が買ってきてくれたペットボトルのお茶の蓋を開けた。

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