(4 / 22) 魔術列車殺人事件 (4)

「幻想魔術団?」


明智は電話越しから聞こえた言葉につい聞き返してしまった。
聞き返された相手…彩羽は『そうだよ』と返してくれた。


≪北海道のホテルで幻想魔術団が公演するみたいなの…健悟兄さん、マジックとか好きだったよね…一緒に行かない?≫

「それはぜひ…と言いたいところだが…彩羽から旅行に誘うのは初めてだな…よくあの人が許したものだ」

≪あー…まあ、実はお母さんは今も反対してるんだけど…お義父さんがいいって言ってくれたの≫


いつも誘うのは明智から。
彩羽から誘われた事は一度もなかった。
誘わない一番の理由は、移動時間が長いからだ。
まず駅に着くまでが最低でも1時間はかかり、さらに明智のいる県へも3時間新幹線で移動となる。
計4時間もかけて会いに行かなきゃいけないため、彩羽からは誘うことはなかった。
いつもは明智から誘い、更には自分から誘ったのだからと明智がわざわざこちらまで来て迎えにきてくれるのだ。
旅行以外では彩羽のいる県内で外出をすませてくれる。
明智がそんな苦労をしてまで誘ってくれるのだから彩羽も誘いたいところだが、如何せん家が厳しくて母が許してくれないのだ。
母曰く『あちらが彩羽を迎えに来るのは当たり前でしょ?』らしい。
恐らく彩羽が誘ったこの旅行も明智が迎えに来させられると思われる。


「でもどうして急に…」

≪この間、健悟兄さんに迷惑かけたからそのお詫びと…その…いつもお世話になってるお礼、かな…≫


彩羽も4時間かけて来てくれる明智には悪いと思っているのだ。
あの家では連れ子というのもあり彩羽は自由には出来ず、肩身の狭い思いをしている。
そんな彩羽を気遣って誘ってくれる明智のお陰で彩羽は今まで感情が爆発せずにいられたのだ。
あんな母だから誰にも相談できる相手もいないため、明智の存在は彩羽にとって救いでもあった。
照れた様子で答える姿を思い描き明智は嬉しそうに微笑む。


「彩羽がせっかく誘ってくれたんだし…お言葉に甘えようかな」

≪本当!?じゃあ早速チケット取るね!公演は○日からなんだけど休み取れそう?≫

「そうだな…有給が溜まってるから……」


彩羽からのお誘いは初めてだというのもあって明智は2つ返事で返した。
明智は社会人で、何より人を守る警察なため、正直数日休暇を取らなければならない旅行に誘うのは戸惑いと断られるかもと言う怖さがあった。
しかし明智からの返答に声を弾ませる。
そんな従妹に笑みが絶えずに明智はそれから他愛ない話や旅行の話しなどをして電話を切った。


「剣持警部、私は休暇を取りますのでその間よろしく頼みます」

「は!?は、はい…」

「くれぐれも、その間は私に連絡しないでくださいね」

「は、はあ…」

「いいですね、絶対に、連絡は、しないこと…分かりましたか?」

「りょ、了解です!」


電話が来た時、明智は警視庁にいた。
丁度配属になっている部署に向かう途中だったため、丁度扉の前で電話を切り、丁度一番近くにいた剣持に、丁度いいから休暇を伝えた。
突然休暇を取ると言われた剣持は何が何だか分からなかったが…悲しいかな…日本の社会は縦社会…上司に言われてNOとはいえないし舐めた口を叩いたらこのイヤミ警視に何を言われるか分かったものではないと分からないながらに頷いた。
とりあえず邪魔されたくはないようで、剣持は明智の剣幕につい敬礼をしてしまった。
敬礼をした剣持に満足したのか、それ以上絡まれる事はなく、剣持は自分のデスクに戻った。
デスクに戻り仕事を始める上司に剣持はホッと安堵の息を吐く。


「珍しいですね…警視が休暇であれほど念押しするの…」


正野が明智の様子を見て剣持に話しかけた。
剣持は先ほどの明智の様子を思い出し『そういえばそうだな』と返す。


「彼女ですかね」


何気ない正野の言葉だが…剣持はあの様子からして否定はできなかった。
あれはどう見ても例え仕事でも自分と相手の邪魔をされたくはない反応だった。
仕事柄休暇がおじゃんとなる事も多く、特に警視という立場ならそれは自分達よりも多いはず。
剣持の妻も多少の不満はあれどそれを理解してくれているので多少の愚痴はあれど送り出してくれる。
多少の不満と愚痴はあるが。
大事な事ので(ry
明智ならば仕事に口を出さない女性を選びそうだが、必死になるところを見ると今は口説き中かと剣持は読む。
ならば…邪魔するとどうなるか…剣持は先ほどよりもどんな難事件があっても明智の電話だけはしまい…と強く誓った。

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