(6 / 22) 魔術列車殺人事件 (6)

シャワーを終え、部屋に帰るとシャワーを終えていた明智が本を読みながら時間を潰していた。


「ただいま、健悟兄さん」


彩羽と明智は暗号式の鍵が付けられている2人部屋の個室を取ったので留守にしても盗まれる事はまずない。
シャワー室も4つほどあるので、別々の号車でシャワーを浴び、込む前に部屋に戻ってきた。
どうやら明智の方が早かったようである。
明智は彩羽が帰ってきて暇つぶしに読んでいた本を栞を挟んで閉じ、買っておいた500mlのお茶を差し出した。
それにお礼を云いながら受け取り、乾いていた喉を潤す。


「その薔薇は…」


喉が渇いていたので使用したタオルを仕舞うよりまず喉を潤すのを優先した。
膝の上に畳んだタオルや服を乗せ、お茶を飲んでいると、ふと、明智が囁いた。
その声に彩羽はペットボトルから口を離し明智を見た。
明智の目線は膝の方を向けていたので膝を見る。
膝の上には畳まれたタオルの上に二本の薔薇が乗ってあり、彩羽は明智に事情を説明する。


「ああ、それなら私もそのマジシャンに会ったな…どうやら幻想魔術団と列車の企画だとか…」

「へえ、あの人も幻想魔術団の一員なんだ…じゃああの人のマジック見られるのかな」

「マジックも披露していたし恐らくね……それで彩羽…その薔薇はその仮面の人に貰った、と」

「うん…すごいよね!薔薇を手を使わずに落としちゃうし、その落とした薔薇の花を握ったと思ったら別の一本の薔薇が出て来たし、花が落ちた薔薇を別の薔薇にして戻しちゃうし!私全然分からなかったよ!……って健悟兄さん、薔薇はどうしたの?もしかして捨てちゃった?」


明智も通路でそのマジシャンに会ったらしい。
その時は彩羽のように一対一ではなかったみたいだが、彩羽は明智も同じマジックを披露され二本の薔薇を貰っていると思っていた。
しかし薔薇はどころか花びら一枚もなく、彩羽は首を傾げる。
そんな彩羽をよそに明智は神妙な顔で薔薇を見つめていた。


「私は黒薔薇なんて貰っていないよ…そもそも私達に見せたのはトランプを薔薇に変えてその薔薇の花を落とすマジックだけだったからね…落ちた花はまだ取っている…ほら、真っ赤な薔薇」

「え…じゃあ、なんで私…」

「…彩羽が可愛いから一目惚れしてしまったかもしれない」

「えええ…それはないと思うよ…私なんてあっちからしたら子供でしょ?」


明智や他の乗客が見たのは、トランプからの花を落とすマジックまでだけらしく、彩羽が見せてもらった二つのマジックはなかったらしい。
机の上に置かれている薔薇を彩羽に見せ、彩羽は自分だけ黒薔薇を貰った事に首を傾げた。
彩羽は首を傾げ不思議そうにしていたが、それに対して明智は不機嫌そうに呟いた。
しかし彩羽は全否定する。
そもそも彩羽は甘酸っぱい物語上の恋愛なら好きだが、実際したいとは思っていない。
それは好きな人がいないからかもしれないが、告白なんて一度もされた事がないから自分がモテるとは思っていないのだろう。
一応自分の顔は整っている方だと自覚はある。
だが周りからは可愛い美人だともてはやされても結局はモテないのだから顔が整っていても意味がない…それが彩羽の考えである。


「…そうとは言い切れない」


彩羽の言葉に明智が囁いた。
その囁きは小さくて彩羽の耳には届いていないようで、彩羽は薔薇から明智を見た。


「え…?でも…」

「黒薔薇の花言葉は『憎しみ』『恨み』」

「ええ!?わ、私あの人に恨まれたの!?」

「そして…『貴方はあくまで私のもの』『決して滅びることのない愛、永遠の愛』」

「…!」


花には全て象徴的な意味を持っている。
花言葉としてその言葉は色々あり、同じ花でも意味が違う。
薔薇は愛を表す花で有名だが、薔薇も様々ある花びらの色で愛とは真逆な意味にもなる。
黒薔薇は『憎しみ』と『恨み』という意味がある反面、情熱的な愛の言葉の意味も有していた。
更には…


「確か本数にも意味があったな…二本なら『この世界は二人だけ』」

「…この世界は二人だけ……」


薔薇の本数にもきちんと意味があった。
一本は『一目惚れ』『あなたしかいない』、有名な100本は『100%の愛』、108本は『結婚してください』、999本は『何度生まれ変わってもあなたを愛する』
そして二本は…
彩羽は花言葉も本数の意味も知らなかった。
だから明智からネガティブな言葉を聞き恨まれているとゾッとさせたが、ポジティブな意味では目を丸くさせた。
本数の意味も彩羽は信じられないと言わんばかりの表情を浮かべていた。
その場は静まり返り、ガタンゴトンと列車の音だけが響いていた。


「い、いや…でも…だって…その人とはあの時初めて会ったわけだし…」

「だから一目惚れって言葉があるのだろう…彩羽、その人物には十分に気を付ける様に」

「え、でも…いやいやいや…に、兄さんってば考えすぎだよ…だって花を貰ったのだってマジックだよ?多分私しかいなかったからサービスしてくれたんだと思うよ」

「…………」

「む、無口だったから会話なんて成り立ってなかったし…」

「…彩羽、いいね?」

「………ど、努力…します…」

「……彩羽?」

「りょ、了解です!!」


普通ならサービスしてくれたと思うが、贔屓目で見ても見なくても彩羽は可愛い。
顔の整っている自分も女性には苦労しているので、少女の彩羽が乱暴されないかいつも気が気じゃなかった。
警察をしているとストーカーは少なくない事件だし、最悪ストーカーが相手を殺す殺人事件も何件も扱って来た。
だからこそ心配だった。


(でも…そんないやらしい人じゃなさそうだったけどなぁ…)


彩羽も美少女の自覚があるから人の目線は敏感である。
従兄と比べてしまうと鈍いが、いやらしい目くらいは分かる。
だけどあの仮面の人はそんないやらしい目線は見せなかった。
声も変えていたので男か女か分からなかったから異性かも分からない。
もしかしたら本当にサービスだったかもしれないという気持ちを彩羽は拭いきれず、ギラリと眼鏡を光らせ睨む従兄には頷いて見せたが、どうしても納得がいかなかった。

6 / 22
| back |
しおりを挟む