朝、彩羽は支度をして明智と共に食堂車へ向かった。
空いている席に座り二人はメニューから好きな物を頼み、料理が出来上がるのを待っていた。
「えー、お食事中失礼します!お客様方に朝の挨拶をしたいとロバートが申しております」
「ロバート?」
彩羽が明智とマジックの話や色々な世間話をしていると、彩羽達の席に白い制服を着た人物が歩み寄ってきていた。
その人物の『ロバート』という名前に首を傾げでいるとポケットからひょこりと人形が顔を出した。
『オハヨウ!ヨクネムレタ?』
「わあ!可愛い!」
人形がポケットから出てきて彩羽と明智のテーブルに着地すると二人に挨拶をする。
よく見れば糸は見えず、独りでに動いているようにも見えた。
彩羽は人形が踊る様に動いているのを見て驚きと歓喜の声を零す。
「どうもお騒がせしてすみません」
彩羽が関心しながら見ていると、制服を着た人物が深くかぶっていた帽子を取る。
その人物は女性だった。
「これから私達『幻影魔術団』のメンバーによるマジックショーが始まります!最後までゆっくり御覧になってくださいね!」
車掌だと思っていたのは、幻影魔術団のメンバーで、マジックショーの知らせをしに回っているようだった。
彩羽と明智に一礼するとその隣の席にも同じマジックを披露していた。
「あの人も魔術団の一員なんだ…私と年齢が近いように見えたけど…」
「パンフレットに書かれていないようだし…恐らく見習いか何かだろう」
『マジックをするかは分からないがショーには出るだろうね』、と続ける明智に彩羽は『そっか』と返す。
すると黒のシルクハットとマントを被り杖を持つ男が入ってきた。
「皆さまようこ『魔術列車』へ!私はこの『幻想魔術団』の団長!『ジェントル山神』こと山神文雄でございます!!では我が『幻想魔術団』のマジックショーを心行くまでお楽しみください!」
入ってきたのはこれからショーを見る幻想魔術団の団長だった。
団長はそれだけを言った後、次の号車へと姿を消し、その後暫くすると女性が入ってきた。
「綺麗な人」
「あれはマーメイド夕海…先ほどの団長の妻だ」
その女性は綺麗な人だった。
芸名の通り、ウォーターマジックを得意とする人らしく、持っていたグラスの中に入っている水を棒で叩くと何もしていないのに独りでに水が噴水のように上がっていく。
それを見て彩羽を含めた乗客が拍手を送った。
その後にはトランプマジックを得意とするピエロ左近寺、そして続いてサイコマジックを得意とするチャネラー桜庭が一つだけマジックを披露してくれた。
それぞれマジックを披露し終えると拍手を受けながら一礼し次の号車へ向かった。
「あ、あの子…マジックやるんだ」
桜庭が次の号車へ向かうと次に最初に人形と共に挨拶に来てくれた女の子…残間さとみがマジックを披露してくれた。
『エーッ!ボクソンナコトデキナイヨー!』
「できないじゃない!お前人形のくせに生意気だぞ!ロバート!」
『自分ダッテ新入りデロクナまじっくデキナイクセニ!』
「こいつ!」
『ワッー!人形ギャクタイ!!』
最初に見せてくれたように、ロバートと呼ぶ人形でマジックをしてくれた。
腹話術も得ているのか、声色を変えてロバートと演じ分けて見せてくれた。
漫才のようなマジックに回りもドッと笑いが怒り、彩羽もクスクスと笑う。
しかしふと従兄を見れば、従兄は複雑そうな顔で人形のマジックを見ていた。
残間のマジックも終わり、明智に話しかけようとした時…
「なんなんだあのガキは!!」
「ゆ、由良間さん、落ち着いてください!お客様の前ですよ…!」
茶髪で長髪の男が怒鳴りながら入ってきた。
その後ろを黒髪で短髪の眼鏡をかけた男が続き、由良間と呼んだ長髪の男を宥めていた。
後ろに続く短髪の男は気弱いのか、何かあったらしく怒る由良間に対して慌てた様子を見せていた。
彩羽以外の乗客も先ほどまで笑いに包まれていたが、怒鳴る様な声と共に現れた由良間に号車はシンと静まり返っていた。
由良間は短髪の男の言葉を鼻を鳴らし、さっさと彩羽達のいる号車から出て行った。
「大変お騒がせして申し訳ありませんでした!」
さっさと出て行ってしまった由良間に代わって、短髪の男は乗客に深々と頭を下げ出て行った。
二人が出て行き、車内はざわめきが沸く。
「あの人は?」
「ノーブル由良間…スタンダップ・マジックの貴公子と呼ばれているマジシャンだ…短髪の男は…恰好からしてマネージャーなのだろう」
何かあったのか気になるところだが、水を差された感が否めず文句も出そうな口に水を飲んで言葉共々飲み込んだ。
重い溜息も一緒に飲み込んだその時、後ろの号車から何かがはじけた音がし、彩羽はビクリと肩を揺らした。
「な、なに!?」
彩羽は振り返り後ろの号車を見る。
周りもその音に先ほどよりざわめきが強くなり、更には後ろの号車から『爆弾じゃねえの!?』という騒ぐ声が聞こえ、彩羽達のいる号車の乗客たちも慌てはじめる。
するとその後ろの号車から車掌が現れた。
「失礼します!先ほどこの列車に爆弾が仕掛けられたとの電話がありまして…5分後に停車いたします!大至急準備をお願いいたします!」
車掌の表情からも焦りが見え、訓練でも冗談でもないことが分かった。
爆弾と聞きパニックを起こす客もおり、その場は騒然となる。
すでに扉には人だかりが出来、車掌は冷静に対処をする。
「爆弾とは…それはまたずいぶんと物騒な話だな…」
「兄さん…」
パニックを起こしている乗客に対し、明智は冷静だった。
仕事柄冷静さは失わないようにしているのだろう。
彩羽は不安そうに従兄を見るも、明智は安心させるよう笑みを浮かべ彩羽の頭を撫でる。
7 / 22
← | back | →
しおりを挟む