(8 / 22) 魔術列車殺人事件 (8)

その場は何とか怪我人もでず皆荷物の準備に向かった。
彩羽も明智と共に部屋に戻り出してあった荷物をカバンに詰めて5分後に着く貨物駅まで部屋で待っていることにした。
5分はあっという間のようで長く感じた。
車掌が駅についたので落ち着いて避難をするよう乗客に声をかけ、それに従って彩羽と明智もカバンを持って通路へ出る。
狭いため皆並んで順番に外に出ると、貨物駅以外ほとんど建物がない草原のような場所に出た。
爆弾騒ぎがなければ広々とした風景を楽しんでいたところである。
明智は警察として車掌に話を聞きに行っており、彩羽はポツンと一人佇んでいた。


「せっかく楽しい旅行だったのに…出鼻をくじかれた感が否めない…」


爆弾を仕掛けられているという列車を見上げながら彩羽はガクリと肩を落とした。
お礼と謝罪を込めてこのツアーを勧めたのは義父だった。
母の癇癪は義父もよく知っており、明智に対して信頼もあったためか今回の旅行は珍しくも義父が勧めてくれた。
正直義父からの提案というのが気に入らないが、義父が短く日を跨いてまた外出どころか外泊を許すことは一生にあるかないかの珍しさもあって、素直に受け取った。


「あれ…あそこにいるのって…」


はあ、と溜息をついているとふと見知った人影に気付いた。
その人影に近づくと…


「あ、やっぱり!美雪ちゃんとはじめちゃんだ!」


人影とは、金田一と美雪だった。
他にも二人ほど傍にいたが美雪と金田一との二度目の再会に彩羽は嬉しくて二人に声をかける。
美雪の肩を叩けば、二人も彩羽の姿に驚いた表情を浮かべていた。


「彩羽ちゃん!?」

「彩羽!なんでここに!?」

「私は旅行だよ…ってここにいる人全員幻想魔術団のショーを見に来てる人だし…美雪ちゃんとはじめちゃんもでしょ?」

「あー…俺達は…その…」

「金田一君達は警視庁宛てに届いた脅迫状の件で来ている…でしたよね」


改めた事を聞く金田一に首をコテンと傾げると金田一からは歯切れの悪い言葉が返ってきた。
それに訝し気に見ていると、後ろから明智が現れた。
彩羽の隣に立つ明智に金田一は『げ』とあからさまな表情を浮かべ、それを見て彩羽は『はじめちゃん、相変わらずだなー』と苦笑いを浮かべた。
明智も金田一の反応はいつも通りと思っているのか触れずにスルーをする。


「脅迫状って?」

「何者かが警視庁宛てに『銀流星』に魔法をかけると脅迫めいた文章で送ってきた…と聞いた」

「え゙、それは…その…一体誰からでしょうか…」


金田一と美雪の傍にいた二人の内一人…剣持も明智の姿にギョッとさせた。
休暇を取る際『決して連絡しないこと』と真顔で云われたのも昨日のように覚えており、顔が青ざめる。
更に明智のランデブー(死語)の邪魔をした上に、すでに事情が漏れており、もしや部下が連絡したのかと思い恐る恐る問いかければ…『先ほど車掌から聞きました』と返され、剣持はホッと安堵の息を吐く。
ほっと息を吐く剣持をよそに明智は溜息を吐く。


「困った人ですね…ありもしない爆弾騒ぎに踊らされて…」

「なっ…なんですと!?」

「オッサン!俺もそう思うぜ!おそらくこの列車には爆弾なんて仕掛けられてないよ!」

「金田一!お前まで…」


剣持は明智と、更には金田一の言葉に目を丸くした。


「で、でも…はじめちゃん…あの時確かに私達の目の前でサラダが爆発したのよ?」

「私達のところまでその音が聞こえたよ?」


サラダが爆発、というのは彩羽は分からないが、爆発のような音は彩羽も聞いていた。


「そもそもあのバラのサラダが問題なんだよ」

「え?」

「サラダが爆発したのは剣持のオッサンを刑事と知っていた犯人が脅しをかけるつもりで小型の爆弾を仕組んだに違いない…だが『犯人』は"いつ"このサラダに細工をしたのか…」


金田一達の席には注文をしていない薔薇のサラダが届けられた。
しかしそれは犯人からの贈り物で、彩羽が聞いた爆発の音はそのサラダに仕組まれた小型の爆弾だったらしい。


「この食堂車の食事はすべて車内のキッチンで作られているはず…列車の外にいる人物がどうやって車内のキッチンで作られたサラダに細工なんて出来るんだ?」


確かにと彩羽は思う。
確かに、ここがもし普通のレストランなら犯人が外にいる可能性もあるが、届けられた時は列車は走っており、外から細工が出来るような隙はない。


「それに奴から電話がかかってからあのサラダが爆発するあのタイミングの良さ…まるで奴は俺達の行動や反応を間近で見ながら操作していたみたいじゃないか」

「そ、それじゃあ…まさか…」


剣持のポケットに剣持の携帯ではない見知らぬ携帯が入っていたらしく、タイミング良く掛かってきたその携帯の相手は警視庁に脅迫を送った『地獄の傀儡師』と名乗る人物だった。
金田一達の傍にいた見知らぬ人影の一人、佐木の言葉に金田一は頷いて見せた。


「ああ!『地獄の傀儡子』を名乗る人物はこの列車に乗り込んでた可能性が高いってことさ!」

「――という事ですよ剣持君…まさか自分が乗ってる列車に爆弾を仕掛ける人もいないでしょう?」


もしかしたら彩羽の隣の席の人や、隣の部屋の人、横切った人が爆弾を仕掛けた犯人かと思うとゾッとさせる。
しかし自分のいいとこどりをする明智にぐぬぬと悔し気に顔を顰める金田一と、キラキラと背景を光らせる明智とのいつものコント(?)を見て緊迫した気持ちが落ち着きを取り戻す。


「そ、それじゃあ…さっきの電話はただのイタズラ?」

「しかし、ここまで大騒ぎになってしまっては仕方ありません…ここは『犯人』の思惑通り避難してあげようじゃありませんか」


犯人に騙されたと項垂れる剣持を余所に、明智は乗客を乗せ直すよりも、犯人の思惑に乗るのを選んだ。
金田一もそれに異論はないのか何も言わず、金田一と明智に置いていかれている彩羽と美雪はお互い顔を見合わせた。


 乗客にも少し下がるよう指示をし、皆固唾をのみ爆弾が爆発するのを待つ。
犯人からの電話で指定された時間まであと数秒を切り、彩羽は緊張した面持ちで列車を見ていた。


「そろそろ時間だ…」


剣持が腕時計を見ると指定された時間に針が迫っているのが見えた。
すると、時間ピッタリに車両からドン、と大きな音と共に何かが上空へと上がっていき破裂したような音を立て空中で爆発した。
その爆発と同時に何かが当たりに振って落ちてきて彩羽はその落ちて来た物を手の平で受け止めた。


「バラの…花びら?」


それは真っ赤に染まった赤い薔薇の花びらだった。

8 / 22
| back |
しおりを挟む