(9 / 22) 魔術列車殺人事件 (9)

結局、薔薇の花吹雪以外何もなかったので騒動も収まり車内も一応点検をした後乗客全員乗り込んで出発した。
明智と彩羽と再会した金田一達はゆっくり話せる場所へと移動する。
そこは食堂車で、お昼のピークも過ぎているのでそこには人はあまりいなかった。
初対面の佐木の紹介と、蝋人形の際ちょっと挨拶した程度の剣持とも紹介も終え、明智の隣に座り、注文した飲み物を飲みながら彩羽は明智を誘ってショーを見に来たことを話す。


「毎年今頃にあると終点の死骨ヶ原駅のホテルで恒例となっている彼らのマジックショーが観られるんです…それに彩羽が誘ってくれたんですよ」

「お母さんが健悟兄さんに迷惑かけたし、ドイツ城の時ウィルを助けてくれたから…そのお礼と謝罪を兼ねてね…それに兄さんはマジック好きだもの」


母、と聞いて一瞬金田一達の空気が沈んだのを彩羽は感じたが、それを不思議に思う前に金田一が『へー、なんか意外』と零してその雰囲気は流れていった。


「こう見えても私は大の奇術ファンでしてね…」

「明智警視がねえ…」

「金田一君…完成されたマジックは完全犯罪のようなものなんです…まさに一分のスキもない…ある意味芸術の域に達していると言ってもいいでしょう…――もっともその素晴らしいマジシャンには日本では一人しかめぐり合ってませんがね…」


やはり彩羽は明智経由でマジックを見たことがある。
経由といっても明智がしているところを見ているとかではなく、時折ショーに誘われるのだ。
義父からの許可が出れば彩羽もマジックショーを何度か見ており、純粋に楽しめた。
明智程ハマってはいないが、彩羽も嫌いではなく、今回のショーも楽しみにしていた。


「明智さん、それは?」

「今回のマジックショーのパンフレットですよ」


もの寂し気に呟く明智も気になるが、ふと手元にある物も気になり問うと、渡してくれた。
それは幻影魔術団のパンフレットで、メンバーも顔写真ありで乗っていた。


(このおばさん…さっきの魔術団のメンバーの中にはいなかったな…)


その中で金田一が気になったのは、食堂車で見た魔術団の中にはいなかった女性の顔写真だった。
残間は見習いなため載っていないが、その女性以外は全員一通り観客に顔を見せていた。
明智にこの人物の事を聞こうとしたその時―――電話が鳴り、金田一達に緊張感が走った。


「!――花火の送り主からですね」


明智も表情を険しくさせ、電話を見つめる。
電話は金田一が取った。
すると電話から地獄の傀儡子の機械で偽装している声が流れる。


≪いかがでした?私からのプレゼント…真紅の薔薇の花吹雪は≫

「あんた一体―――」

≪さて次はお待ちかね死のマジックショーの始まりですよ―――舞台はコンパートメント5号室…≫

「何だって!?」

≪このマジックの題は『天外消失』――モチーフは紅い薔薇と色とりどりの風船…そして…―――後は見てのお楽しみですよ≫


金田一達はすぐさま地獄の傀儡子の言う5号室へ向かう。
彩羽も明智達を追うように続けるが、『死のマジックショー』という言葉に不安が積もる。
金田一達が言われた場所へと急いでいたその時―――女性の悲鳴が聞こえた。


「さとみさん!?」

「どうした!!」


悲鳴は近くから聞こえ、5号車の扉を開けると残間が座り込んでいるのが見えた。
慌てて駆け寄れば残間は震える指で目の前の一室を指さす。
金田一達がその一室を覗き込むとそこには―――…

――死体となった団長が薔薇と風船に囲まれて横たわっているのが見えた。


素人の彩羽の目にも団長は死んでいると分かった。
彩羽は腕を掴まれ後ろへ下げられた。
その掴んだ人物を見れば明智だった。
明智は彩羽に『見ないように』と目線で指示をし、彩羽は死体に対して動じないが、好き好んで死体を見る趣味はなく頷いて後ろに数歩下がる。
下がった彩羽に明智は死体と現場へと目線を戻す。
数歩下がると彩羽は人とぶつかってしまった。


「ご、ごめんなさい!」

「大丈夫です」


慌てて振り返れば、見覚えのある顔だった。
知り合いというわけではなく、怒る由良間を宥めていた短髪の男性…――幻想魔術団のマネージャー、高遠遙一だった。
足を踏んだわけではなく、軽くトンとぶつかっただけだが、高遠は気にした様子もなく、彩羽はホッと胸を撫で下ろす。


「一体何の騒ぎなんですか?」

「え、えっと…その…団長さんが……死体で見つかって…」

「だ、団長が!?」


高遠も騒ぎに駆け付けたのか、入り口は明智と金田一と剣持で塞がっており、何かあったのか近くの彩羽に聞いて来た。
彩羽は話していいのか迷ったが、マネージャーなら話しても構わないだろうと思い素直に話す。
団長の死に高遠は目を丸くして驚き顔を青ざめた。


「『地獄の傀儡子』の野郎!今度は本当に…!」


ついに地獄の傀儡子は殺人を犯した。
剣持は薔薇を退かそうと手を伸ばすも、棘が付いているのかチクリとした痛みに手を放す。
人を殺した犯人への腹立たしさもあり、チクリと刺した薔薇に八つ当たりするように剣持は薔薇を払いのけようとする。
しかし…その時、どこからか煙が立ち込めはじめた。


「ま、まさか…爆弾!?」

「!――皆逃げろ!!!」


誰かが言ったかは分からない。
ただその言葉でその場は騒然となった。
剣持は扉を閉め、近くにいた金田一を押し倒して伏せ、彩羽は誰かに引っ張られ押し倒された。
剣持の言葉にその場にいた全員が伏せた瞬間、爆ぜる音と何かが割れる音が当たりに響く。


「あ、あれ…」

「もう終わり…か?」


爆弾、と言う割には勢いもなければ、爆弾というよりは爆竹ような軽い音だった気がした。
何かが割れる音とは恐らく風船だろう。
彩羽はふと横を見れば明智がおり、彩羽を押し倒して伏せさせたのは明智だったらしい。
彩羽を咄嗟に庇ったのだろう。


「彩羽…怪我は…」

「ううん、ないよ…ありがとう…」


音も止み、被害もなく皆恐る恐る起き上がる。
彩羽もゆっくりと体を起こし、明智の問いに首を振って答えた。
彩羽に怪我がないと知り明智は安堵の表情を浮かべながら、彩羽の頭を撫でた後扉を開けようとする金田一と剣持の所に戻った。


「ない…!山神団長の死体が消えている…!!」

「…!」


部屋を覗く金田一達の言葉に目を丸くさせた。

9 / 22
| back |
しおりを挟む