(11 / 22) 魔術列車殺人事件 (11)

劇場はホテルを出てすぐのところにある。
周りが底なし沼の多い場所だからか他に建物はなく、劇場は池の真ん中に建てられており、橋を使って渡る。


「マジックショー見に来るの久しぶりだなぁ」

「彩羽ちゃんはよく見に来るの?」

「うん、幻想魔術団じゃないけど健悟兄さんに誘われて見に行ったりするよ」


席は基本自由席らしく、丁度人数分空いている場所に座る。
必然的に仲のいい美雪の隣に座り、始まるまで他の観客同様他愛ない話をしながら時間を潰していた。
すると上演の開始を知らせるブザーがなり、当たりは薄暗くなっていく。


≪皆さま――ようこそ死骨ヶ原ステーション劇場へ!私は『幻影魔術団』の由良間と申します≫


幕の前にパッとライトが当たり、立っていたのは由良間だった。
団長が亡くなったため代役なのだろうが、由良間にいい印象のない美雪は『ゲ』と嫌そうに顔を顰めた。
拍手を受けながらショーは開幕した。
最初はチャネラー桜庭だった。
サイコマジックを得意としており、太鼓を空中に浮かせ、更にはバチが独りでに動き太鼓を鳴らしていく。
桜庭の後は夕海だった。
夫を亡くした悲しみも見せず笑顔で水中から脱出するマジックをやり遂げる彼女には同じ女として尊敬できた。
きっと愛した人を亡くした直後に悲しみを隠して舞台に立つことは彩羽には出来ないだろう。
プロはすごい、と再確認した後は左近寺のカードマジックだった。


「さーて!次はお待ちかね!我が幻影魔術団が誇る『生きたマリオネット』だよ!」


そして、左近寺が終わると出てきたのはバニー姿の残間だった。
女でもバニー姿の同性を見て『おお』と思うのだが、バニー姿を一番喜んだのは男連中だった。


「わっ残間さんだ!あの人中々ザンマっすね!」

「うんっキュートなナイスバディ!」

「…………」

「…………」


残間が嫌いなわけではない。
良い子だと話をしていないが思っている。
…が。
ジロリと美雪は鼻の下を伸ばしてデレデレしている幼馴染と後輩を睨んだ。
彩羽も無言で明智を見る。
疑ってはいないが明智も男である…可能性は0ではあるまい。
――が、明智は残間に無反応だった。
無反応と言ったら残間に失礼だが、金田一と佐木のようにデレデレはしていない。
それに彩羽はホッとしながら…美雪、そして彩羽は最後に剣持を見た。
剣持も男のため若干デレッとしていたが…女二人の目線に気付きサッと表情を引き締めた。
ここが経験の差なのだろう。
ジト目で見てくる少女二人に剣持は気づいてないように装いながら冷や汗をかく。
するとふと照明が落とされ、舞台にライトが当たる。
それに生きたマリオネットの開始だと彩羽と美雪も男連中を睨むのを止めて舞台を見た。
そこには、様々な小道具が置かれており、椅子には大きな人形が座っていた。


≪僕はマリオネット…操り糸で動かされるだけの悲しいマリオネット…でも僕は自由になりたい!≫


拍手と共に人形…マリオネットが動き出す。
上から操っているのか、長い糸と共にマリオネットは関節を動かし椅子から立ち上がって動いていた。
すると机の上に置かれていたハサミが独りでに動き始め、上から垂れている操り糸を全て切ってしまった。


≪バンザイ!僕は自由だ!もう誰も僕を操ることはできない!!≫


マリオネットを操るために必要な糸を全て切られたのに、マリオネットは倒れた後独りでに立ち上がって自由になったと飛び跳ねて喜んだ。


「わっ!動いた!」

「すごーい!糸が全部切れたのにどうやって操っているのかしら?」

「へっ!ありゃ元々黒い糸で操って…」

「でも縄跳びしてますよ」

「じ、じゃあ…両サイドから糸で引っ張って…」

「すごい!今度は二重跳びしてますよ!わっ!今度はX跳びだ!」


彩羽も糸が切れているのに動くマリオネットを見て他の観客同様拍手を送った。
金田一は種を暴こうとはするが、種は見つからず、素直に楽しんでいた。
縄跳びをやめ、次は自転車に乗る。
器用に舞台を漕いで周っていたが、障害物とぶつかって倒れてしまう。


≪アッ!大変だ!早く元に戻らないと!――ア、アレ?何かヘンだぞ!?≫


倒れてしまった拍子にマリオネットの身体はバラバラになってしまった。
慌てて体を集めて体を元に戻すマリオネットだが、手と足を間違えて組み込んでしまい、そんなマリオネットに観客たちからは笑いが起こる。


≪アア…僕もう疲れたヨ…やっぱり普通のマリオネットに戻りたい…≫


手足を戻し、マリオネットが椅子の上に疲れたように座ったその時――電話が鳴った。
その電話が誰かなど、確認するまでもない。


≪いかがですか?幻影魔術団のマジックショーは≫

「『地獄の傀儡子』!」

≪おや?『生きたマリオネット』はもう終わりの様ですね…≫


電話の相手は団長を殺した犯人でもある『地獄の傀儡子』である。
先ほどまで楽しんでみていた彩羽達に緊張が走った。
どこからか見ているのか、地獄の傀儡子の言う通り上から降ろされた操り糸がマリオネットと繋がった。


≪でも本当のお楽しみはこれからですよ?最後にこの私が滅多にお目にかかれない大マジックを皆様にお目にかけましょう!≫

「何だって!?今度は何を…」

≪さあ!『死のマジックショー』第2幕です!≫


その瞬間、ライトが全て落とされた。
一瞬にして光りを失った劇場は周りが見えないほど暗闇に包まれ、観客は騒めいだ。
暗いため状況は分からないが、観客はショーのひとつだと思っているようだった。
しかし金田一達と一緒にいた彩羽はそう思えず、不安に駆られつい明智の服を掴む。
そんな彩羽に明智は安心させるように彩羽の手を取って握ってくれた。
そう短くない時間…暗闇だった世界が突然光りを得た。
パッとライトが舞台を照らす。


「――っ!」


彩羽は舞台を見つめ、息を呑んだ。
ひらりと紅い花びらが舞うように落ちていく中…マリオネットがいた場所には―――由良間の死体が座る形で置かれていた。


「きゃあああ!!」


悲鳴とざわめきが劇場に響く。
彩羽はほんの数秒の間にマリオネットと入れ替わる様に由良間の死体が現れ唖然としていた。
しかしすぐに明智に『見るな!』と目を覆われてしまった。
だが、由良間の死体が目に焼き付いてしまっているためか、隠されても脳裏には由良間の死体の光景が残っていた。


「ゆ、由良間さん…!!」


舞台裏から団員達が駆けつける。
剣持達も舞台へ急ぎ、明智は彩羽に『そこにいるように』と指示をしてから行ってしまった。
金田一達も行ってしまったためか、一人取り残された彩羽は観客席から明智達を見送る。


「ひ、人が死んでるの…!?あれ…!」

「団長が死んだばっかりだっていうのに…」

「どうなってんだよ!!」


やはり由良間の死体を見ても彩羽は何も思わなかった。
動じないわけではないが、人より動揺は軽い。
周りの観客の騒めきを聞きながら彩羽は捜査をする明智達を見つめていた。

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