由良間は死体となって見つかり、当然ショーは中止になった。
各部屋に戻る団員をよそに、マネージャーである高遠と見習いである残間は後片付けに追われていた。
「…………」
金田一は舞台を見て回った後、舞台裏で考え込んでいた。
「はじめちゃん!何か分かった?」
「いいや、なにも…」
由良間殺害の際のトリックを考えていると美雪と佐木が様子を見に来た。
美雪の問いに首を振る金田一だったが、お腹の虫が鳴る。
「そういやメシもまだだっけ…」
「あ!私お菓子持ってるけど食べる?」
ホテルに着く前から爆弾騒ぎや殺人騒ぎなどで食べる暇もなかった金田一のお腹は空っぽだった。
それは美雪達も同じで、料理ではないが持ってきていたお菓子を食べる事で空腹を満たそうとする。
お菓子を持ってると言う美雪の言葉に金田一は美雪を見るも、持っている物と言えば小さなポシェットのみ。
『どうせ飴玉か何かだろうな』と思いながも飴一つでもないよりはましだと思った金田一だったが…
「えっと、ポッキーでしょ、いちごの里でしょ、ヘンゼルパイに、パクパクチップにソルテクッキー!どれ食べてもいいよ!」
「…ど、どうなってるんだ?このポシェット…」
出てきたのは、どう見ても小さいポシェットには入らないだろう大きさのお菓子が山ほど出てきた。
某未来型ロボットのポケットのようなポシェットの中を金田一は覗くが、異次元に繋がっているようには見えなかった。
至って普通のポシェットなのに大量に出て来たお菓子を見て金田一と佐木はこれ以上突っ込むのはやめよう、と考えるのを放棄する。
「高遠さんとさとみさんもお菓子一緒にどうですか?」
不思議がる男達をよそに美雪は残間と高遠を誘う。
忙しそうにしているのは分かるが、自分達だけ食べるのも気が引けたのもあったし、大勢で食べた方が美味しいし楽しいというのも本音だった。
「いや〜すみませんね〜、実は僕達もゴハンまだでして…」
「じゃあお言葉に甘えて!」
「どうぞどうぞ!遠慮なく!」
高遠達も団長の行方が知れず、ホテルに着けば団長は死んでおり、更には由良間も殺され、食べる暇どころか休憩する暇さえなかった。
誘われたのでその好意に甘え、ダンボールをテーブルに見立てそれぞれ好きな場所に座って食べる。
「あっ!コレもいい!こいつももらい!」
「少しは遠慮したらどう?はじめちゃん…」
遠慮なくとは言ったが、それは残間と高遠に言ったわけで…金田一が無遠慮に美雪が出したお菓子を片っ端から手を出していく。
それに呆れたように見る美雪。
その二人を残間はクッキーを食べながらにやにやと見つめており…
「仲いいね、君たち…ひょっとして恋人同士?」
その言葉に美雪は食べていたポッキーを折り、金田一は詰め込んだお菓子を喉に詰まらせた。
「や…やだ!こんな奴!だたの幼馴染ですよ!!」
美雪は慌てた様子で金田一の背中を叩く。
喉を詰まらせていたので丁度良かったと言えばよかったが…金田一も美雪の言葉に何度も頷いていた。
しかし二人の顔は真っ赤に染まっており、どう見ても照れ隠しにしか見えない。
「――と、いう仲ですよ」
「複雑ね〜」
その為か、ただの幼馴染という言葉を残間にも高遠にも、更には佐木にも信用されなかった。
「あ、ここにいたんだ」
「彩羽ちゃん」
熱い顔をパタパタと手で煽って冷ましていると、舞台から舞台裏を覗く様に彩羽が顔を出した。
彩羽は美雪達を探していたようで、目的の人達を発見しホッと安堵の表情を浮かべていた。
「どうしたの?」
「健悟兄さんから1人は危険だから迎えに行くまではじめちゃんたちのところにいなさいって言われて…私もお邪魔していいかな?」
「勿論!一人じゃ寂しいもんね!」
明智は警視として剣持と仕事をするため彩羽から離れている。
その間彩羽を部屋に帰そうかと思ったらしいが、部屋に返してもただ心配をするだけだと先ほどで学んだらしく、どうせなら美雪達と一緒に行動すれば安心だと思ったらしい。
彩羽の説明を聞いて美雪は嬉しそうに笑い、金田一は『相変わらずのシスコンだなー』と零す。
ビデオを撮っている佐木は美人が増えるのは大歓迎ですよと彩羽にカメラを向けながら歓迎してくれた。
残間も異論はなく笑顔で迎えてくれて、高遠も『どうぞどうぞ』と席をずらし自分の隣を空けた。
隣を空けてくれたので彩羽は高遠の隣に座る。
「君もお友達?」
「はい、巴川彩羽と言います…えっと…」
残間が知り合いらしい彩羽に話しかけると、まだ名前も教えていないのを思い出す。
「巴川…彩羽…?」
「?、はい…巴川彩羽ですが…」
高遠は彩羽の名を聞いて目を見張る。
驚いたような顔に彩羽は首を傾げたが、巴川家は知っている人間は知っている有名な家柄なので、どこかで聞いた事があるんだろうという認識しかなく高遠を怪しむことはなかった。
「彩羽ちゃんはお兄さんいるんだ」
「はい…兄と言っても従兄ですけど…」
「彩羽ちゃんのお兄さん、あの明智警視なんですよ!」
残間の問いに彩羽が訂正し、美雪が付け足してくれた。
彩羽が明智の従妹と知り残間は驚いた顔をする。
明智が有名というわけではなく、殺人事件が起こり駆け付けて聞き込みなどで顔を合わせていたから知っていた。
「やっぱりね〜!あのイケメン刑事さんと同じで彩羽ちゃんも美人だものね!」
「ですよねー!やっぱり血は争えないっていうか!でも明智さん、ああ見てえ彩羽ちゃんの事溺愛してるんですよ!」
「分かる!こんな可愛い子身内にいたら私も溺愛しちゃうかも!しかも年離れてるし余計よね!」
明智の身内と聞き残間は納得したように頷いた。
イケメンの身内はやはり美女、と納得する残間とそれに乗る美雪に彩羽は褒められ慣れていないせいか照れ笑いを浮かべる。
食べようとポッキーの箱を手に持っていた彩羽はきゃっきゃとはしゃぐ女子二人に居たたまれなくなり、つい箱で顔を隠した。
しかし、ふと目線を感じて、そちらに目をやると高遠がこちらを見ているのに気づく。
しかし彩羽を見ているのではなく、その後ろを見ていた。
彩羽は後ろに何かあるのかと後ろを振り返った。
「どうした?彩羽…後ろになにか気になるモノでもあるのか?」
「え…いや…えっと…高遠さんが私の後ろを見ていたから何かあるかなーって思って…」
彩羽が後ろを振り返ったため、それに気づいた金田一がお菓子を食べながら聞く。
聞かれても彩羽としては高遠が彩羽の後ろを見ていたので気になって振り返っただけで深い意味はない。
困ったように零せば高遠は今気づいたようにハッとさせて彩羽に慌てて謝った。
「す、すみません!巴川さん!ついジロジロと見ちゃって…」
「高遠さんったら!彩羽ちゃんが可愛いからってジロジロ見ちゃ失礼ですよ〜!」
謝り倒す勢いの高遠に今度は彩羽が慌てた。
腰の低い高遠には慣れているのか、残間は冗談を言って笑った。
「でもそんなに何を見てたんです?」
「えっと…その…巴川さんのリボンが気になっちゃって…」
残間の問いに高遠は照れたように頬をかきながら答えた。
彩羽はリボンと聞き、髪に手を伸ばす。
「これですか?これ古い物なのでボロボロだし…多分高い物じゃないから価値はないですよ」
シュルリと解いて高遠に差し出せば、高遠は恐る恐ると言わんばかりにそっと優しく受け取った。
高遠が見ていたリボンは彩羽の宝物である。
一見してボロボロで使い古されているリボンは、彩羽以外の人間からしたら即ゴミ箱行きの品物だった。
元は艶やかだったが時間が経つにつれ紫外線を浴びたりなどで色素が薄くなっており、柄は花柄で、使い古されているためかくたびれていた。
「本当だ…お気に入りなのね」
残間も気になったのか、高遠の手にあるリボンを横から覗き込む。
人に言われるとボロボロのリボンをしている事に恥ずかしさはあるが、どうしてもウィル同様手放せずにいるものだった。
「これ…もしかして子供用ですか?」
リボンを見つめていた高遠が恐る恐る彩羽に問うと彩羽は目を丸くして高遠を見た。
「よく分かりましたね…そうです、子供用なんですよそれ」
「へえ…そう言われてみれば長さが短いもんね」
普段はリボンまで見る人はそういないが、普通は古めかしさばかり目がいきがちでこのリボンが子供用だと気づいたのは高遠だけだった。
残間も言われて気づいたくらい普段は誰も気づかない。
「誰かからの贈り物ですか?」
「え?」
「あっ…すみません…えっと…こんなになるまで大切にするのってよっぽどのお気に入りか、大切な人からの贈り物かなって思って…その……あの警視さん…とか…」
高遠の問いに彩羽はキョトンと呆気にとられた表情を浮かべる。
目を瞬かせて固まったような彩羽に高遠が慌てて言い直す。
その言葉に彩羽は困ったような笑みを浮かべる。
「いえ…その……そのリボンを自分で買ったのか、誰かに買ってもらったのか…覚えていないんですよ…」
「覚えてない?」
彩羽の言葉に高遠だけではなくその場にいる全員が首をかしげた。
彩羽は高遠の手の平からはみ出て垂れているリボンの端の裏からちょんちょんと遊ぶように触れる。
「私3歳からの記憶がなくって…気付いたらウィルとこのリボンが傍にいてくれて…だからこのリボンは記憶のない過去の自分と今の自分を結ぶ大切な物なんです…」
「記憶が…ない…」
リボンを見つめるその目は悲し気ではあったが、愛し気でもあった。
彩羽は3歳までの記憶がない。
医師には記憶喪失だと言われ、いつか思い出すと慰められたが、今でもまだ記憶が戻る事はなかった。
だけど両親はそれでも大切にしてくれたし愛してくれた。
だから昔を思い出そうとしないで、今を大切にしていた。
高遠はそれを聞いて呆然としていたが、金田一と美雪は身を乗り出して彩羽に迫る。
「記憶喪失ぅ!?」
「彩羽ちゃん!私そんなの聞いてない!」
「え、言ってなかったっけ?」
「「聞いてない!!」」
今知った衝撃の事実――である。
金田一と美雪は声を揃えて怒鳴るような声をあげ、彩羽は身を引かせて『ご、ごめん…』と謝った。
まさかここまで怒られるとは…と思っていると彩羽の手を誰かが握り、彩羽はそちらに目をやる。
そこにいたのは高遠だった。
高遠はリボンをダンボールの上に置いて真剣な顔を浮かべて両手で彩羽の手を握ってた。
「あ、あの!!」
「は、はい!」
「ウィルって誰ですか!!」
勢いが強すぎて彩羽も声を大にして返事を返した。
何を聞かれるのか緊張していると、高遠の質問に彩羽は…否、その場にいた高遠以外が目を点にして呆気にとられた。
金田一は彩羽の手を取り真剣な表情で見つめる高遠を見て『ははーん』と何かに気付いたようにニヤつき、未だに呆気に取られている彩羽の肩に腕を回し高遠から自分の方へ引き寄せた。
「高遠さん!駄目駄目!彩羽にはこわーーい舅がいるんだから!!手を出したら高遠さんじゃ歯が立たないどころか瞬殺だって!!」
「もしかして…舅って…健悟兄さんの事…?」
「え?他に誰がいんの?」
「……………うん、いないね」
彩羽に悪い虫がつく、と金田一は揶揄い半分、本気半分で高遠に釘を刺す。
『舅』、と聞き彩羽は真っ先に浮かんだのは従兄だったが、確認するとやっぱり従兄だった。
他にいるかと問われ一応考えてみるが…やっぱり出てきたのは従兄だった。
遠い目で答える彩羽に金田一はニッと笑って『だろ?』と答えた。
その笑みにつられて笑えば握られている手の力が強くなったのを感じ、高遠を見る。
高遠の"表情"は優男として泣きそうな顔をしているが…彩羽はその目からはどうしてか怒りの色が見えて困惑した。
自分より鋭い金田一が何も言わないので恐らく自分だけが気づいた色だろう。
何を怒っているのか分からないが、温厚の人がキレると怖いとどこかで聞いたので慌てて高遠が質問した『ウィル』の事を教えた。
「ウ、ウィルは人形なんですよ!」
「人形?」
「そうです!クマのぬいぐるみです!えっと…大きさはこれぐらいで茶色い生地で…柄は違いますけどそのリボンと似た色のリボンをしていて……それで………つい最近…いなくなっちゃいました…」
慌ててウィルの事を教えれば、紛れていた悲しみが蘇った。
ポロっと彩羽の大きな瞳から涙が溢れ、それを間近で見た高遠はギョッとさせたように驚き慌てふためいた。
それは金田一達も同じで、金田一達も泣き出した彩羽に慌てた。
「ど、どうした!?」
「ごめっ…思い出して…」
「思い出したって…何があったの?彩羽ちゃん…ウィルがいなくなったって言ってたけど…」
金田一は驚き彩羽の肩から手を放したが、驚きながらも高遠は彩羽の手を放さなかった。
手を繋がっていない手で涙をぬぐう彩羽に美雪が心配そうに声をかけ、彩羽はゆっくりと話した。
「私、お母さんに連れ戻されたよね…あの後お母さんがウィルを捨てたの」
「ええ!?ウィル捨てられちゃったの!?彩羽ちゃんがあんなにも大切にしてたのに…」
「明智さんが命辛々助けたウィルを捨てたのかよ…!!見た目も変わったけどやっぱ中身も変わっちまったんだな…オバサン…」
確かにウィルは正直に言えば汚い人形でしかない。
しかしそれは彩羽じゃない他人から見た印象であって、彩羽にとったら大切な家族だった。
それは従兄の明智も理解しており、友人である金田一と美雪も理解していた。
なのに彩羽の母親であるはずの初音は理解もせず彩羽の大切な物を捨てたのだ。
それも血の繋がりがないとはいえ甥が命辛々救った人形を、である。
見た目も変わったが、明智の言う通り外見だけではなく内面も変わってしまった幼馴染の母親に金田一と美雪はあまりいい印象は持てなかった。
「ウィルは…ずっと傍にいてくれたから…私の家族なのに…それなのに…っ」
彩羽は考えないようにしていたのもあって涙が止まらなかった。
母の性格が変わってから彩羽は居場所がなかった。
明智がいるが、明智とは住んでいるわけでもなく移動が大変な他県に離れてしまっている。
更には休みも不定期な警視という立場もあってか頼れなかった。
その寂しさや辛さをウィルが和らいでくれたのだ。
そんなウィルを母である初音は捨てた。
それも彩羽が取り戻さないように燃やして、だ。
よっぽどウィルを嫌っていたらしい母とは未だに口を聞いていない。
彩羽は止めようと涙を拭うも溢れたものは中々止まってくれなかった。
「あっ!駄目だよ彩羽ちゃん!そんなに擦った…ら……」
美雪は力を入れて擦る彩羽を止めた。
せっかく美少女なんだからというのもあったが、何より舅…もとい、明智からのクレームが来る可能性が高いのだ。
まあフェミニストなので主な被害者は金田一ではあるが。
しかし美雪は最後まで言えなかった。
それは―――
「ん、」
高遠が彩羽の目元に唇を寄せたからだ。
予想だにしていなかった高遠の行動にその場にいる全員が開いた口が塞がらなかった。
高遠は彩羽が目を擦る手を取り、両手を塞ぐ。
彩羽が手を取った高遠に顔を上げて見上げると、その目元に高遠は唇を寄せた。
舌で涙を舐め取り、瞼にキスをする。
なぜか彩羽はそれを受け入れ、黙ってされるままになっていた。
「キャーー!キャーー!!」
「ワーーーっ!!ワーーーっ!!」
何度も慰めるように、ちゅ、と愛らしいリップ音をさせる高遠に、我に返った金田一と美雪が声を上げた。
声を上げたというよりは悲鳴を上げた。
彩羽の隣に座っている金田一は咄嗟に彩羽を抱きしめて慌てて隅へ避難し、同時に金田一と美雪の叫び声で我に返った残間が高遠の首根っこを掴んで離させた。
キャーキャーワーワーと騒ぐ中、佐木だけは驚きながらもばっちりいつもの仕事をこなしていた。
「た、た…高遠さん!!!何やってるんですか!!!このロリコン!未成年相手じゃそれ犯罪ですよ!!」
「さ、さとみさん!未成年相手じゃなくても恋人じゃないならそれはセクハラですから!!」
静まり返っていた静けさがあっという間に騒がしくなる。
金田一達の声に高遠も我に返ったのか、ハッとさせた後顔を青ざめ彩羽に向かって土下座をした。
「す、すみませんんんん!!!な、泣いていらしてたので慰めなきゃって思って…!」
「だ、だからって涙を舐める奴があるか!!あ、あんたヘタレかと思ったらとんだ狼男だな!!おい!美雪!明智さんいないよな!?」
「ま、待って!見るから…!」
ドッドッド、と金田一は心臓が大きく鼓動をしていた。
青い顔で土下座を繰り返す高遠に噛みつくように声を上げるが、当の本人は目を瞬かせまだ呆けていた。
そんな彩羽を余所に金田一は彩羽を降ろして背中に隠しながら美雪に鬼の舅がいないか確認させる。
美雪が慌てて舞台裏の隠れる場所全てを探し、舞台まで覗いた後『誰もいないわ!』と報告した。
明智がいないと知った金田一はホッと安堵の息を吐く。
「大丈夫か!?彩羽!」
シスコン明智があんなセクハラな場面に遭遇したらまず被害は自分にくるのは確かである。
通常でもイヤミを言われてげんなりするのに、彩羽関係ではそのイヤミもレベルアップされるので避けれるなら避けたい。
明智がいないと安堵しながら彩羽を気遣うように声をかければ彩羽は金田一の声かけで今何をされたか気づいたように顔をあっという間に真っ赤に染め、熱くなった顔を手で押さえながら金魚のように口をパクパクさせていた。
「ち、違うんです!巴川さん!!」
彩羽が茹蛸のように赤くするのを見て高遠もあわわと慌てだし、彩羽に誤解を解こうと近づく。
しかし、その間に金田一が入り彩羽に触れる事は愚か手の届く範囲まで近づく事も出来なかった。
「ちょっとストップ!これ以上は近づかないでくださーい!」
まるでスタッフのような金田一のSTOPに高遠は立ち止まり、仕方ないと言わんばかりに金田一の背に隠れる彩羽に必死に弁解する。
「ち、違います!巴川さん!その…そ、そういう意味で触れたわけではなくてですね…!」
「そういう意味じゃないならどういう意味なんだよ!ありゃどう見てもセクハラだろ!」
「で、ですから…!」
シャー、と威嚇をしながら彩羽を背中に庇う金田一に高遠はあわあわと冷や汗を流す。
このままでは性犯罪者にされてしまう!、と高遠も必死だった。
しかし気弱な彼が金田一の威嚇に勝てるわけもなく…暫く攻防戦が続いた時…
「あ、あの…」
今まで顔を真っ赤にさせ固まっていた彩羽がひょこりと金田一の背中から顔を出した。
まだ顔は赤かったが、茹蛸状態の時よりは赤みは引いていた。
両頬に手を添えながら恐る恐る高遠に声をかけると、両者言い合いがピタリと止まる。
全員の視線を一身に受けながら彩羽は目線を泳がせた後高遠へ目線を向けた。
「た、高遠さんは慰めてくれようとしてたんですよね…なのにびっくりして隠れてごめんなさい…」
彩羽は『気にしてないので大丈夫です』と続けながら金田一の背中から出て高遠の傍に近寄る。
後ろから金田一の止める声を聞きながら彩羽は高遠の手を取った。
高遠と目が合うと彩羽は微笑みを向け、高遠の頬が赤らんだ。
「別に気を使わなくてもいいんだぜ、彩羽…彩羽は訴えてもいいセクハラを受けたわけだし…」
「でもはじめちゃん…誰だって咄嗟の行動ってあるじゃない?あの時手も塞がっていたし…突然泣き出したら誰だって驚くよ」
「いやだからって17歳の涙を舐めないだろ」
金田一の突っ込みに彩羽は苦笑いを浮かべた。
「私、その…そういう、気持ち…結構敏感で…すぐに気づくの…でも高遠さんからはそんな気配感じなかったし…それに…分からないけど…嫌じゃなかっていうか…」
「嫌じゃなかったぁ!?」
「お、驚いたからかもしれないけど!だけど…嫌だって思ったら突き飛ばしてたと思うし……私は高遠さんの純粋な気持ちだって信じてる」
「巴川さん…」
「高遠さんのおかげで涙も止まったんだし…もういいんじゃないかな…」
どう見ても邪心しか感じなかったんだが…と金田一は思ったが、彩羽が気にしていない様子だったため、これ以上長引かせて騒いでも明智に知られて金田一がお説教エンドになるだけなので彩羽の気持ちを尊重する事にした。
「ったく…わーったよ!あんたも命拾いしたな…明智さんに知られたらあんた多分殺されてたよ」
「こ、殺されてたって…金田一君、またご冗談を…」
「いや、あの人なら躊躇いもなく殺ってたね…彩羽に関したらあの人心狭いから」
「…………」
とりあえずは許したが、またうっかりセクハラされたら厄介だと彩羽は高遠の向かいに座る佐木とその隣に座る美雪の間に座らせる。
冗談のような事を零す金田一に高遠は笑うも、真顔の金田一の返しに美雪と佐木を見る。
二人に振り返れば、佐木はカメラを向けていたが、美雪は高遠と目を合わせないようサッと顔を逸らした。
それで金田一の言葉に信ぴょう性が高まり高遠は顔を引きつらせた。
彩羽の『流石にそれは大げさだよ〜』とのんびりな声に高遠は乾いた笑いを零した。
「とりあえず佐木はさっきの映像は消す事、いいな?」
「ええ!?どうしてですか!?」
「殺されてもいいなら残していていいけどな…彩羽関係の時の明智さんじゃ助けられないからな」
『俺、死にたくないから』と続ける先輩に佐木は『はい!消します!!』と即答で返した。
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