(16 / 22) 魔術列車殺人事件 (16)

―――昨日、彩羽が部屋に籠っていた間、金田一達は幻影魔術団に事情聴取を行っていた。
事情聴取と言っても聞いたのは近宮玲子の事だったが。
『生きたマリオネット』の事を聞くと、そのマジックを知っているのは死んだ由良間と団長、そして夕海と左近寺だけだったらしい。
ただ、左近寺に団長の謎が解けていないと突っ込まれすぐに解散となったらしいが。
その割には帰りが遅かったと思っていると、昨夜佐木の撮っていたビデオを見ていたらしい。
そのビデオに映っているソレに気付き、今回は団長の謎を解くため幻影魔術団のメンバーを呼び出したと言っていた。
近宮玲子と関わりが強い事件というのもあって、明智も行くつもりだった。
彩羽を気遣ってホテルに残るかと問われたが、彩羽は即答で『行く』と答えた。
躊躇った明智だったが、彩羽の『せっかくの旅行だしウダウダ考えるのはやめた!』という言葉に渋々であるが承諾した。


「一体どういう事なんだ?こんなところに呼び出して…」

「死体消失のトリックが分かったって言ってたけど…」


呼び出されたのは彩羽も行きで乗ってきた銀流星の車内だった。
すでに金田一は列車でトリックの準備をして先に乗っており、左近寺達の後に彩羽達も続く。
昨日の今日で呼び出しを食らい、あまり機嫌のよろしくない左近寺は愚痴る様に呟く。


「!――ちょっとなによこれ!」


金田一がある個室の前に立っており、夕海が金田一の前のその個室を覗き込む。
そこには薔薇一面の床と風船、その中心に仰向けで横たわる人形が置かれていた。
それはまさしく…


「山神団長の時とそっくりだわ…」

「そう…現場はあの日と同じ状況にしてある…死体が人形になってるって事以外はね」


団長が列車の中で死体として見つかった状況と同じだった。
使用した人形は『生きたマリオネット』で使っていた人形で、佐木がこっそり幻影魔術団から拝借したものである。
薔薇も本物を使っており、風船の数も同じにしてある。
彩羽も中を見たが、団長の時は見る前に明智から遠ざけられていたので『こんな感じだったのか』程度の感想だった。


「あの事件は1本の電話で幕を開けた…『地獄の傀儡子』に呼び出されてこの個室に来た俺達は薔薇に囲まれて横たわる山神の死体を発見…――トゲだらけの薔薇に阻まれては入れずにいると突然部屋の中から発煙筒の煙が流れてきて…――驚いた俺達は一旦退却!」


金田一は持っていた一つの発煙筒を点火し、ポイッと部屋に投げ入れた。
その後すぐに扉を閉め、数歩後ろに下がる。
すると乾いた音が部屋の中から聞こえた。


「この音…!」

「風船が割れる音!?」

「あの時と同じだわ!」


この音は彩羽も聞き覚えがあった。
現場は直接見ていないが、あの時は爆弾かと思い明智が彩羽を押し倒し避難してくれたのだ。
結局爆弾ではなかったが。
その音は風船が割れる音だったらしい。


「時間にして1〜2分…音が止んだのを見計らって俺達は再びドアを開けた」


音が止み、扉を開けると誰もが目に映った光景に目を丸くさせ驚愕する。
そこには…


「ない!?人形が消えてる…!!」


横たわっていた人形が消えていたのだ。
風船も全て割れてしまっており、残ったのは風船の残骸と薔薇のみ。


「ちょっと人形をどこにやったのよ!」

「慌てない慌てない!人形なら…ほら、あそこだよ」


トリックも驚きだが、何より商売道具が消えた事に夕海が金田一に問う。
勿論金田一は既にトリックが分かっているから慌てることはなく、隣の部屋を指さした。
隣を見れば…


「アロハ〜!」


ひょこっと人形が顔を覗かせた。
続けて佐木も顔を覗かせ、先ほどから佐木の姿がない理由が分かった。


「不可能だ!トイレの窓は少ししか開かないのに…これじゃ人形を外に出せませんよ!」

「それじゃあ…どうやって…!?」


隣はトイレだった。
新幹線より遅いとはいえ、走っている列車の速度は速いため、窓から乗り出して転落事故を防ぐためにトイレの窓は半分以上開かないようになっている。


「確かに列車の窓から体全部を出すことは出来ない…だけど頭とマントだけならあの窓でも通るんだよ」

「え…だって私達が山神団長を見つけた時にはちゃんと体がありましたよ?」


佐木は人形の首の辺りを掴んで体がない事を皆に見せた。
第一発見者である残間の疑問の言葉に金田一は佐木からカメラを預かりある画像を見せる。
『よく見てくれ』とカメラの画像を見せる金田一に左近寺達はその言葉通りによく目を凝らしてみる。


「妙な所はない?」

「妙な所…?」

「!――手が…!団長の手が浮いてる…!!」


画像は列車で佐木が映した団長の死体の動画だった。
怪訝とさせながらも注意して見ていると、残間がある事に気付く。
団長の左手が宙に浮いていたのだ。


「人間の手がこんな小さな風船で宙に浮くわけがない」

「マントの下にあったのは…――これさ!」


明智の言葉に金田一が続け、見せたのは…――風船だった。


「風船!?」


金田一は長細い風船を膨らませ、その風船の先に手袋をはめた。
するとあっと言う間に人間の手のようなものが出来上がる。


「犯人はこんな感じでマントの中に人間の形をした風船を詰め込んだんだ…あとは隣のトイレの窓から紐から頭とマントを手繰り寄せれば体の部分の風船は部屋中に敷詰められた薔薇の棘が刺さって割れてしまう」

「要するに部屋中に浮かんでいた風船はカモフラージュになるわけですね」

「ああ…もしマントの中の風船だけを割ったら…音と残骸でトリックがバレちまう…でも他に沢山の風船を浮かべておけば音も残骸も他の風船に紛れてしまうことになる」


トリックを見破る金田一に誰もが黙り込み驚きが隠せなかった。
ただ…


「いやーすごい!全く感心するよ!でもさ!名探偵君!それじゃあ、もし誰かが山神団長の身体に触ったら一発でバレちゃうじゃない!」


誰も口出しが出来なかった中、左近寺は疑問に思った事を口にする。
確かに死体を見つけてその人間と親しい人は駆け寄る。
死体だと分かっていても親しければ親しいほど死体に触れる可能性はゼロではない。
それを指摘した左近寺に夕海も同調したが、金田一は顔色一つ変えずその疑問点も説明した。


「だからこそあの個室には薔薇のツタが張ってあったんだよ」

「んなもん、引きちぎっちゃえばそれまでじゃん?」

「だが一瞬の足止めにはなる!それで充分だったんだ…」

「足止め…?」


金田一は左近寺の言葉に再び関入れず答えた。
彩羽も流石に首を傾げて呟き、その呟きに金田一は頷いて返す。


「ああ…すぐ後に犯人はもっと効果のある『心理的バリケード』を用意していたからさ!」

「心理的バリケード?」

「例の爆弾騒ぎ…。山神が殺害される少し前、列車は一度犯人の爆弾予告のために大騒ぎになった…その直後に本物の死体を見せられて煙が吹き出し始める…皆が爆弾を連想させたのも無理はない…俺達は誰も山神に触れることはできなかった」


心理的バリケード…それがあの爆弾騒ぎだった。
彩羽もあの爆弾騒ぎはよく覚えており、あの時は本当に爆弾が仕掛けられたと思い驚きや怯えも強かった。
しかしそれこそ犯人の狙いだったらしい。
爆弾騒ぎがあったから団長の死体を見つけた際上がった煙をみんなが爆弾と勘違いした。
そして先ほどのトリックが成功したのだ。


「あれ?その後は?」

「その後って?」

「嫌だなあ刑事さん!団長の身体ですよ!ホテルで発見された時団長の身体はちゃんとあったでしょ?何しろ!俺達は列車から降りる時、厳重に荷物検査を受けているんですよ?あの状況で団長の体を持ち込むなんて不可能ですよ!」


団長の死体が消えたトリックは分かった。
反論もない見事な推理だが…その後の疑問点が浮き彫りになる。
団長の死体の喪失のトリックは分かったが、その後列車が終着駅に着いて降りた後、幻影魔術団を含めた乗客の荷物は全てチェック済みだった。
結果、何もなかったのだが…それをどう説明するかと言われた金田一は無言を貫く。
何も言わない金田一に左近寺は二やついた顔を隠しもせず続ける。


「その謎も解けてるんじゃないの?名探偵君?まあ素人にしちゃ上出来ですよ!将来はマジシャン?なーんてね!」


左近寺はそう笑い声を上げながらその場を去っていき、それに夕海達も続けた。


(なに、あの人…)


左近寺は芸名にピエロと名前を付けている。
その名の通り、ピエロのようにおどけてはいるが、あまり好意的にはとらえられなかった。
それは彩羽が金田一の友人だからかもしれないが、柔らかな態度や言葉にどこか見下したようにも聞こえるのは確かである。

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