場所を変え、彩羽達はロビーにいた。
「くそぉ!左近寺の奴!デカい態度をとりやがって!!奴が犯人なのは分かってんだ!もしかしたら夕海と共犯って事も…」
彩羽達の中で剣持が一番憤怒していた。
よほど舐めたような左近寺の態度が気に入らないのだろう。
「そうとばかりは言えないでしょう…ひょっとしたら事件の真相は思わぬ方から出てくるかもしれません」
「思わぬところ?」
彩羽は金田一達と常に行動を共にしているわけではないため、誰が怪しいのか分からない。
ただ、左近寺はあまり好きではないタイプだ…とは思う。
それが犯人に繋げるつもりはないが、少なくとも関わりたくはないと彩羽は思う。
しかし対して明智は冷静だった。
金田一の問いに明智はチラリと彩羽を見て口を噤んだが、金田一達の目線に『例えば…』と閉ざしていた口を開く。
「例えば、左近寺達が4人で作ったという生きたマリオネットのマジックですが…実は5年前に死んだ彼らの死…近宮玲子の作った物だとしたら…」
「何だって!?」
「なぜ警視がそんな事を…」
「本人の口から聞いたんですよ…近宮玲子、本人の口から…」
明智は例えば、と言っていたがその口調や表情からは確信を得ているようにも見えた。
世間では『生きたマリオネット』は『幻影魔術団オリジナルのマジック』として広がっている。
それなのになぜ知っているのか…剣持が問えば明智は思い出を語る様に答えてくれた。
「マジック好きの私は近宮玲子のショーに足しげく通う内に彼女と口を利く様になりましてね…あれは…私が研修でロス市警に赴く日、空港のロビーで偶然会った時の事です…」
明智は近宮玲子と知り合いになり、よく親しくしてもらっていた。
近宮玲子も有名なマジシャンとして日本は勿論世界で公演をしており大忙しの生活をしていた。
その時に明智が研修でロスに向かうために向かった空港でばったりと会ったのだ。
その時の会話も光景もはっきりと鮮明に覚えている。
近宮玲子はその時、新しいマジックを考えていた。
それが―――後の『生きたマリオネット』になるマジック。
近宮玲子が明智にマリオネットを見せ、『マリオネットの糸が切れて動き出したら面白いと思わない?』と言った。
『人形が縄跳びしたりボール投げたり!』、と楽しそうに話し、明智も『自転車に乗ったり』と何となく提案する。
その提案を近宮玲子は『自転車!?それいい!いただきね!』と明智の発送を貰っていた。
その際にネタを忘れないように近宮玲子はあるものを出した。
それが…
「手帳!?」
手帳だった。
近宮玲子はマジックが浮かんだ際、すぐメモできるようにトリックノートと呼ぶ手帳を持ち歩いていた。
その手帳にネタを忘れないように書き込んでいるのを明智は目の前で見ていた。
「じゃあそのノートには彼女が演じてきた名マジックのタネが全て書かれているんですね」
「…いえ…彼女はその時こうも言っていました…―――『このノートに書いていある『マジック』は自分が演ずるのではなく…全てある人に『プレゼント』するためのものだ』、と」
佐木の関心したような言葉に明智は意外にも首を振った。
近宮玲子のトリックノートは自分のためのものではなかった。
近宮玲子は『いつか『あの人』が舞台に立つことになった時これが役に立てばと思ってね…』と。
そのために少しずつ書き溜めており、それは今の近宮玲子が『あの人』にしてやれる事だと悲し気な顔で言っていた。
―――そして、その数週間後、明智は近宮玲子の死を聞いた。
「彼女の死に疑問を感じて私は帰国後彼女の転落事故に関する資料を調べました…そうしたら案の定―――彼女が常に持ち歩いていたはずのあの『トリックノート』がなくなっていたんです」
「!、それじゃあまさか…――近宮の弟子だったあの4人が彼女を殺して『トリックノート』を奪ったと…!?」
不審に思い調べてみれば案の定疑問点だらけだった。
それを聞いて彩羽はなぜ従兄が自分に目配せをしたのか分からなかったが、続けられた言葉に納得した。
「私はそう考えています」
「とすると…この犯行の動機は―――」
「"復讐"」
「…!」
証拠がないため逮捕が出来ずにおり、明智は悔し気な表情を浮かべていた。
唖然とする金田一の言葉を……彩羽が遮る様に零した。
先ほどまで黙って聞いていた彩羽が突然話に入ってきたことに金田一達は彩羽を見る。
彩羽は膝の上に置いている手をグッと握り、無表情を浮かべていた。
優し気な少女の顔に感情が消え、金田一達は驚き…明智は顔を顰めていた。
彩羽、と名を呼ぼうとした明智の耳に左近寺の声が届く。
「気を付けて運べよー」
「えっと…これで全部ですね…」
左近寺だけではなく、高遠や桜庭、残間の声も聞こえ、彼らの声は明智だけではなく金田一達にも聞こえていた。
声のする方へ振り返れば高遠達が荷物を纏め、ロビーにいた。
「ちょっと!あんたら何してんだ!」
「何って…この荷物を宅配便で送るんですよ!団員5人じゃこの荷物は多すぎますからね」
今回の事件の関係者のため、何をやっているのかと近づいてみれば、人数的に運べない荷物を事務所まで送るために準備をしている所だった。
ダンボールに纏められた荷物一つ一つに宅配便の用紙を貼り、すぐに到着する列車に積むつもりだった。
彩羽もそちらに向かおうと立ち上がったその時、横から手を掴まれた。
手を掴んできた相手は勿論…
「なに?兄さん」
明智である。
というよりは、自分達以外左近寺達の方へ行ってしまったため明智しかいない。
明智は従妹の問いに神妙な表情で見つめる。
「彩羽…先ほどの話はもしもの話しであって、決してそうだとは決まっていない」
明智の言葉や表情に彩羽は目を瞬かせたが、困ったように眉を下げ小さく笑った。
ソファに座りなおし握られている明智の手をしっかりと握り返し、真っすぐ彼の目を見つめた。
「心配させちゃってごめん…でも大丈夫、あんな人のために私は人生を台無しにしたくないもの…兄さんが心配しているような事には絶対にならない」
この従兄が一番心配しているのは…彩羽が罪を犯す事。
人を殺す事である。
それは自身が警視だからだとか、キャリアを傷つけたくないからだとか、出世したいからとかではなく…純粋に、兄として…一人の男として、彩羽を心配しているのだ。
それは彩羽にも痛いほど伝わっており、だからこそ自分の気持ちを伝えた。
とは言え、何故か彩羽は今回の動機が『復讐』だと思っていた。
金田一や明智のように推理したわけでも根拠や証拠があるわけでもなく…非科学的な『勘』である。
だから金田一達には言えなかった。
ただの『勘』だけで人を犯人扱いしているのだ…言えるわけがない。
安心はまだしていないようだが、とりあえずは信用してくれたらしく、明智からは安堵の息が吐かれた。
「佐木!お前確か列車が爆弾騒ぎで止まった時ビデオ回してたよな!?見せてくれ!」
「え!?は、はい!!」
明智は所謂馬鹿な考えをしていなかった従妹に安堵していると、金田一達に何か動きが見えたのに気付く。
金田一達の方へ目をやれば、金田一が佐木の撮ったカメラを持って戻ってきた。
ソファに座る金田一の周りに剣持達が集まり、金田一の持っている佐木のカメラを皆で確認する。
それに明智と彩羽も加わり、カメラにはあの爆弾騒ぎで乗客全員が外に避難する場面が映っていた。
彩羽から見たら何の変哲もない列車が並んで止まっている画面しかなかったが、金田一と同様の頭脳を持つ明智には何か気づく者が映っていたらしい。
「金田一君…これは…」
「ああ、やっぱりな…思った通りだ…」
この中で勉強が出来るのは恐らく金田一意外。
だが、謎解きや推理が出来るのは、金田一と明智のみ。
二人だけ気づいたものが彩羽達には全く分からなかった。
「やっぱりって…これで一体何が分かるんだ?」
凡人には全く理解できないものに、剣持が首を傾げながら二人に問う。
その時…――――夕海の悲鳴が響いた。
その夕海の悲鳴に彩羽達は夕海の部屋へと急ぐ。
「夕海さん!夕海さん!!!」
「どうしたんです!?」
「中で音がしますよ…!」
しかし、夕海の部屋には鍵がかけられており、ドアを叩いても夕海からの返事はない。
佐木がドアに耳を寄せると中から微かだが音が聞こえた。
それが夕海の音なのか、それとも…
悲鳴を聞いた以上黙って見過ごす事はできず、剣持が体当たりでドアを開けた。
「誰もいない…?」
しかし、中に入れば人の気配どころか人影すら見えず、夕海を探すため部屋を見て回った。
犯人がいるかもという恐怖もあって彩羽はピタリと明智にくっついていた。
その時、金田一は窓が開いていたのか風に揺られるカーテンに気付いてそちらに歩み寄る。
カーテンを開けた先に見えたものとは…――
「…っ!」
――木の枝で首を吊られている夕海の姿だった。
完全に息絶えたその遺体に誰もが息をのんだ。
いち早く動いたのは警察二人と金田一だった。
明智は現場のメモを取り、彩羽は美雪と寄り添うように傍にいた。
不安だったのだ。
「でも犯人はどこに?さっき確かに中で物音を聞きましたよ?」
佐木もカメラを回して部屋を見回していた。
ドアに耳を寄せて聞こえた音は確かに人が動いた際に出た音だった。
何をしていたまでは分からないが犯人らしき人がいたのは確かだ。
金田一も注意深く辺りを見渡していた。
彩羽も美雪も金田一達の邪魔をしないよう隅にいたのだが…
「はじめちゃん!?」
金田一が突然走り出した。
何かに気付いたように走り出した金田一を彩羽達も慌てて追いかける。
金田一はそのまま部屋を出て階段を降りて一階にある部屋に入る。
そこは夕海の部屋の真下の部屋だった。
宿泊している客がいないのか綺麗に掃除されており、彩羽から見ても特別気になるモノはなかった。
「どうしたの!?急に!」
「分かったぜ……地獄の傀儡子の正体が…!」
しかし金田一から見た部屋は犯人の手がかりが見えていた。
金田一は謎ばかりだった犯人に気付く。
「本当か!?金田一!」
「ああ!奴は重大なミスを犯した!謎は全て解けた…!」
金田一はすぐに剣持に幻影魔術団を呼ぶよう指示を出した。
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