ホテルの一室に入るとすでに剣持に呼び出された幻影魔術団が座って待っていた。
その中には支配人も呼び出されていた。
左近寺達には伝えていないが、容疑者として呼び出された彼らの座るソファの後ろに明智と剣持が立ち、刑事である従兄の邪魔をしないよう彩羽は美雪の隣に座る。
「金田一君…団長達を殺した犯人が分かったって本当なの?」
残間は不安そうな表情で呼び出した金田一に問うと、金田一は頷いて返す。
その頷きに左近寺は笑って問いかけた。
「面白い…で?誰なんだ?犯人は」
「その前に言っておかなきゃいけない事がある…今回の事件は5年前このホテルの劇場で起きた近宮玲子の転落死と深い関わりがあるって事です」
あちらからしたら面白い出し物程度の認識なのか、軽い問いかけに表情を変えず金田一は静かに答えた。
だが、それは左近寺の望む回答ではなかった。
金田一は犯人ではなく、まず犯人を暴く前に何故か5年前の近宮玲子の事故死について語り出す。
それに一番に反応したのは当時弟子だった左近寺だった。
「あの事故と!?」
「事故じゃない…近宮玲子は…――殺されたんだ」
「!」
左近寺は事故と言っていたが、明智から話を聞いた彩羽達からしたら事故死を装った殺人の印象しか残っていない。
確証はないが、頭の切れる明智が私情で事故死を殺人と疑うわけがないという信頼でもあった。
金田一の言葉にその場の空気は一瞬にして凍り付き、一同全員が左近寺へ目線を向けた。
全員の疑いの目線を受けながら左近寺は引きつりながらも笑って見せる。
「な、なにを証拠に…」
「彼女の弟子だった4人の人物…山神、夕海、由良間、そして左近寺!あんた達が殺したんだ」
「…いい加減にしてくれよ…団長殺しの次は近宮先生殺しかよ…!俺達がどうして先生を!!」
団長殺しを疑われ、次は師である近宮玲子の殺害も疑われ、人が良い顔をしていた左近寺もいい加減堪忍袋の緒が切れそうだった。
大体なぜ弟子が師を殺さなければいけないのか…左近寺は名探偵気取りの金田一を睨んだ。
しかし…
「トリックノートですよ」
「…!」
明智が師を殺める理由を述べた。
明智の言葉に左近寺はピクリと反応し、怒りから焦りの表情へと変える。
何か思い当たるふしがあるのだろう。
明智は左近寺の動き一つ一つを見逃さないように見つめた。
しかし事故以降に入団した残間には『トリックノート』と聞いても訳が分からず首を傾げる。
「トリックノート…?」
「近宮玲子がいつも身につけていたトリックのアイディア帳みたいなものですよ…素晴らしい『マジック』はマジシャンに名誉と富をもたらします…まして天才マジシャン近宮玲子が秘蔵のトリックであれば…それは莫大な遺産を手に入れる事と同じ事です」
近宮玲子は日本だけではなく世界でも有名なマジシャンだった。
近宮玲子は地位や金ではなく、ただ純粋にマジックが好きな女性であり、その好きなマジックで人を楽しませることが…自分のマジックで人が笑顔になるのを見る事が、彼女が仕事をしていて最も楽しい事でもあった。
そんな彼女が考えたマジックは恐らく売り出せば相当な金になるだろう。
マジック一つに金を出すほど、マジシャンとして完成度の高いマジックは宝であった。
「そのトリックノートを奪うためにあんた達は彼女を天井裏におびき出した…そして…転落死に見せかけて彼女を殺害した!」
マジックはマジシャンにとって命そのもの。
そんな地位と名誉が手に入るマジックが詰まったノートを殺してでも奪いたいと思うマジシャンは大勢いる。
その大勢いる中の一人と言われた左近寺は苛立ったように声を零す。
「御冗談を…俺達が近宮先生を殺したっていう証拠はあるのかよ!!証拠は!!」
すでに5年もの月日が経ち、当時の警察も事故死として片付けた。
今更ぶり返そうとする金田一達に左近寺は腹を立てたように叫ぶ。
証拠がないとハッキリと言った左近寺に明智が答えた。
「証拠ならありますよ…貴方達が作ったという『生きたマリオネット』というアイディアを私は生前彼女の口から聞いています」
「そ、そんな…」
物的証拠はないが、証言はある。
アメリカへ行く途中に会った近宮から明智は『生きたマリオネット』の話を聞いていた。
それは立派な証拠だった。
まさか人に話していたとは思っていなかった左近寺は強気だった態度を一変させ、顔を青ざめ明智から目を逸らす。
「近宮玲子の死は警察でも事故として片付けられた…あんたは上手く言ったつもりだっただろうがこの卑劣な犯罪に気付いた者がいた!その人物は近宮玲子を殺した奴らに復讐するために彼女が殺されたこの死骨ヶ原ホテルを舞台にして血まみれの殺人劇を作り上げた!!そしてその殺人劇を実行した人物…――『地獄の傀儡子』はこの中にいる!!」
金田一の言葉に誰もが衝撃が走った。
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