金田一の言葉に呼び出された人達は唖然としていた。
「『地獄の傀儡子』が…私達の中に!?」
「ああ…思いもよらない物が俺に犯人を教えてくれたんだ」
残間の驚きの声に金田一は頷く。
そして、その『思いもよらない物』を剣持に用意してもらう。
剣持が持って来たのは、翡翠だった。
この死骨ヶ原は以前翡翠が採れることで有名だったらしい。
だが、その翡翠も掘りつくされてしまい廃れてしまったのだとか。
ホテルにはその名残に、価値のない屑翡翠を一室ごとに一つ飾っているのだという。
「これは各お部屋に置いてある翡翠…?」
「こんな物で犯人が分かるの?」
翡翠を置かれても残間達にはなぜこれが犯人に繋がるのか分からなかった。
実際まだトリックを聞いていない彩羽もなぜ翡翠がトリックの糸口になったのか分からない。
怪訝とする皆の視線を受けながら金田一は焦らず静かに謎を解いていく。
「この翡翠は元々殺された山神夕海の部屋にあったものだ…ところが彼女が殺された直後、この翡翠は部屋から消えてどういう訳かその真下の一階の部屋から発見されたんだ」
彩羽はなぜ金田一が夕海の部屋の真下にある一室に駆けこんだのかやっと理解した。
彩羽達は気づかないちょっとした事に気付いた金田一は確認するために真下の部屋へ向かったのだ。
そして、金田一は見つけた。
「つまり翡翠を真下の部屋に運んだのは犯人という事になる」
「犯人が翡翠を!?」
「なんでそんな事を…」
「夕海の部屋から逃げ出すためさ!!」
その説明になぜ物音がしたのに人一人いないのか納得がいった。
あんな悲鳴を上げておいて自殺だなんて考えられず、しかし部屋には誰もいない。
ずっと疑問だった事が金田一の一言で解決した。
「犯人にとって夕海が悲鳴を上げ、俺達がいち早く駆け付けたのは誤算だった…一刻も早く部屋から逃げ出さなければならなくなかった犯人は由良間殺害の時と同じシーソーの原理で部屋から脱出することを思いつく!」
犯人は由良間の時と同じく、夕海の体にロープを縛り地面に降ろした後、夕海が首を吊っていたあの木の枝にロープを掛け、夕海の体重を利用して降りようとしていた。
しかし…
「ところがいざ脱出って時に犯人は自分がこのトリックに必要な『条件』をクリアしていない事に気付いた」
「条件?」
「体重ですね」
金田一の言葉に美雪が首を傾げ、明智が続ける。
明智の言葉で彩羽も理解した。
「そう!奴の体重は夕海より軽かったんだ!そこで奴が目を付けたのがこの重さ5キロはあるかというこの翡翠だ」
翡翠がなぜ夕海の部屋になく、その真下の部屋に置いてあったのかと言うと、必要な条件である体重の差を埋めるために犯人が使用したからである。
犯人は翡翠を抱え夕海との体重の差を埋める事で由良間殺害の時のように金田一達から逃げ、その抱えていた翡翠を逃げ込んだ真下の部屋に置いてその場から立ち去った。
「じ、じゃあ…犯人は女の夕海さんより軽い人間って事に…」
「ち、違います!私そんな…っ!」
夕海より軽い人間、と言えば…必然的に男は外される。
呼び出された人達が唯一当てはまるであろう人物――残間を見た。
しかし残間は犯人扱いをされ慌てて否定する。
「待ってください!その前に皆さんに見てほしいものがあります」
金田一はそれを否定も肯定もせず、佐木に何やら準備を頼んだ。
佐木は持っていたビデオを手にテレビへ向かい、ごそごそと作業をする。
見せたいものがあるという金田一に皆テレビの前へ移動した。
「思い出してください由良間が殺された時オッサンが皆の体重を聞いたでしょ?その時の映像ですよ」
テレビに映ったのは彩羽が観客席に待機していた時の映像だった。
すぐに幕が下がり観客が死体を見ないようにしたため彩羽は初見となる。
因みに、あの劇場は密室だった。
金田一が橋を渡った時躓いて橋を動かすレバーを折ってしまい、劇場開始前から橋が上がっており密室状態になっていたのだ。
佐木は見せたい部分まで早送りにし、金田一が指示した場面近くになると再生ボタンを押した。
映ったのは団員が自分達の体重を告げている場面だった。
まず映ったのは桜庭。
桜庭の体重は81キロ。
続いて左近寺…72キロ。
残間は55キロ。
そして……夕海は53キロだった。
「53キロ!?さとみさんは夕海さんより重いわ!」
「それじゃあ犯人は…」
「…この中で夕海より軽い人間は一人しかいない…それは―――」
桜庭、左近寺、残間、夕海と映り、最後に移ったのは…
「高遠遙一!!あんたが山神と由良間、そして夕海の三人を殺害した真犯人――『地獄の傀儡子』だ!!」
―――マネージャーである高遠だった。
高遠が映り、彼は己の体重を50キロだと述べた。
金田一が高遠へ振り返ると、高遠はビクリと肩を揺らす。
顔色も悪く、唖然としていたが、金田一は睨みつける様に高遠を見た。
残間達は自分達のマネージャーが団長達を殺した犯人と聞き驚きが隠せなかった。
高遠はどちらかと言えばヘタレな性格で、人を殺せるような人間には見えなかったからだ。
実際彩羽や美雪も驚いた顔で高遠を見ていた。
「高遠さんが…!?」
「地獄の傀儡子…!?」
残間達は犯人だという高遠から離れる。
唖然とする残間達を尻目に明智は薄々気づいていたのか『やはりそうですか』と冷静に呟いた。
「ま、待ってくださいよ!確かに僕は50キロそこそこしかありませんけど…だから犯人だなんて…そ、そんな…!」
犯人だと言われ周りも信じて離れていくのを高遠は慌てて言い返そうとした。
金田一の推理通りのトリックを使ったのなら、あの中で体重が最も軽い高遠が怪しむのは道理ではあるが、それだけで犯人扱いされるのは納得がいかなかった。
「それに列車で消えた山神団長の死体はどうやってホテルに運ばれたんです!?…列車から降りる時僕も厳重に荷物検査を受けました!あの状況で死体を運ぶなんて不可能ですよ!!」
列車のトリックはもう解決しているのは実証されている。
だが、まだ問題はある。
死体をどこに隠したのかである。
死体を運ぶにしても、車内も含め、乗客全員の荷物を警察が検査をしていた。
それは幻影魔術団全員分の荷物もだ。
「…高遠さん…言ったはずだぜ…この事件の謎は全て解けたって…――当然その死体トリックも解決済みだよ!」
「…っ」
犯人にされてはいそうですかと即答で答える者はそうはいない。
科学が進んでいる現在も冤罪は多く、だからこそ慎重に捜査される。
大人としては『素人探偵』に犯人扱いされて逮捕されたくはない。
しかし、高遠の言葉に金田一は静かに答えた。
金田一は全ての謎はすでに解けている…それは勿論高遠の言った死体をどうやって運んだかの謎も金田一は分かっていた。
「あんたは列車から降ろした死体をある方法で自らは指一本触れずに遠く離れたこのホテルの一室に運び込んだんだ!」
金田一の言葉に真っ先に異論を告げたのは高遠…ではなく左近寺だった。
「そんな馬鹿な…!この死骨ヶ原ステーションには二日に一本しかあの列車は来られないんだぞ!?」
「その大マジックのタネが…これさ」
住居も店舗もこの辺りは建てられていない。
レストランやお土産屋、コンビニなどはあるが、全てホテル内にあるお店で、外に出れば底なし沼だらけである。
そのため頻繁に電車が来るわけでもなく、来るとしたら二日に一本という少ない本数だった。
それを指摘すれば、すぐに金田一はあるものを取り出した。
「それは…トレイン急便の伝票だわ!」
「あんたは死体消失のトリックに必要な山神の頭部だけを残し首から下を宅配便の荷物としてホテルに送ってしまったんだよ!!」
金田一が取り出した物とは、乗客を運ぶ列車とは別に荷物を運ぶ貨物列車の伝票だった。
普段はホテルの必需品などを主に運んでもらうのだが、幻想魔術団のようにお客の大荷物を運んでもらう事も多々ある。
その中に死体を紛れ込ませたと金田一は推理した。
山神の遺体をバラバラにして…
残間や美雪などの女性、気弱そうな桜庭などは山神の首を切断したというグロさに顔を顰めたり顔色を青くさせたが…やはり彩羽はそれほど顔色に変化はなかった。
傍から見れば『度胸がある』『冷静なんだな』と思うが、彩羽は『死体を見ても感情があまり揺らがなくなってしまった』のだ。
動じていないように見えているだけであって、人並みの動揺は勿論ある。
ただ彩羽は人の死を他人事にしか捉えられなかった。
そんな彩羽をよそに高遠は金田一の推理を鼻を鳴らすように笑う。
「ハッ!真面目な顔して何を言うのかと思ったら…宅配便なんて列車の中からいつどうやって出しに行くんですか?それに団長の死体が発見されたのは僕らがホテルに着いたすぐ後でしょ?出したその日のうちに届く宅配便なんて聞いた事ないですよ!」
宅配便は普通、出掛ける前に出す物で、出しても一日で届かない。
通販なら最速という手もあるが、出したものは人間の身体という大きな荷物である。
それを指摘すれば金田一は高遠の言葉をバッサリと切り捨てた。
「ところがあるんだよ!」
「!」
金田一が関入れず自分の指摘を切って捨て、高遠は目を丸くさせた。
「その秘密はあの日マジックショーの後に起こった爆弾騒ぎさ!」
「なに!?あの爆弾騒ぎが!?」
「ああ!一見犯人の"お遊び"のように見えたあの爆弾騒ぎは実はこの『死体移動トリック』のある重要な役割を担っていたんだ!!」
爆弾騒ぎは彩羽も覚えており、記憶に新しい。
一見、犯人が金田一達を馬鹿にしたような騒ぎは実際は意味があった。
それを証明するため、金田一は佐木の撮った動画を少し戻した。
「あの日、マジックショーの後俺達のもとに犯人から列車の爆破予告電話ががあり、乗客を避難させるべく列車は近くの貨物駅で緊急停車した…ここからが問題だ!よく見てくれよ?この時ホームの反対側に停まっている…この列車を!」
少し戻して停止し、再び再生する。
薔薇のサラダが爆発した後に爆破予告を受け、画面は車内から外へと移る。
そして、目的のモノが映ったのを見て金田一は一時停止のボンタンを押した。
指差された場所を皆が目を移すとそこには…
「これは…トレイン急便だわ!」
貨物列車であるトレイン急便が移っていた。
「そう!そしてこの宅配便の荷物専用の貨物列車は俺達が死骨ヶ原駅に到着した時も映ってるんだ!」
更に進めて死骨ヶ原駅の画像を見せる。
そこにも金田一達が乗ってきた列車の反対側に、トレイン急便が停止してるのが映っていた。
「高遠さん…あんたは俺達の列車があの貨物駅に差し掛かるころを見計らって爆破予告の電話をかけた…トレイン急便が停まっているはずの貨物駅に緊急停車させるためにね!」
犯人はトレイン急便に積まれるように計算し、山神の死体を詰めたバックを持ち、同じサイズ、同じ柄、同じ色のバックを枚持って送り、そして持っていたバックと取り替え、先に着いた荷物だけをホテルに送ったというトリックである。
「でもはじめちゃん…荷物の送り先は?」
荷物検査しても死体が一つも見つからない謎は解決した。
しかし、美雪の疑問通り…荷物のトリックは解けたがその先がまだ疑問が残る。
「そう…このトリックを完成させるためには荷物の送り先が必要だ…それも幻想魔術団以外の送り先が…それが…都津根毬夫さ!」
「都津根毬夫って…!」
「支配人が言ってた白いゴムマスクの男か…!」
都津根毬夫(とつね まりお)と聞いても彩羽はピンともこない。
それはそのはず。
金田一達が都津根毬夫の名を知ったのは、団長が殺され事情聴取していた際支配人から聞いた話だったからだ。
団長の死体があった部屋はその都津根毬夫の部屋だったらしく、その話を聞いていた時だった。
都津根毬夫という文字を見て佐木が何かに気付き、金田一も名簿にある文字を見てすぐに気づく。
都津根毬夫とは…『マリオネット』という文字に繋がっていたのだ。
その都津根毬夫が高遠の変装だと金田一は推理する。
「あの都津根様が高遠様の変装…?」
「ああ…俺達が付く二日前にあんたはホテルにやってきた!白いゴムマスクで顔を隠した…『都津根毬夫』としてね!列車がこの駅に停車している間に部屋に入ったあんたは急いで別人に変装し東京に戻る列車に飛び乗ったんだ!」
ホテル側が都津根がいないのに気づかれるのはまずいため、チェックインの際ホテルには誰も部屋に入れるなと言って置き、二日間空の部屋を見られないようにし、そして先ほどのトリックを使い、その部屋宛てに死体を入れたバックが届くようにした。
そしてその後都津根ではなく別人としてホテルに着いた後、届いた荷物を解き、団長の死体を捻じれたマリオネットのように吊るした。
残っている頭は使用するため、いつも持っているカバンに入れていた。
明智曰く、マジシャンは客の目から隠したものほど観客から見える位置に置くという。
どうしても隠している場所を見てしまうため、観客にバレやすいのだとか。
その原理で、剣持の前で高遠はスケジュールが詰まっていると焦ったフリをしながら堂々とバックの中を見せる様に開け閉めしていた。
お陰で剣持は引っかかり、その肩に掛けているカバン以外を検査してしまっていた。
「………」
「まだ何か言うことはあるかい、高遠さん!」
高遠は黙り込む。
もはや焦りも見せず、ヘタレのような雰囲気も感じさせなかった。
しかし、その顔からは笑顔が零れ…高遠は溜め息のような息を吐く。
「やれやれ…予感的中だ…せっかくあと一息で僕の一世一代の大魔術は完成するはずだったのに…―――やっぱり君の事…ちゃんと殺してあげるべきだったね、金田一一」
高遠は言い逃れをせずに認めた。
金田一の推理は素晴らしく、だからこそ…高遠は金田一に手を出した。
結果は目の前に立つ彼だったが…高遠は悔しいと言いつつもどこか楽し気だった。
「君の言う通り山神達を殺した犯人…『地獄の傀儡子』とは僕の事ですよ!」
今の彼のと幻影魔術団達と接してきた彼と雰囲気がガラリと変わり、高遠の言葉に誰もが息を飲む。
恐らく今の顔が素顔なのだろう。
彩羽は認めた事よりも、高遠が犯人だという事にショックを受けた。
それほど親しい訳ではなく話したのも列車や舞台裏で長く会話をしたわけではない顔見知り程度の他人ではあったが…なぜか親しみを感じていた。
そのため高遠が犯人と言われショックが隠せなかった。
そんな彩羽とは反対に、剣持は簡単に認めた高遠に関心さえしていた。
「ほう…随分呆気なく認めたな…」
「マジシャンは自分のマジックを客に見破られたら速やかに幕を降ろせってね…」
高遠の言葉に幻影魔術団の団員は怪訝とさせた。
まるで自分がマジシャンだと言っているような口ぶりだったからだろう。
「高遠さん、一つ聞かせてくれ」
「何でしょう」
「なぜあんたは『こんなやり方』を選んだんだ?」
金田一はずっと聞きたい事があった。
犯人が高遠だと気づく前から思っていた疑問。
それを犯人本人に問う。
高遠は小さく笑みを浮かべながら首を傾げ、その問いを聞く。
しかし、金田一の問いに高遠は一瞬笑みを消した。
「これほどの計画を立てられるあんただ…もっとすんなりと奴らを殺す方法はいくらでもあるはずだ…それなのにあんたはわざわざ脅迫状を出して警察を呼んだりリスクがありすぎるぜ…まるでワザと自分を追いつめているみたいじゃないか?」
「………」
金田一はずっと理由を聞きたかった。
犯行はどう見ても頭の切れる人間の犯行だと金田一は気づいた。
ならば、そんな頭のいい人間ならば、なぜわざわざ警察を呼び寄せるリスクを冒してまで犯行に及んだのか…金田一はそれが聞きたかった。
そんな金田一の疑問に高遠はフと笑みを浮かべ、眼鏡を外し、そして…
「だって…つまらないでしょ?ただ殺すだけじゃ…」
高遠ははっきりとそう答えた。
ただの殺人をつまらない、とはっきりと答えた高遠に皆顔を顰める。
「完成された魔術さながらの美しく謎と怪奇に満ちた芸術犯罪を演じ…並み居る観客たちをあっと言わせてみたいんです…―――そう!マジシャンとしてね!!」
高遠は外した眼鏡を高々に放り投げた。
すると放り投げられたメガネはパッと薔薇の花びらへと変える。
花びらが床に落ちていくと一つ残らず消えていった。
「マジシャンだと…!?高遠!貴様一体何者なんだ!」
マジシャンとして、と聞いて、左近寺は聞き捨てならないと言わんばかりに高遠を問い詰めようとする。
そんな左近寺を気にもせず、薄ら笑いを浮かべ、高遠は答えた。
「僕はあなた達が近宮玲子から奪った『トリックノート』の正当な"後継者"ですよ!」
「!――なんだと…!?」
左近寺達は驚く。
そして彩羽も高遠の言葉に目を丸くして驚愕した。
しかし明智だけは何かに気付いた様子を見せる。
「やはりそうか!君は近宮さんの…」
「―――そう…僕は左近寺達に殺された天才マジシャン近宮玲子のたった一人の息子です!」
高遠の言葉に誰もが驚愕した。
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