(4 / 37) 黒死蝶殺人事件 (4)

金田一と美雪は、ある男に呼び出されその場所に向かった。


「金田一!!頼む!この通りだ!!」


パシン、と手と手を合わせる男…いつき陽介を見下ろしながらズズと音を立て残りのジュースを飲みほし、困ったような表情を浮かべる。


「巴川家の取材の口利きっつってもなぁ…確かに俺と美雪は彩羽の幼い頃の友人だったし、最近再会してから連絡は取り合ってるけど…でもいつきさん、それは俺らと彩羽の繋がりってだけで巴川家との繋がりは皆無だぜ?」


金田一はいつきに呼び出され、ファミリーレストランにいた。
好きなもん頼めと言うので好きな物を頼み、今はデザートも妙らげ食後のジュースを嗜んでいた。


「それをどうか口利きしてくれねえか!?」

「大体いつきさんは刑事事件とか芸能関連の記事が専門だろ?なんで巴川家の取材なんだ?」

「いや…それはそうなんだが…まあ、一先ずはこれを見てくれ」


いつき陽介とはある事件で知り合ったが、その付き合いは長くはないが、そう短くはない。
金田一の性格もあって、彼とは上手く繋がっていた。
警察とは別の意味で頼れる存在だった。
たまに世話になっていたりするのであまり頼みごとを無下にはしたくはないが、金田一も出来る事と出来ない事がある。
大体だ。
大体…彩羽との繋がりはあるが、その再婚相手の巴川家との繋がりは皆無である。
むしろ関わりたくはない。
脳裏に彩羽の母を思い浮かべ気分を害しながら金田一はいつきの頼み事が妙だと思った。
いつき陽介という男の仕事はフリーライターというもので、その中でも分野が別れる。
フード、音楽、美容、金融、医療等ありきたりなものからマイナーなものまでフリーライターと言っても幅広い分野がある。
いつきはその中でも少し特殊で、刑事事件を得意としており、芸能関連も記事にしている。
彩羽は確かに金田一達と二度程事件に巻き込まれたし、彩羽の身内にいけ好かないイヤミ警視がいるが…話に聞けば今回は彩羽に用があるわけではないようだった。
それを問えばいつきはある記事を取り出しテーブルに広げた。


「『絶滅種の蝶を甦らせた男』?…これがなんだよ」

「ほら、よく見ろって…蘇らせた男の名前!」

「なになに…?『巴川修蔵』?」

「巴川って今の彩羽ちゃんと同じ苗字だわ」

「確かに…でもそれが彩羽と何の繋がりがあるんだよ」


巴川修蔵と聞いても金田一と美雪には誰の顔も浮かばなかった。
記事に乗っているくらいだから有名なのだろうが、まったくピンと来ない。
二人が同時に首を傾げるのを見て、いつきもコテンと首を傾げた。


「お前ら知らないのか?巴川彩羽って言ったら巴川修蔵の愛娘として有名だぞ?」


いつきのその言葉に金田一と美雪は目を丸くし驚いた声を上げる。


「ええ!?彩羽ちゃんってそんな有名なんですか!?」

「なんだ、聞いてなかったのか…まあ、あまり自慢するような子じゃなさそうだしな」

「いつきさん彩羽の事知ってんの?」


いつきは彼らの驚き様に事情を聞いていない事に気付くと、どこか納得した様子を見せた。
それが彩羽を知っているような反応だったので、今度は金田一が問いかけた。
その質問にいつきはもう一冊カバンから雑誌を取り出し金田一達に見せる。
そこには彩羽を含めた女性3人、男性1人が写っていた。


「なにこれ」


その記事の出だしには『巴川修蔵の美人三姉妹&美形長男特集』と書かれており、大きな写真には4人が並んだ写真が写っていた。
内容を美雪が読んでいると、それは巴川修蔵という男の娘と息子を特集した物で、長女、次女、長男と続き、彩羽は最後の方に記事にされていた。
その中には再婚相手の連れ子だというのを述べた後に美少女を連発し、慎ましやか、謙虚、微笑みが美しい、深窓の令嬢などこれでもかと褒めたたえられていた。


「見ての通り巴川修蔵の子供達は輝かしい美貌を持っていると有名でな…その道の間じゃファンクラブもあるほど有名なんだ…勿論、後妻の連れ子であるお前さん達の友人もその容姿から早速記事にされててな…俺がお前さん達の友人を知ってるっていうのもこの記事からだ」

「ふーん…で、いつきさん…その巴川修蔵って誰なんだよ」

「ま、お前さんらが知らんのも仕方ないか…巴川修蔵っていうのは有名な学者なんだ」

「「学者?」」


学者と聞いてきょとんと呆けるが、すぐに以前明智の言葉を思い出す。
彩羽の母が嫁いだ巴川家は特殊な家なのだと。
男であれば『学者』、女であれば『舞踊』を継がなければならない。
その説明をいつきからも聞き、金田一はすぐに彩羽とその巴川家がいつきの勘違いではないと考えを訂正する。


「彩羽と巴川家の繋がりは見えたけど…それでなんでいつきさんが取材に行くわけ?」


金田一の質問にいつきは歯切れ悪く答えた。
曰く…本来は別の人間、それもいつきの先輩記者が取材許可を得ようとしたらしい。
しかし運悪く季節外れの風邪を貰ってしまい、ダウン。
巴川家は誰もが知っているという名家ではないが、その道の人間ならば知っている名家であり、江戸時代から続く由緒正しい名家である。
そんな名家相手に下手な新米記者を送れるわけがなく、丁度書いていた記事を書き終えたばかりのいつきに白羽の矢が立ったのだ。
分野は違うが、信頼されて嬉しい気持ちはあるが…何より巴川との交渉は難しいと分野が違ういつきにも知れ渡っているほど有名。
下手をすれば記者人生を潰すこと等あちらには簡単な事だった。
どうしようかと頭を悩ませていたところに偶然金田一と美雪と会い、偶然彩羽と知り合いだと知り…―――今に至っている。


「断ればいいじゃん…なにもいつきさんだけが記者じゃないだろ?」

「そうなんだが…なんの偶然か…今俺以外誰も手が空いてないんだよ!それに取材するはずだった人っていうのが俺が若手の頃世話になった先輩でさ……な!この通りだ金田一!俺とお前の仲だろ!?」

「つってもなぁ…」

「もし取材させてもらえるんなら食べ放題連れてってやる!」

「よっしゃ!!まかせとけ!!」


いつきが食い下がらず金田一は困ったように呟き頭をかく。
彩羽とは友人であるが、正直その母親である初音とは関わりたくないというのが本音だし、彩羽は連れ子というのもあって巴川家での立ち位置が不明のため下手に手を出したくはないというのも本音である。
あの母親を見て金田一は恐らく彩羽と義姉兄達との仲はあまりよろしくはないだろうというのが金田一の予想である。
だからできるだけ彩羽を窮地に追いやりたくはなかった。
―――しかし、そんな決意など金田一の食い気によって砕け散ってしまった。


「……はじめちゃん…」


幼馴染が彩羽を気遣って断ろうと思っている事は美雪も分かっていた。
珍しく感心したというのにこの始末。
美雪はガクリと肩を落とし幼馴染にあきれ返ったのと同時に、食べ放題に負けたもう一人の幼馴染に深い謝罪を述べた。


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