(7 / 37) 黒死蝶殺人事件 (7)

夕方になり人も少しずつ増え始め、日が落ちた頃には屋敷には多くの記者と招待客で賑わっており、彩羽はパーティーに向けて着替えるため金田一達とは別れた。


「おーおー!壁という壁に蝶の標本を飾りまくって流石巴川家、いい趣味してんぜ!」

「ったく…こんなん見せつけられたらせっかくのごちそうも食う気失せるじゃん!」

「どこか…?」


いつきは会場となっている一室を見渡し揶揄を零す。
金田一は食う気失せると言っているが、その手にはバイキング形式で乗せた大量の食べ物が一つの皿に乗っていた。
それを見て美雪が呆れ返った声で突っ込んだ。


「君は変わらずで逆に見ていて安心しますよ」

「何だよ明智さん!褒めても何も出ねえぞ!」

「いや…はじめ…それ、多分褒められてないと思う…」


そんな金田一に明智が溜め息を吐きながら呟くも、それを褒められたと勘違いしている従兄にフミが美雪同様呆れた声で突っ込む。


「それにしても凄い人の数」

「蝶のお披露目ってそんな大したモンなのかねぇ」


フミは身内として恥ずかしいと思いながら、周りを見渡す。
周りにはフミのような子供はいないが、大人だらけでまさにパーティーである。
形式的には蝶のお披露目らしいが、蝶のお披露目だけにこんなにも人が集まったと言われても信じられなかった。


「蝶と言ってもただの蝶じゃありませんよ」


フミの言葉に金田一も蝶だけに集まった人数を見て少し呆れているような声を零した。
正直、蝶ならその辺にいるためわざわざお披露目パーティーなどする必要があるのだろうかと思っている。
だが、そんな金田一達に歩み寄ってきた人物がいた。
その人物は眼鏡をかけた初老の男性だった。
男性は明智を見て『おや』と微かに目を丸くさせた。


「明智さんもいらしてたんですね」

「ええ、彩羽からの招待を受けまして…まあ、初音さんには歓迎されませんでしたが」

「はは…あの方は気難しい方ですからね」


どうやら明智とも知り合いらしいその男性は、ポツリと呟かれた明智の言葉に苦笑いを浮かべた。
初音は金田一達の前だけではなく、誰に対しても高圧的な態度を取っているようである。
それでも誰も咎めないのは彼女の地位のせいなのだろう。


「明智さん…知り合い?」

「ええ、八重島大学で教授をしていらっしゃる方で蝶類の研究をされている山野勝巳さんです…山野さん、こちら彩羽の友人の金田一一君と、七瀬美雪さん…金田一君の従妹で金田一フミさんと、金田一君の知人でフリーライターのいつき陽介さんです」

「彩羽さんの…」


山野と呼ばれた男性は紹介されて頭を下げ挨拶する少年少女達に目を丸くした。
驚いた顔を見せる山野に金田一は首を傾げ、不思議そうにする金田一が気付いたのか山野は申し訳なさそうに笑った。


「いや、すみません…彩羽さんのご友人とは初めてお会いしたもので…」

「彩羽はあまり人前には出ませんからね」

「はい…彩羽さんは舞踊とパーティー以外ではあまり表には出られない方ですからね…お話しさせていただく事も時折ありますが当たり障りのない話でプライベートの事はあまりお話しされる方ではありませんので…」


『明智さんだけですよ…彩羽さんの素顔を見られるのは』と続ける山野に明智は当然だと言わんばかりに笑った。
しかし、『でも』とも続け…


「でも、最近は佐藤くんのおかげで彩羽さんも明るくなりましたね」


金田一は山野のその言葉に顔を引きつらせる。
否、山野以外のその場にいた全員が顔を引きつらせ、チラリと明智を見た。
明智は…


「そうですね…私も彼が彩羽の傍にいてくれると安心しますよ」


と笑った。
そう、笑っていたのだ。
にっこりと。
キラキラをバックに。
女性なら誰もが見惚れる笑みを明智は浮かべていた。
実際周りにいた名も知れない女性達は明智のイケメンな笑顔に見惚れていた。
だが、金田一達は笑顔ではいられなかった。


(ねえ、はじめちゃん…明智さん…)

(ああ…ありゃ明智さん怒ってるぞ…)

(金田一、お前の腐れ縁だろ?なんとかしろよ)

(無茶言うなよいつきさん!拗らせたシスコン相手に誰が何できるっていうんだ!)

(今なら一人でテロ組織壊滅できそう…そして無傷で帰還しそう)

(やめろ!フミ!それ普通にできそうって今思っちまっただろ!)


明智は笑っているが、付き合いの長い金田一達からしたら、笑っている顔の下で鬼のような形相になっていると分かる。
『なんとか(してよ)(しろよ)!』と何故か金田一は美雪達に押し付けられ、『なんで俺が!?』と思いながらも三人の睨みに負けてしまい、どうにか話題を替えようとIQ180の頭をフル回転させる。


「な、なあ!さっきの『ただの蝶じゃない』ってどういう意味なんすか?」


フル回転させた結果、蝶の話題しか出なかった。
幸い山野は鈍いのか明智の笑顔の殺意にも、金田一の話題を切り替えるのも気付いておらず、笑顔で答えてくれた。


「ああ、それはですね…『遺存種』と言って、大変貴重な蝶なんですよ」

「『遺存種』?」

「ええ…絶滅したと思われていた生物が辺境地で発見されることがあるんです…それを『遺存種』と言うのですが…今日見られる蝶は200年前に絶滅したと思われていたものを巴川家が探し出し25年もかけて繁殖に成功したんです」

「25年も!?」


蝶は蝶でも、絶滅した蝶の繁殖が成功した事を祝うパーティーだった。
25年という歳月をかけて繁殖に成功したのは素人な美雪でも驚くほどの功績で、そう聞くともっと大きなパーティーでもいいのではと思ってしまう。
それを美雪がつい口に零せば、山野は笑った。


「本来ならホテルの会場を借りる予定だったらしいんですが…初音さんが、ね…急遽屋敷でやると言って聞かなかったらしいですよ…招待される側の私達はまあ、別に支障はないですが準備する側は大変だったと聞きましたよ」

「初音さんは相変わらずですね…本当、彩羽が初音さんに似ず叔父に似てくれてよかったです」

「はは…明智さんだから言える言葉ですね…でも、まあ…確かに、初音さんは修蔵さんが亡くなられてから周りへの当たりが強くなってますね…確か使用人も多くが初音さんの厳しさに耐えかねて辞めてしまったと…ですが時給もいいですしその分新しい人は絶えず入ってくるらしいですが」


案外情報と言う物は漏れているものだと、金田一は明智と山野の会話を聞いていて思った。
チラリと招待客の対応に追われている彩羽の母親、初音を見る。
初音は蝶をモチーフとした着物を着ており、傍から見れば高嶺の花な美女だった。
性格が悪いと知りながらも花の蜜を求めて寄る蝶のように初音の周りから男性の姿は消えず、逆に増える一方だった。


「ん?」

「どうしたの?はじめちゃん」

「いや…随分と若い男の人がオバさんの隣をキープしているなって思ってさ…」


初音を観察してみると、入れ替わり立ち代わり初音に声をかける人はいるが、常に初音の傍に立っている一人の男性に金田一は気づいた。
美雪もそちらに目をやれば、自分達と年が近いであろう少年が初音の傍に立って話しかけてくる客達を相手にしているのが見えた。
その容姿はとても整っており、明智と英二といい勝負なくらいイケメンだった。
若干僻みつつも疑問に思った事を素直に呟けば、山野もそちらを見たのか『ああ、あの子』と零した。


「あの子は巴川蓮君…修蔵さんとその前妻の息子ですよ」

「って事は…」

「彩羽の義理の兄、に当たります」


山野と明智の言葉に金田一は改めてその少年を見た。
既に亡くなっている前妻との子だからか初音とは全く似ておらず、写真で見た修蔵とも似ていない。
と、言うことは母親似なのだろう。
ふーん、と無害そうで華奢な少年を見ながら興味なさげにそう返したが、山野がまた爆弾を落とした。


「彼は時期当主で、彩羽さんの婚約者でもあります」


それを聞いた瞬間その場の空気が凍り付き、お約束で山野以外の全員が明智を見た。
しかし明智は変わらず笑顔を浮かべており、無反応。
だがしかし、それがまた恐怖を仰ぐ。


「蓮君と彩羽さんの年の差は1歳差ですからね、美男美女ですしお似合いのカップルですよ」


ははは、と笑う山野に対し、金田一達は全く笑えなかった。
むしろ笑う所がどこにあるのか教えてほしいと思った。
明智はシスコンである。
当然妹のように可愛がっている従妹につく悪い虫を許すはずがなかった。
世話係である英二にすら嫉妬するのだから、婚約者となればその心の狭さは想像すらできないだろう。
周囲はパーティーを楽しみワイワイ、明智は若干デーモン化、山野は鈍くて明智のデーモン化には気づかずニコニコ…金田一は美味しいはずの食べ物が全く美味しいと思えなかった。
すると初音が金田一含めた招待客達全員に挨拶を始める。


「さて皆様に『幻の蝶』をお目にかける前にもう一つの愛すべき蝶達…我が娘たちをご紹介いたしましょう!」


そう初音が声を高々に言えば、部屋には三人の女性達が入ってきた。
最初に入ってきたのは20代後半ほどの癖のある髪を背中まで伸ばす美しい女性。
そしてその次に入ってきたのは肩まで真っすぐに伸ばされた美女。
そして…最後に入ってきたのは金田一達も見知った顔…彩羽である。
三人の美女は容姿だけではなくその着物も美しく、流石蝶類学者と言うべきか初音同様別々な蝶をモチーフにした着物を着ていた。
その姿はさながら蝶のように美しく、誰もが息を呑んだ。


「兄さん!はじめちゃん!」


挨拶も終わり彩羽は真っ先に金田一達のところへ来てくれた。
着物なんて着慣れておらず歩きにくいであろうにパタパタと小走りに来てくれる彩羽はとても可愛らしくまさに美少女であった。
明智という舅がいなければ金田一は幼馴染であろうと口説いていただろう。


「どうかな?似合ってる?」


袖を持って両手を広げる彩羽に美雪とフミが褒めた。
金田一といつきにも褒められ、彩羽は友人たちから褒められ嬉しそうに笑う。
彩羽は綺麗な青色を中心にした着物を着ており、袖口と裾が黒くなっている。
二人の女性に比べてシンプルだが美しさは負けていなかった。


「どうかな、兄さん…似合ってる?」

「ああ、とても似合ってる」


最後に明智に小首をかしげて見せると明智は頷く。
優しい兄の言葉と笑みに彩羽は照れたように袖で口元を隠して笑った。
そんな愛らしい従妹に先ほどまで不機嫌だった明智の機嫌があっという間に直り、金田一はホッと安堵する。
しかし彩羽が嬉しそうな笑みを浮かべているのに対し、彩羽の後ろに控えている英二は笑みは浮かべてはいるがどこか面白くなさそうに見える。
勿論、明智のお陰で鍛えられた金田一達以外の周りは従兄と笑い合う主人を微笑ましく見守る世話係としか見えていない。
彩羽は金田一達の傍にいる山野に気付き、慌てて挨拶をする。


「こんばんは、山野さん…この度は遠い所から起こしくださりありがとうございます」

「やあ、こんばんは彩羽さん…今日は一段と綺麗ですね…そのお着物はモルフォチョウを模しているのですかな?」

「そうらしいですね…私は蝶の方は分からないんですけど隼人がそう教えてくれました…隼人はもうほとんどの蝶の名前を憶えているんですよ」

「ほう…やはり巴川家の血ですなぁ…あのお年で蝶の名前を憶えているとは…」

「そう、ですね…」


上野の言葉に今まで普通に対応していた彩羽が声のトーンを落とし俯く。
しかしそれも一瞬で『お義父さんとお母さんの子供ですもの』と明るい笑みで答えた。
しかし気づいていた金田一と明智には無理しているように見えてとても痛々しく感じる。
金田一が何か声をかけようとした時…


「ちょっと彩羽さん…こんなところで何をしているの!」


叱るような声が彩羽に向けられた。
彩羽はその声に振り返り、金田一達も叱るような声に驚きながらその声の方へ目をやる。
そこには彩羽と共に紹介されたうちの一人が睨むようにこちらを見ていた。


「明日香さん…挨拶回りをしていただけです」

「上野のおじさまは分かるけど…他の方達を差し置いて先にそんな人達に挨拶に行くなんて…流石顔だけでお父様を誘惑して後妻に収まっただけの女の娘ね」


明日香(あすか)と呼ばれた女性の言い方に金田一達はむっとする。
金田一が何か言い返すよりも前に彩羽が金田一達の前に出てその女性に向かい合った。


「この人達は私の大切な友人たちです…友人を大切にすることはいけないことなのですか?」

「まあ!義姉に対してなんて口の言い方!どうしてあなたなんかが蓮の婚約者に選ばれたのかしら!ああ、ごめんなさい?あなたの母親が財産目当てで嫁いできた後妻だったからよね」


聞いていていいものではないな、と金田一はフミの耳を塞ぐ。
彩羽が金田一達の前に出たと言うことは、彩羽は金田一達を庇っているという事になる。
ここは巴川家であり、彩羽にとって不利な場所。
自分達が何を言っても彩羽の立場が悪くなるだけだと知ってはいるが、やはり友人を好き勝手言われると腹も立つ。
下手に動いて彩羽の足枷になりたくないと思いながらも金田一があまりの言い方に言い返そうと口を開きかけた時、明智と英二が彩羽を庇うように前に出た。


「明日香さん、その辺にしてください…今日はパーティーです、場を弁えてください」

「あら明智さんではありませんか…義母に縁を切られた巴川家とは無関係の方がなぜこちらにいらしているのかしら…図々しいにもほどがありましてよ」

「明智さまは彩羽お嬢様の大切な従兄です…例え奥様に縁を切られておられても彩羽お嬢様との縁は続いております…彩羽お嬢様は血は繋がらなくとも巴川家の一員…その彩羽お嬢様が大切に思っている方をお呼びして何がいけないのでしょう」

「…雇い主に逆らうような人が言ってくれるわね…申し訳ないのだけどこの家に彩羽とあの後妻を巴川家の一員と認めてる人間なんていないわ…邪魔者は邪魔者らしくさっさと出て行ってくれないかしら」


しっしっ、と猫を追い払うように彩羽に手を振る女性にその場の空気は張り詰めた。
恐らく会話は聞こえているのだろう…周囲も騒めいでいるが、誰一人巻き込まれないよう目を逸らしていた。
明智と英二が庇う後ろで、金田一といつきも彩羽を守るように傍に近づき、美雪とフミが彩羽の両側に身を寄せる。


「明日香…何を騒いでいるの?」


女性も金田一達に負けず睨み、両者睨み合いが続いていた時…新たな声によって睨み合いは終わる。
声のした方へ目をやればこれまた美しい女性がおり、この女性も紹介されたうちの一人だった。
その後ろには蓮も続いた。


「明日香、お客様に対してその態度は巴川家の者として不躾では?」

「千里…でも…なんでこいつが蓮の婚約者なの?」

「やめてよ姉さん…千里姉さんの言う通りお客様の前なんだからさ」

「蓮!あんたがしっかりしないから言ってあげてるんじゃない!いい事?あんたが当主になったらまずやるべき事はこいつら親子を追い出す事!ゴミは掃除しなきゃいけないんだから!」

「ゴミって…彩羽さん達は僕達の家族じゃないか…それに僕達と血が繋がってる隼人も追い出すわけじゃないよね?」

「当たり前じゃない!あの女の血が流れてる人間はこの巴川家には必要ないわ!」

「そんな…」


蓮は見た目通りどちらかと言えばヘタレタイプらしく、言い返しながらも強くは出れずにいた。
それに対し、千里(せんり)と呼ばれた女性は弟にも噛みつく片割れに呆れたようにため息をつく。


「明日香いい加減になさい…ほら、挨拶回りがまだでしょう?行くわよ」


明日香が聞く耳持たないのは知っている千里はまだ言い足りないと言わんばかりの明日香の背を押して金田一達と上野に頭を下げてその場から去っていった。


「彩羽さん…明日香姉さんがすみません…僕は…その…貴女を追い出そうとは思っていませんから…」


蓮も金田一達と上野に頭を下げて謝罪した後、わざわざ彩羽の前に立ち手を握り言い訳のような言葉を残し去っていった。
彩羽の手を握った瞬間の二人の反応はもはや言うまい。


「ごめんなさい…不快な思いさせて…」


彩羽も三人が去った後深々と頭を下げ謝罪した後、挨拶回りをするために金田一達の前からいなくなった。
勿論彩羽の世話係の英二も続く。


「なんだよあの明日香って奴!」

「彩羽お姉ちゃんをゴミとか酷すぎるよ!」


嵐が去り、残ったのは不快感と腹立たしさだった。
彩羽の手前声を大にして言えないが、あの明日香という女性の彩羽に対する態度は友人として腹の立つものである。
明智も表情こそ変わらないが、彩羽を妹として愛しているため恐らく金田一達より腸が煮え返っているに違いない。


「あの女性は巴川明日香って言って、巴川家の次女…それで、その明日香さんを連れて行ったのが、双子の姉の巴川千里…その後ろにいたのが長男の蓮君だ…三人は前妻の子ってわけ」

「六波羅!」


ギリギリと歯ぎしりをしていると、後ろから声がし、振り返る。
そこにはフリーカメラマンの六波羅がいた。
六波羅は騒ぎで金田一達に気付き、収まったころに声を掛けに来たらしい。
『よっ』といつきに手を上げて挨拶する六波羅に緊張が少し緩和した。


「前妻の子の三人…特に明日香さんは後妻とその子供とはあまり仲が良くないみたいだな」


週刊誌には美人三姉妹と美男子として記事にされていたが、流石に前妻と後妻の子供同士が仲が悪いとは書けない。
六波羅も定番と言えば定番の仲の悪さを予想はしていたが、その予想は的中したらしい。
若干嬉しそうなのは見なかったことにして、上野は困ったように眉を下げ、声の音量を下げる。


「彩羽さんのご友人の皆さんには言いにくい話しですが…巴川家はあまり初音さんと彩羽さんを快く思っていないようなんです…特に見てお分かりになったように明日香さんは彩羽さんを敵視しているようで…修蔵さんも困っていましたね…修蔵さんは彩羽さんを本当の娘のように愛しておられたので」

「千里さんと蓮さんはどうなんですか?なんか…明日香さんほど敵視はしていないようには見えたんですが…」

「千里さんは触れず構わずですかね…敵視はしていませんが、味方というわけでもないようです…ですが先ほどのように明日香さんが彩羽さんに絡んでいるときは助けてくれるようです」

「蓮君はありゃ彩羽さんに惚れてるな」

「「「え゙!?」」」

「あんな熱っぽく彩羽さんを見てりゃ誰だって分かるって…だよな、上野さん」

「そうですね…近しい私達から見ても蓮君は彩羽さんに惚れているとは気づいていましたね…本人は隠しているようですけど」

「いいね〜!前妻後妻の子供の甘く切ない恋!周りに反対されながらも想い合う少年少女!青春だねぇ!ま、残念なのはその彩羽さんが蓮君をどう想っているのか読めないってところだけどな」


『美男美女でお似合いのカップルになるのに』と続ける六波羅に金田一達は乾いた笑いを送った。
確かに蓮と彩羽は美男美女で、付き合えばお似合いのカップルとなるだろう。
聞いたところによれば蓮は18歳らしく、17歳の彩羽と付き合っていても可笑しくはない。
だが…


「確かに彩羽と蓮君はお似合いのカップルでしょうね……想いが通じ合っていれば、の話ですがね」


そう言って明智は笑みを深めた。
しかし明智は目が笑っていなかった。
認めるわけがない…そう彼の目が語っていた。
付き合いがあるはずの上野はどうやら明智の本性(シスコン)には気づいておらず、六波羅もまだ気づいていないようでシスコンの言葉に『そうですね、お似合いのカップルになりますね』と笑っていた。
その二人の笑みに金田一達は実は二人は大物なんじゃないかと密かに思っていた。


「さて!いよいよ皆さんにご覧いただきましょう!我が夫、修蔵がその生涯をかけ蘇らせた幻の蝶!『夜光蝶』を!」


彩羽も挨拶回りが終わり戻ってきた事で明智の機嫌が直り、金田一達も平和に食事を楽しめるようになった。
すると暫くして初音が声を張り上げ、ついにその蝶のお披露目となった。
パッと照らされていたライトが全て消え、当たりは暗闇に包まれる。


「え!?」

「これは…!」


街から離れた場所に建つこの屋敷は明かりがなければ真っ暗闇に包まれ、辺りからざわめきが生まれる。
すると金田一の目の前に一つの光がゆっくりと通り過ぎようとしていた。
火の玉か、と思うよりもその光りは一つ二つと増えていき、無数の光りが暗闇を照らすように動いていた。
よく見ればそれは羽が光っている蝶だった。


「わぁ!綺麗!」

「こいつぁースゲェ!夜光る蝶だから『夜光蝶』かあ!」


星空をバックに飛ぶ蝶達に皆圧巻され、感激の吐息を吐く。


「すごい綺麗だね、兄さん」

「そうだな…神秘的で美しい…世の中にこんな綺麗な生き物がいるとは…」


実は彩羽も初めて見た。
夜光蝶という蝶を甦らせようとしているのは知っているが、それを実際目で見たのはこれが初めてだった。
明智も彩羽から夜光蝶の話は聞いており、実は今日来るのを少し楽しみにしていた。
前妻の子供とのトラブルのせいで挨拶回りが終わった後も笑顔は浮かべていたが元気がなかった従妹の顔に作り物ではない笑顔が戻った事もあって、明智の機嫌も戻ってきていた。


「………」


英二は世話係として彩羽の後ろに控えていた。
周りは蝶を愛で空を見上げていたが、英二は空ではなく従兄と蝶を見上げている主人、彩羽を見つめていた。
その瞳は切なそうでありながらも、愛おしさがあった。


「皆さまにお伝えする事があります」


蘇った光る蝶に皆が感動していたその時、初音が声を張り上げ注目を自分の方へと向ける。
金田一達も初音の方へ目をやれば、初音の隣には隼人が立っており、明智と一緒に蝶を楽しんでいた娘を呼び戻し、自分と隼人の間に立たせた。
初音は機嫌がいいのか満面の笑みで金田一達を見渡していた。


「皆さまどうでしたでしょうか、夜光蝶は!しかし、本日お集まりいただいたのは夜光蝶のお披露目だけではありません…それはついでにございます…本日お集まりいただいたのは…―――私の娘、彩羽と、息子、隼人の婚約が決まりました事を皆様にお知らせいたしたくお集まりいただきました!」


初音のその言葉に一瞬静まり返ったが、すぐにざわめきが起こった。
金田一達も初音の言葉に目を丸くさせ唖然とする。


「彩羽ちゃんと隼人君の婚約って…二人は姉弟じゃない!」

「血の繋がった姉弟の婚約発表って…どういう事だ!?」

「おいおい…蝶のお披露目をついでって断言した挙句に姉弟の婚約発表って…ぶっ飛んでるとは思ってたが…ここまでとは…」


ざわめく中、金田一達も驚愕していた。
周りから彩羽の婚約者は蓮だと聞いていたので、その相手が蓮ではなく実の弟、隼人だと聞き驚くという言葉では表せないほどの衝撃が金田一達を襲う。
勿論血の繋がっている姉弟は結婚できない。
それどころか禁断である。
許される事ではないのだ。
金田一は彩羽を見た。
彩羽は信じられないと言わんばかりに母を見ており、彩羽も知らされていなかったのが分かる。
ただ隼人は笑顔を浮かべていたので、事前に聞いており、尚且つ姉との婚約は賛成なのだというのが分かった。
脇に控えている英二も驚愕の表情を浮かべていたので、知らなかったのだろう。
初音は騒めきが大きくなり、誰もが『姉弟で結婚なんて無理だろ』と囁かれる中、呆気に取られて何も言えない彩羽をいい事に続ける。


「並びに、巴川家当主は隼人が継ぐ事になり…」

「はあ!?ちょっと待って!!巴川家を継ぐのは蓮だったはずよ!!!何勝手に決めてるの!?」

「あら明日香さん…これは夫の遺言書にも書かれている事です…もしも夫が亡くなられた際に巴川家を継ぐのは隼人だと」

「そんなわけないじゃない!!証拠はあるの!?」

「ええ…きちんと生前夫自身の手で遺言書を書き直し弁護士に預けております…確認したいのであれば、どうぞご自由に」


やはり食って掛かったのは明日香だった。
流石に千里も驚きと同時に怒りも見せており初音を睨んでいた。
ただ蓮は青い顔をし立ち尽くしていた。


「どうなってんだよ…彩羽さんとその弟の婚約って…」


唖然とするいつきの声を聞きながら金田一はもう一度彩羽を見る。
唖然としていた彩羽は今は唇を噛み俯いていた。


「やられた…」


母の突拍子もない行動に耐えるような友人の姿を心配そうに見ていると傍からポツリと呟いた声に気付いた。
その声は絞り出すように低く震えており、振り返れば明智がいた。


(明智さん…?)


明智は唇を噛み震える手で拳を握り初音を睨む。
金田一は初めて見る明智の怒りの表情に戸惑いが隠せなかった。

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