あれからパーティーは順調に進んでいた。
勿論、客を置き去りにして。
光る蝶…夜光蝶のお披露目パーティーだったのに、彩羽と隼人の婚約発表のためのパーティーだった事が判明した。
蝶はとても綺麗で感動的だったはずなのだが…彩羽と隼人の婚約発表に全て持っていかれてしまった。
初音は本当に蝶はついでとしか考えなく、巴川家が代々行っている蝶類の研究は軽く見ているようにも見えた。
勿論前妻の間との子供との衝突もあったが、客の目があると千里が明日香と初音を引き離し明日香含めた前妻の子供達はパーティーから消える。
彩羽もあれから金田一達のところには寄らず、いつの間にかふらふらとパーティーを抜けて姿を消していた。
――そして翌朝。
朝食にも彩羽は顔を覗かせる事はなく、明智の姿もないまま金田一達は残った記者の人達と共に朝食を終えた。
「…彩羽ちゃん…大丈夫かしら…」
朝食を終え、テラスで休憩がてらお茶をしていた。
美雪は使用人の人が用意してくれた紅茶を淹れて飲みながら心配そうに呟く。
あの夜から彩羽は姿を見せない。
「大丈夫じゃないだろ…実の弟との婚約発表されたんだし…」
「あの様子からして彩羽さんどころか佐藤さんや明智さんも知らなかったみたいよね…」
「知ってたのはオバさんと彩羽の弟…それとオバさんの傍にいる人間くらいか?」
「隼人君には教えてなんで彩羽お姉ちゃんには教えなかったんだろう…」
「そりゃあ…反対するからじゃないのか?だって考えてみろよ普通は姉弟で結婚なんて考えないだろ…」
「まあオバさんがいくら婚約発表して結婚させたがってもこの国の法律では結婚できないし…発表しただけ無駄って事になるよな」
困惑を見せる客や巴川家の人間達をよそに初音は彩羽と隼人を本気で結婚させるつもりだった。
でなければ『姉弟』で結婚なんて精神異常でなければ招待客や記者がいる前で堂々と発表はできない。
フミの疑問にいつきが答え、金田一も続く。
美雪も当然『姉弟で結婚』は出来ないと知っているため反論する言葉はない。
しかし…
「二人は結婚できますよ」
その声に金田一達は声のした方へと振り返る。
そこには明智がおり、明智はそのまま部屋に入り脇に用意してあったコーヒーを淹れる。
ホットコーヒーを手慣れた手つきで淹れた明智は金田一達のいるテーブルの空いている席に座った。
「明智さん…今…なんて?」
明智がやっと姿を現したことへの驚きよりも、明智が答えた言葉に金田一達は驚きを見せていた。
自分達の会話を聞いていたらしい明智の言葉は『姉弟で結婚できる』と言っているようだった。
否、言っていた。
金田一が恐る恐る問えば、コーヒーを一口飲んだ後答えた。
「彩羽と隼人君は結婚できます」
今度こそ聞き間違いではなく、明智はハッキリと姉弟で結婚できると答えた。
その顔は冗談を言っているようにも見えないし、元々金田一達にはこんな馬鹿げた冗談を言う人間ではないため、信じるしかなかった。
「待って明智さん…だって…彩羽ちゃんと隼人君ってお父さんは違うけど血の繋がった姉弟なんじゃ…」
「いえ…実は彩羽は養子なんです」
「養子!?」
金田一達は明智の言葉に再び驚いた。
美雪も金田一も、彩羽は初音と前の夫である明智の叔父との子供だと記憶している。
だが、明智の言葉が本当なら、異父姉弟ではなく赤の他人となり、結婚は出来る関係ではある。
小さな音を立てコーヒーの入ったカップを受け皿に置き、混乱している少年たちに明智は説明する。
「叔父夫婦には長らく子供が出来ませんでした…検査したところ叔父は子供が出来ない体だったそうです…初音さんはずっと子供が欲しかったらしく、自分に子供が作れないと知った叔父が何度も離婚をしようとしたようです…ですが初音さんは叔父を選びました」
思い出すのは昔の初音の姿。
あの時はまだ明智も学生で、叔父夫婦の苦しみを分かってあげることはできたが理解はしてやれなかった。
それは自分の両親もだ。
叔父夫婦を理解してやれるのは、同じ境遇、同じ選択肢をした夫婦、そして叔父夫婦自身のみ。
周りは気持ちを分かってやれるし、相談だって乗れるが、全てを理解はできない。
叔父は初音が子供を欲しがっていることは知っていたので、子供ができない自分との離婚をしようと何度か持ち掛けたが、その度に初音は離婚を断った。
初音は子供ではなく、夫を選んだのだ。
「暫くして…叔父夫婦は施設にいた当時4歳だった彩羽を養子として迎え入れられました」
「養子…」
「そうです…叔父夫婦は子供を産むのを諦め、養子を受け入れることを選択しました」
ただ、子供を全て諦めたわけではなかった。
自分達の間に子供を産むのは諦めただけで、養子という選択肢を選んだのだ。
勿論、ペット感覚ではない。
長い間本人達も話し合い、周りとも相談し、きちんと人一人…それも赤の他人の子供を育てるという覚悟を決めて叔父夫婦は彩羽を養子に迎い入れた。
しかし養子としても色々ある。
知人から子供を迎える方法と、そして施設から迎え入れる方法。
当時の事はよく覚えている。
まだその時の明智は15歳で、幼いながらも驚いた記憶は残っていた。
そして、初めて会う血の繋がらない従妹の、その愛らしい姿も。
「彩羽は知ってるのか?自分が養子だって事…」
思い返すと従妹との思い出が次から次へ思い浮かんでくる。
初めて会った時、明智も学業の合間を縫い遊んであげた時の楽しそうな顔…全て明智にとって大切な思い出だった。
しかし思い出に耽っていた明智を金田一の声が現実に呼び戻す。
明智は金田一の言葉に頷いた。
「知っていますよ…養子に迎え入れられた時彩羽は4歳でしたし、叔父夫婦も彩羽には隠しませんでしたから…ですが、その分本当の親子になれるよう叔父夫婦は愛情を注ぎ、それに答える様に彩羽も叔父夫婦を親のように愛しました」
きっと赤ん坊だったら明かさなかっただろう。
だけど迎え入れられた時の彩羽は4歳で、すでに自分が養子だというのは知っていた。
しかし子供に恵まれなかった叔父夫婦は養子でも自分達の子供のように愛したし、いけない事をすれば叱った。
彩羽も本当の親ではないのを知っていても、本当の親のように叔父夫婦を愛した。
明智から見て叔父夫婦と彩羽はどの家族よりも幸せに見えた。
その時が彩羽が一番幸せだった時だっただろう。
「あの…彩羽ちゃん…4歳になる前までの記憶がないって…あの北海道のホテルにいた時話してくれたんです…それって本当なんですか?」
美雪はふと幻影魔術団のマジックショーを見に北海道まで来ていた彩羽の言葉を思い出す。
彩羽は4歳になる前までの記憶がない。
美雪だって3歳までの記憶を思い出せと言われたって無理だが、はっきりと彩羽は記憶喪失だと言ったのだ。
明智は美雪の言葉に『そうですか…彩羽がそんな事を…』と声を落としてそう呟く。
「そうですね…彩羽は少々訳ありな子でして…」
「訳あり?」
「ええ…当時、彩羽は日本語が話せなかったんですよ」
「日本語が?」
「話せなかったって…」
「発育が悪かった訳でも声が出せなかった訳ではありません…彩羽は日本語ではなく…英語しか話せなかったんです」
英語しか話せなかった…それを聞いても美雪も金田一もあまり納得は出来なかった。
その理由は今の彩羽しか彼らは知らないからだ。
偏差値の高い学校にいるから英語が喋れるのは当たり前だとは思うが、普段彩羽は金田一達といる時は日本人なのだから日本語を話す。
英語しか喋れなかったと聞いてもあまりピンとは来なかった。
『まあ、私も学生でしたが英語は得意でしたし支障はなかたったんですけどね』、と続けるさり気ない自慢話にシリアスであっても金田一は『ケッ』と悪態をついた。
「しかし、施設に英語が堪能な人間はいませんでしたから彩羽は施設では孤独だったようです」
「そっか…子供だと英語喋れないですもんね…」
施設の人間に英語が話せる人間がおらず、特に彩羽のいた施設の子供たちは他の施設の子供に比べて卑屈なところがあった。
その原因は施設の大人たちのせいだろう。
あの施設はあまり子供を預けるにはいい環境とは言えなかった。
周りの大人達は彩羽をぞんざいに扱い、それを敏感な子供達がそれを感じ取り彩羽はあまりいい待遇ではなかったようだった。
叔父も初音も英語は本場に比べると上手くはないが意思疎通できる程度の英語力はあった。
それだけ聞けば同情してしまうが、まだ話は続いていた。
「彩羽は事件の被害者だったと聞いています」
「事件の被害者?彩羽ちゃんが?」
「ええ…私も詳しくは知りませんがそう聞いています…記憶もそのショックから失ったものだと医者の診断にそう書かれていたようです」
彩羽は何らかの事件の被害者だという。
明智も父親から他人から聞いた話だとしか聞いておらず、父親もそう詳しくは知らないようだった。
ただ分かる事はその事件は解決しているという事。
記憶がなく親もいないため彩羽は施設に預けられたのだという。
その時腕に抱いていたのが、ウィル。
そして髪を括っていたのが、あのリボンである。
だから彩羽はウィルとリボンを大切にし執着していたのだ。
失った記憶をその二つが持っているから。
「ですから彩羽と隼人君は結婚できます…恐らく一度彩羽をどこかに養子に出し、そして隼人君と結婚させるのでしょう」
明智の言葉で金田一達は黙り込むしかできなかった。
本人があっけらかんとしていたから記憶喪失の件も金田一達もそう深くは掘り下げなかった。
本人が今幸せならそれでいいかと思っていた。
しかし記憶喪失の話は置いておくとしても、養子と知って安心はできなくなった。
「なあ明智さん…あんた彩羽と隼人君の婚約発表の時『やられた』とか言ってたよな…あれってどういう意味なんだ?」
金田一はあの言葉が気になっていて覚えていた。
明智も金田一に聞かれていたのかと驚いたように彼を見ていたが、賢い子供だと知っているのでそれほど驚きはなく答えた。
「この家は彩羽にとって息が詰まる居場所ですからね…初音さんが動く前に何か対処を思っていたのです…」
「それでやられたって言ったわけか…」
金田一の呟きに明智は『はい』と頷く。
明智の説明に金田一は納得がいったのかそれ以上は何も聞こうとはしなかった。
明智の彩羽への溺愛を見ていると何らか手を打つだろうとは思っていたのだ。
とはいえ初音に先手を打たれてしまったわけだが。
「それで…彩羽の様子、どうだったんだ?」
金田一が気になっていたのはそれだけではない。
もう一つ気になった事…彩羽の様子を聞く。
この問題はこれ以上金田一達が口出しをしてどうにかなるモノではない。
金田一達は彩羽を支えるしかできない。
恐らくこの問題の最後の砦では明智である。
明智と彩羽は初音が巴川に嫁いでしまった事で書類上の縁は切れてしまいもう従兄妹でも何でもなくなった。
しかし本当の彩羽の心の支えは恐らく明智だ。
警察というのもあり、彩羽側の味方の中で一番力があるのは明智しかいない。
今の金田一に出来る事は彩羽を気にしてやる事しか出来ない。
それは大切な事だが、何も出来ないという悔しさがあった。
金田一の問いに美雪達も明智を見た。
明智は金田一、美雪、いつき、フミの顔を見渡す。
彼らは心から心配しているという表情を浮かべており、明智は金田一達と従妹が再会して心から良かったと思った。
「彩羽は部屋に閉じこもっています…先ほどやっと眠ったところです」
「彩羽お姉ちゃん、眠れなかったの?」
「ええ…血の繋がりがないとはいえ…彩羽にとって隼人君は本当の弟のような存在ですからね…ショックを受けていました…」
明智はやはり彩羽の傍にいたらしい。
彩羽はあの後部屋に閉じこもっていた。
後妻の連れ子とはいえ主人の娘が部屋に閉じこもっても使用人たちは気にもしない。
あのパーティーの後でも使用人たちが初音と彩羽を悪く言う言葉ばかり聞いた。
それを聞けば聞くほど初音に対して嫌悪感しか沸かなかった。
明智は彩羽を抱きしめ、ずっとそばにいた。
世話係の英二は外に出てもらい、彩羽の本音を聞き発散させた。
母の強引さを知っているからか、彩羽は焦っていた。
このままでは本当に弟と結婚させられる、と。
「その弟の…隼人君、だっけ?そっちの方はどうなんだ?」
いつきの疑問に、金田一達はハッとさせた。
自分達は彩羽の事ばかりで、その弟の隼人の気持ちを考えていなかった。
まだ7歳と聞いており、恐らく彩羽と血が繋がっていない姉弟だとは知らないだろう。
「隼人君は喜んでいたようですね」
「喜んでるって…姉との婚約を?」
「ええ」
「子供だから婚約の意味を知らないとかは…」
「それはありえません」
7歳がどこまで物事を理解しているのかはもう大人になってしまった金田一達には分からないが、幼いのなら結婚=大好きな姉とずっと一緒にいられるもの…と解釈していても可笑しくはない。
しかし美雪の言葉を明智はキッパリと切り捨てた。
「おいおい…即答かよ…」
「その根拠は?」
「隼人君はとても利巧な子供です…婚約の意味を違えて解釈しているとは到底思えません」
「悧巧ってどれくらいなんだ?」
「アメリカでは飛び級制度があるのをご存知ですね?…もしも日本にも飛び級制度があるのなら彼は大学生となっているでしょう」
「はあ!?嘘だろ…」
「7歳児の大学生…」
明智の言葉に金田一達はギョッとさせ驚愕した。
7歳と言えばまだ小学校に通い始めたばかりの年齢である。
それが飛び級で大学生…美雪やいつきやフミの驚きも大きいが、万年びりっけつな金田一は更に驚きが大きかった。
「彼を甘く見ない方がいいですよ…彼は大人たちをよく見ています…そして隠すのが上手い」
隠すのが上手いと言うが、それは子供らしさを偽っているというわけではない。
彼は悧巧だからこそ子供っぽさが消えてしまった子供だった。
大人しく、誰にも逆らわず、我が儘も言わず、言われた通りの事をし、彩羽だけにしか心を許しはしないが、周りに冷たいというわけではない。
使用人達は隼人を『大人しく賢い子供』だと思っているほど、彼は自身の賢さ、そして危険視されるのを隠すのが上手かった。
真剣な明智の口調と表情で信じざるを得ず、金田一達はお互い顔を見合わせるしかできなかった。
「隼人君が結婚できるまであと11年…それまでになんとかできないかな…」
「無理でしょう」
「そんな…!」
「少なくとも正面から立ち向かうのは…無理です…巴川家の力は強いと聞いています」
「正面から、ねえ…じゃあ正面以外の方法があるって事だよな」
「………」
友人として助けてあげたいと美雪は思う。
隼人が駄目とかではなく、彩羽が望んでいないのなら助けてあげたいのだ。
しかし明智はハッキリと首を振った。
だが、『正面から』という言葉を否定しただけ。
金田一の問いに明智は口を閉ざした。
「明智さん?まさか何もない、とかないよな…?」
彩羽を一番に想い考えている明智がまさかのノープランか?、と金田一は焦りを見せた。
明智が難しいのなら誰が彩羽を救えるのか…
そう金田一は思い、しかし無理でも自分が!、とも思う。
そんな不安げな目を向けられながら明智はゆっくりと口を開く。
「方法なら…いくつかあります」
「なんだよ…あるんじゃん!」
たっぷり間をあける明智に金田一といつきが『勿体ぶらせやがって』と笑い、対処があると聞いた美雪とフミは安堵の笑みを浮かべる。
しかし明智のその表情は険しく、金田一達は明智の表情に笑みが消える。
「一つ、彩羽がこの家を出て行く事です」
「家出って事か…」
「でも流石に家出は無理があるわよね…17歳でもバイトは出来るけど家出した子を働かせてくれるところなんてないだろうし…きっと私達が匿ってもおば様に気付かれるだろうし…」
「特に明智さんところに行ってたら『誘拐犯』として訴えられそうだな…」
「私のところは?丁度ペンション建ててるところだし…あのオバさんも私の家にいるとは思わないだろうしさ」
「いやー…でもあのオバさんの事だからなぁ…フミんちまで調べそうだぞ」
家出と軽く言うが、家を出てその後どうするかが問題だった。
巴川家は強い権力を持っているため、訴えてももみ消されるという。
金田一や美雪の家で匿っても友人だと知っている以上絶対にバレるだろうし、ここに記者として参加しているいつきも調べられてバレる。
それはフミも同じだった。
そして明智の家は最も危険な場所である。
彩羽が一番家出し向かう場所と言えばやはり金田一達も真っ先に明智の家を思い浮かべる。
明智と彩羽がどれほど仲がいいのか母親である初音が気づいていないわけがない。
「一つって事はまだあるんだよな…他には?」
「もう一つは捏造し巴川初音を告訴すること」
「こ、告訴…」
「捏造したのバレたらこっちが終わりじゃねえか」
「そうです…だからこの手はあまり使いたくはありません…相手は巴川家…よっぽど精密な捏造でなければいずれは気づかれこちらが捕まります」
もう一つは現実的ではないものだった。
一番手っ取り早いのは相手をブタ箱にぶち込むことである。
しかしそれはこちらにもリスクがあり、巴川家を相手にするのならこの手口はリスクが高すぎていた。
「そして、もう一つ…」
一番有効なのは家出だろう。
家出先をしっかりと考えて金田一達がちゃんと口裏を合わせれば彩羽はとりあえず弟との結婚は免れるはず。
いつか対立するだろうが、その準備が出来る期間くらいは作れるはず。
金田一はリスクが低い方の方法でどうするべきか詳しく考えているとポツリと明智が呟く。
その呟きに話し合っていた金田一達が明智の方を見た。
明智は一瞬口を閉じたが、強い瞳で金田一達を見抜く様に見つめる。
そして…
「弟以外の男性と籍を入れる事です」
はっきりとした言葉で答える。
その言葉に誰もが口を開けて呆けた。
「弟以外の男って…彩羽って彼氏とか――」
「いるわけないでしょう」
「アッハイ…」
明智の言葉に金田一がやっと我に返った。
顔を引きつらせる金田一の言葉を遮る様に否定し、シリアス場面でも忘れないシスコン心に金田一はサッと目線を逸らした。
「まあ17歳っていや恋多きお年頃だしなぁ…彩羽さん美人だしあっと言う間に彼氏とかできそうだ」
「その辺の男なんかに彩羽が守れるわけがありません」
いつきも明智の気持ちは痛いほど分かる。
自分にも血は繋がらないが養子の少女を一人引き取っており、その少女を娘のように愛しているのだ。
その少女…瑞穂を『その辺の男』なんかにやるなど腹立たしいにもほどがある。
「じゃあ誰がいいんだよ」
彩羽を守れる男…それも明智に認められる男などそうそういない。
彩羽を守れるというのは、体を挺して、そして彩羽の心を守る事が出来る男。
金田一は彩羽の心を支える事はできるだろうが、IQが高いだけの自分は体を挺して守れても庇うのが精いっぱいだろう。
いつきも金田一よりは体術が出来そうだし、優しい男だから支えにはなれるが…養子もいるため彩羽に全てを捧げるほど身軽ではない。
どこまでもブレない明智に呆れたように聞いた。
その問いかけに明智は―――
「私が彩羽の夫になります」
そう言い切った。
その言葉に金田一達は口を開け呆ける。
「あんた…何言ってんのか分かって言ってるのか?」
今度はいつきが誰よりも我に返った。
いつきの言葉に明智は『はい』と静かに答える。
「彩羽さんはあんたの従妹なんだぞ…」
「血は繋がっていません…それに日本の法律上いとこ同士の結婚は禁じられていません」
確かに、と金田一は意外と冷静な中納得した。
詳しい法律の事は知らないが、日本ではいとこ婚は禁じられていない。
ただケースが少ないだけでいる事はいる。
先ほど彩羽と明智に血の繋がりがないと知っていても、明智の言葉は驚く事だった。
金田一はじっと明智を見つめ…
「明智さん…もしかしてあんた…彩羽の事愛してるのか?」
そう問いかけた。
金田一の問いに明智は真っすぐと見据え、金田一も明智から目を逸らさず見つめる。
明智は金田一の問いに目を細めた。
「愛しています…心から…誰よりも彼女を」
明智の言葉に金田一以外が息を呑んだ。
『愛してる』にも種類がある。
親や兄妹のような家族愛。
そして―――異性を愛する愛情。
金田一はあえて『一人の女性として』という言葉を抜いた。
勿論明智がそれに気付かないはずがない。
誤魔化したいのなら『ええ、愛しています…私にとって彩羽は妹のようですからね』と言うだろう。
だが、明智は自身の心を隠さなかった。
隠すのが辛くなったわけではない。
ただ、真剣に問う金田一に答えただけなのだ。
明智の告白に美雪達は呆気にとられるが、ただ一人…金田一は『そうか』とだけ呟き、その反応に明智は片眉を上げる。
「驚かないんですね」
「いや、驚いてはいるさ…だた……前から感じていた違和感が消えただけさ」
よくオーバーリアクションをとる金田一が静かな反応を見せた事に明智は意外だと思いながらも、そう意外ではないなとも思う。
作っているのかそうではないのか…分からないが金田一はあまり賢い素振りを見せない。
そのため推理するときのギャップに皆が驚くのだ。
だが話していると隠しようのない頭の良さを明智は気づいていた。
だから金田一の反応は意外ではあるが、意外ではなかった。
「本気なのか?例え話だから適当ってわけじゃなく?」
あのドイツ城で会って以来、お互い様々な事件で会うことが多くなった。
もはや仕組まれていると思う程鉢合う確率が高い。
そのお陰かお互い憎まれ口を叩き合うという仲ではあるが、見えない信頼は誰よりも強い。
だからこそ金田一は明智の心を気づいたのだろう。
周りは行き過ぎたシスコンだと勘違いするだろうが、金田一から見たらあれはどう見ても好意のある女の子に対する態度にしか見えなかった。
続けられた金田一の問いに明智はふと笑って見せる。
「冗談ではありませんよ…私はずっと彩羽を愛していました…ロスで恋人関係の女性がいましたが……それでも彩羽を忘れることはできなかった…」
「いつからなんだ」
金田一と話している間に冷静になったいつきに問われ、明智はいつきを見た。
いつきも金田一が巻き込まれた事件で親を失った少女を養子に迎えている。
従兄と父親で立場は違うが、だからこそ誰よりも真剣だった。
「分かりません…」
「分からない?」
「ええ…自覚したのはそれなりに大人になり女性とも関係を持つようになってからでした…恋人が出来る度に彩羽を思い出してしまい恋人を心から愛せなくなるんです…付き合ってきた女性を愛していなかったわけではないんです…心から愛しているかと聞かれれば違うと答えてしまいますが、彼女達は彼女達で遊びではなく本気で想っていました……でも…どうしても長くは続かないんです」
『おかげで嫌味の意味で『プレイボーイ』と呼ばれてましたけど』と肩を竦めて笑う明智に誰も笑うことはなかった。
明智も笑ってほしくて言ったわけではないので気にせず続ける。
「叔父が亡くなり一時連絡が取れなかった後、再会した彩羽に会い…私は彩羽を愛していたことに気付きました…恐らく幼い頃から彩羽を愛していたのでしょう…けれど血が繋がらないとは言え私と彩羽は従兄妹…それも11歳も年が離れており彩羽は私をただの可愛がってくれる兄としか見ていません…だから無意識に彩羽への想いを閉じ込めたのだと思います…」
きっと一目惚れだった。
4歳の少女に15歳の男が一目惚れなんて可愛いものだが、今の年齢で17歳の少女を好きになるのは少々周囲の目が厳しいものがある。
それでも明智は彩羽を想い続けた。
正直、ここまで話すつもりはなかった。
けれど隠してきた想いが溢れ出てしまい、それを止める術は明智ですら知らない。
「彩羽には伝えるのか?」
彩羽が明智の気持ちを知っているのか、と金田一は問おうと思った。
だが、あの彩羽の様子からして彩羽は本当に明智を兄だと思っているのが分かる。
明智の彩羽への気持ちは分かった。
11歳差と従兄妹の関係という障害はあるが、実際は血が繋がっていないし歳の差婚なんていくらでもいる。
まだ11歳差なんて可愛いものだ。
金田一達には告白してくれたが、本人に告白するのかが友人として気になり聞いた。
金田一の質問に明智は複雑そうな表情を浮かべたその時―――
悲鳴が聞こえた。
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