サイレンの音と共にパトカーは豪邸の前に止まる。
「猪川警部!」
「誰もこの屋敷から出しとらんだろうな」
「はっ!」
パトカーから降りてきたのは、一人の男性。
先に到着していた警察の一人がその男性に歩み寄る。
猪川と呼ばれた男性は豪邸内に入り、歩み寄ってきた警察と共に現場に向かった。
現場に向かえば警官が現状維持のため立っており周りには野次馬のように数人の人間が現場を覗く様に立っていた。
その中には記者として来ていた人達が夢中で写真を撮っており、数人の警察がそれを防ごうと注意していた。
記者がすでに嗅ぎつけている事に怪訝とさせたが、それよりも猪川は現場に入っている二人の部外者が目に入った。
「おい!お前ら何をやってるんだ!!勝手に入って現場を荒すな!!」
慌てて現場に踏み入れる部外者を注意する。
何故か周りの警官達は二人を注意せず傍観するだけ。
警官達にも『お前らも止めないか!』と叱ると、警官達はお互い顔を見合わせ歯切れの悪い言葉が返ってくる。
「し、しかし…そちらの方は警視だと仰っておられたので…」
「警視!?」
叱られしどろもどろに答えた警官を猪川は怪訝とさせた。
猪川が振り返ってその警視という男が二人の内どちらかか当てる。
…と、いうよりは当たるはずれるという前に一目瞭然である。
一人は高校生の子供なのだから。
その子供と共に現場に入っているもう一人…男でも分かるほど顔が整っている全モテない男性の敵であろうイケメンに、猪川は近づく。
「すみません、もしかして明智警視ですか?」
猪川はこの男を知っている。
28という若さで警視にまで上り詰めたエリートとして警察では有名だった。
しかしそれだけではなくエリートな上にイケメンというのもあるため嫌でも有名になっていた。
猪川に声をかけられた男…明智は涼しい顔をして『はい、そうです』と答え、警察手帳を見せた。
『本物かよ』と実は疑っていた猪川は内心顔を引きつらせる。
「どうして警視がここに?」
「私は招待客として滞在していました…この被害者の甥という立場ですね」
「甥、ですか…」
「ええ…とはいえ被害者の元夫の身内でして…伯父が亡くなって再婚してからは疎遠になりましたが」
「ほう…疎遠になったというわりには叔母に招待されたんですか」
「いえ…招待してくれたのは従妹ですよ」
『あそこにいます』と、振り返る明智に猪川もそちらに目を向ける。
そこには明智に並ぶほどの容姿を持つ男性に寄り添われながら母が殺された現場を見つめる少女の姿があり、その少女の傍には幼い少年も傍に寄り添いこちらを見つめていた。
「従妹…彩羽の傍に付いているのはあの子の世話係の佐藤英二君…あの少年は彩羽の弟の隼人君です」
明智は冷静な口調で説明した。
叔父の妻が死んだというのに何の動揺も見せない。
叔母だというのに『被害者』と呼ぶ徹底さに猪川は身内が亡くなっても現場を見るという仕事熱心な警視に少し冷たい印象をもった。
そして彩羽に違和感を感じた。
母が死んだというのに彩羽の表情からは動揺どころか悲しみさえも感じなかった。
それどころか、弟という隼人も無表情でこちらを見ていた。
(母親を亡くしたっていうのに無反応な姉弟だな…普通はもっと嘆くものなんだが…)
多くの事件を扱ってきたが、両親や子供を亡くした人間の多くは嘆き悲しみ泣き崩れる。
中には静かな反応を見せる人間もいるが、大抵そういう人間は対面する際一人にすると我慢していた感情を爆発させるように外で待っている猪川達にも泣き声が聞こえるほど泣き崩れる人間もいる。
そうでなくても泣いて目を腫らすものだ。
だから無反応なあの姉弟に違和感を感じた。
「事情は分かりました…しかし、この現場は我々石川県警の管轄…例え警視殿といえど捜査してもらっては困りますね…あなたは容疑者の一人なんですから」
警察は正義の味方…ではあるが、意外と同じ警察でも他県の警察が自分達のテリトリーに入られるのを嫌う傾向がある。
中には露骨に嫌がる者もおり、警視と警部では立場は明智の方が上だが猪川は勝手にされた不快感を露わにした。
明智もそれを理解しているのか『そうですね、すみませんでした』と素直に謝り、話している最中も現場を見ていた少年に声をかけた。
「金田一君、行きますよ」
「え!?俺まだ見てないんだけど…」
「私達は容疑者ですから現場にいたら無実な私達でも彼らに怪しまれます…ここからは石川県警に任せましょう」
ちょっとした嫌味を添えて明智は金田一と呼んだ少年の首根っこを捕まえその場から去っていった。
その嫌みに猪川は顔を顰めながら『金田一』という名前に『どっかで聞いたことあるような』と一瞬だけ考えた。
しかし、部下に声をかけられ我に返った猪川は部下達に指示を出す。
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