(16 / 37) 黒死蝶殺人事件 (16)

彩羽は走っていた。
どこへと聞かれると分からないが、とにかく連から離れようと走っていた。


「わ…っ!」

「きゃ!」


無我夢中だったから前を見ていなかった彩羽は誰かとぶつかりそうになる。
幸い慌てて止まったので両者怪我はなかったが、彩羽はよろけてしまい相手が支えてくれた。


「は、はじめちゃん…」

「大丈夫か?彩羽…一体どうしたんだよそんなに慌てて」


顔を上げれば幼馴染がいた。
どうやら金田一にぶつかりそうになったらしく、支えてくれた金田一にお礼を言いながら『何でもないよ』と答えた。
流石に蓮にキスされ襲われかけましたとは言えなかった。


「彩羽、大丈夫か?」


『そっか、ならいいんだが』と納得してくれた金田一の背後から明智が出てきて彩羽を金田一から奪う。
普段なら『出たよシスコン』と思うが、明智の気持ちを知ってしまった今『シスコン』とはいえなかった。
むしろシスコンより質が悪いと思った。
彩羽は明智の気持ちを知らないため、純粋に心配してくれていると思い安心させるよう笑って頷く。


「姉様っ!」


大人たちの隙間を通って、隼人が彩羽に抱きつく。
体を震わせて抱き着く弟に、彩羽は明日香との事で怖がらせたと思い、しゃがんで弟を抱きしめた。


「姉様…ぼくたちどうなるの?明日香姉様に追い出されちゃうの?」

「大丈夫だよ…まだどうなるかはお姉ちゃんも分からないけど…でも、きっとうまくいく…この家を出て行ったってお姉ちゃんが隼人を守るから…」

「姉様…」


抱きしめる隼人は不安を積もらせた声をしていた。
母の死は幼い弟にとって相当の負荷になったはず。
隼人を安心させたい気持ちはあるが、まだ17歳の自分では全て安心させるのは無理なのも知っている。
それがもどかしくて泣きたくなるが、それでもまだ7歳の弟にはもう自分しか頼れる人間はいないのだと気を引き締める。
今の弟の立場は前までの自分なのだ。
この家の中で一番不安で押しつぶされそうなのは彩羽ではなく、弟なのだから、血は繋がらなくとも姉である自分がしっかりしなければと思う。

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