場所を変え、外の空気を吸って気分転換にとデッキへ出た。
殺人が起きたと思えないほど外は晴れ晴れしく、目の前には数多くの蝶が飛んでいた。
隼人と彩羽はデッキから少し離れた場所にある花を見ていた。
「隼人君…ああやって見ると普通の子供に見えるわね」
「ああ…あれで大学生並の知能っつーんだから驚きだよなぁ」
彩羽に花や蝶の事を教えているのか、姉の服を握って『あれはね』『これはね』と花や蝶を指さす隼人の姿は年相応で愛らしく見える。
自分達には無表情だが彩羽には笑顔を見せており、彩羽との姿を見れば普通の子供にしか見えなかった。
だが、実際は大人顔負けの知能があるというのだから驚きである。
「隼人君は巴川家でもそれ以外でも彩羽にしか懐かないですからね」
「へー…彩羽が懐いてるあんたにも懐かないんだ」
「ええ…以前隼人君に私は姉を独り占めするから嫌いだと言われました」
明智の言葉に金田一は『きっついなぁ』と感想を述べ、姉と楽しくお喋りをする隼人を見る。
やはり巴川家の血なのか初音の血なのか、7歳にしてはイケメンである。
それなのにフミが何の反応も示さないのは、あの初対面が効いているからだろう。
まあ、誰だって初対面で突き飛ばされればイケメンとはいえ好んで接そうとはしないだろう。
そう思うと連れてきてしまった(勝手についてきたのだが)事に申し訳なく思い、金田一は傍にいるフミの頭を撫でた。
滅多に撫でることのない従兄に撫でられフミは『なんだよはじめ…気色悪ィ』と不審者を見るような目で金田一を見た。
そんなフミに『人が優しくしてやってんのに』と腹を立てた金田一は軽くフミの頭にチョップを入れて許してやる。
軽くとは言えチョップの痛さに涙目になりながらフミは金田一の足を思いっきり踏みつけてやる。
痛みに声を零す金田一とそっぽを向くフミの一連の流れを見ていた美雪、いつき、明智は『何をやってるんだか…』と呆れた目で見つめていた。
でもそんな2人のやりとりに、沈みかけた気持ちが少し晴れたのも確かだ。
「英二さん…大丈夫かな…」
ポツリと呟かれた彩羽の言葉に、金田一達は彩羽へと目を移す。
弟と遊んでいた彩羽だったが、やはり連行された英二が心配なのか空を見上げ、心ここにあらずという反応だった。
「犯人と確定したわけではないから乱暴な事はされないだろう…恐らく明日には帰れるはずだ」
「だといいけど…」
アリバイがないだけで連行されても、拘束できるわけではない。
犯人という証拠もない以上、警察も怪しくとも帰す義務もある。
乱暴はドラマにあるような事はされないだろうが、問い詰めるという意味での乱暴はあるだろう。
しかしそれも怒鳴る程度の乱暴だ。
彩羽が心配するような事じゃない、と暗に言うも、やはり彩羽はいつも傍にいてくれた英二がいないというのは少し寂しさを感じていた。
「そういえばさ…佐藤さんっていつからここにいるんだ?」
英二の話題になり、ふと金田一は彩羽に質問する。
彩羽は金田一の質問に空から金田一へを目線を移す。
「英二さん?…えっと、確か…北海道の事件の後すぐだったかな…」
「地獄の傀儡師の事件か…」
「うん、お母さんが私の世話係を探してて…それで面接に来た英二さんを雇ったらしいの」
「今頃世話係を雇ったのか?こういうのって大体この家に来たときにつけるもんじゃないのか?」
「うーん…多分その頃から私を隼人の婚約者にするつもりだったんじゃないかな…巴川家の人間として恥ずかしくないよう世話係を付けたんだと思う」
それまでは前妻の間に出来た長男が巴川家を継ぐことになり、義父が蓮との婚約を決めた。
その後すぐに義父が亡くなり、立場は逆転した。
今まで巴川家の人間がいずれ夫人となる彩羽を教育していたが、母は自分の息が掛かった人間に全てすり替えていった。
英二はその募集で面接に来て奇跡的に受かった人間だった。
母の事だから世話係は女性にするかと思ったと驚いた記憶はある。
まあ英二が彩羽を主人として認め母に逆らうまでは母の思い通りに事が運んでいたのだろう。
英二も立場が弱い自分を主人と認めてくれて、色々と助けてくれた。
姉に懐いてる弟と多少の悶着はあったが、それでも彩羽は英二に懐いていたのもあって一度解雇されたが戻ってきてくれた。
「佐藤さんの家族構成とか知ってるか?」
「……もしかしてはじめちゃん…英二さんを疑ってる?」
「いや!違うって!ほら…やっぱ幼馴染の傍にいるわけだし…俺もさ、彩羽が心配なんだよ!心配!」
彩羽はジト目で金田一を見る。
まさか金田一までが英二が母を殺した犯人かと疑えば、金田一は慌てて首を振って否定した。
その否定が嘘くささはあるが、まあ心配されて嫌な気持ちではいのも確かで…彩羽はジト目のまま答える。
「英二さんは一人っ子だって聞いた事があるよ…ご両親もご健在でイギリスで働いているんだって」
「イギリス?じゃあ、なんで佐藤さんは日本にいるんだ?」
「イギリスに行ったのは英二さんがここに働き出してからだって言ってた…日系企業で働いている方で、本当は単身赴任だったけど英二さんもここに住み込みで働くからってお母さまも付いて行ったみたい」
彩羽は以前聞いた話を金田一達にも話した。
金田一がなぜ英二の家族構成を聞くのか分からないが、『ふーん』とそれ以上聞き出そうとはしなかった事から少しは疑いも晴れたのだろう。
「あ、じゃあ…佐藤さんの得意なものって…もしかして…―――だったりする?」
「はじめちゃんすごい!なんで分かったの?」
「あー…そっか…やっぱりか…」
「?」
さきほどから金田一は意味の分からない質問ばかりしてくる。
彩羽は金田一が何をしたいのか分からないながらに、彼に耳打ちされた質問に頷いた。
金田一は言ったことのない彼の得意を言い当てた事を驚いていたが、金田一本人は複雑そうな表情を浮かべていた。
彩羽はその反応に首を傾げる。
「うわああ!」
その時、男の叫び声が響いた。
その声は使用人の一人である竹蔵だった。
金田一達はその声の元に駆け付ける。
「竹蔵さん!?」
「どうしたんですか!?」
「こ、こいつが…!黒死蝶がわしの肩に止まろうとしたんじゃ!」
「はあ!?」
駆け付けると庭を整備していた竹蔵が怯えたように花壇から離れるのが見えた。
どうしたのかと問えば竹蔵は黒死蝶を指さし、竹蔵の言葉に思わず金田一が声を上げる。
彩羽は竹蔵の言葉に竹蔵ほど動揺はしていないが、驚いた顔を見せていた。
「別にどうってことないじゃないすか?そりゃ確かに不気味な蝶ですけど…」
「と、とんでもない!この蝶は特別じゃ!こいつは『死を招く蝶』じゃぞ!!」
「死を招く蝶…!?」
怪訝とさせる金田一に竹蔵はこの蝶に語り継げられているこの辺りに伝わる古くからの伝説を語った。
昔、この辺りの村に仲のいい夫婦がいた。
しかしその妻に庄屋の息子が横恋慕し、夫を殺して妻を無理矢理自分の物にしてしまった。
妻は観念して大人しく暮らしていたらしいが、庄屋との間に三人の娘が生まれ、その娘達が美しく育つと、ある日突然呪いの言葉を遺して妻は娘ともども自らの喉をかき切って死んだのだという。
しかしその話はそれだけでは終わらず、それから数日後の事。
4頭の黒い蝶が庄屋の家の周りを飛ぶようになり、庄屋の家の者をはじめとした妻の夫を手に掛けた者や見て見ぬふりをした村の者達が恐ろしい疫病に掛かり次々と倒れてしまう。
三日三晩苦しみぬいて全身真っ黒に爛れて誰かが死ぬ度に、その黒い蝶は一頭、また一頭と増えていった。
そしてやて村人の半数が死に絶えた頃には―――何千何万という黒死蝶が死体の山を覆い隠すように群れ集まっていたそうだ。
その事から、黒死蝶は愛する夫を殺された妻の怨念が生んだ死を招く『呪いの蝶』だと言われていた。
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