美雪とフミ、いつきと彩羽は話をし、少しだけ明るさを取り戻した。
明智はあの後彩羽を美雪達の元に送った後に出かけてしまいいない。
用事が出来たと言って屋敷を出る明智を不安そうに見送ったが、美雪達が励まし元気を取り戻した。
金田一は先ほどトイレに席を立ち、戻ってきた。
「あれ…佐藤さんは?」
戻ってきた時、一人いなくなっているのに気づく。
いままで彩羽の傍をぴったりと離れなかった英二の姿がなかったのだ。
「英二さんなら地下室にいるよ」
「地下室?なんでまたそんなところに…」
「地下には標本部屋の他にも庭に放てない若い蝶とかを飼育している部屋があって、その部屋の蝶の世話をしているの…本当なら蓮さんがしているんだけど…蓮さんに頼まれて英二さんが代わりにしているの」
「蓮さん、どうしたんだ?」
「気分がすぐれないから少し休みたいと言っていたみたい」
「えっ!?大丈夫なのか!?」
英二は蓮の代わりに地下で飼育している蝶の世話をするため彩羽の傍を離れたらしい。
本来は蓮が世話をしているのだが、気分がすぐれないと英二に世話を頼んでいた。
英二に頼んだのは、英二が手先が器用だったからだ。
同じ蝶に詳しい隼人でもいいのだが、隼人は彩羽以外には懐かず、特に巴川家では蓮と明日香を最も毛嫌いしている節があったから蓮は頼みづらかったのだろう。
蓮と明日香を嫌う理由はもちろん彩羽だ。
蓮は彩羽の元婚約者、明日香は彩羽を事あるごとに虐めるので彩羽に懐いている弟として彼らを嫌っていた。
この屋敷には学者はおらず、客人の山野に頼むわけにもいかず、消去法で英二に白羽の矢が立ったのだ。
気分が優れないという蓮の心配をする金田一に彩羽は気まずげに頷いた。
「ええ、気分的なものらしいから…」
「気分?」
首を傾げる金田一に彩羽は何も言わず笑った。
その笑みは曖昧で、悲しげだった。
その笑みが何の意味を表すのか…聞こうと思ったその時、明智が帰ってきた。
「兄さん!」
「遅くなってすまない、彩羽…」
明智が部屋に入り、扉の音に振り返った彩羽は従兄の姿に明智が帰ってきた事に気付く。
往復でも2時間かかるためどんな私用かは分からないが用事も含めるとそれなりの時間となる。
それなのに長い間会えなかった気がして彩羽は立ち上がり明智の元に駆け寄った。
「どこ行ってたの?」
「ちょっと私用で街に降りていたんだ…ところで佐藤くんはどこに…」
「英二さんなら…」
「――明智さん、ちょっといいかな?話があるんだ」
真っ先に駆け寄ってくる従妹に美女も一目見れば惚れるであろう微笑みを彩羽に向け、彩羽の頭を撫でる。
彩羽も嬉しそうに受け入れ、それを美雪は明智の想いに気付いていない幼馴染に複雑そうに見つめていた。
明智は英二の姿が見えないのに気づき、彩羽に問うと、彩羽が答えるよりも金田一に遮られる。
『事件の事で二人で話したい』という金田一に明智は深く頷き、彩羽に一言言って部屋を出て行った。
「…2人とも…どうしたんだろう…」
「事件の事って言ってたし…私達に聞かれたくない事よ、きっと」
置いていかれた彩羽は渋々と美雪達のもとに戻ってきた。
心配そうな顔で2人が出て行った扉を見つめる彩羽に美雪が安心させるように言うも彩羽の不安げな顔は中々晴れない。
彩羽は二人の様子がどこかいつもと違うと気付いていた。
フミが幼いながらに元気出させようと色々と話している内に彩羽の顔も晴れ美雪は安堵する。
しかし美雪も彩羽と同じく二人がいつもと何かが違うと気づき、彼らが出て行った扉を心配そうにチラリとだが見た。
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