(30 / 37) 黒死蝶殺人事件 (30)

彩羽は聴取も終わり、やっと解放され安堵した矢先…また事件が起こった。
今度は加川が自室で死んでいるとこを見つかり、彩羽と明智も一応という形で呼び出された。
昨日ぶりの彩羽は金田一達に気付くと笑って小さく手を振った。
その笑みは満面でもないし、心配していた金田一に対して気を使った笑みだっただろう。
だが周りに気を配れる程度には余裕が出来たと安堵した。
今回も殺人だと思っていた彩羽は猪川の言葉に驚いた。


「え…お母さんと蓮さんを殺したのは加川先生だった!?」


猪川から出された捜査の結果は、自殺だった。
彩羽以外も今回も殺人だと思っていた金田一達はその報告に目を丸くする。
調べたところによれば、加川は毒を飲んで死んでいたという。
死亡推定時刻は夜中。
机に置いてあったノートパソコンに遺書と初音と蓮の殺害の自供が書かれていたらしい。


「そんな…先生が…蓮を…」


加川が弟を殺したと知り、呼び出された明日香は立ち眩みのようなものに襲われ、傍にいた千里に肩を支えられる。
千里も信じられないと猪川を見る。


「何かの間違いではないんですか…?加川先生が人を殺すなんて…あの方は医者ですよ…」

「医師が人を殺さないとは言い切れないでしょう?…現に私は医師が殺人を犯す事件を何件も扱った事ありますよ」

「………」

「加川の遺書の中には巴川初音、巴川蓮の殺害を自供した文章が書かれており、最後には罪の重さに耐えられず自害すると書かれていた…部屋には外部からの侵入もなければ、加川の体には外傷も一切見当たらなかった…罪の重さに耐えかね自殺したのだろう」

「そんな…」


千里も幼い頃から世話になっていたのもあり、加川が初音はともかく弟まで殺すのが信じられず、顔を青ざめ言葉を失っていた。


「2人を殺した動機はなんですか?」

「加川と巴川初音は長年愛人関係にありそのいざござで衝動的に殺害、それを蓮に見られ脅迫されて殺害と書かれているな…」

「か、加川先生と…初音さんが…愛人関係…!?」

「嘘…嘘よ!!そんなの…!だって…加川先生とあの女にそんなそぶりは…」

「申し訳ないが二人の関係が親密だった事は調べが付いているし、それを彼は認めている」


初音と加川の関係は誰も全く気付かなかった。
思わず全員が彩羽を見ると、彩羽も唖然としており気づいていた様子はなかった。
隼人は相変わらず表情がなく、感情が読めない。
初音殺害の際、詳しい話を個別に聞いており、
その調べで加川と初音が愛人関係だったと判明し、それを問い質せば簡単に認めた。
しかし犯人だという証拠もないため、話を聞くだけとなった。


「お母さんを…加川先生が…」


彩羽は加川と母の親密な関係、そしてあれだけ憎んだ母を加川が殺したのだと聞かされ千里以上に顔色を悪くさせ俯く。
傍にいた高遠が『お嬢様…』とそっと彩羽の背に手をやり慰めるが、自分とは反対の彩羽の隣に座っていた明智が咄嗟に彩羽の肩を抱きよせてしまう。
場違いながらも高遠と明智は静かに睨み合う。


「なあ、ちょっと可笑しくないか?」


二重のショックに呆然としていると、金田一の声が聞こえ彩羽はハッと我に返る。
恐る恐る顔を上げて金田一を見上げれば、金田一は何か考え込んでいるように顎に指をやり険しい表情を浮かべていた。
猪川はまた金田一の横やりに苛立ったように顔を顰める。


「なにがだ?」

「遺書をパソコンで書いてるのがだよ…遺書ってパソコンで書いても無効になるんだよな…それに2人を殺した事で自殺に追いつめられるような人がパソコンになんかに書くかなぁ…それに二人の殺害の動機…俺、なんか引っかかるんだよなぁ」

「…では犯人は誰だっていうんだ?」

「それは…まだ分からない…けど…」

「悪いが探偵ゴッコに付き合うつもりは石川県警にはないな…名探偵が贔屓にしている県警と違ってね」

「………」


遺書と言っても書けばいいというわけではない。
パソコン、ビデオなどの遺書は無効になる。
金田一もそれは知っていてパソコンで書いた遺書というのがどうしても違和感を感じていた。
とは言え密室ではないが、侵入された様子もなく、誰かと争った形跡がないのも事実で、傍から見ればどう見ても自殺だ。
最初こそ金田一もそう考えていたが、どうしても違和感が拭えなかった。
そんな金田一に猪川は突っ撥ね、この事件はもう少し捜査した後他に異常がなければ猪川の考え通り加川の自殺と片付けられる事になる。

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