美雪は何とか先生が来るまで教室に戻る事に成功した。
美雪と金田一の仲はクラス中に知れ渡っており、更には金田一の駄目さも知れ渡っているので、『またか〜』とほぼ全員に思われているのだが…美雪は気づいていない。
更には『ちくしょー!なんであんな駄目男にあんな美少女が気にかけるんだ!』や『なんで万年びりっけつに世話焼き美少女がついてるんだよ!!』と男子達が悔しがっているのも気づいていない。
「なあに、また彼氏に逃げられたの?美雪」
「かっ…彼氏じゃないわよ!」
「じゃあ…旦那?」
「旦那でもないってばー!もうやめてよ!」
後ろにいた友人がこそっと声をかけてきた。
その言葉に美雪はボッと顔を赤く染め、首を振るが、前の友人にも揶揄われてしまう。
彼氏から旦那に進化し、顔を更に赤くし必死に否定する。
それを見て友人たちはにやにやと笑っており信じていなかった。
『はいはい、リア充ねー』とまた揶揄う友人に美雪はもう何も言えず俯く。
美雪と金田一はよく一緒にいることも多い。
10代となると思春期であり、"そういう事"に敏感なお年頃である。
小学生みたいに一緒にいるだけで『お前らデキてんの〜?』と言うバk…ゴホン、揶揄われる事は少なくなったが、似たような現象はよく起こる。
高校生ともなるとほとんどが大人になりつつあるため、揶揄われても軽く流す人や開き直る人もいるが、美雪のような素直な反応の人はこうして揶揄われる事も多々ある。
更に言えば、成績優秀で美少女である美雪が落ちこぼれでそれほどイケメンではない金田一とくっ付くわけがないと思っている人も多く、もはや定番のネタ扱いというのもある。
そうこうしている内に教師が入ってきた。
「今日は転校生が来てるから…おーい、入ってこーい」
教師も教室に入り、一応は皆姿勢を正す。
しかし教卓に立った教師の言葉にざわめきが生まれた。
転校生などそうそうあるイベントではない。
ざわめくのも仕方ないが、教師はそれを静かにさせ廊下にいるであろう転校生に入るように云った。
ガラ、と音をさせて教室に入ってきたのは女生徒だった。
しかし、男子も女子もその女生徒が教室に入った瞬間、騒めいていた教室がシンッと静まり返る。
「じゃあ、自己紹介して」
「はい…巴川彩羽です、前は石川県の学校に通っていたのですが家庭の事情でこちらに引っ越してきました…よろしくお願いします」
カッカッカ、と教師が女生徒…彩羽の名前を書くチョークの音だけが響き、彩羽の自己紹介の声だけが響く。
下げた頭を上げ彩羽は笑顔を張り付けたが内心『めっちゃ気まずい…なんで静かなの?』と冷や汗物だった。
更には『東京は冷たいって本当だったんだ…』と何故か田舎者のような事を思う。
教師が『じゃあ巴川さんの席は…』と言いかけた時―――
「ええええ!?彩羽ちゃん!!?」
ガタリと椅子が倒れた音と共に美雪が席を立ち声を上げる。
その声に全員の目線が美雪に集中したが、彩羽は美雪の姿に目を丸くさせた後嬉しそうに笑った。
「美雪ちゃん!!」
「なんで彩羽ちゃんがここに!?」
「なんでって…東京に戻ってから何回か会ってたでしょ?」
「そ、そうだけど!でも…だって…!」
「なんだ、七瀬の知り合いか?まあ、何にせよ授業始めるから質問は後でやれよー」
美雪と金田一とはすでに何度か会っており、明智の家に住んでいるのも知っている。
なのに驚く美雪に彩羽は小首を傾げたが、美雪の言葉を遮り担任が空いている席に座れと話を切り上げさせた。
しかし空いている席と聞き、彩羽は二つの席を見る。
「あの…空いている席二つあるんですけど…」
「なんだ…七瀬、また金田一に逃げられたのか?」
「ゔ…は、はい…逃げられました…すみません…」
「全くあいつは…いい加減首輪で繋いでおけ」
担任の言葉にどっと笑いが起きる。
担任も本気ではなくネタとして言っているのは美雪も分かっているが、幼馴染として恥ずかしくて俯いた顔が上げれなかった。
それに対して彩羽は『はじめちゃんもこのクラスなんだ』と嬉しく思いながら担任が指さした空いた席に座った。
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