美雪はすでに金田一の行動を読んでいた。
あの時屋上にいないと思ってしまったのは本当だが、どこかにいたとしても屋上にいるだろうという読みは当たっていた。
「でもまさか不動高校に転入してくるとは思ってもみなかったわ…高校は別々かなぁって寂しかったから嬉しい!」
「ごめんね、兄さんにも驚かせたいからって黙っててもらってたの」
内緒、という意味で口元に人差し指を持っていく彩羽に美雪は眩しそうに笑った。
あの事件から彩羽は明るく振る舞っていたが、やはりその顔はぎこちなく悲しげだった。
だから本当の笑みを浮かべる幼馴染に美雪はホッと安堵する。
話ながら歩いているとあっという間に屋上に到着した。
「あっ!やっぱりここにいた!」
「げ…美雪…と…――彩羽!?」
ペントハウスの上に設備されている給水タンクを背もたれに座っていた金田一がいた。
周りに揶揄われた恥ずかしさを思い出し腹を立てた美雪は金田一を見上げて声を上げる。
鬼の形相を見せる幼馴染にビクリと肩をすくませていたが、その隣に彩羽の姿があるのに気づき金田一は驚きの声を上げてペントハウスから降りた。
「なんでここに彩羽がいんの!?」
「実はー、彩羽ちゃんはー、今日うちに転校してきた転校生なのでーす!」
金田一は美雪に怒られた事も忘れて彩羽に駆け寄った。
美雪も驚く金田一に怒っていた事も忘れ悪戯が成功したように笑った。
彩羽も美雪同様悪戯が成功したと笑う。
美雪の言葉に金田一は彩羽の頭の天辺から足の先まで何度も見る。
確かに、彩羽が着ている制服は葬式の時に見た制服ではなく、不動高校の制服である。
信じられない気持ちもあるが、同じ制服を着ている事で金田一は納得した。
「なるほどなぁ…だから転校先の高校を教えなかったのか」
「ごめんね、驚かせたくって兄さんにも口止めしてたの」
悪戯が成功したとはいえ、騙していたのも同じで彩羽は手と手を合わせて『ごめんね』と謝る。
ちゃんと小首を傾げ上目遣いで謝るのがみそである。
勿論、従兄での経験上得た技である。
そのおかげで金田一はデレデレとさせて許してくれた。
「あ、そうだ…はい、はじめちゃん」
彩羽にデレデレ顔を見せる金田一だが、美雪からの反応はない。
呆れ返っているわけではなく、危機する事ではないからだ。
金田一は女に弱いしすぐにデレデレするし思春期故にエロイことしか考えてないしでまさに男子高校生らしいと言えばらしいが、露骨すぎるのだ。
だから幼馴染として…そう、幼馴染として!あちこちに迷惑をかけないよう見張っているのだが…金田一がデレデレしていても美雪が安心していられる唯一の相手が彩羽である。
勿論、その理由は彩羽の背後に明智がいるからだ。
誰だって馬に蹴られて死にたくはないだろう。
これから彩羽とも一緒に過ごせると美雪も嬉しく思いつつ、持っていた『ある物』を金田一に差し出した。
それは何枚かのプリント用紙だった。
その差し出された物を見て金田一は嬉しそうに顔をほころばす。
「今朝頼んでおいた宿題もう出来ちゃったの!?サンキュー!」
「やっぱり自分の宿題は自分でやって!」
「ええ!?」
「いつもやってあげたらはじめちゃんのためにならないもん!」
「なにぃ〜!?……じゃあ…」
「彩羽ちゃんに押し付けてもだーめ!!今後そんな事したら明智さんに言うからね!」
「明智さんにチクるって…悪魔かお前!幼稚園の時はもっと優しかったぞ!」
どうやら美雪に宿題を押し付けたらしい。
美雪に断られ、じゃあ、と彩羽を見たが、その視線で何を言うのか察した美雪に先を越されてしまった。
「頼むってば!」
「だーーめ!!」
彩羽を庇うように美雪が前に出て金田一をギロリと睨む。
金田一と美雪のやり取りに彩羽が苦笑いを浮かべていると…後ろから人が横切り、その人は美雪の持っていた金田一の宿題のプリントを奪うように取っていった。
「相変わらずね、金田一君」
「桜樹先輩!」
「放っておきなさい、幼馴染のタコ娘なんて」
「た…たこ!?」
奪っていった人は女性だった。
転校してきたばかりだから当たり前だが、その顔に見覚えはない。
どうやら金田一と顔見知りらしく、ついでに言えば上級生らしい。
美雪は『タコ娘』と言われ思わず声を上げたが、彩羽から『ど、どうどう…落ち着いて』と宥められ何とか落ち着くことが出来た。
「あなたの隠された価値が分かっているのは私だけ…」
そう言って桜樹と金田一に呼ばれた女生徒は金田一に向かって微笑みかけた。
その笑みは18歳とは思えないほど妖艶で、美しく、当然のように金田一は頬を染め呆ける。
いつものように女性に見惚れる幼馴染に落ち着いていた美雪だったがムッとさせた。
「これはまかせて」
「やってくれるんですか?先輩」
「その代わりお願いがあるの」
桜樹は美雪から奪った金田一の宿題を代わりにやってくれると言ってくれた。
彩羽と美雪からしたら意外だったが、金田一からしたらラッキーものである。
しかしタダではなかったようで、宿題を代わりに解く代わりに、と効果条件を出された。
その条件とは…
「金田一君、あなたに解いてほしいのよ―――不動高校七不思議の謎をね!」
「七不思議の謎?」
この学校の七不思議の謎を解いてほしいというものだった。
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