放課後。
彩羽は美雪と金田一と共にミステリー研究会の部室へと向かっていた。
「ミステリー研究会の部室って私初めて!」
美雪をタコ娘と呼び、金田一の頭脳に気付いていた数少ない人間である桜樹るい子は不動高校3年であり、ミステリー研究会の部長を務めている。
頭も良く、容姿も整っているというのもあり、男子生徒には人気なのだとクラスの女子が教えてくれた。
女子の情報網って凄い…と彩羽は美雪の友人達から聞きそう思った。
前にいた学校はエリート学園としてステレオタイプの学校だったから、勉強の事以外で盛り上がるのを見て呆気に取られていた。
前にいた学校では自分は友達とつるむのではなく、逆に煙たがれていたから彩羽が知らないだけかもしれないが…人から見れば煩いだけの女子の会話だが、彩羽には何だか羨ましく見えてしまう。
7年間復讐の事ばかりで周りの事は後回しだった分、同性と何でもない事ではしゃぐことが夢でもあった。
まだ中に入れないが、それでも輪の中に入っているだけでも楽しく感じた。
だからだろうか…ずっと彩羽の機嫌は良く、今も歌を歌い出しそうな機嫌のよさが顔に出ていた。
しかし…
「なあんで美雪と彩羽が着いてくんだよ…」
それに対し、金田一は不服そうだった。
美人な桜樹に誘われて放課後まで妄想で鼻の下伸ばしていたのに…オマケが二つついてきてしまったのだ。
性欲を持て余す系男子として通っている金田一にはオマケというか…邪魔者というか…とりあえず美雪がついて来た時点で妄想が粉々に砕け散り現実にはならない事は決まってしまった。
「は、はじめちゃん何するか分からないでしょ!?監視役よ!」
「私は前の学校じゃ部活とか入ってなかったから放課後の部活動とか憧れてたんだよね」
不服そうな金田一の問いに、美雪はあくまで監視とついてくる事を示し、彩羽は前の学校では車で自宅まで1時間もかかっていたため部活などできるわけもなく…しかし部活動もまた憧れだったのもあってついて来たのだ。
ワクワクという文字が見えるくらい楽しみにしている様子の彩羽を見て金田一は黙り込む。
あの家での彩羽を実際見ていた事もあってか流石にワクワク感を隠さない彩羽に『帰れ』とは言えず、旧校舎にある『ミステリー研究会』と書かれている部室のドアノブに手を伸ばしたが、ドアノブを捻る前にある事に気付く。
「っていうか…彩羽、お前…帰りが遅くなると明智さん煩いんじゃないか?」
ふと金田一は彩羽にそう聞く。
半分気付いたことだが、半分『明智さんがうるさいぞ〜こわいぞ〜シスコンだぞ〜』という脅し(になっていない脅し)でもあった。
だが…
「あ、大丈夫…兄さん仕事忙しいみたいで泊まり込んでるから家には誰もいないし…それに元々今日は美雪ちゃんのところに泊りに行く予定だったから」
『明智さんがカチコミに来るんじゃねえの』とシスコンを出しても彩羽は全く動じなかった。
『元々』というのは、転入する前に約束してあったらしい。
若干『何それ俺聞いてないんだけど』と思い、何だか仲間はずれの様だと拗ねながら金田一は扉を開けた。
「ちわーっす」
恐る恐る中を覗くように部室を見渡すと中央にある6つ並べている勉強机を三人の男女の生徒が囲むように立って机を見つめていた。
金田一の声に気付いた三人のうち1人の男子生徒は金田一を見て怪訝とした顔を見せる。
「なんだ?お前は」
「金田一です、桜樹さんにここに来るように言われて…」
金田一が中に入ったので彩羽と美雪もそれに続ける。
彩羽と美雪は物珍しそうに部室を見渡していたが、金田一は机の上に目がいった。
女連れ…それも桜樹同様美女を連れている金田一に気付いた男子生徒はジロジロと金田一を見た後、鼻で笑った。
「あの桜樹君がスカウトしたっていうからどんな切れ者かと思ったら…およそ推理という知的なものとは無縁そうな奴だな」
金田一は男子生徒の言葉にムッとさせる。
彩羽は部屋を見渡し壁に貼ってあるポスターを見た。
そしてその後金田一を鼻で笑った男子生徒へ目をやる。
(そっくり…っていうか瓜二つ)
また彩羽はポスターを見て男子生徒を見る。
ポスターと男子生徒が似ていると思ったその時、美雪が男子生徒を見て思い出し様な声を零した。
「あ!やっぱりそうだ!新聞に載ってた真壁誠さんでしょ?推理小説大賞に優勝した!」
「死体はかく語る…今ベストセラーの第二位だ」
美雪の言葉に彩羽は『ああ』と納得する。
通りでポスターの写真と瓜二つなのか、と。
正直なぜ気づかない、という突っ込みが聞こえそうだが、どうやら男子生徒は有名人らしい。
「真壁君は今やマスコミのスターだよ…天才高校生作家って」
「誰かの書いた奴は予選も通らなかったんだっけなぁ…的場先生がポスターをあんなところに張らなけりゃ…尾ノ上、お前にも一枚くらいはやっても良かったんだけどな」
真壁という男子は、嫌味な性格らしい。
にこやかに笑っているふくよかな男子生徒…尾ノ上は鉛筆が折れるのではないかと思う程強い力で握りその手は震えていた。
(なんか…殺伐としてるね…)
(ああ…)
それに気づいたのは彩羽だけではなく金田一もだった。
チラリと金田一を見れば彼は何も言わないが伏せ目がちで尾ノ上の手元を見ていたので気づいているのだと彩羽は耳元で話しかけた。
それに金田一も頷いていると、ふと背後から視線を感じゆっくりと振り返る。
そこには…
「………何やってるんだ、佐木」
「いえ、お気になさらず」
「いや気になるから…お前、ミス研だったっけ…部員ならそんな盗撮みたいに撮ってないでとっとと入ってこいよ…不気味っていうか気持ち悪いんだよ…盗撮されてるみたいで…」
佐木がいた。
佐木は金田一から後に来たのか扉の隙間を作りその隙間からビデオを回していた。
まるで盗撮しているようだと彩羽も思った。
金田一の無遠慮の言葉に佐木は『はーい』と素直に従い、美雪、金田一と撮り、そして最後にカメラを彩羽に向けた。
「久しぶりだね、佐木くん」
「はい!久しぶりですね!巴川さん!って…えっと、明智さんって言った方がいいですかね」
「巴川でいいよ…籍は巴川のままにしてもらってるから」
佐木はいなかったが、金田一から聞いたのか『巴川』と呼ぶべきか『明智』と呼ぶべきか…佐木は迷ったが、彩羽の言葉に『じゃあ巴川さんで!』と頷いた。
呼び方も決定し、佐木はカメラで彩羽の全体を見る。
佐木と彩羽が出会ったのは学校の外…北海道だったので私服の姿だったが、確か彩羽は別の学校に通っていると聞いていた。
しかし今カメラに映している彩羽の衣服は自分と同じ学校の制服に身を包まれている。
と、いうことは…
「その恰好…まさかこの学校に転校してきたんですか?」
「そう…今日転校してきたの」
「わあ!またこの学校に美人が増えて嬉しいですよ!」
予想通り彩羽はこの学校に転入してきたらしい。
佐木は『僕の事覚えててくれたんですね!嬉しいな!』と美人に覚えられていた事を素直に喜ぶが、彩羽は内心『君みたいな濃いキャラ忘れろっていう方が難しいよ…』と思う。
実際言わないのは彩羽の優しさだろう。
相変わらずカメラを人に向ける年下の少年に彩羽は苦笑いを浮かべていたが、興奮しているからか迫る様に近づく先に思わず後ずされば机にぶつかってしまった。
その拍子にピンク色のシャープペンがが机の上から転がって落ちてしまい、彩羽は落としてしまったと慌ててそれを拾う。
「ごめんなさい!」
彩羽は隣に立っていたシャープペンの落とし主に拾って返した。
しかし、その落とし主である女子生徒が差し出した手を見て彩羽は目を丸くする。
「それ、ひょっとして手術用の手袋?」
「彼女は病的に潔癖症でね…」
固まる彩羽をよそにその女子生徒…鷹島は摘まむようにシャープペンの頭の部分を取って彩羽の手から抜き取った。
その手には手術用の手袋が嵌められており、それに金田一も気づき問うと、真壁が答えてくれた。
潔癖症というだけあって、彩羽が触れた部分を鷹島はハンカチで拭っていた。
(なんか私が汚いみたい…)
じくりと心に小さい痛みを感じた。
相手は潔癖症である。
潔癖症は簡単に言えば強迫観念からくるものである。
切っ掛けはどうであれ、酷い人は本人でさえ苦しむ症状のものだ。
だから鷹島が悪いわけでもなく、彩羽相手でなくても彼女は同じ行動をしたはず。
それは頭で分かっているのだ。
だがそれでも、彩羽の過去が過去だからこそ受け流す事が難しいものもあった。
彩羽は無性に従兄に会いたいと思った。
従兄である明智があの時自分を汚くないと言ってくれた時…本当に嬉しかった。
本当に自分は汚くないんだと思えた。
だからその安心が欲しかった。
「しかし…これ、困ったなあ」
彩羽は尾ノ上の声にハッと我に返る。
どうやら思考に耽っていたようで周りの音が一気に耳に入ってくる。
騒めき程大きくないが、音一つしなかった静けさと比べれば煩いくらいだった。
「なんなんですか?」
そんなちょっとしたやり取りをよそに、机を見下ろしていた尾ノ上が困ったような声で零し、その声を聞いた美雪が問う。
すると佐木が机にカメラを向けて、美雪の問いに答えた。
「誰も読めないんですよ…桜樹先輩の暗号なんです」
「この意味が分からなきゃ今度の合宿に参加させないっていうんだ」
彩羽も机の上を見る。
そこにはトランプが数枚と、マッチが二本置かれており、トランプも適当に置いてあり意味はなさそうだった。
暗号だと知らなければ遊んだあと片していないようにも見える。
真壁も『何の意味もない』と断言していたが、彩羽はそうは思わなかった。
そう思うのは流石に意味は分からないが暗号だと言うのであればそうなのだろうという簡単な理由だ。
無造作に置かれたトランプとマッチを見て誰もが暗号を解こうと頭を悩ませる。
その中で唯一解けた人物がいた。
勿論、その人物とは…
「なんだ合宿の日程じゃん、これ」
金田一だった。
金田一は机に置かれているトランプやマッチを見てすぐにそう声を零し、全員が金田一を見た。
すぐに思いついたらしい金田一の言葉に真壁、尾ノ上、鷹島は信じられないように怪訝とさせた。
そんな三人の目線をよそに、金田一は机にあるトランプとマッチを並べた。
「こうすりゃゴールデンウイークのカレンダーにあるだろ?」
金田一はあっという間に無造作に置かれていたトランプとマッチを使いGWの日程を作り上げる。
それに美雪、彩羽、佐木は金田一の頭の良さを知っているため驚きはそれほどなかったが、真壁達三人は驚いてカレンダーと机の上を見つめていた。
「合宿はゴールデンウイークって事だろ?」
「すごいはじめちゃん!マッチでかけるを作るところがみそよね〜」
佐木と彩羽も金田一の回答に『なるほど』と声を零し、美雪が素直に褒めると金田一は得意げに笑って見せた。
すると後ろから拍手が聞こえ、振り返ると屋上で会った桜樹と1人の男性教師が部屋に入ってきていた。
「見事ね、金田一君」
拍手は桜樹が金田一へ送ったものだった。
美人な桜樹に褒められ金田一は鼻の下を伸ばし益々調子づく。
鼻の下が伸びに伸びる金田一にムッとさせた美雪が脇を肘で突き現実に呼び戻してやる。
「フン…馬鹿馬鹿しい…偶然さ」
「彼はあの名探偵金田一耕助の孫なのよ…IQ180の天才的頭脳の持ち主」
「IQ180!?あいつが!?」
推理小説が受賞し成績もいいと真壁は自分に自信を持っていた。
周りからも称賛されていたのもあり、金田一が桜樹の暗号をすぐに解いたのを見て隠すことなく悔しがっていた。
そのための悔しまぎれの言葉に、桜樹は金田一の祖父があの有名な探偵で彼自身ずば抜けた頭脳を持っていると真壁に教える。
しかし、やはり真壁は信じられないような目で金田一を見ていた。
…まあ、佐木のカメラに向かって変顔をしているところを見ると誰も信じられないだろうが。
「それでは議会を開始します…今日の議題は最近噂になってる不動高校旧校舎にまつわる七不思議の事なの」
「七つ目を知ってしまうと放課後の魔術師に殺されるとかっていうあれかい?」
「その放課後の魔術師から校長宛てに脅迫状が届いたのよ」
桜樹と尾ノ上の会話を彩羽は全く理解していないまま聞いていた。
それもそのはず。
彩羽は今日この学校に転入してきたばかりだから七不思議を知らない。
前の学校でもあったのだろうが、生憎と友達がいなかったためそういう事を話す機会がなかった。
ホラーもそれほど恐怖感が沸かないせいか、正直面白そうだと思って桜樹達の会話を聞いていた。
だが、事態は案外深刻だったらしい。
七不思議の登場人物であるはずの『放課後の魔術師』から脅迫状が来たという。
「学校側がこの旧校舎を取り壊そうとしているのは知っているでしょ?脅迫状には『もし旧校舎を壊せば七つの呪いが降りかかる』と…」
「旧校舎を壊せば…」
「呪いが…」
「『なぜそんな脅迫状を?』――それを近々迫った創立際のテーマにして全ての謎を我がミステリー研究会が究明するの!勿論、七不思議の最後の一つも明らかにしてみせるのよ!」
ミステリー研究会としてはいいテーマが出来たと喜ぶとろこだが、脅迫状が届いた時点で事件である。
恐らく学校側は悪戯だと思い警察には届けていないのだろう。
だから創立際でミステリー研究会のテーマに出来るのだろう。
「一応ミステリー研究会の顧問として言わせてもらうよ…昔、七不思議の一つを知ろうとして行方不明となった生徒もいるそうだ…もしも君たちに何か…」
「科学を追及する物理の先生らしからぬお言葉ですね…」
「しかし問題が起こってからでは…」
「責任を追及されて困るのは私…ですか?」
「い…いや…その…」
「ご心配なく…調査には細心の注意を払います」
ミステリー研究会の顧問である男子教師、的場は七不思議の謎を解こうとするのには反対らしい。
たどたどしい言葉に覇気はなく、気の弱さがうかがえた。
実際に桜樹と真壁に押されて強く反対できず結局創立際のテーマは『七不思議の謎』と『校長に届いた脅迫状』に決まってしまった。
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