流石に仕事を放り出す事はできず、抱きしめるのは帰って来てからだと言われた。
すぐに抱きしめて安心させてやれずすまない、と謝られたが、我が儘を言っているのはこちらの方だからと慌てた。
(でもなんか…今更ながらに恥ずかしい事を頼んだ気がする…)
無事、美雪の家に泊まりに向かい夕食もご馳走になり隣にある金田一の家にお邪魔しながらふと自分の起こした行動の重大さに気付く。
学校に通う前から遊んだりとしていたが、お互い家に遊びにいくなどはしていなかったため緊張もあってか今更になって恥ずかしくなってきた。
『あ゙ー!』と頭を抱えたい気分ではあったが、流石に突然頭を抱えてしまうと幼馴染たちに心配をさせてしまうので脳内で悶えるだけに留めた。
「ちょっと聞いてるの、はじめちゃん!」
美雪の声にハッとさせ彩羽は現実に帰還する。
声の方へ目をやれば、ベッドにうつ伏せになっている金田一に向かって美雪は何かを訴えていた。
「どうしたの?」
「彩羽ちゃん!ちょっと聞いてよ!はじめちゃんのためにお弁当作ってあげるっていうのにはじめちゃんってば聞いてないのよ!」
金田一は心ここにあらずと聞いておらずムスッとさせる美雪に彩羽は声をかける。
この間、金田一は勝手に美雪の弁当を食べただけではなく、もっと腹に溜まるものを請求したため金田一の望む弁当を作る事になったらしい。
しかし本人は桜樹にメロメロとなっており、聞いていなかった。
それで美雪は怒っていたらしい。
「桜樹先輩…なんでまた俺に肩入れしてくれるんだろう…もしかして…俺ってモテモテ!?」
「もう!はじめちゃんったら!!」
頬を赤らめ呟かれるその言葉に、彩羽は金田一の脳内は桜樹に満たされているなと思った。
彩羽でさえそう思うのだから美雪が気づかないわけでもなく…というよりは、誰もが気づくほどデレッデレな顔をしていた。
「はじめー!電話よー」
ドサリと音を立て顔面から落ちた金田一だったが、美雪に文句を言う前に母親が下から声をかけた。
どうやら電話がかかってきたようだ。
それも相手は先ほどまで妄想…もとい…思い浮かべていた桜樹だったため、金田一は痛みなど忘れ軽い足取りで部屋を出て行き電話に出た。
「はじめちゃん!!」
幼馴染が女に弱いというのは分かってはいるが、やはり腹が立つものは変わらない。
怒鳴るように声を荒げる美雪の隣で彩羽は変わり身の早い幼馴染に呆れるより感心してしまっていた。
「そういえば、美雪ちゃん…七不思議って何?」
「あ、そっか…彩羽ちゃん転校したから知らないんだっけ…うちの学校にもね、他の学校と同じで七不思議があるの…開かずの生物室、手首の這い回る印刷室、血を吸う井戸、魔の十三階段、知恵の女神、首吊りの大銀杏の6つがそうなんだけど…最後の7つ目を知っちゃうと『放課後の魔術師』に殺されるって噂なのよ」
「その7つ目を解き明かそうって事ね」
「その7つ目もついに解き明かされる事になるようだぜ」
彩羽はふと聞こうと思っていた事を美雪に問う。
むっとさせていた美雪だったが、彩羽の問いに、膨らませていた頬を戻して噂になっている七不思議を彩羽に教えた。
彩羽はそれを聞いて前の学校の七不思議は何だったんだろうとふと感傷深く思う。
すると桜樹との電話から金田一が帰ってきた。
金田一の言葉に美雪と彩羽はお互い顔を見合わせる。
「さっき桜樹先輩から電話が来てさ…七不思議の謎が分かったからって呼び出されたんだよ…だから美雪と彩羽は―――」
「「行く!」」
「デスヨネー…」
電話の内容はその七不思議の事だったらしい。
それも創立際のテーマである謎が解けたという連絡だった。
夜に呼び出された金田一はもんもんと妄想をした。
健全な男の子なら誰だってする妄想だろう。
残念ながらその場にいるのは男子とは思考も回路も違う女子二人。
帰らない?、と伝える前に顔を見合わせていた彩羽と美雪からは予想され断られてしまった。
(もしかして…厄介なのが増えたっぽい?)
金田一は今更そう思いつつこれからの未来を危惧した。
金田一の前には母親と美雪という2つの厚く高い壁が聳え立っている。
特に美雪という名の壁には多くの麗しき女性達との接触を阻まれてきた。
それが彩羽という名の壁が新たに建ち、鉄壁と化した。
しかしそれだけではなくその背後に明智という名の壁が絶つことで鉄壁だった壁が、不落要塞並みになってしまった。
(やべえ…詰んだ…)
本人や友人達周りは気づいていないが、案外金田一はモテる。
特にいい感じなのが、アイドルの速水玲香である。
妄想でなければ玲香との仲は良好だ。
勿論、男女の意味で。
今まで何度もいい雰囲気になっていたのに美雪という名の鉄壁の壁が阻み関係が進むことはできなかった。
恐らく…いや、先ほどの反応からして彩羽は美雪の味方だ。
決して金田一の味方ではないだろう。(女関係では)
鉄壁が不落要塞と化し、金田一は内心童貞卒業を諦めつつあった。
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