(9 / 17) 学園七不思議殺人事件 (9)

夜の病院…そして学校程、不気味なものない。
彩羽はそう思いながら金田一の隣を歩いていた。
その間には美雪がいた。
しかし美雪は怖いのか金田一と彩羽の服をグッと握って引け腰で歩いているせいで最初こそ間に入って二人の隣を歩いていたが一歩後ろに下がるような位置に歩いていた。


「七不思議の最後の一つか…」

「大丈夫かな…それを知ると放課後の魔術師に殺されちゃうって…」

「そんなの作り話だろ?」

「そもそも七不思議の最後って元々ないって私聞いたけど…」

「もう!なんで2人ともそんなに落ち着いていられるの!?私怖くて泣きそうなのに…」

「なにも幽霊が出るわけでもなし…夜の学校ってだけで怖がるもんもないだろ」

「私はちゃんと怖がってるんだけど…」


怖がっているのは美雪だけで、彩羽と金田一は平然としていた。
美雪はなぜこんなにも怖いのに2人とも平気なのかと思わず怒る様に声を上げたが、素っ気なく返されてしまい肩を落とす。
しかしそれに対し、彩羽的に『酷い言いがかりだ』だと思った。
一応、彩羽も怖がってはいる。
しかし死体を見ても淡白な反応を見せるのと同じで、彩羽は元々恐怖に対して耐性が付いているタイプなのか顔に出るほどの恐怖感はない。
とは言え彩羽だって怖いと思っているし、夜の旧校舎を不気味だと感じている。
ただそれが顔に出ないだけだ―――と彩羽自身はそう語る。
だが、美雪からしたら全然怖がっているようには見えないとの事。


「あっ!ここだ…昔印刷室だった…」

「印刷室?」

「そう…七不思議の2つ目ってここよ…」


噂の内容はこうである。
昔男子生徒が印刷室の裁断機で手首を切り落としてしまった事件が起こった。
男子生徒はそのまま出血多量で死亡したのだが、いくら探しても切り落とした手首が見つからなかった。
それ以来夜中に手首が這いずり回る音が聞こえるという。
それが七不思議の2つ目にある『手首の這い回る印刷室』という怪談であった。


「――っ!」


それを聞いて金田一はハッと何かに気付いた表情を浮かべ、立ち止まる。
金田一が立ち止まり美雪と彩羽も足を止め金田一を見た。


「はじめちゃん?どうしたの?」

「いや…なんか妙な音が聞こえた気がしたんだが…」

「ま、まさか…やめてよぉ…っ!」


金田一の耳には何か物音が聞こえたらしいが、彩羽には聞こえず、先ほどの話もあり美雪は更に怯えていた。
彩羽も金田一が本当に何か物音を聞いたのだと思っていたのだが、ふと既視感を感じた。
『あれ、なんかこれ…前にも同じような事なかった?』と思ったその瞬間…


「ほら後ろーー!!!」

「っ――――きゃああああ!!」


突然金田一が声を上げてどこかを指さした。
その瞬間美雪は悲鳴を上げて座り込み、彩羽はビクリと肩を揺らす。


「なーんてね!」

「ッッもう!!!はじめちゃんったら!!!」

「し、心臓痛い…」


どうやら金田一は怯える美雪を揶揄ったらしいが、恐怖よりも静けさに突然大声で叫ばれた驚きで彩羽は心臓の鼓動が激しく動いていた。
にっと笑う金田一に美雪は涙目でギッと睨むが、怖いというよりは愛らしく見えてしまう。
悪戯が成功したと上機嫌のまま金田一は彩羽と美雪と共にミステリー研究会の部室に向かった。


「あれ?」

「真っ暗ね…」

「桜樹先輩いないのかな…」


部室を開ければ明るいはずの部室は暗闇に包まれていた。
電気を付けずに待っているはずもなく、部室には人一人いなかった。
呼び出したはずの桜樹の姿がなかったのだが、何故かワープロが電源を入れられたまま放置されており、金田一はそちらへ向かう。
ワープロにはこう書かれていた――『七つめの扉を開けし者 儀式の生贄となる 我が名は放課後の魔術師なり』と。


「君も呼び出されたのかい?あの変な電話に」

「っ――うわああああ!!!」


ワープロの方へ足を向けていたそのとき、第三者の声に金田一は驚きの声を上げ、座り込んだ。
彩羽も美雪も他に人がいるとは思ってもみなかったためか金田一と同じく驚き、怖がりな美雪は傍にいた彩羽にくっついていた。
暗闇でも幽霊ではなく人間で、しかも先輩である尾ノ上だと知ると彩羽は冷静となり、驚いて尻もちつく金田一を見ながら『さっきと逆だ』と何となくそう感想を思う。


「びっくりした〜!」

「ごめんごめん、電気を付けようと思ったら君たちが入ってきたもんだから…」


尾ノ上もまさかここまで驚かれるとは思ってもみなかったようで、驚きを隠せない金田一に苦笑いを浮かべた。
暗闇で気づかなかったが、尾ノ上だけではなく佐木もいたらしく金田一の傍に歩み寄ってきた。
彩羽はふと後ろに気配を感じて振り返れば、彩羽達よりも後に来たらしい鷹島が後ろに立っており、入り口をふさいでいるように立っていた彩羽はくっ付いたままの美雪と共に退く。
自分が邪魔だと思ったのもそうだが、何となく…いや、彩羽はこの女子生徒を苦手と認識していたため少し離れたのだ。


「皆も桜樹先輩の電話で?」

「いえ、僕は妙な男の声でしたよ」

「僕も男だったよ…10時に死の儀式を行われるから来いって…」

「死の儀式?」


どうやら桜樹から呼び出されたのは金田一だけだったらしい。
佐木や尾ノ上や鷹島は桜樹ではなく全く知らない男の声で呼び出されたと言っていた。
それも死の儀式を行からという理由で。
彩羽はそんな怪しい電話を受けて学校に来た三人に『よく行こうとしたなぁ』と思っていると、パッと光りを当てられ男性が部室に入ってきた。


「こら!お前達何をしている!!」


警備員だったらしく、見回りをしていて美雪と金田一の叫び声に気付いて駆け付けてきたらしい。
見つかってしまいそのまま見逃してくれるはずもなく、とりあえず場所を警備室に移る事になった。


「電話に呼び出されただと?」

「ええ…どこ行っちゃったんだろ…桜樹先輩…」


結局あの部室には呼び出した本人である桜樹の姿はなく、隠れている様子もなかった。
金田一が困ったように呟くのを聞きながら尾ノ上がチラリと時計を見る。


「そろそろ10時だぞ…」

「死の儀式の時間だ」

「怖い事言わないでよ!」


針は10時を指しており、佐木達が呼び出した男の言葉が正しければ10時には死の儀式が行われる事になる。
佐木も幽霊の類はそれほど信じているタイプではないのか愉快そうに呟くが怖がりな美雪はもう涙目である。


「見回りに行く…お前達は帰れ」

「あ、一緒に行っていいですか?」

「はじめちゃん!?」

「妙な予感がするんだ…みんなここで待っててくれ」


大人として、警備員として生徒を帰す義務があり、仕事を続け子供達を帰らせようとするも、金田一がそれについて行こうとした。
怖がっている美雪は幼馴染の言葉にぎょっとさせたが、金田一は帰ろうとはせずそのまま見回りに向かう警備員の立花について警備室を出て行った。


「彩羽ちゃんどうしよう…」

「まあ、しょうがないよ…私も桜樹先輩がいないっていうのも気になるし…」

「そんなぁ…」


美雪的にはついて来たものの怖くて早く帰りたい一心だった。
とはいえ仲間だと思っていた彩羽は怖がる気配すらなく、一人で帰る勇気はない。
泣く泣く諦めるしかなかった。
しかしあの部室に残されるよりは明るいし佐木達もいるしで安心ではあるが。


「そういえば、巴川先輩が不動高校に転校してきたのは意外でしたね…僕はてっきり秀央高校に通うものかと思ってました」


『そんなに意外だったのかなぁ…みんなに言われるんだけど…』と佐木にまで言われた彩羽は困ったような笑みを浮かべた。
佐木達の会話で『秀央高校』という単語が出て気になったのか尾ノ上が会話に入ってきた。


「秀央高校ってあの?えっと…巴川さんだっけ?巴川さんはそんなに頭がいいの?」

「そうなんですよ!彩羽ちゃんはとっても頭がいいんですよ!前の学校も秀央高校と同じ偏差値の学校に通ってたんです!でも私達と同じ学校がいいって不動高校に決めたんです!」


美雪は偏差値の高い高校よりも自分達を選んでくれた事が嬉しかったのか怖さも吹き飛び彩羽の腕を組みくっ付いた。
鷹島は反応は薄いものの、学歴よりも友情を選んだ彩羽を驚いたように見つめていた。
しかし、それに対して尾ノ上は少し顔を引きつらせた笑みを浮かべていた。


「それってランクを下げるって事だよね?よくご両親が許したね」

「反対はされませんでしたよ…ただ兄さんは自分の母校に通ってほしかったみたいで残念がってました…叔母さんも秀央高校を勧めてくれたんですけど…私が決めたのならって受け入れてくれました」

「叔母さんって…?」

「兄さんのお母さん」

「へえ!明智さんのお母さんなら美人だろうなぁ」

「うん、美人だよ」


笑う彩羽を尾ノ上は更に顔を引きつらせた。
実は尾ノ上は秀央高校に受験した事があったのだが、落ちてこの不動高校に通っていたのだ。
だから通える学力がありながらもわざわざレベルの低い不動高校を選んだ彩羽に心の中では嫉妬していた。
内心『どうせ受からなかったって言えないんだろ』と嫉妬でそう思いながら彩羽と美雪と佐木の話を聞いていた。

―――暫くすると何やら騒がしいのに気づき彩羽達は警備室から出て物音のする方へと向かった。
そこには生物室の扉を開けようとしている金田一と立花がおり、後ろには彩羽達よりも前に駆け付けたのか真壁と的場がいた。


「はじめちゃん!どうしたの!?」

「この中で桜樹先輩が吊るされてたんだ!放課後の魔術師に!!」

「放課後の魔術師に!?」


体当たりをしてどうにかして開けようとしている金田一に何事かと問えば、新校舎を見回っていた時、窓から旧校舎の生物室で桜樹が放課後の魔術師に吊るされているのを見たらしく、金田一達は慌てて旧校舎に戻り扉を開けようとしていたらしい。
鍵はなく、だからこそ『開かずの』とついていた。


「佐木!お前も手伝えよ!」

「いえ、僕は今手が離せませんので」

「お前なぁ!!〜〜ああもう!!いいよ!好きなだけ撮ってろ!」


こんな非常時にビデオを優先に回す佐木に苛立ちはあったが、構ってる暇はなかった。
とは言えそれでこそ佐木とも言える。
金田一は佐木以外の真壁達男性陣に手伝ってもらい無理矢理だが生物室の扉を開けることに成功する。
しかし…


「なにもない…?」


開かずの生物室には――もぬけの殻だった。

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