(13 / 17) 学園七不思議殺人事件 (13)

彩羽は病院にいた。
あの後別れて彩羽は金田一の後を追った。
電話で高畑製薬の事を剣持に伝えた後、金田一と彩羽はハンカチを探しにいっていた美雪を待つため、旧校舎の入り口付近で待っていた。
しかし何十分もたっても帰ってこない美雪に迎えにいくと、部室には美雪の姿はなく―――血痕が残されていた。
その血痕は今落ちたばかりのようで、必然的に美雪の血だと気づく。
七不思議をなぞらえている犯人が襲った美雪をどこに運ぶか…偶然来ていた佐木に三つめの七不思議である『血に染まる井戸』を教えてもらい、裏にある井戸に向かった。
そして倒れている美雪を見つけたのだ。
すぐに救急車を呼んで病院に運ばれたが、美雪は強く頭を殴られたせいか意識もなく今夜が峠だと医者に言われてしまう。
そして、彩羽は美雪の傍にいるため明智に電話していたところだった。


≪剣持君から話は聞いた…彩羽、大丈夫か?≫


明智が知っていた事にそれほど驚きはない。
混乱しならも金田一は警察にも連絡していたし、先ほど剣持と会い、金田一の居場所を教えたので、美雪の怪我どころか剣持を通じて彩羽が事件に巻き込まれた事も知っていてそれも含めての問いなのだろう。


「大丈夫、だよ…"私は"大丈夫…」


美雪が襲われて平気なわけではない。
動揺しているし、泣きそうなくらい胸が痛くて苦しい。
ただ、まだ彩羽の心はそれを表に出すほど癒えてはいなかった。
それさえも苦しくて、自分の非情さにどうにかなりそうだったが従兄の声を聞くと落ち着いた。
明智も最初の時よりも落ち着いてきた彩羽の声色にホッと安堵をしつつ、彩羽の『ただ…』とトーンの落ちた声に電話の奥で深刻な顔つきに変わる。


≪金田一君、か…≫


明智の言葉に彩羽は『うん』と頷いた。
彩羽は美雪も心配だった。
だけど何より金田一が心配で着いて来た部分もある。
金田一は美雪が襲われた事にショックを隠せない様子を見せていた。
金田一は美雪と幼馴染で、彩羽よりも長い時間を共にしている。
彩羽にとって、明智のような存在である。
彩羽も明智が襲われ大怪我を負ったと聞かされるとどうなるかは自分でも想像できなかった。
それほど金田一にとって美雪は、彩羽にとって明智は、大切な存在だった。


「兄さん、まだ仕事終わらないんだよね…私、はじめちゃんと美雪ちゃんの傍にいたいんだけど…いいかな?」

≪勿論だ…2人を頼んだよ、彩羽≫


金田一と美雪は身内ではないが、親しい関係なため、心配だった。
再会してそれほど長い時間が経ってはいないが、明智から見て金田一は美雪と同等に彩羽を大切にしてくれているのを知っている。
だから彩羽が傍にいるのなら心配もないだろうと頷いて返した。
彩羽は明智に『ありがとう』とお礼を言って電話を切った。
従兄との電話で心も落ち着き、金田一の元へと戻ろうとした。
しかし先ほど金田一のところへと向かっていた剣持と鉢合い彩羽は剣持に『早いんですね、もういいんですか?』と問う。
その問いに剣持は浮かない表情を浮かべ重い溜息を吐いた。


「…金田一のやつ…七瀬君を巻き込んだ事を酷くショックを受けているみたいでな……もうこの事件から手を引くってさ」

「え…」


剣持の言葉に彩羽は耳を疑った。
あれほど正義感の強い金田一が、事件を解くのをやめると言ったのだ。
聞き間違いではないかと思ったが、剣持の様子からしてそれはないだろう。
剣持も息子のように可愛がっていたのもあり、何もしてやれない悔しさから眉間にしわをよせていた。


「……すまんな…俺にはあいつを慰める事もできんみたいだ……だから…金田一の…いや、二人の傍にいてやってくれ…」


自分の言葉も届かないほど金田一はショックを受けていた。
忘れていたが、金田一はどこにでもいる頭が切れるだけの高校生だった。
なんでもそつなくこなす表舞台に立つ高校生探偵とは違い、運動音痴で頭がいいくせに成績は悪くて女に滅法弱い、ただの高校生なのだ。
幼馴染の美雪が怪我をしたのも自分が巻き込んだせいだと落ち込むのも無理はない。
あとはただ彼を見守る事しかできない。
しかし剣持は刑事である以上事件を追わなければならず、彼を…彼ら2人の傍にいてやれるのは彩羽しかいなかった。
後を託すように金田一を任せ、頷く彩羽を見て剣持は安堵したような表情を浮かべ警視庁へと戻っていった。


「はじめちゃん、大丈夫?」


剣持を見送った後、金田一がいるであろう待合室に向かった。
金田一は長椅子に座っていたが、項垂れており元気がなかった。
こんな時に明るくしろと言う方が可笑しいが、金田一に暗い顔は似合わないというのも本音である。
金田一の隣に座り声をかけると頷いた。
しかしその頷きはただの反射的な反応で、項垂れるその姿を見て大丈夫だと鵜呑みにするほど彩羽は鈍くはない。
ただそれを指摘などできるはずもなく、慰める様に丸まった金田一の背中を撫でるしかできなかった。


「彩羽…俺、この事件から手を引くよ…」

「そう…」

「美雪をあんな目に合わせたのは俺のミスなんだ…あの時…美雪と一緒にいっていれば…そもそも俺がこの事件に首を突っ込んでさえしなければ…美雪は…」

「…………」


ポツリと囁くように零す金田一の声は懺悔にも似ていた。
彩羽は本当は手を引いてほしいとは思っていなかった。
出来る事なら事件を解決して、いつもの金田一に戻ってほしかった。
だけど彼が決めた事を彩羽が上からああしろこうしろとは言えず彩羽はただただ聞くだけに徹した。


(美雪ちゃんの事ははじめちゃんだけのせいじゃない…私だってあの時ついていけばこんな事にならなかった)


そう言いたかった。
彩羽だって金田一と同じ気持ちで、自分を責めていた。
だけど今それを言っても金田一は納得しないし、自分を責めるのをやめないだろう。
この時誰の言葉が一番金田一を立ち直させるのか…彩羽は言っているからこそ何も言わなかった。
彩羽はそっと金田一の肩に寄り添い、そっと目を瞑った。

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