(15 / 17) 学園七不思議殺人事件 (15)

――その夜。
金田一に任されて彩羽は準備を手伝い、関係者全員を呼び出した。
その頃にはすでに夜になっていた。


「何なんだ!金田一が僕達を集めるなんて!!僕は忙しいんだぞ!」

「私も今夜中に論文を纏めたいのですが…」

「その本人はまだ来てないんですか?」

「さ、さあ…新校舎に集めてくれと言われただけで…俺もさっぱり分からんのだ……な、なあ、巴川君」


呼び出された事に怒りをあらわにしたのは、真壁だった。
金田一耕助の血を継ぎながらもトリックも暴けないと真壁は金田一を見下していたのもあって、呼び出した事に腹を立てていた。
それに続き怒ってはいないものの的場も論文を途中にして来たとの事で帰りたがっていた。
1人、1人と呼び出された関係者たちは全て揃ったが、肝心の呼び出した本人はまだ姿はなかった。
それを問われた剣持も金田一に頼まれごとをされただけで詳しい事は知らないためしどろもどろに答えるしかできなかった。
協力したらしい彩羽にバトンタッチすれば彩羽は『はい』とだけ答えた。


「け、警部さん…!」


呼び出した本人が最後に遅れている事に真壁は苛立ったように顔をしかめた。
しかしふと警備員の立花がふと何かに気付きそちらへ目をやると、驚いたように驚愕の顔を浮かべ、剣持を呼ぶ。
剣持は立花へ振り向いたが、驚いて声を失う立花の様子にその目線を伝って後ろを振り返る。
後ろには旧校舎が見える窓があった。
その窓から見える旧校舎には蝋燭の光で部屋が微かに新校舎からも見えた。
しかし、剣持達はその光景に目を疑う。


「はじめちゃん!!!」


蝋燭の光に照らされていたのは天井から吊らされた金田一と…仮面をつけた放課後の魔術師の姿だった。
放課後の魔術師の姿に剣持は慌てて旧校舎へ向かい、それに彩羽も続き、その場にいた全員が二人の後を追うように走り出した。
急いで旧校舎の開かずの生物室と呼ばれた部屋へと向かった。
しかし…


「これは…」

「消えた…何もかも…」

「あの時と同じだ!」


生物室には放課後の魔術師どころか、儀式の跡も、金田一の死体すらなかった。
桜樹の時と同じだと騒然していると、最後尾にいた鷹島が突然悲鳴を上げ、全員後ろへ振り返る。
そこには放課後の魔術師の姿があった。


「貴様ァ!」

「待ちなよオッサン!」

「!、なに…!?」


駆けこんだ生物室にいるはずの放課後の魔術師がなぜか後ろから現れ剣持は放課後の魔術師を捕まえようとする。
しかしその前に聞き慣れた声が放課後の魔術師から聞こえ、足を止めた。
誰もが怪訝としていると、放課後の魔術師は面を外し、その素顔に誰もが驚きが隠せなかった。


「金田一先輩!?」

「どういう事だ!?」


面を外して現れたのは金田一だった。
驚きが隠せない一同に金田一は自分が解いた謎を説明する。


「あの日、桜樹先輩を殺した犯人は今と同じトリックを使って死の儀式を俺達に見せたのさ…そしてその犯人…放課後の魔術師は…―――この中にいる!そいつが尾ノ上さんを殺害し美雪にも重傷を負わせたんだ!」


金田一は犯人があの夜した事と同じようにしただけだった。
金田一のその言葉に関係者全員に衝撃が走り、動揺が隠せなかった。
しかしそれに異を唱えたのは、尾ノ上殺害時のトリックを暴いた真壁だった。


「何を馬鹿な事を!この中に犯人がいない事はすでに証明済みじゃないか!!」

「犯人がワイヤーの傷を窓に残してたってやつかい?」

「そうだ!」

「とんでもない!あの日の犯人もそして今日の俺もこの生物室には一歩も中に入っていないんだよ!――死の儀式は別の部屋で行われていたんだ!!」


真壁は密室のトリックを暴いた事であの時犯人が外部の人間だと証明した。
しかし金田一曰くそれは間違いなのだ。
犯人も金田一もこの部屋には一歩も入っていない。
『別の部屋で行われていた』と言う金田一に怪訝とさせる剣持達に金田一は『来なよ』と剣持達を別の部屋へ先導する。
ついたのは『物理室』の教室の前。


「ここは物理室じゃないか…」

「さあこれを見るんだ」


なぜ、犯行現場である生物室ではなく、物理室に連れてきたのか…誰も分かっていない顔を見せていた。
そんな剣持達に金田一は扉を開けて中を見せた。
薄暗い教室の中にポツンと首を吊る様に釣られている人間の姿が見え、剣持達は驚きの声を上げる。
しかし、それは人ではなかった。


「な、なんだ…人形か…」

「さっきみたのはこれか…!」


よく見れば金田一と同じ姿をした人形だというのが分かった。
この人形は金田一と彩羽が作った即席の物で、パッと見金田一と分かるようにしておりよく見ればすぐに分かる物だった。
関係者たちの中で彩羽だけが事前にこのトリックを知っていた。
だから似ても似つかない人形を使う事で金田一だと気づかれるかどうかだけがこのトリックを使う中で一番の不安だったが、彩羽が人形を金田一だと叫ぶことで思いこませる事を思いついた。
だからあの時彩羽だけが薄暗い中はっきりと吊らされている人影が金田一だと分かったのだ。
その言葉に何も知られていない剣持達が思い込み、金田一が放課後の魔術師に殺されたとインプットされたのだ。


「で、でも…新校舎からここは見えないですよ?」


しかし、人形がある事で物理室が犯行現場だと分かったが佐木の言う通り新校舎からは物理室はどうやっても見えない。


「そのトリックの種はこれさ」


そう言って佐木の疑問に金田一はある物を取り出して答えた。
それは金田一の背丈と同じくらいの大きさの鏡で、キャスターが付いているホワイトボードに張り付けていた。
その鏡には驚く剣持達の顔がはっきりと映っていた。


「確かに新校舎から見ると正面は生物室となり物理室は全く見えない…だが、ここにこの鏡を置くとどうなるか…」

「あ…!」

「そう!鏡に映った物理室の光景はあたかも突き当りの生物室に起こったように見えるんだ…」


金田一はポケットから見取り図を取り出し、物理室に伸びる曲がり角の当たりに指を指す。


「事件の夜、犯人は廊下に鏡を設置し生物室ではなくこの部屋に儀式のセッティングした…俺達が目撃し開かずの生物室に走り出した時犯人は急いで鏡を片付け行き過ぎるのを待った…後は何食わぬ顔で俺達の後ろから出てきたんだ!そしてみんなが帰った後壊れた扉で堂々と入り死体を吊り上げさらに窓の鍵や煙突の穴に傷をつけた!あたかもワイヤーを使ったトリックで窓から逃げたと見せかけるようにね!」

「見せかけただと!?」

「そうさ!あんたの推理は犯人のシナリオ通りだったんだ!やつのアリバイ工作に利用されちまったんだよ!!」

「…ッ」


真壁は自分が犯人にいい様に利用されたと知り悔し気に顔を歪めた。
ミステリー作家として有名になった真壁だったが、実はあの小説は真壁ではなく鷹島が書いた物だった。
鷹島は真壁のゴーストライターだった。
しかし周りはそれを知らない。
知っているのは気づいていた桜樹と、偶然原稿を渡す場面を見た佐木だけだろう。
だからこそ周りは真壁を天才ともてはやし、頭がいいと褒める。
だからこそ、真壁は成績も悪い金田一に負けたくはなかった。
その対抗心が犯人に利用されたと知り悔しさは人が思うよりも強いだろ。


「あの夜このトリックを使えたのは一人しかいない!放課後の魔術師になりすまし桜樹先輩を殺し!尾ノ上さんを殺し!美雪を襲った犯人…放課後の魔術師……それは――――あんただ!的場勇一郎!!」

「―――!!」


金田一はギロリと放課後の魔術師―――的場を睨んだ。
的場は自分を指さし睨む金田一に誰よりも驚いた表情を浮かべていた。
振り返る全員も同じく驚いた表情を浮かべていたが、的場の顔には冷や汗か、それとも脂汗か…汗が滲み出ていた。


「ち、違う!私じゃない!!」


的場には自分を見る皆の目が疑っているように見えた。
慌てて首を振って否定する的場に、佐木が疑問を投げかける。


「でも先輩!犯人は生物室の鍵を持っていたんでしょ!?なんでわざわざそんなトリックを!?それが証明されない限り先生とは決めつけられないんじゃ…」


的場とはそれほど親しくはないため、佐木も特別庇っているつもりはない。
ただ一つ疑問を思っただけだった。
佐木の問いに金田一は顔色一つかえず、答える。


「その鍵で本当に生物室に入れたのかなぁ」

「…っ!」


佐木の言葉ももっともだが、その疑問はすでに解決済みである。
金田一は剣持に頼んでおいたあるものを受け取り、袋から取り出して警備員の立花に見せる。


「立花さん、これは生物室の鍵ですよね?」


見せたのは、尾ノ上殺害の時、犯人が置いて行った生物室の鍵だった。
警備員としてずっとこの学校に雇われていた立花に見せると、立花は『間違いない』と頷いた。


「犯人がこの鍵を尾ノ上さんの死体の傍に置いたのは、鍵を使って中に入り窓から逃げたと思わせるためだ…だけど7年もの間使わなかった鍵が動くとは限らない…」

「確かに…錆び付いたり詰まっていたり…使えなくなる鍵も多い」


金田一の言葉に立花が頷いて返す。
まだ金田一の推理が信じられない真壁が金田一の元へ駆け寄り奪うように鍵を取り、生物室に戻り鍵を鍵穴に入れる。
しかし、


「あ、開かない!?」


鍵穴に入りはしたが、周らなかった。
立花の言う通り中が錆び付いたか詰まっているのだろう。
悔しそうに声を零す真壁をよそに、金田一は推理を続ける。


「という事さ…あの夜蹴破られるまであの扉は開かなかったんだ……なのになぜこの扉が開いているのが見えたんだ?中の儀式まで…―――鏡だ!それ以外にない!!」


金田一は再び的場を睨むように見る。
トリックも、佐木の言っていた疑問もすでに金田一によって解かれ、全員が言葉なく的場を見た。
犯人だと言われた時疑って見えたその皆の目が、はっきりと自分を疑っている視線に変わり的場は慌てだす。


「ち、違う!違う!私じゃない!!大体どうして私が自分の教え子を殺さなきゃならないんだ!!!動機がないじゃないか!!」

「―――動機ならあるさ!!」

「――ッ!」


的場だと金田一は言うが今まではトリックを暴いただけで的場がやったという証拠も動機もない。
しかし的場の声を遮るように金田一は叫んだ。
その言葉に的場はビクリと肩を竦め、金田一は悲しく…そして苦し気な表情で的場を見つめた。


「とうとう明かす時が来たんだ!あんたが30年間必死になって隠し続けた過去を!!」


金田一の言葉に的場は言葉を失う。
首を振り話す事を嫌がる的場に代わって何もかも分かっている金田一が代わりに話すことにした。


「30年前…ここには高畑製薬という薬品会社の研究所があったんだ」


30年前、ここはまだ学校ではなかった。
この旧校舎は高畑製薬という薬品会社の研究所だったのだ。
今でこそ安全が保障されている薬は多いが、30年前はまだ危険な薬が多かった。
しかし利益のため、そして病気の人達のために多くの会社は新薬の開発をしていた。
高畑製薬もそのうちの一つである。
高畑製薬も新薬を開発した。
その薬の成果を見るために人体実験を行い、その際6人の人間が雇われた。
しかし――実験は失敗した。
雇われた6人の人間は全員死亡。
だが高畑製薬はそれを公表しなかった。
理由は簡単だ。
公表すれば高畑製薬の薬を買う人間がいなくなり、自分達が責任を取らされ、更には他の研究員や働いている人間達が路頭に迷うことになるからだ。
しかし結局のところただ恐れただけだろう。
自分達の立場が一気に危ぶまれることに、人を殺してしまったという犯罪を犯したことに。
そこで考えたのが、隠蔽だった。
コンクリートなどで6人の死体を建物の中に隠し、そして不動高校にその建物を寄付した―――ということである。


「高畑製薬は6人の死体を隠し、不動高校に寄付をした…だがその隠した死体が何かの偶然で発見されないとも限らない…そこで研究員たちは仲間を密かに送り込んだんだ…そして死体を隠したその場所に六不思議の怪談話を流した……生徒達が近づかないようにね…―――死体の番人…つまり、送り込まれた研究員…それが的場先生だったんだよ」

「ちょっと待て!六不思議!?怪談は七つだぞ!?」

「七つ目は後で作られたのさ」

「後で!?」

「10年前にね…この旧校舎に6つの死体が隠されているという知ってしまった生徒がいたんだ」


金田一は話しながらミステリー研究会の部室に移動した。
そしてこの学校には七不思議ではなく、元々は6つの怪談が流されていた事を話す。
7つ目は高畑製薬とは別に10年前に起こった事件が切っ掛けで作り出されたものだという。


「その生徒の名は――青山ちひろ…彼女はこの事実を発表しようとした矢先に失踪する」


青山ちひろという名は彩羽も聞いた事があった。
あの美雪が襲われる直前に立花から貰った会報にあった女子生徒の名だった。
その彼女は10年前に失踪している。


「ま、まさか…」

「―――殺されたんだよ」


佐木もミステリー研究会にいたから青山ちひろという名を知らなくとも10年前にミステリー研究会の1人が行方不明になっていることは知っていた。
それが金田一が話している事と似ていたのだ。
佐木の呟きに金田一は頷く。


「的場先生は彼女も隠し七つ目の階段を流した…恐ろしい噂のおかげでこの旧校舎は寂れ埋まれた7つの死体は誰にも発見されないはずだった…旧校舎を壊すという話さえ出なければね」


金田一の口から女子生徒の名を聞いた瞬間、立花の顔色が変わった。
それに誰も気づかず、金田一の背を見つめていた。


「そうか…!それで校長宛てに脅迫状を…」

「この校舎を解体されれば埋めた7つの死体が発見されるから…だから先生は工事を中止させようとしたのね…」

「ああ…だがあんたの誤算はそれだけじゃなかった…またしてもこの事実を突き止めてしまった生徒が出てきてしまったんだ!!」


その話を聞き剣持と彩羽の中で校長宛てに出した脅迫状と繋がった。
あの脅迫状は単なる悪ふざけでも悪戯でもなかったのだ。
6人の被害者も望んだものではなかった。
青山ちひろの殺害は完全なる誤算。
そして更には次なる誤算が現れた。
それが…


「桜樹さん…」


桜樹るい子の存在。
鷹島の呟きに金田一は頷き、そして桜樹が残した暗号を見せる。


「先輩は暗号にして残していた…」

「暗号?」

「この暗号を解くにはワープロのローマ字入力モードに打ち直すんだ…」


ワープロを置いている隅にあるテーブルに座り、ワープロを開く。
事前に電源を入れたままにしていたので後は打つだけとなる。
暗号はただそのままローマ字入力で打つだけ。
例えば『のち恋い身に』の頭文字の『の』なら『K』となり、『ち』の文字の場合『A』となる。
二つ組み合わせると『KA(のち)』となり、ローマ字入力で打つとそれが『か(KA)』となる。
その原理で全てをローマ字入力で打ち平仮名から漢字へと変換すると――――

壁に骨が隠されている

と表示される。
それを実際に金田一も打って見せ、それを見た剣持達は部屋の周りの壁を見渡した。
しかし、骨など見当たらなかった。
ヒビもなく可笑しい所など見当たらなかった――――一つだけを除けば。
誰もがそれに気付き、目線が行く。


「美雪はポスターを剥がそうとして襲われた…!!」


金田一は目を覚ました美雪から聞いたおかげですぐに隠し場所を見つけることが出来た。
金田一は真壁のポスターに真っすぐ向かい、そして手を伸ばし青い顔をする的場に振り返る。


「これが七つ目の怪談の真実だ…的場先生…あんたが殺した青山ちひろさんだよ!!!」


ポスターを剥がした瞬間、誰もが息を呑んだ。
ポスターの後ろには本来なら壁があるはずなのだ。
しかし、本来あるべき壁は崩れたのか剥がれてしまっており、代わりに現れたのは―――白骨化した死体だった。
その白骨化した死体は10年前に行方不明となった…否、的場が殺害した青山ちひろである。
彩羽は暗闇の中でも月の光に照らされ白く浮かび上がる青山ちひろの死体を苦し気に見つめた。
金田一が推理している際美雪の言葉でポスターを剥がした時、彩羽も一緒にいた。
ショックだった。
何の罪もない大先輩に当たる女子生徒が無残な姿に変わっていた事が。
白骨するまで気づかれなかった事が。
青山ちひろは顔写真では愛らしい顔だったのに、白骨してしまったため面影が何一つ残っていなかった。
的場は10年前自分が殺してしまった青山ちひろの無残な姿に怯える様に後ろへと下がり顔を覆った。


「殺す気なんかなかったんだ!!あれは事故だったんだ…」


青山ちひろ―――的場が殺した少女。
だが、的場が手を下したわけではない。
いや、殺した事には変わらない。
ただの事故だったと今でも思っている。
金田一の推理通り、青山ちひろは七不思議を調べ6つの死体を隠した事実を知ってしまった。
警察に行くという青山ちひろを的場は必死に説得し引き留めようとした。
階段で揉み合いになった末に青山ちひろは過って階段から転落し、死亡してしまった。
確かにあれは事故だった。
だが的場は人を呼べば理由を聞かれ、そしていずれ6つの死体も気づかれると恐れて青山ちひろの死体を壁に隠し、七つ目の七不思議を作り流したのだ。


「き、金田一君の言う通り私は社長の命令でこの学校に送り込まれた…だが…いつしか死の番人だというのも忘れ教師として平穏な日々を送っていたというのに…もうお終いだと思った…!!だから…!!」


青山ちひろを隠して10年も経った。
もう青山ちひろの事は皆に忘れられ的場自身も安心していたのもあった。
だが、再び的場が恐れる事が起こったのだ。
地震が起こったあの夜、脆くなった壁が崩れ埋めた青山ちひろの白骨死体が露わになったのだ。
ただそれだけならまだ対処できた。
だが、最悪な事にその時その部屋には桜樹がいたのだ。
案の定桜樹に死体を見つかってしまい、的場は考えるよりも体が動いた。
気付いたら桜樹の死体が足元に転がっていたのだ。


「このままでは旧校舎の事は私が疑われてしまう!そこで鏡のトリックを思いついた!アリバイの為真壁君を呼び出し死の儀式を…!!」

「尾ノ上と七瀬君は!」

「彼は暗号を解こうとしたから…!七瀬君はポスターを剥がそうとしたから!!」


桜樹は6つの死体を知られた上に白骨死体を見てしまったため殺した。
尾ノ上は桜樹が残した暗号を解こうとしたため殺した。
そして美雪はただポスターを剥がそうとしたから殺そうとした。
彩羽はそれを聞き思わず『たったそれだけのために…』と呟いてしまい、剣持もまた顔をしかめて的場を見た。


「何て奴だ…!自分の身を守るために罪のない生徒を次々と…!!」

「怖かったんだ!!この30年死体を見つけられたらと夜も眠れなかった…!怖かった!不安だった…!それなのにどうしてそっとしておいてくれなかったんだ!!」


体を震わせガクリと蹲っていた的場は立ち上がって周りを見渡し全員に訴える様に叫んだ。


「社長も!仲間も!!みんな死んで!私も穏やかに暮らしていたのに!お前らが…!お前らが悪いんだぞ!!お前らが勝手に首を突っ込むから!!私は悪くなんかない!!!」


追い詰められた的場は開き直り、逆に金田一達を責め立てた。
なぜ自分だけがと思っているのだろう。
共犯である社長や仲間達はすでに死んでいない。
自分だけが責められるいわれはないと思っていた。
喚き散らす的場に誰もが唖然としていたその時―――的場に向かって立花が突進した。
彩羽にはそう見えた。
しかしその手にはハサミが握られており、深く的場の腹に突き立てられていた。


「ッ――立花さん!!」

「何をする…!やめろ!!」


鷹島の悲鳴が辺りに響く。
的場を刺した立花は金田一と剣持が取り押さえ、彩羽は愕然とし、目を丸くして腹部を抑えゆっくり倒れる的場を見つめていた。


「佐木!!救急車だ!!」

「は、はい!!」


金田一は佐木に救急車を呼ばせに向かわせる。
佐木の返事と一階にある公衆電話に向かう足音を聞きながら彩羽はただ崩れ落ちた的場を見つめていた。
一瞬、弟の姿と的場が重なって見えた。
高遠が目を覆ったため弟の最期の姿は看取る事はできなかったが、弟が高遠に首を切られ傷口から血を拭き出す姿は目に焼き付いて離れなかった。
真っ赤な血を見てそれを思い出したのだ。


「離せ!こいつだけは…!こいつだけは許さん!!」

「やめてください!立花さん!!―――いや…!青山さん!!」

「―――っ!」


しかし、暴れる立花を止めようとする金田一の言葉に彩羽はハッと我に返る。
そして金田一が呼んだ『青山』という名に誰もが驚いた表情を浮かべた。
立花も怒りに頭に血を上らせ暴れていたが金田一の呼ぶその名に動きを止めた。


「違いますか!?あなたはちひろさんのお父さんでしょ!!こんな事したって娘さんは戻らないよ!青山さん!!」


立花は青山ちひろの父親だった。
金田一の言葉に立花は唖然としながらも涙を浮かべた。


「私は…この日のためにこの学校に……ちひろが蒸発なんかするわけがない…きっと何かあるに違いないと…っ」


立花と性を偽り、青山ちひろの父親はこの学校に10年もの間勤めていた。
立花は娘が蒸発したなどという噂は信じていなかった。
良い子に育ってくれたと自慢だったのだ。
それが突然行方不明となり、蒸発したと根も葉もない噂をされ、信じられなかった立花はその真相を突き止めるべくこの学校に警備員として雇われた。
それが…ずっと探し求めていた娘が、壁の中にいて…傍にいたとは思いもしなかった。
しかも目の前には最愛の娘を殺した憎き犯人が。
それも反省の色一つも見せず逆上し開き直る姿に立花は頭に血を上らせカッとなってしまった。
座り込む立花に金田一も悲し気な表情を浮かべていたが、耳に的場の声が届く。
振り返れば的場は激痛が襲っているのか苦し気に顔を歪め助けを求める様に金田一達を縋るような目で見つめていた。


「死にたくない…め、が…目が…かす、む…っ…しぬ、のは…いや、だ…たすけ、て……」


震える手が金田一に向けられる。
的場は人を殺しておきながら自分が死ぬ番となると助けを求めてきた。
桜樹の首を閉めて殺し、布を巻いた鈍器で何度も尾ノ上を殴って殺し、美雪を殴って殺しかけたというのに。
しかし犯罪者とはいえ人間。
金田一はそれでも人を見捨てることはできなかった。
生きて罪を償ってほしいから救急車を呼んだのだ。
しかし――――金田一に伸ばされたその手は…届くことはなく、的場は命を落とした。

そしてその後…放課後の魔術師は永遠と現れなくなった。

15 / 17
| back |
しおりを挟む