「ん…」
ハヅキはふと目が覚める。
しかしまだ体がだるく、起き上がろうとも起き上がれなかった。
「姫様!なりません!!」
「え…」
それでも無理にも起き上がろうとしていたハヅキに美声が止めに入り、ハヅキは声のした方へ顔を向ける。
(うわっ…絶世の美女……)
そこには絶世の美女と誰もが答えるだろう女性が心配そうに駆け寄ってくる。
その表情はどこか冷たい印象を持たせ、よく言えばクールでかっこいい美人である。
悪く言えば無愛想そうな女性で扱い難そうである。
まあ別に悪く言う必要はないのだが…
ハヅキはその美女に目を丸くして見上げる。
「姫様、どうかご無理はおやめください…このイリス、命が幾年か縮まりました…」
「………」
イリスという美女はハヅキの捲れている掛け布を掛けてやり寝台に落ちてしまった湿っている布を受け皿に入ってる水で再び濡らし、水を切る。
そしてハヅキの顔の汗をふき取ってくれる。
熱くてだるくて汗で気持ち悪いと思っていたハヅキはそのひんやりした布に気持ちよさげに目を瞑る。
そんなハヅキを見てイリスも自然と微笑みを浮かべた。
「姫様、どこかお辛いところはございませんか?」
「わからない……どこも辛い…です…」
「それは熱のせいですね…お可哀想に…あんな冷たい川に投げ込まれてしまわれて…熱も治まったばかりだというのに…」
「…………」
「でもご安心ください、姫様を葬ろうとした無礼者はメンフィス様が斬って下さいましたからもう怯える事はございませんよ」
「あの…」
「熱もぶり返してしまわれましたが侍医が言うには安静にしていれば治ると…」
「あの!」
「はい?」
「あなたは誰ですか?」
「……え…」
勇気を出して喋り続けるイリスにそう聞くとイリスは顔を拭き終わった後また布を濡らし切ってから額へ置くとそのまま固まった。
その表情はとても驚いていて驚いた顔も綺麗だな〜とハヅキはだるいなかそう思う。
「わ、私を覚えておられませんか……?」
「はい…分からないです…」
「そ、そんな……お、お母さま!!お兄様!!!」
イリスは頷いたハヅキを見て顔を青くさせた後慌ててどこかへ消えていった。
それに首を傾げるもだるい体は動かず、うつらうつらと眠りに誘われる。
しかし…
「姫様っ!!」
「……ん…?」
完全に眠りそうになっていたハヅキは焦った声に起こされ顔を向けるそこには初老の女性がイリスと同じように心配そうな表情を浮かべていた。
「なんでしょうか…」
「姫様…この女性をご存知ですか?」
イリスの問いにハヅキは首を振る。
それに2人とも顔をさらに青くさせ『メンフィス様を呼べ!』と叫んでいた。
しかしハヅキの眠気はもう限界で、騒がしい中でも深い眠りにつき始めていた。
****************
「なに!?ハヅキがナフテラとイリスを知らないと言ったのか!?」
「は、はい!」
少年は先ほどの初老の女性の報告に目を丸くさせ玉座から立ち上がる。
その隣にはその少年と似ている妖艶な美女が少年と同じように目を丸くさせていた。
「それはまことか!?」
「はい…!」
「ハヅキ……、…ッ会議は中止だ!!!すぐハヅキの元へ向かう!」
「メンフィス!!」
マントを翻しメンフィスと呼ばれた少年は美女の言葉も届いていないのか一人早足で部屋を出て行った。
「おのれ……ハヅキ…!!」
美女は誰にも聞かれないように憎憎しく呟き、その場にはいないハヅキを睨みつける。
****************
「ハヅキッ!!!」
眠っていたハヅキは大きな声と大人数の足音に起こされ目を覚ます。
傍には涙を流すイリスが控えており、メンフィスの登場に跪く。
ハヅキはまだ寝ぼけているのかボーっと大股で近づいてくるメンフィスを見上げていた。
「…………」
「ハヅキ!私だ!!分かるか?」
「……だれ…ですか…」
「ッ!!!」
首を振るハヅキにメンフィスはショックを受けたように固まり、後ろに控えていた兵達はどよめき出す。
そんな彼らをハヅキはまだぼうっと見上げていた。
「そ、んな……どうして…どうして私が分からぬのだハヅキ!!!」
「きゃ…!」
「メンフィス様!!お止めください!!!姫様はまだ熱が…っ」
メンフィスは見上げていたハヅキの顔の左右にドン、と手を叩きつけ怒りの顔を見せる。
しかしその怒りの表情の中に悲しみも含まれていたがハヅキはその恐怖からただ手で顔を覆って涙を流し謝り続けていた。
その姿に泣き崩れていたイリスが王にすがり付いて止め、メンフィスはハヅキの涙を流して怯える様に我に返り力なく体を起こす。
「メンフィス様!」
放心したように後ずさり膝を突くメンフィスを咄嗟にミヌーエが駆け寄って支える。
メンフィスは顔を青ざめミヌーエに顔をゆっくりと向けた。
「ミヌーエ……ハヅキが…私のハヅキが私を知らないと…っ」
「メンフィス様…!お気を確かにお持ちください!すぐ侍医を呼んで診てもらいましょう!」
「……ハヅキ…」
ミヌーエの言葉などメンフィスに届かずただメンフィスは泣いて謝り続けるハヅキと、そのハヅキを慰めているイリスを見つめていた。
その後侍医に診てもらったところ、記憶を失くしていると診断された。
その診断にメンフィスは何かに殴られたよな衝撃を受け立ち尽くす。
「では…ハヅキは私を知らぬというのか……私を…赤の他人だと…そう思っているのか…」
「……恐らく…」
医師の言葉にメンフィスは壁に拳を叩きつける。
ドン、と大きな音が部屋に響き、兵達はビクリと肩を揺らす。
「そんな事あるわけがない!!!私とハヅキは兄妹だぞ!!!!兄の私を忘れることなど許さない!!!!」
「落ち着いてください!メンフィス様!!!…私は以前に記憶を失った者達を診たことがあります…その者達の大半が何かを切っ掛けに記憶を思い出し、家族の顔も何も思い出しました…その切っ掛けが何かは今だ分かりませんがいずれ姫様も必ずや記憶を取り戻しメンフィス様もアイシス様も思い出すでしょう…ですから今は待つのです…元々姫様はお体が丈夫ではない方です…無理させてはさらに容態は悪化し、最悪…」
「………ッ」
侍医は最後の言葉を言わなかった。
言ったら例え本当でも妹を溺愛するメンフィスに首を落とされるからだ。
言わなくても分かるその先の言葉にメンフィスは悔しそうに、そして悲しそうに壁に叩きつけた拳の力を更に入れ、爪が食い込んでしまい綺麗な床にメンフィスの血が滴り落ちていた。
「メンフィス様…」
その姿にミヌーエは何も言えず、ただ見つめるしかなかった。
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