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エマは直継と連絡を取り合い、銀葉の大樹の下を待ち合わせ場所に指定した。
「直継!」
連絡した後エマは急いで大樹のもとへと走った。
直継の方が距離として近かったのか、または体力的な問題か…大樹にはすでに直継がいた。
直継の姿を肉眼で確認し、エマは走るスピードを速めた。
駆け寄ってくるエマに気づいた直継は座っていた腰を上げ軽く手を挙げて待っててやる。
直継とこうしてゲームで会うのは久々だった。
大学生のエマとは違い、エマより年上の彼は仕事が忙しくゲームで会うのは二年ぶりだった。
茶会の解散はメンバー達の色々な事情があって解散し、その中に直継の事情も入っている。
社会人の直継とはゲームでは久々だが、実はリアルでは結構会っていたりする。
社会人となったばかりの直継は忙しいため頻繁ではないが、連絡は茶会が解散してからも取り合っており、何回かは直接会っていた。
男女の友情、というところだろう。
茶会メンバーの中でもカナミ、ソウジロウに続き話すことが多かった人物で、彼の兄貴肌な性格や『守護戦士』という役職柄というのもあり正直二人より頼りになる存在ともいえる。
それを言ったら言ったで二人して拗ねるから一度も言ったことはないが。
そんな直継と一人ぼっちともいえる状況で連絡が取れ、再会し、エマはとりあえずホッと安堵する。
そんな自分に、案外自分は不安だったのだな、とエマは思った。
「あれ…直継?」
「ん?何だよ。」
「ううん…なんか…直継の顔…直継らしいなって…」
「お前もな。目つきの悪い三角白眼でメガネをかけた秀才風だ!」
「設定はハーフ・アルヴなんだけどね…」
再会してふとエマは違和感を感じた。
直継のキャラクターデザインはゲームの時、飽きるほど見てきたから久々とはいえ遠目でもすぐに直継だと気づくことができた。
それはきっと直継も同じだろう。
確かに…そう、確かに直継のエルダー・テイルのキャラクターはそのままだった。
だが…しかし…なんとなく…なんとなくだがリアルの直継とも見て取れるのだ。
ゲームの時のキャラクターの中にリアルの面影が見えるのだ。
それも直継だけではなく、エマも同じだったらしい。
エマは現状を把握することで精いっぱいだったのか鏡など見る暇もなく(そもそも見ようと思う余裕は今、きっとこの世界には誰もいない)直継と再会してから気づいたのだ。
近くにある湖で水鏡を見れば直継同様ゲームキャラとしての自分の陰にリアルの自分もチラリと見えた。
ハーフ・アルヴという事から肌はリアルより白く体は細身である。
まあ、種族がハーフ・アルヴなのだから当たり前なのだが。
そういえば、と、ふ、とエマは思い出す。
(うわっ…やっぱここも設定通りなんだ…)
水鏡を見ながらエマは『べっ』と舌を出した。
普通の鏡ではないため見難いが、出した舌の上にはハーフ・アルヴという証拠の『紋章』が描かれていた。
こんなところまで設定通りの自分の体に内心乾いた笑いを浮かべた。
「で?人が二年ぶりに戻ってみればどうなってるんだ?知ってることがあったら教えろよ、"腹ぐろ眼鏡"」
「………」
軽い口調の直継にエマは水鏡から顔を放し直継へと振り返る。
ゲーム限定の話だが茶会で修羅場を潜り抜けた直継はエマ同様多少は混乱しているようだがどこか冷静だ。
直継と再会し落ち着きを取り戻したエマは直継の問いに難しい表情を浮かべ首を振った。
「ごめん、私にも分からない…でも…どうやら私達は"エルダー・テイル"の世界にいるみたいね…」
多分、自分のこの言葉は直継の中でも多少は予想していたようで、アキバの街にいた冒険者達のように慌てふためくことはなく、直継はエマの言葉に予想が確信へと変わり『そっか…』と元気のない声でそう呟きその辺の岩に座る。
エマが直継に絶対の信頼を寄せているのと同じように、直継も長い間エマと戦っていた信頼があり、エマの言葉を疑うことはなかった。
冷静だがあからさまに肩を落とす直継にエマは『仕方ないか』と苦笑いを浮かべた。
「今日、新拡張パックが導入されている日だったでしょ?」
「ああ、《ノウアスフィアの開墾》な?」
「うん。そのアップデートが反映されたまでは覚えてる…で、気づいたらここに。」
お互いここに来る前の事を話した。
今日は拡張パックが導入し、従来最高レベルが90だったレベルが100に上げることができたり、他いろいろ新しいシステム等が導入されるはずだった。
その時双子と一緒にいたからよく覚えていた。
そして、アップデートしたエマは気づいたらここにいた、という事である。
エマの説明に直継も同じだと呟く。
と、いうよりはほぼここにいる全員がエマと同じなのだろう。
ふむ、と何か考える素振りを見せながら直継は大樹を見上げる。
「確かにアキバの街だよな…ゲームで何度も見た風景だ…」
「…けど……」
「高ぇな、空が。」
大樹を見上げ、そして空も見上げる。
そんな直継に釣られたようにエマも空を見上げた。
顔を上げれば空は当然だが手が届かないほど高く、太陽の光に目を細める。
風に乗って動く雲もとてもリアルだった。
呟いた直継の言葉に『うん』と頷きながらエマは傍にあった岩に手を伸ばした。
「感触もリアルすぎる。」
「つーことはさ…」
「うん…夢、じゃないみたいだね…残念ながら。」
手を伸ばすとそこには苔があった。
辺り一面苔だらけでゲームの時は気にもしてなかったがよく滑る。
苔に触れればジワリと水っ気がエマの手に広がり、苔を掬うように少し指で取ってみれば感触もまた苔そのもの。
まさにリアルそのものだった。
だから結論には早いだろうが確実性と言えるのが―――ここが現実だということ。
そしてゲームの中にいるのだという事。
エマは『残念だ』と呟いたが、半分それは本音で、半分嘘だった。
あれほど夢中になっていたゲームの中に入れるなど…ゲーマーとして嬉しく思うのは無理もないと思う。
だが、楽しいのは最初だけなのをエマは知っている。
こういうもののセオリーは、好きなゲームの世界に入れて楽しく狩りをしたり過ごしたりした後ふと我に返ったり飽きたりするのが定番なのだ。
だんだんと現実世界へと帰りたくなるのもまた定番である。
それを分かっているからエマは手放しに喜べないのだ。
実際、エマは少しだけ浮かれているのもあるが、やはりゲームの中に入り込んだという非現実的な事に困惑しどうしようかと悩んでいた。
「ゲームの世界ねぇ…ファンタジー世界じゃあるまいし…――で、元の世界に戻れると思うか?」
「さあ、分からない…そもそも、どうしてこんなことになったのか…」
「だよなぁ…」
直継も同じ現状のエマの答えに期待はしていないのだろう。
しかし茶会で参謀を務めた経験からエマを頼ってしまうのはどうも癖のようである。
やはり肩を落とす直継の気配を感じながらエマは『そうだ…すぐに元に戻れるとは限らない…』と独り言のようにポツリと呟いたあと『――と、いう事は…』と続き、エマの呟きに直継はニヤリと笑った。
その直継の笑った気配にエマも釣られたように口角を上げ、『それなりに覚悟はしといたほうがいいみたいだね。』と肩をすくめる。
「で、どうするんだ?」
「まずは情報集めだね…この世界についてもっと知っておいた方がいいと思う。」
「だな!相変わらずの冷静沈着!流石だな!頼りにしてるぜ!作戦参謀!」
「冷静、ね…そうでもなかったよ、実際。」
やることも決まり、さっそく行動しようと腰を上げながらの直継の言葉にエマは苦笑いを浮かべた。
冷静そうに見えてもエマ本人はそうでもないと零す。
実際傍から見たら冷静そうに見えただろうが、それはただ周りが慌てふためく姿を見て『こうはなりたくない』『かっこ悪いな』と思ったからだ。
本当は周りのようにエマも叫んだり泣き出したかったが、それを無駄なプライドが邪魔をする。
直継に会って少し落ち着きを取り戻しただけで、まだ困惑しているのだ。
それでも頼りにされるのは嬉しいとエマは思う。
エマは隣に歩く直継に『でもまぁ、とりあえず…』と続ける。
「こんな状況だけどとりあえず、エルダー・テイルにお帰り、直継。」
「おう!」
そう言って拳を作って直継に向けて伸ばし、その拳に直継も嬉しそうにコツンと拳を当てた。
懐かしいそのやり取りにお互い笑い合う。
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