prolog

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 通信用電伝虫から聞こえる男の声は、知らぬ人間からしてみれば、とても不機嫌に聞こえたかもしれないが、私は知っている。この男は基本的に無愛想なだけで悪い奴ではないのだ。
 そう、ルフィさんが言っていたのだから。

「そもそも、おれが思うに【“ゴウゴウの実"が世界を制する】というのは言い過ぎだ。所詮は“悪魔の実”の能力、必ず限界はある。
 ……戦争には様々な要素がある。天候や地形の有利不利、戦力差、武器……そして運。この不確定要素が多い戦争という代物を、いくつかを意図的に操作できるという点で敵よりも優れ、戦力差をひっくり返しかねない大胆な作戦も可能になる。
 とはいえ、相手が四皇ならどうだ? 四皇のような圧倒的な力の前にその程度の小細工は打ちのめされる」
「ええ、その位で……私ひとりで為せる程度の小細工で負けるのならば、“四皇”とは名乗れないでしょう」
「だがそれでも、お前の能力は侮れない。その証拠に世界政府は今までお前を追い続けた」

 男は私に答えるように促すが、これは別に私の答えを期待したものではない。あくまでも、作戦を行う前段階での最終確認に過ぎない。
「……年齢と実力に見合わない懸賞金だと、思ったことはありませんがね」
「……ハッ、くだらねェ女だ」

 事実、私は強かった。
 海軍中将にまで上り詰めたし、師センゴクからの信頼は、自惚れなく確かなものだったと断言できる。
 いや……だからこそ私は、間違えてしまったのかもしれない。

「結局、この能力は“覚醒”していないのではないかと、貴方は言いたいのでしょう? トラファルガー・ロー」
「そうだな、その証拠に良いバカがいた 、、だろう?」
「……ええ、そうですね。誰よりも“自由”な方がいらっしゃいました」

 いや、居るのだ 、、、、、、、この世界にはまだ居るのだ 、、、、。
 誰よりも“自由”を愛した、太陽のようなあの人が。

 ――そして、誰よりも焦がれたあの人も。

「だから私は未来からやってきたんですもの」
「…………さっさと用事を済ませて、さっさと帰って来い。話はそれからだ」

「はーい、必ずや」
 そう簡単にしてから電伝虫の受話器を下ろす。この電伝虫も時空間を超えて声を届けられる代物だ。どのくらいラグが出るのかは、向こうでは検証しきれなかったため不安は残るものの、今はそれも計算の内とやるしかあるまい。


 必ず、未来を変えてみせる。

 いいや、違う。

 そんな高尚な目的のために私はこの世界に来たわけではない。
 私はそんなに出来た綺麗な人間ではない。


 ――――私はただ、もう一度焦がれた貴方に会いたかった愚かな小娘なのだ。


To be continued...



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