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 夜になりました。月は昇り、あたりはしんと静かになっています。

「今日はここで野宿だな」ということであたりに落ちていた木を集めておいていました。ソラは気になっていたことを、聞いてみることにしました。

「リュード君」
「何だ」
「今日、ピクシーが“呪われた紅い目の一族”って言ってたけど……?」
「あぁ、あれか……」

 リュードはそう言って

「お前は、この魔界で言う“貴族”が何なのかわかるか?」
「ううん。分かんない」
「お前と俺はちょうど“貴族”にあたる」
「え?」
「魔法を使うことができる人間には“元素”と呼ばれる魔力の源を持っている。この魔界は八人のとてつもなく強い魔力を持つ魔女と魔法使いによって創られた。その十人の直系にあたる者たちは中でも秀でて強い“元素”を持つ。その者たちを総称して“貴族”と呼ぶようになった」

 ソラは気が付きませんでした。この時にリュードが意図的に隠した事実を。

「うぅ、なんかよくわかんない」
「分からなくても無理はない。少しずつ理解すればいい。……人間でも魔界のものでも黒、茶色、青、紫、緑、そういう目の色はあるが、紅はないだろう。人間界では魔族や、それに近いものを表し、魔界では“裏切り者”を表す」
「“裏切り者”?」
「俺の祖先で炎の元素を持つ、グライグ・ゼジルス・シリルは黄金の髪に紅い目の持ち主だったという。中にはその血は呪われていて、紅い目はその象徴だという考え方もある。俺自身、そういう目で見られたこともある。真実はどうだか知らないが、そういう見方をする奴もいるということだな。」
「そうなんだ」

 とは言ってみましたが、よくは分かりませんでした。でも

(そういえばシリルさんは金の髪の毛だったなぁ。リュード君は紅い目だから、やっぱり兄弟なんだなぁ)

 と思いました。似てないとは言ってもやはり兄弟なのです。

「そういえば前に私のご先祖様のこと話してたよね?」

 とソラが聞くと

「お前の祖先は…………リウルス・フローレイ。風の元素の持ち主だな」

 とリュードが言いました。

「風……! ねぇねぇ、元素ってみんな持ってるの?」
「もっている。だが、貴族にあたる者の力には敵わない。それだけだな」
「私は? リュード君は?」
「……はあ、少しは考えろよ。お前は風。俺は炎」

「おぉ、なんかすごいかも!!」

 とソラが騒いでいると

「何がすごいんだか……理解できないな」

 とリュードが皮肉げにつぶやきました。
 どうしてリュードがそんな風に言ったのか、ソラが知ったのはずっとあとのことでした。
 その意味を知ってしまったとき、ソラは安直に「すごい」と表現してしまった自分を責めました。


 ***


「お前……お前か、姫様を……姫様を殺したのは。答えろよ、答えろよぉ!!」

 ブラックは不敵に笑みを浮かべました。

「知らないな。あの部屋に入ることができたのはあの高度な魔法をかけた、お前だけじゃないのか? レイウス・フローレイ」

 レイウスは答えることが出来ません。

「何も言えないようだな。否定をしないのか?」

 黙れ、黙れ、黙れ。
 黙れ。
 黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ……

 守れない。大切な人を一人も守れない。俺は……何のために生まれてきた……?
 この力は、何のためにある……?
 なんの、ために……っ――

 なんのために……――――――――




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