「リュード君、なんかすごい音するね」
「あぁ、するな」
「なんか、おっきくなってない?」
リュードは表情を変えずに
「なってるな」
「というか……逃げたほうがいいんじゃないの!? なんでそんなに落ち着いてるの!?」
「冷静に考えてみろ。俺たちはこのまま死ぬな」
「いやいや、落ち着けないし!」
あわてているソラに対してリュードは冷静でした。
「だったら、なにか策の一つでもあるというのか」
「いや、ないけど……」
ゴゴゴゴゴゴ――――――!!
すごい音の正体――それは、大量の水。
本来ならば地上に降り注ぐはずのものが、ソラたちに襲いかかろうとしているのです。
「うぁあぁぁあぁぁ!!」
ソラとリュードは走ります。が、ソラの体力は持ちません。途中で息切れしてペースが落ちます。
水は、すぐ後ろにまで迫ってきています。
「はやく、走れ!」
リュードがソラの手をつかんでぐいぐいと引っ張っていきます。
「ねぇ、リュード君! この水どうにかできない??」
「無理だな。この量を移動させることはできないし、それに水は魔法の四大元素のひとつだ。おれは炎だからどう考えても俺のほうが不利だ。」
「でも!! どうにかできない? 町の人たちを助けてあげられないの!?」
ソラはきつそうながらも必死に叫びます。
「お前は死にたいのか!?」
リュードの真剣な目ががソラを突き刺さります。こんなに怒ったリュードをソラは初めて見ました。
「きれい事だ! そんなのは・・。俺らが死んだら何にもならねーんだぞ!! 今は自分のことでも考えてろ!!」
『全部全部、俺のせいだ。大切な人を、俺は、守れない……。俺は―――何のために……!?』
『死にたい、殺してくれ……――』
「きれいごとなんかじゃないもん!!」
ソラの力の限りの大声にリュードは驚きました。
「私の自分勝手なことだもん! お母さんもいってたもん。諦めるなんてそんなことは馬鹿のすることだって! 助けたいとか、そんなたいそうなことじゃなくって。自分で言ったことやらないと、気が済まないだけの、他人の都合なんて気にしない、私の自分勝手だよ!!」
『まぁまぁ兄さん。これは俺の自分勝手なことだしな! 許してくれよ!!』
「似てるな」
「え?」
リュードが小さくつぶやきましたが、ソラにはよく聞こえませんでした。
「乗ってやる。どうせ死ぬんなら悪あがきもいいかもな」
「ありがとう!」
ソラの表情がいつものように明るくなりました。
「だがな、生きるか死ぬか、可能性は半分だ――かけるか?」
「うん!」
「よし。俺はこの水を右に曲がらせながら結界を解いてみる」
「私は何をしたらいい?」
この場面でソラにできることはなんでしょう。
「お前は自分の元素を使って水を地上に押し上げろ」
「え、ほんとに?」
不安そうなソラに
「お前が言い出したんだろうが」
とリュードはあきれ顔。
「えぇぇえぇえ、で、でも……」
「いけるな? 分かれるぞ――3・2・1!」
リュードがソラの手を離します。ソラはとりあえず右に曲がります。リュードはその場に立ちます。
「確かに。普通の炎じゃ水には消される……でもな。俺はリュード・シリルだぞ」
両手をうねるように流れ込んでくる水に向かって突き出し、目を閉じます。
「炎よ 我を救え」
リュードの両手から炎が出て水にぶつかります。炎は水を寄せ付けず、そのまま右へ受け流したのです。――少し水蒸気が出ています。
「炎のほうが強けりゃ、水は追い返せる」
強い炎の元素は水と衝突したとき、水を蒸発させるのではなく、水の流れを受け流すことが出来ます。どういうことかというと、元素というのは魔法の粒子とも言い換えることが出来、この場合は粒子と粒子がぶつかり合って水元素を流したのです。
言い換えるならば、赤いボールと青いボールがたくさんぶつかって、青いボールは横に弾かれたということです。
***
「――――来た!」
ソラは不安でたまりません。リュードは自分の元素を使って、と言っていましたがソラは簡単な魔法がまだ5つくらいしか使えないし、みんなの勉強にはついていけず、一人で補修というのも少なくないのです。
(私にそんな力、あるのかな?)
シリルさんはソラのご先祖様がすごい魔法使いだった、と言っていましたが。ソラがどうなのか、ということは言っていませんでした。
「でも」
(今、やらなくちゃ、後悔するし、リュード君も私も死んじゃうんだよね。ママにもパパにもまだ、魔法使いのこと言ってないよ。やりたいこといっぱいあるよ。ライアちゃんやローアちゃんともまた会おうね、って約束したもん)
(だから)
「私はここで死にたくないもん!!」