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 朝、眩しい光が窓から注ぎこみます。
 まっすぐに差してくる光の眩しさにソラは目を覚ましました。

「起きたか、やっとだな」

 と、そばにリュードがいました。

「お前、かれこれ二日は寝てたぞ」

(えっと、ここは?)

 たしか砂漠に来て、ここは……宿?
 そのあと水を押し上げようとして――

「リュード君! 水は?」
「外を見ろ」

 ソラはそう言われて重い体を起して窓のほうに行きました。

「みんな、楽しそうに笑ってるね」
「久しぶりの雨の後だからな」
「じゃぁお水、戻ったんだ!」
「あぁ」

 リュードが珍しく微笑んだのを、ソラは見逃していました。

(よかったぁ)

 トントン

 ドアの音がして、入ってきたのは心配そうな顔をしたスミレでした。

「あ! 起きたんだね。大丈夫?」
「うん! 大丈夫!」

 スミレの顔が今まで見たことのないような明るい笑顔になります。

「よかった! お母さんと心配してたんだ。えっと、お礼が言いたくって」
「お礼?」

 ソラがきくと

「あなたでしょ? お水を戻してくれたのは! どうもありがとう!」
「え、い、いえどうも」
「何言ってんだお前」

 リュードから言われて

(ほんとだ。何言ったのわたし!?)

 と頭を正常にしてから

「それに、私のおかげじゃないよ。リュード君もだよ」
「あぁ、まったくだ。お前をここに運んでくるとき、ものすごく重かったからな」
「ほっといてよ」

 リュードは結界を解き終わったあと、ソラが水を押し出した時に出来た穴から、ほうきを使って町まで戻ってきたのです。
 ソラが少し恥ずかしい思いでいると、リュードがスミレに向かって

「少し出て行ってくれ」

 と言いました。そしてスミレが出て行ったところでリュードはあらためて、ソラを見ました。

「ひとつ、言っておきたいことがある」
「何?」
「あの時のことだ」

 あの時、それは水を地上におし出そうと、ソラが風の魔法を使ったときのことです。

「あの時ははっきり言って、かけだった」
「かけ?」
「お前が、本当にリウルス・フローレイの子孫かどうか」
「ぜんぜんわかんない」
「だから、説明してやる」

 リュードの話では魔界にはソラ以外にも人間はたくさん連れてこられるそうです。
 魔法の才能があれば必ず元の力になる元素を持っています。
 でも、元素には濃い元素と薄い元素があり、元素の濃いさが魔法の才能の違いだそうです。

「元素の薄いやつはすぐに人間界に返される。俺の元素も普通の奴からしたらずいぶん濃いがそれでも、俺の兄貴の元素の方が濃い」
「私は?」
「そのことだ」

 リュードはそこで区切ってから、ゆっくりと話し始めました。

「風の元素は薄いと灰色だったりする。でもお前は――白銀。たぶん、風の元素の持ち主の中では最も濃く強い。間違いなく……な」

 リュードが言っている意味がソラには分かりません。

「お前はもう、人間としては生きていけないだろうな。あれほど、強い魔力を持っているんだから」
「それって、もしかして、人間界には二度と帰れないっていうこと?」

 心配そうなソラをなだめて

「そういうことじゃない。」

 リュードは静かにそう言いました。

「ただ、人間として普通に生活することは無理だろうな。お前は、ずいぶん他人とは違う生き方をするはずだ。人生を大きく狂わせる」

 リュードはこの時にもっと説明しておけば、と後で後悔しました。そうすればもっとソラに選択肢を与えられたはずだと。

 ソラは言葉を失ってしまいました。
 最初は、魔法が使えることがうらやましかったのです。でも、実際に使ってみると自分は予想以上の大きな力を持っていると「他人とは違う生き方をする」ということになるのです。

「へいきだよ」

 ソラの意外な答えにリュードは驚いているようでした。

「だって、みんなおなじ生き方なんて楽しくないよ。ロボットみたいだもん。私は私で生きるもん。みんな違って当たり前でしょ?」

 明るく言ったソラにリュードは

「それならいいが……」

 といったきり、黙ってしまいました。


 ***


「スミレちゃん! ありがとうねぇーー!」

「うん! 元気で!」

 ソラはスミレと別れて町から少し出たところでリュードに話しかけました。

「これ」

 そう差し出したのはあのジミーが入っているランプでした。

「それがどうした?」
「さいごのお願い事、してもいいかな?」

「どうせ、あとひとつだしな。勝手にしろ」
「うん!」

 そういうとソラはランプを開けました。すると中からジミーが元気よく飛び出してきました。

「さいごのお願いしてもいい?」
「お安い御用だぜェイ、なんだって、言ってみやがれェイ!」
「えっとね。さいごのお願いはね、ジミーさんが二度とランプとかつぼに閉じ込められることがありませんように」

 ソラがにっこり笑うと、ジミーもにかっと笑い

「お安い御用だぜェイ!!」

 そういったまま、消えて行ってしまいました。


 それを見たリュードがため息をつきました。

「どうしたの? リュード君」

 ソラが声をかけるとリュードが残念そうに空を見上げました。

「俺も一つ、試してみたいことがあった」
「なに?」
「ジミーに願い事を言う時に『必ず、さいごの願い事はジミーのために使え』というのがある」
「そうだったんだ!」

 リュードがもう一度大きなため息をつきました。

「だから、もし、さいごの願い事を自分のために使ったら、どうなるかをものすごく知りたかった」
「え、ええ、えぇぇええぇーー!!」

 ソラは驚いてリュードに聞きました。

「じゃ、じゃあ、もし違ったら?」
「さぁな」
「何でリュード君教えてくれなかったの!?」
「俺の自分勝手」
「ちょ、ちょっと待ってー!」

 ソラはあわてて先に歩いて行ったリュードを追いかけました。


 ***


『なあ兄貴〜! 俺だけじゃ無理だよお……』
『甘えた声を出すな。自分のことぐらい責任もって自分でしろよ』
『兄弟なんだから、助け合おうとか』
『ない』


 ***


(姫様、俺も生きていていいんですか?)



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